阪神共和国
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「羽根はあの巧断の中って、アレにかよっ!?」
この中で一番大きな黒鋼でさえも、小さく見えるくらい、その巧断は大きい。
「なるほど、巧断を人捜しに使ってもモコナが反応しないわけだ。
巧断は憑いた相手を守る。一番強い力を発揮するのは、守るべき相手が危機に陥った時。
前にモコナが羽根の波動を感じたときも、正義君は危ない目に遭ってた。今も、崩れる城から彼を守ろうとしてる」
『そう考えると、空汰さんが言ってたこと強ち間違いじゃないのかもね』
「あぁ?」
『巧断が神様なんじゃないかってヤツ』
憑いた相手を守りたい、その一心でああも大きく強くなれるだなんて、意志がなかったら出来ないこと。それはきっと、巧断達がこの国の人を愛しているから。
なんて考えていると、正義君の巧断が大きく口を空に広げ、コォォォオオと空気を集めだしたのを見て、ヤバいと感じた。いや、あんなの見たのゲームの中だけだよ!あれって確か…と巡らせていると、けたたましい大きな音を上げて、破壊光線的な無慈悲な攻撃を、城に向けて放った。風圧が、こちらまで来る。
そんなあり得ない攻撃を、巧断は容赦無く二回、三回と繰り返す。まるで特撮映画だ。
「どうなってんだ?あの巧断は」
「羽根の力が大き過ぎるんだなぁ。正義君、あの巧断を制御しきれてない」
『このままじゃ、ここ一帯焼け野原よ』
「………」
小狼がすっと前に出る。覚悟の決まった顔で。
「どうする気だ?」
「サクラの羽根を取り戻します」
「あのデカいのと、どう戦うつもりだ。下手したら死ぬぞ」
「死にません。
まだやらなきゃならないことがあるのに、死んだりしません」
強いなぁ。小狼は本当に強い。
正直、あのおっきい巧断を目の当たりにすると、いくら別の小狼だとはいえ止めたくなった。危ないでしょ、怪我するわよって。けど、そんなかっこいい顔で言われたら、なにも言えなくなる。
「んん。ここは黒ぴーが何とかするから、行っておいで」
『そうね。黒鋼は超合金のマッハ20で動けるスーパーストロング忍者だから、小狼は行っても大丈夫よ』
「って俺かよ!!つーかなんだそれ!」
「……いってきます」
瞬きをしたら消えてしまったのかと錯覚するような速さで、小狼は己の巧断と駆けていった。
「小狼君は強いねぇ、いろんな意味で。どうして彼に炎の巧断が憑いたのか、分かる気がするよ」
3人で小狼の駆けていった方向を見上げなから、小狼の無事を祈る。
ファイの横顔をちらりと覗くと、そこには知らないファイがいた。まだ、この人は隠さなくちゃいけないことが沢山あるから。そんな人にとって、小狼はちょっと眩しい。
ファイにとっても、ーーー私にとっても。
小狼は今もなお破壊活動に勤しむ正義君の巧断に向かって行った。
「小狼君!!」
「おれには、探しているものがあるって言いましたよね。今、君の巧断の中にそれがあるんです」
「こ、…これですか!?」
「それを、取り戻したいんです」
「でも!今僕の巧断は全然、言うことを聞いてくれないんです!
近寄ったら小狼君に怪我を…!!」
しかし、小狼はそんなことお構いなしに、巧断の中心部のキラリと光る所に自らの拳に炎を纏わせ、攻撃を仕掛けた。ググと、その攻撃を巧断は耐え、さらに反撃として小狼が攻撃した辺りを火の海に変えた。これでは、小狼は焼け焦げてしまう!
「やめろーー!!
小狼君が!!」
ジュゥゥウと、何かが焼ける痛々しい音がした。遠くから見ていても、思わず顔をしかめてしまう。けれど、現状を真っ直ぐ見据えなければ。
「小狼君がっ、…死んじゃうよ!!小狼君!!」
そんな痛々しい音がしていても、小狼は変わらず羽根を求める。ただ、羽根だけを一身に見つめる。
「小狼君……、熱っ!」
「正義君!!」
突然、正義君が身をよじり、胸を押さえ出した。きっと、巧断がダメージを受けているから、それと連動して正義君も。
「取っ……て、くだ…さい!
