スキマの国
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黒鋼寄りif/短編
ぼんやり月が浮かんでいて、その周りを星がぽつぽつ照らしている。
その空気が好きだった。夜の匂い、とでも言うんだろうか。しんとあたりが静まった中で、露天風呂独特の水の音が響く。
ながらく異世界を旅してきたけれど、日本風の温泉街は初めてだ。しかも旅館。卓球台や瓶の牛乳まで置いてある。草津か熱海のような場所だ、と前世の記憶を引っ張り出して、やめた。
明らかに女将さんが金髪美女だったし、マッサージチェアにロケットパンチが搭載されているところを日本の風情の一つに数えたくなかった。
それでも寝巻きは浴衣だろうし、話によるとたまに猿の魔物が露天風呂に入っているそうだ。やっぱり異世界、なんだよな。
『まぁ、月は綺麗だし、疲れは取れるし、なにより旅の中でこんな豪華なお風呂に入れることめっったにないんだから堪能しないとねぇーー…』
時間帯的に貸切状態の湯船に体と優越感が浸っている。
すると、優越感を砕くように露天風呂の扉がガラリと開いた。
靄で誰か分からないが、明らかにこちらに向かってきているので、旅館の人ではないだろう。くそ、いい気分だったのに。いっそのこと、このまま上がって風呂上がりの牛乳でも楽しもうかしら。
と、ここまで考えていたらやっとその人の顔が見えて、ばちりと目があった。
「なっ、んでおまえ!!」
『く、黒鋼!?ここ女風呂よ!?』
「そんなわけあるか!俺ぁちゃんと男の暖簾がかかってあるのを確認してだな…」
『…………………待って状況が読めた。』
蒸気のせいか既に顔が赤い黒鋼の言葉に、納得してしまった。これは、あれだ漫画でよくあるヤツだ。
どうせ旅館の人が暖簾をかけ間違えたとか、時間で風呂を男女入れ替えるのに、中に人がいる事を確認せず…的なヤツだ。お風呂回ではよくある。いや、あってたまるか。なんでこんな旅の道中でラッキースケベと遭遇しないといけない?
『…と言う事だから、お風呂楽しんで』
「待て、なんでおまえが先に出る?
経緯はどうであれ先客だろうが。なら遠慮せず居りゃいい、上がる時教えろ」
『ま、待って!黒鋼も確認したんなら悪くないはずよ!知らない仲でもないし!!ほら、入ればいいでしょ!』
無理やり手を引っ張ると、遠慮がちに湯へ足をつけた。温度も悪くなかったのか、私に背を向ける形で、黒鋼は湯船に大きな体を沈めた。何だかんだで一緒に入る事になったけど、黒鋼だし。間違いは起こるまい。
『そう言えば、みんなは?』
「……姫は寝て、小僧は部屋で本を読んでる。魔術師と白まんじゅうはそこらへんにあった台で球遊びしてやがった」
『確かにあの二人?なら、楽しんでやりそうね』
黒鋼も案外巻き込まれながらやり込みそうなのに、なぜこの場にいるのか。
血や汗でもついたのだろうか。
「…嫁入り前の女が、男と風呂場でそう簡単に話すな」
『って言っても相手は黒鋼だし、私だって警戒くらい怠らないってば』
確かに、マナーとか常識とかの側面で、お母様にはこってりと言い付けられていたが。今ここには厳しい母はおらず、こうしてゆっくり出来ているのだ。
けれどそんな考えはつゆ知らず、黒鋼はなぜかこちらを振り向き、波を立てながら近く。
先程から背中しか見えていないにも関わらず、結構目線を泳がせていたのに、前を向かれると何処を見ていいか本気で分からない。
鎖骨から滴る水滴か?
それとも鍛え上げられた腹筋か?
赤く染まった頬か?
こちらをギラギラ見ている、瞳か?
思考が停止して、…否、黒鋼の色気に見惚れていると、その硬い腕が伸びてきて、私の腰を掴む。互いにタオルを巻いているとは言え、この雰囲気で、それは、心臓に悪い。
大きな手が、私の両腕も掴んで離さない。逃げられない、と何処かで悟った。
視線が、かち合う。これは機嫌が悪い時の表情だ。眉間のシワがさらに深くなっている。
一つ舌打ちが聞こえ、その唇が、私のものと重なった。何度も角度を変え、機嫌悪く打った舌が私の口内に侵入した。
吐息なのか、声なのか分からない音が響く。
飲まれちゃダメだ。この気分に飲まれたら、食べられる。そう確信があった。
湯船より熱くなった口の中からやっと黒鋼の舌が出て行き、最後にべろりと私の口周りを舐める。目線も、力も、まるで狼だ。
「……こんな事があるかもしれねぇから、言ってんだ」
『…あ、なたが、それを言うの?』
「夜伽の誘いだったんなら、今から乗るぞ」
低い声が、耳元で囁かれる。そんな声を、そんなところで発さないで。腰が砕けそう。
背筋にもビリビリと電流を流されたような感覚が走る。
「……なんてな。おまえみたいなガキ、誰が相手するか」
『なっ!!』
「先に出ている。
その顔洗って、おまえもさっさと上がれ」
そう言ってさっさと上がってしまった。
触られた所が、まだ熱を持っている。犯された口内が、まだあの感覚を欲している気がした。
『…て言うか自分からキスしておいて、何が相手するかよ!!
