玖楼国
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「ここから先、あたしか出来る事はなにもない。後は、あの子達が…選ぶ」
深い夜、月を見上げて魔女は思う。
最後を選ぶ、あの子達の心の安寧を。
ーーーー
モコナの羽に包まれて、気がつくと慣れない砂丘の上に立っていた。
いつもなら次の世界に到着!と元気よく告げるあの白い超生物も、今回の無理やりの移動に魔力を多く消費してしまったようだ。
そうして、着いた
「玖楼国だ」
小狼の言葉に擡げた首を持ち上げると、見覚えのある羽根のような遺跡が視界に映った。
ああ、とうとう始まるのか。
取り敢えず町へ、と小狼の案内とともに砂丘をざくざくと歩き進める。
本当に慣れない道と、慣れない気候に苦戦していると、小狼から小さく声をかけられた。
「あの、」
『?どうしたの小狼』
「もし、“先のこと”を知っていて、この先辛いことが待っていても、言わないでくれないか?」
『どんな意味で言ってるのか計りかねるけれど、いいの?救えるものや、選べるはずの選択肢を放棄するの?』
「いいや。
貴方は言った。貴方が読んだ書物の中に、〈李苺鈴〉は存在していないと。
なら、貴方が存在していない物語の先と、異なっている部分が必ずあるはずだ」
『…そうね。
正直この先の展開は不安だらけだけど、貴方の考えが迷うとダメよね。分かったわ、言わないであげる。ただし!あなた達の身に危険が及ぶ事があれば、私は迷わず自分に出来ることをするからね!』
いーい?と問うと、小狼は小さく笑った。
「あぁ、それでいい。それが“知っているから”ではなく、貴方が選んだ事なら」
砂に反射する陽の光と、風に舞う砂塵が現実味を帯びていく。呼応するように、袖についた鈴がちりんとなった。
「この門の向こうか」
「居住区があって、城はその先だ」
「でも、切り取られた時間ってどういう意味なのかな?」
「分からない。時間が止まっているという事なのか、それとも…」
町へと続く白亜の階段は、直線的な陽の光を浴びて眩しい程だ。
「どうなっていようが、目指すものはこの向こうにある」
「ーー行こう」
小狼が階段の最後を登ると、そこは呆れる程穏やかな町並が広がっていた。
町の人々は賑わい、言ってはなんだが先ほどまでの剣呑な雰囲気とは打って変わって“日常”というような言葉がぴったりと当て嵌まった。小狼達はこの光景に拍子抜けし、警戒色を強めた。
賑々しい町をきょろきょろと見渡して、小狼はそのおかげで一人の少年が転けてしまう所だったが、咄嗟に手を掴んで助けた。
「ありがとうお兄ちゃん!旅の人?」
「…あぁ」
「ほんとうにありがと!
玖楼国はいいとこだよ!」
皆が楽しそうに暮らす日常は、あまりにも尊い。そして、儚いものだ。
サクラを探す為に不可解な町を探索する。町の人は私達の格好にざわざわしているが、…いい人たちなのだろう。嫌な視線は一つもなかった。
しばらく歩くと先程小狼が手を掴み助けた少年が店先でこちらに手を振っていた。
そして母親らしき人と共に、改めて小狼へお礼を言う。なんて事はない、良心のあるいい親子の図だ。
それでも黒鋼とファイは何かあっては遅い、と警戒の糸を解かない。
「どっちにも殺意はねぇが、消そうと思やできる」
「……だね」
この人達は何もしない。何もできない。
しかし、小狼から釘を刺されている為、私は私の心の中でしかそれらを語る事は出来なかった。そう選んだのは、私だ。
「その格好、異国の人かい?」
「ええ、今着いたばかりで。玖楼国に」
「なんだか4人とも随分変わった服装だね。
それぞれ別の国から来たのかい?」
「産まれた国が違うんですが、今は一緒に旅をしてます」
こういう時は、いつもよく口が回るファイの出番だった。なんだこうしていると、ふと懐かしい記憶が蘇る。
「いいねぇ」
「一人旅もいいが、やっぱり誰かと一緒がいい」
「…そうですね」
気の良さそうなおじさんは、率直な言葉を口にしただけだ。けれど、どうしても寂しいと思ってしまったから、らしくもなく近くにあった手袋に包まれた手を取った。
「……珍しいね、メイリンちゃんから手を握ってくれるなんて」
『大丈夫よ、ファイ。
“大丈夫”にする為に、ここへ来たんでしょ?』
「そうだね、」
きゅっと握り返す手は冷たかった。
ーーーもうすぐ日が暮れる。
ーーーーーーー
あの後、小狼に懐いた少年の計らいによって今日の宿が決まった。
なんでも、砂漠の夜は寒いらしい。
確かに言われてみれば風除けの為に低くて丸い煉瓦造りの家が多い。熱を逃さない為の玖楼国の知恵なのだろう。
優しいお母さんの手料理をご馳走になり、ごちそうさま、と私とモコナだけ手を合わせた。
「お母さん、お料理上手なんだね」
「うん!お母さんのパーユもね、おいしいんだよ」
「パーユってなぁに?」
モコナがそう言うと、少年は近くにあったカゴとリンゴを手に取り得意げに話す。
なんでも自分の家のリンゴが入ってるんだとか。そうして、優しそうな笑顔ではい、と小狼にリンゴを手渡した。
お母さんが奥から笑顔で戻ってきて、パーユは明日の朝食にして下さいね、と言った。どこまで至れり尽くせりなのだろうか。
「さ、お疲れでしょう。ゆっくりお休みになってください。あ、あなたは小さいですけどこちらの部屋にどうぞ。女の子ですものね」
『わざわざ分けてくださってありがとう』
「でも、」
『大丈夫よ。明日になれば分かるわ』
おやすみ、と3人とモコナに告げて、私は用意された一人部屋に入る。
私に気を使って部屋を分けてくれるだなんて、どこまでも心優しい。
この国に来てから、サクラを近くに感じる。
よく考えると、サクラとゆっくり話したのはもう随分前になる。
ぼふん、とベッドに腰を下ろして後ろへ倒れる。ここで、私がしなければいけない事は分かっている。
『みんな一緒に本当の玖楼国へ帰って、ハッピーエンドにしてやる』
サクラ、小狼、四月一日君、侑子。写身だろうが何だろうが知ったことか。
私はその為に力を創造する魔力を貰ったんだ。そこに使わないと、意味がない。
私はみんなを救えるなら、私自身が朽ちても構わない。
(“絶対大丈夫”にする方法)