阪神共和国
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さすがに今日はもうお開きにしようということで、正義君にお礼とお別れを言って空汰さんと嵐さんの下宿屋へと戻った。
「ただいま戻りました」
『ただいま、嵐さん』
「「ただいまー」」
「お帰りなさい、なにか手がかりはありましたか?」
「はい」
空汰さんはまだ帰ってないのかと思っていたら、私たちの後ろからだだだだだた!!と迫る音が聞こえて、あぁ空汰さんだと安心した。
「みんなおかえり!どうやった?
と、その前にハニー!おかえりのチューを♡」
にっこりといい笑顔で自分の頬を指差す空汰さんには、きっと嵐さんの拳は見えていまい。
「…そうか、気配はしたけど消えてしもたか。で、ピンチの時に小狼の中から炎の獣みたいなんが現れた、と」
「はい」
「やっぱりアレって、小狼君の巧断なのかなー」
「おう、それもかなり大物やぞ。黒鋼に憑いとるんもな」
「…何故分かる?」
「あのな、わいが歴史に興味持ったんは、巧断がきっかけなんや。わいは、巧断はこの国の神みたいなもんやないかと思とる。
この阪神共和国に昔から伝わる神話みたいなもんでな。この国には八百万の神がおるっちゅうんや」
「やおよろず?」
『あ、それ私知ってる。800万って書いて、やおよろずって読むのよね』
「おー!メイリンちゃんよう知っとるなぁ」
「へぇー、800万も神様がいるんだー」
「神様いっぱーい!」
「いや、もっとや。色んな物の数、様々な現象の数と同じくらい神様がおる言うんやから。八百万っちゅうんは、いっぱいっちゅう意味やからな」
巧断は私たち異世界から来た人にも憑いて、加護を与えてくれる神様なんじゃないか説を説く空汰さんと、それに食いつく小狼で空気は埋め尽くされていた。
でも私も今日歩いて回っただけでもいい国なんだ、と感じる。主に正義君のあたりで。
「そやから、この国でサクラちゃんの羽根探すんは、他の戦争しとる国や悪い奴しかおらんような国よりはちょっとはマシなんちゃうかなってな」
「……はい」
「羽根の波動を感知していたのに、分らなくなった、と言ってましたね」
「うん、モコナしょぼーんなの…」
「その場にあったり、誰かが只持っているだけなら、一度感じたものを辿れないということはないでしょう。…現れたり消えたりするものに、取り込まれているのでは?」
「巧断、ですか!?」
嵐さんに、正直驚いた。いや、喋る量に驚いたんじゃなくて(それにも驚いたけど)、嵐さんの頭の回転に驚かされた。
なるほど、空汰さんが言っていた巫女の時の神々しさというのは贔屓目や冗談ではないのかもしれない。
「確かに、巧断なら出たり入ったりは自由よね」
「巧断が入りゃ、波動も消えるな」
「巧断の中に、さくらの羽根が…」
「でも誰の巧断の中にあるのか分かんないよねぇ」
「あの時いーっぱい巧断いたー!」
「けど、かなり強い巧断やっちゅうことは確かや」
「なんで分かる」
黒鋼は警戒しているのか、怪しいものに向けるような目線を空汰さんに送る。けれど、その問いに答えるのは空汰さんではなく嵐さんだった。
「サクラさんの記憶の羽根は、とても強い心の結晶のようなものです。そして、巧断は心で操るもの。その心が強ければ強いほど、巧断もまた強くなります」
「とりあえず、強い巧断が憑いてる相手を探すのが、サクラちゃんの羽根への近道かなー」
『……それは、どうでしょうね』
小さく、とても小さく呟いた声は誰にも届かなかった。
柊沢君には悪いけれど、ここでは誰も重傷という重傷を負わないし、なにもできない。黙って見ていることにしよう。
これはイレギュラーである私の勝手だ。
「よし!そうと決まったら、とりあえずは腹ごしらえと行こか!ファイと黒鋼は手伝い頼むで」
「なんで俺が!」
『空汰さん、私も手伝うわ』
「メイリンちゃんはちっちゃいんやから、いっぱい歩いて疲れたやろ? できるまで休んどってええんやで?」
『私なら大丈夫よ。働かざるもの食うべからず、だからね。ねぇ、黒鋼?』
「ッチ」
「モコナ食べるから働くー!」
『そうね、行きましょ』
全員で出て行こうとすると、当然のように小狼が立ち上がった。しかし、空汰さんは優しくそれを制した。
「今日はええ。サクラちゃんとずっと離れとって心配やったやろ。顔、見とったらええ。出来たら呼ぶさかい」
「……有り難うございます」
*
次の日、私たち5人はまた羽根探索のため町を歩いていた。
「それにしても、メイリンちゃんってお料理上手だったんだねー」
『前の世界でよくやってたから。
けど、黒鋼はお世辞にも上手いとは言い難かったわね。…ふふっ』
「うるせーぞ小娘!」
『だから小娘って失礼よ!』
「まぁまぁ二人とも。
けど、みんなやっぱり巧断出して歩いてないみたいだねぇ」
「それにもし、どの巧断が羽根を取り込んでるか分かっても、そう簡単に渡してくれんのか」
昨日の嵐さんの言い方だと、羽根はドーピング剤みたいなもの。この世界ではその可能性はないけれど、他の世界じゃそう易々と渡すとは限らない。
突然。近くの壁からにゅるんと、正義君、じゃなかった。正義君の巧断が顔を出した。
「わっ!」
『ひっ!?』
「わぁー」
「小狼くーーーん!」
「ま、正義君!」
走ってここまで来たのか、私たちのそばで立ち止まると肩で息をしていた。
「…探し物、あの後見つかりましたか?」
「まだです」
「だったら、今日も案内させてください!」
「いいんですか?」
「はい!今日、日曜日なので一日大丈夫です!」
「でも、よくオレ達がいるとこ分かったねー」
「僕の巧断は、一度会った人がどこにいるのか分かるんです」
「すごいですね」
「でも…、それくらいしか出来ないし、弱いし…」
呑気にそんな事を喋っていると、遠くの空からキィィィィイ!!と耳鳴りのような何かが迫る音がした。声が出るより、体が勝手に近くの正義君を庇う動きをしていた。
すると、庇ったはずの正義君(と、正義君に抱きついていたモコナ)と私の服を鳥のような大きな巧断に咥えられて連れ去られる。
全く、体が軽いとこんな目に遭うんだ。諦めの中小狼の声が遠のくのを感じた。
(誘拐。愉快。)