日本国
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「帰ったのですね、黒鋼」
「おう」
神木の間に、サクラの身体が運び込まれているのを確認した小狼と黒鋼とファイ。
和かに微笑む知世姫。
その元に現れたのは白鷺城の主人である天照だった。
「少しはマシになって戻ったようですね」
「あぁ?」
「客人達も歓迎します。この城で暫しの休息を。旅はまだ続くのでしょうが」
その言葉の意味を、三人は理解していた。
まだ旅は続く。
天照は視線を外し、もう一人の客人を神木の間に呼び込んだ。
「封真!」
「久しぶりだね。と言っても、俺と君達が同じ時間の流れを過ごしたかどうかは分からないけれど」
東京で色々お世話になった狩人の封真だった。こんな所で、また会えるなんて奇遇にも程がある、などとモコナ以外は考えていたが、それもそのはず。
「届け物があったんだ」
身の丈の半分以上ある筒袋から中身を取り出し、ゴトンと周りに見せる。
中には培養液に浸された、手の形をした無骨なモノが入っていた。
「なんだそれは」
「義手だよ。表皮カバーを調達してる時間がなくて、剥き出しで申し訳ない。
必要だと、思うけれど」
「なんでてめぇが持ってくる。
いや、それ以前になんでおまえが知ってやがる」
「侑子さんに聞いたから。
それが東京で言ってた侑子さんとのもう一つの約束だよ。こことは別の、高度に機械化文明が発達した世界で手に入れた、ピッフルという国だ」
黒鋼がその言葉で思い出すのは、己の主とよく似た少女の姿だった。そして、夢を渡ってその少女に会いにったのは、己の主その人だった。
また、自分だけが知らない所で、自分のことを好き勝手されている気がして、黒鋼の眉間には数本のシワが刻み込まれた。
「……対価は?」
「貰ったよ。俺は侑子さんからね」
「俺は魔女に何も渡しちゃいねぇぞ」
その言葉にハッとして、横に立っていた色素の薄い魔術師を見る。けれど、その表情は笑顔を浮かべておけばいいとへらへらしたモノでも、諦めた様子もない。清々しい男の顔だった。
「君の腕の事は、オレが魔女さんに渡すって約束したんだ。君が眠ってる間に」
「小娘の事はいいのか?」
「うん、あっちはオレの渡せるものではどうにもならないし。
なにより、本人からすごく怒られそうだから」
なにも言わない黒鋼に、ファイは自分の目の前に小さな呪文の輪を広げ、片方しか無い瞳の前にかざした。ナニかを瞳から吸い取るように風がファイを包み込む。
やがてその作業が終わると、ファイのサファイアブルーは、薄い金色に変わっていた。
「ファイ!お目々の色が…、金色に…」
「オレの目の蒼色は魔力の源だから。
モコナ、これを魔女さんへ」
手の中にあるのは、小さな蛍石の欠片だった。本当に小さくて、か細い。
「でも…」
「大丈夫、ちゃんと見えてるよ。
これはオレの、最後に残った魔力だ」
「だめだよ!魔力がなくなったらファイ…!!」
「これを渡しても死なない。吸血鬼の血が、オレを生かしてるから。
自分の命と引き替えにするようなものは、渡さないよ、もう」
今までなら考えられないファイの言葉に、黒鋼も小狼も口角をあげた。
少しずつ、形を変えて、前へ進む。人はそうして生きている。そうあれるように。
モコナが魔力の欠片を渡し、その対価として黒鋼の左腕のあった場所に無機質な腕がつけられた。多少肩の皮が引っ張られているように見えるが、感覚は悪く無いらしい。
優しく甘やかな場所で休息も出来、サクラも無事、黒鋼の新しい腕も出来た。
緩やかな時の中に、黒いシミが一つぽつりと現れた。
「星史郎!!」
桜花国で以来の人物が、突如神木の間に転移してきたのだ。
黒鋼、ファイ、小狼、そして天照の護衛の蘇摩はすぐに戦闘態勢に入った。
一触即発、とも思える空気の中で、星史郎の穏やかな声が響いた。
「久しぶり、なのかな。
君たちと僕が過ごした時間の流れが同じかどうか分からないけれど」
「封真も同じこと言ってる!
やっぱり兄弟だから?」
「うーーん、ちょっと複雑だなぁ。
相変わらずそうだね、星史郎兄さん」
「封真もね。
そっちは、相変わらずとはいかないようですね」
にこやかに細められた瞳は、黒鋼とファイに向けられていた。
左右で色が違う視線は、探るようにうねっている。
「随分、変わったらしい。色々と。
魔力を失って、別の力を得たようですね。
ーーーー吸血鬼の血を」
「ファイ!!」
星史郎は目で追えない速度で距離を詰めて、ファイの首に手をかけた。
右の、白く濁った瞳がまるで品定めのような色をしている。
「神威の血ですね」
「だとしたら?」
「二人はどこに居ますか?」
小狼と黒鋼が動こうとした瞬間。
桜の花びらが、一線の風で宙をぶわっと舞う。その光景に見惚れていると、星史郎はナニかの衝撃に吹き飛ばされていた。否、蹴り飛ばされていた。
皆があっけに取られながらその原因を探すと、すぐ目の前にいた。
赤い、吸い込まれそうな深いガーネットの瞳。動きやすさなんてほぼ皆無のゆったりとした着物を太ももまで捲り上げて、いつもなら揺らめいていたであろう黒く艶やかな髪は、肩口までにしっかり切りそろえられていた。
『ーーやっっっと、桜都国での借りを返せてたわ』
「……お、まえ!?」
「メイリン〜〜!!」
「あはは…。
改めて、おはようメイリンちゃん」
『えぇ、おはよう。久しぶり、みんな』
見慣れない髪を揺らしながら、少女は不敵に笑った。
(黄昏に咲いた花)