高麗国
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「なんでっ、俺がっ、人ん家、直さなきゃっ、ならねぇんだっ、よっ!」
『いい大人が文句言わないの』
「一泊させてもらったんだから、当然でしょー」
小狼と船漕ぎお姫様と春香ちゃん(と、モコナ)は、偵察、と称して町に出かけた。その間、私達は留守番と屋根の修理とお片づけを任された。
ちょっとめんどっちぃので、正直あっちに着いて行けばよかったと思ってる。
「しかし、あの子供一人でこの家に住んでるとはな」
「んー、お母さん亡くなったって言ってたね、春香ちゃん」
『話からして、お父さんもいないみたいだし…』
ぱっぱっと掃き掃除をして、私は辺りを見回した。家具なんて必要最低限で、他にあるのは鏡くらい。きっと、子供一人じゃ税なんて収められないから、大方家具は押さえられたのかもしれない。けれど、あの鏡、母親の形見であるあの鏡とこの家だけは、と必死に守っているのかも。
「で、いつまでここにいるつもりなんだ?」
「それはモコナ次第でしょー」
「あーくそー!なんであの白まんじゅうはあのガキの肩ばっか持つんだ!」
『黒鋼、そんな強く叩いたら壊れる壊れる』
「あはははは、春香ちゃんの案内で小狼君達で偵察に行ったし、何か分かるといいねぇ」
「しかし、大丈夫なのか。あの姫出歩かせて。しょっちゅう船漕いでるか寝てるかだぞ」
あんなぶっきらぼうな黒鋼も心配する程、今のお姫様は怖いくらい心配になる。それはファイも同じなのか、とても切なそうに顔を歪ませた。
「…足りないんだよ、羽根が。元のサクラちゃんに戻るためには。
取り戻した羽根は二枚だけ。戻った記憶もあるみたいだけど。
まだ意志とか自我とか、そんなものがないんだ、今のサクラちゃんには。だから、異世界を旅するオレ達に何も逆らわずついて来ただろ?
まぁ、羽根が戻っても、小狼君との思い出は戻って来ないけどね」
「………」
『小狼との、思い出…』
そう言えば、この旅に参加する1年前くらい前に、そんなクロウカードの騒動あったっけ?
あの時は確か、“一番好きな人の記憶がなくなる”なんて言ってたような気がする。私は大道寺さんと一緒にいたから、あまり詳しくは知らないけれど。
あの時、あの子どうしたのだろう。あの時、小狼は…。
「それでも探すでしょう、小狼君は。色んな世界に飛び散ったサクラちゃんの記憶の羽根を。
これから先、どんな辛いことがあっても」
『…………』
「とにかく、修理とお掃除しながらみんなで待とうねー」
「って、ナニ茶飲んでくつろいでんだよ!」
『さっきから座ってなにやってんのかと思えば…』
「んー?メイリンちゃんの分もあるよー飲む?」
『飲む』
「お前らもやれよ!!」
怒った黒鋼が投げたのは、さっきまで黒鋼の相棒だった金槌だ。しかし、その金槌は今となってはファイの頭と仲良し。あー、すんごいめり込んでる。されど、それでも顔色一つ変えないこの野郎は、魔術師なんかじゃなくて宇宙人かなにかだと思う。
「やー、黒ぴっぴの働く姿を見守ろうかなーって。それに、前々からメイリンちゃんに聞きたいこともあったしねぇ」
『…嫌な笑み。あなたのそういうとこ、嫌いだわ』
「ごめんねー、でもオレ気になっちゃったんだ。メイリンちゃんの小狼君とサクラちゃんに対する目が」
この男、本当に宇宙人なんじゃないか?私があのお姫様と小狼を見る目でさえ、観察してるなんて。
『はぁ、本当嫌になっちゃう。
こんな話、お茶受けにもならないわよ』
「いーよ。ほら、黒様も降りてきたらー?みんなで仲良くお茶にしよー」
「酒はねぇのか」
『ないわよおバカ』
ポコポコと暖かいお茶を淹れて、香りを楽しむ。その香りのよさに心を落ち着かせると、目の前の白いのと黒いのを目に映した。
『で、なんの話だったかしら?
私の小狼とお姫様への目が可笑しい、だっけ?』
「んー、可笑しいって言うより、メイリンちゃんの目は悲しそうとか懐かしいって色かなー」
『あっそ』
私は、そんな目をしてたのか、なんて柄にもなく感慨深くなってしまった。まぁ、こんな話に興味のない黒鋼は一人お茶を飲んでマガニャンを読んでいるのだけど。
『魂の根源が同じ人だっけ?
小狼とお姫様が、私にとってそうなのよ』
「…………」
『小狼は、元の世界では私の従兄弟の男の子なの。私の家、それなりに裕福でね。早い段階から婚約者を決めないといけないのよ。
けど、知らない人と未来を誓うってのがイヤで、小狼に泣き付いて無理やり婚約者になってもらっちゃったの。
けれど、小狼は“一番好き”を見つけた。私には持ってないものを全部持ってる、可愛い女の子』
「…それが、サクラちゃん?」
『そんなとこ』
悲しさと懐かしさを誤魔化す様に、私はお茶を一口飲んだ。
わかってた事だった。小狼が日本へクロウカードを探しに行くって言ったあの日から。ただ、なんとなく息子が手を離れる感覚になっちゃって。それが、寂しいような誇らしいような。けれど、やっぱり未練は残ってて、あの子には意地悪なこといっぱいしちゃったっけ。
『これで私の話はおしまい。満足かしら?』
「んー、あと一個。
どうやってあの時プリメーラちゃんの攻撃が危ないって分かったの?」
『あ、あれは、…そうね、私にはちょっとした“夢見”みたいな能力があるのよ。だから、プリメーラの攻撃方法がわかった。けれど、不安定なモノだからあんまりアテに出来ないのよ。
……これでいい?』
「じゃあ最後に。
今の小狼君のこと、どう思ってるの?もしかして好きだったり?」
『……そうね、今の小狼は前の世界より可愛げがあるわよ。それに、あなたよりだいぶ好感が持てて好きね』
その瞬間、ファイと私の間の空気が凍った音がした。
(コールド、コールド、コールド)