誰も頼んでないっつーの!!』
ばしゃばしゃ水を荒だてて、私の心を落ち着かせようとするが、体温は上がる一方。
『………どんな顔して部屋に戻ればいいのよ』
馬鹿、と呟いた言葉はぶくぶくと泡になって弾けた。
ぼんやり月が浮かんでいて、その周りを星がぽつぽつ照らしている。
その空気が好きだった。夜の匂い、とでも言うんだろうか。しんとあたりが静まった中で、露天風呂独特の水の音が響く。
ながらく異世界を旅してきたけれど、日本風の温泉街は初めてだ。しかも旅館。卓球台や瓶の牛乳まで置いてある。草津か熱海のような場所だ、と前世の記憶を引っ張り出して、やめた。
明らかに女将さんが金髪美女だったし、マッサージチェアにロケットパンチが搭載されているところを日本の風情の一つに数えたくなかった。
それでも寝巻きは浴衣だろうし、話によるとたまに猿の魔物が露天風呂に入っているそうだ。やっぱり異世界、なんだよな。
『まぁ、月は綺麗だし、疲れは取れるし、なにより旅の中でこんな豪華なお風呂に入れることめっったにないんだから堪能しないとねぇーー…』
時間帯的に貸切状態の湯船に体と優越感が浸っている。
すると、優越感を砕くように露天風呂の扉がガラリと開いた。
靄で誰か分からないが、明らかにこちらに向かってきているので、旅館の人ではないだろう。くそ、いい気分だったのに。いっそのこと、このまま上がって風呂上がりの牛乳でも楽しもうかしら。
と、ここまで考えていたらやっとその人の顔が見えて、ばちりと目があった。
「なっ、んでおまえ!!」
『く、黒鋼!?ここ女風呂よ!?』
「そんなわけあるか!俺ぁちゃんと男の暖簾がかかってあるのを確認してだな…」
『…………………待って状況が読めた。』
蒸気のせいか既に顔が赤い黒鋼の言葉に、納得してしまった。これは、あれだ漫画でよくあるヤツだ。
どうせ旅館の人が暖簾をかけ間違えたとか、時間で風呂を男女入れ替えるのに、中に人がいる事を確認せず…的なヤツだ。お風呂回ではよくある。いや、あってたまるか。なんでこんな旅の道中でラッキースケベと遭遇しないといけない?
『…と言う事だから、お風呂楽しんで』
「待て、なんでおまえが先に出る?
経緯はどうであれ先客だろうが。なら遠慮せず居りゃいい、上がる時教えろ」
『ま、待って!黒鋼も確認したんなら悪くないはずよ!知らない仲でもないし!!ほら、入ればいいでしょ!』
無理やり手を引っ張ると、遠慮がちに湯へ足をつけた。温度も悪くなかったのか、私に背を向ける形で、黒鋼は湯船に大きな体を沈めた。何だかんだで一緒に入る事になったけど、黒鋼だし。間違いは起こるまい。
『そう言えば、みんなは?』
「……姫は寝て、小僧は部屋で本を読んでる。魔術師と白まんじゅうはそこらへんにあった台で球遊びしてやがった」
『確かにあの二人?なら、楽しんでやりそうね』
黒鋼も案外巻き込まれながらやり込みそうなのに、なぜこの場にいるのか。
血や汗でもついたのだろうか。
「…嫁入り前の女が、男と風呂場でそう簡単に話すな」
『って言っても相手は黒鋼だし、私だって警戒くらい怠らないってば』
確かに、マナーとか常識とかの側面で、お母様にはこってりと言い付けられていたが。今ここには厳しい母はおらず、こうしてゆっくり出来ているのだ。
けれどそんな考えはつゆ知らず、黒鋼はなぜかこちらを振り向き、波を立てながら近く。
先程から背中しか見えていないにも関わらず、結構目線を泳がせていたのに、前を向かれると何処を見ていいか本気で分からない。
鎖骨から滴る水滴か?
それとも鍛え上げられた腹筋か?
赤く染まった頬か?
こちらをギラギラ見ている、瞳か?
思考が停止して、…否、黒鋼の色気に見惚れていると、その硬い腕が伸びてきて、私の腰を掴む。互いにタオルを巻いているとは言え、この雰囲気で、それは、心臓に悪い。
大きな手が、私の両腕も掴んで離さない。逃げられない、と何処かで悟った。
視線が、かち合う。これは機嫌が悪い時の表情だ。眉間のシワがさらに深くなっている。
一つ舌打ちが聞こえ、その唇が、私のものと重なった。何度も角度を変え、機嫌悪く打った舌が私の口内に侵入した。
吐息なのか、声なのか分からない音が響く。
飲まれちゃダメだ。この気分に飲まれたら、食べられる。そう確信があった。
湯船より熱くなった口の中からやっと黒鋼の舌が出て行き、最後にべろりと私の口周りを舐める。目線も、力も、まるで狼だ。
「……こんな事があるかもしれねぇから、言ってんだ」
『…あ、なたが、それを言うの?』
「夜伽の誘いだったんなら、今から乗るぞ」
低い声が、耳元で囁かれる。そんな声を、そんなところで発さないで。腰が砕けそう。
背筋にもビリビリと電流を流されたような感覚が走る。
「……なんてな。おまえみたいなガキ、誰が相手するか」
『なっ!!』
「先に出ている。
その顔洗って、おまえもさっさと上がれ」
そう言ってさっさと上がってしまった。
触られた所が、まだ熱を持っている。犯された口内が、まだあの感覚を欲している気がした。
『…て言うか自分からキスしておいて、何が相手するかよ!!
誰も頼んでないっつーの!!』
ばしゃばしゃ水を荒だてて、私の心を落ち着かせようとするが、体温は上がる一方。
『………どんな顔して部屋に戻ればいいのよ』
馬鹿、と呟いた言葉はぶくぶくと泡になって弾けた。
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