僕の巧断の中にあるものが小狼君の捜していたものなら、ちゃんと渡したい…!!だから熱くても平気です!」
小狼はそんな正義君の想いを受けとり、羽根を追い求めた。どれだけ炎が燃え盛ろうと、どれだけこの身を焦がそうと。必死に追い求め、そしてついに羽根に手が届いた。
羽根が小狼の手に渡った瞬間、正義君の巧断は小さく縮んだ。
そして、そのままでは危なかった燃え盛っていた炎も、浅黄笙悟の巧断で鎮火された。
それが、終わりの合図となったように思えた。
「サクラの羽根…、サクラの記憶…。ひとつ、取り戻した…」
*
〈サクラの羽根〉を取り戻した小狼は、その場に見向きもせず走り去ってしまった。私達はそんな小狼の背中を見届けて、後片付け、というかアフターフォローのようなものをしてから、空汰さんと嵐さんの待つ下宿屋へと向かう。
「おかえりさない」
「ただいまー」
『ただいま嵐さん。小狼は?』
「小狼さんなら、サクラさんの羽根が見つかったと言って、今さっき走って行かれましたよ」
あ、思い出した。そうだ、さっきの特撮のような光景でこの後のことを忘れていたけれど、思い出した。最初の羽根は、小狼にとって希望でもあり、絶望への一歩なんだ。
私達も急いで小狼のいる部屋へ向かった。するとそこでは、私の嫌いなあの子と同じ顔のお姫様の手を握り、懇願している小狼がいた。
その懇願は、“どうか目を覚ましてくれ”なのか、“おれのことを憶えていてくれ”なのかは私には分からないけれど、それに応えるようにサクラ姫は、本当に童話のようにふわりと目を覚ました。
「さくら!!」
「……あなた、だあれ?」
強く握っていたはずの小狼の手が、するするとほどけていく。さっきまで離すまいとしていた手を、そっと置いて、小狼は魔女に支払った対価の重さを思い知った。
ーー私には、どうすることも、できない。
「…おれは小狼。あなたは桜姫です。どうか落ち着いて聞いて下さい。あなたは他の世界のお姫様なんです」
「他の…世界?」
「今、あなたは記憶を失っていて、その記憶を集めるために、異世界を旅しているんです」
「……一人で?」
「いいえ。一緒に旅をしている人がいます」
「あなたも……、一緒なの?」
「はい」
「…知らない人、なのに?」
「………はい」
一瞬、悲しそうに俯いた小狼を私は見逃さなかった。我慢できずに、部屋に入ると、私と同じようにファイも入ってきた。
「サクラ姫はじめましてー。ファイ・D・フローライトと申します。ほら、メイリンちゃんもご挨拶ー」
とん、と優しく小狼の肩に触れるファイ。もう大丈夫だよ、ってことなのかな。
『…あ、ええ。はじめまして、お姫様。訳あって旅に同行しているメイリンよ』
「はーい、よくできましたー」
『…嘗めてるのかしら?』
「でこっちはー」
「黒鋼だ」
「で、このふわふわ可愛いのがー」
「モコナ=モドキ!モコナって呼んでっ」
わいわいと、無理矢理だけれど楽しい雰囲気を作る。本当に、無理矢理。そうじゃないと、小狼が壊れてしまいそうだったから。
小狼は、その場を後にして雨が土砂降りの外に出て行った。
『…泣かなかった、わね。小狼』
「うん。サクラちゃんは小狼君の本当に大切なひとみたいだから、だからこそ「だれ?」って聞かれたとき、泣くのかと思った。
……今は、泣いてるのかな?」
「さぁな。
けど、泣きたくなきゃ、強くなるしかねぇ。何があっても泣かずにすむようにな」
「うん。でも、泣きたい時に泣ける強さも、あると思うよ」
ファイと黒鋼の言葉が、私の胸に冷たく刺さった。泣きたい時に泣く強さ、そして泣かないように強くなる、か。どっちも私にはない強さだ。そして、どちらも痛いくらいよく分かる。
けれど、小狼はきっとそのどちらでもなく、痛みを我慢するんだろう。
さっきみたいに、俯いて、歯を食いしばって、手を力一杯握りしめて。
そして、誰もいない所で一人になるんだ。
そんなの、寂しいし悲しい。だから、少しでも寂しくて悲しくないように。
今は難しくても、少しでも早く前を向けるようにと、私はそっと小狼に向けて蝶々を飛ばせた。
(誰が為に蝶は舞う)