阪神共和国
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少しして、小狼はなんとか前を向けるようになった。もうあのお姫様を名前で呼ぶことはなくなったけれど、それでも、ちゃんと前を向いている。
そんな数日経ったある日。私達は正義君にまたあのお好み焼き屋さんに誘われた。小狼の怪我もよくなってきたし、それに今日で次の世界へ行くのだからお別れがてらに、とそのお誘いを受ける。
そして今、目の前では相変わらず鉄板がじゅうじゅうと美味しそうに音を立てていて、相変わらず黒鋼とモコナは私の横でお好み焼き争奪戦を行っている。仁義なき戦いの火蓋が切って落とされた。
「正義君、ほんとうに有り難うございました」
「僕も…巧断も、ずっと弱いままだったから。だから…、だから…! ちゃんと渡せて、本当によかったです!!」
「弱くなんかないです、戦うことだけが強さじゃない。誰かのために一生懸命になれることも、立派な強さです」
「…有り難う、ございます!」
小狼は、正義君を見つめてそう言えば、正義君は涙を溜めた。それを見て、この前のことに少し罪悪感を感じてしまった。
う…、ここは言うしかない。
『あ、の…正義君』
「…はい?」
『その、…この前はごめんなさい! 正義君を卑下するようなこと言っちゃって…』
「き、気にしないでください!あの時、僕も弱気なこと言ってメイリンさんの気持ちも考えないで…」
『じゃあ、…仲直りしましょ?』
「はい!」
鉄板の上でする握手は、やっぱり熱くて少し笑ってしまった。と、横からふふっと聞こえたので首ごと顔を向けると、ファイがにっこり嫌味ったらしい顔で、微笑ましそうにこちらを見ていた。小狼も、なんだかそんな感じだ。
『……なによ』
「べつにー?ねー、小狼君」
「はい。よかったですね、メイリンさん」
『ふんっ』
不覚にも耳が赤くなってしまうのは、きっと鉄板が熱いから。すると、突然上から「よう」とフランクな声が聞こえた。
声のする方へ目を向けると、浅黄笙悟がそこに居た。(後ろには何回か見たことのあるゴーグル仲間さんも)
「うちのチームの情報網も捨てたもんじゃねぇな。あ、ここちょっと詰めてくれな」
浅黄笙悟はこれまたフランクに、小狼と正義君の席に座り、自分の分の注文をした。店員は、相変わらず月城雪兎と木之本さんのお兄さんだし、この二人はどこの世界にいっても仲がいい。
「怪我とか大丈夫か?」
「はい、戦いの途中ですみませんでした」
「いや、あの状態じゃ仕方ねぇだろ。…それに、あのバトルは完全に俺の負けだ」
まだ途中だったはずの戦いに自分からジャッジを下す辺り、彼はかっこいいと思う。しかし、仲間の人はブーブーと茶化すように(いや、割と本気かも)ブーイングや、ボソリと「俺勝った…」なんて言っている。さてはこの人達、自分のリーダーで賭けをしてたな?
なんだかんだで煩いけど、楽しそうな人達だ。
「いつまで阪神共和国にいるんだ?」
「もう次の世界…いえ、国に行かなければならないんです」
「そっか」
「てめっ!また俺のに手ェ出しただろ!!」
「黒鋼ひどーーい!モコナ熱くてめきょってなっちゃったでしょ!」
「モコナちっぽ鉄板でコゲちゃうところだったねぇ」
『…モコナ、そのちっぽどうなってるわけ?』
「モコナのちっぽは『モコナ108の秘密技』の一つなのっ」
『……へぇー』
「やーんメイリン反応うすーい!」
いや、モコナ自体にはまぁ可愛いなって思うけど、それを作ったのがあの嫌味眼鏡と性悪毒牙魔女だって思うと、なんだかなぁと思わざるを得ない。どんなテンションで作ったら108の秘密技をもつ意味不明な生物を作れるんだあの二人。酒でも飲んでたに違いない。
「バトルだけじゃなく、あちこち案内してやったりしたかったんだけどな。プリメーラも残念がるな。…っと、そういえばそこの女の子、メイリンっつったか?」
『はい?』
「プリメーラが、お前のことすげーって騒いでたんだよ。蹴りがどうだのなんだのって」
『あ、あははは…』
「今度この国来たら、俺とバトルでもしよーぜ」
『…まぁ、来ることがあれば是非って感じかしら』
小狼は正義君と、私は浅黄笙悟と握手をして、その場を離れた。この国は本当に離れ難くて困る。
その後、各々元の自分の服へとチェンジして、次の世界への準備する。
外へ出ると、まださみしそうな顔をした空汰さんが、嵐さんの隣にいた。
「もう、行くんか?」
「はい」
「まだまだわいとハニーの愛のコラボ料理を堪能させてへんのにー」
『空汰さんってブレないわよね…』
ブレない空汰さんはほっておいて、お姫様の方を伺うと、彼女はまだ自分一人で立ってるのがやっとなくらい、うつらうつらとしている。
「大丈夫ーー?」
「まだちょっと眠いだけだから」
『…無理はしないでね』
「ありがとう、メイリンちゃん」
ふわりと笑う彼女の顔が、嫌いなあの子と重なる。“ありがとう、苺鈴ちゃん!”と、いつも元気なあの笑顔を思い出しながら、私達は次の世界へと旅立った。
(私は君を、忘れない)