東京国
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ぱちり、と眼が覚めると暗い水底にいた。
暗くてあたりもよく見えないのに、水面からはすこしだけ光が差す。
「呪いなんかに負けないで、って言ったのに」
『…あなた、誰?』
水底に、もう1人いた。
奥の岩垣から姿を現したその男は、どこか見覚えがあった。
『あなた、どこかで…』
「えぇーー、覚えてないの?ひっどいなぁ、あんなに猫の目に通いつめて常連さんになったのにぃ…」
『猫の目って…!』
桜花国の遊戯システム〈
「ほーら、おっきいニャンコさんと付き合ってないのー?って」
『にやにや笑ってた常連さん!』
「セイカーーイ!」
ぱちぱちぱちー、と冗談めかしく拍手をする男に、警戒心を強める。
かの遊戯、桜都国はバーチャル空間。そして、参加者は全員アバターだから。私たちのような者でない限り、現実と同じような容姿にするものは少ない。のにも関わらず、この男はあの時の姿と全く変わってない。
『…あなた、ここが何処だか知ってるの?』
「さっすがメイリンちゃん、察しがいいねぇ。そういう子、嫌いじゃねェよ?」
『ありがとう。けれど、お生憎様。
残念ながら私の心はもう、あのへらへらした魔術師に売却済みなのよ』
他当たりなさい、と軽くはねのけるが警戒は怠らない。カイルの時に痛い目を見たから。
けれど、そんな私に男は吹き出し大声で笑う。
「っく、あははは!!
やっぱり君達はくっつくべきだよ!
大丈夫、大丈夫。俺はミカタだ」
『ここにいるってだけで胡散臭いのに、信用できるわけないでしょっ』
「そりゃそーーかぁ。まぁいいや。
俺の仕事はメイリンちゃんに信用してもらうことでも、優しく慰めてやることでもねぇし」
仕事、と男はいった。
ならば他に何か“やるべき事”が、あるのだろうか。
「まずは自己紹介。
俺の名前はガーネット。俺は君の味方、ここまではいい?」
『ガーネット、って明らかに偽名じゃない!』
「まぁまぁ。RPGで勇者の名前にああああってつけるような適当さじゃないからいいじゃないの」
『それ名乗られてたら殴ってたわね』
「こわいなぁ」
からからと笑うガーネットは、自身が言うように敵ではなさそうだ。
敵意や殺意なども感じられないので、すこしだけ警戒を緩める。しかし、味方というほどいい人でもなさそう。
「さぁ、メイリンちゃん。
君は思い出さなくてはいけない。いちいち頭の隅に置いておくこともない記憶でも、忘れたままは頂けない」
『それって、どういう…』
暗い暗い水底はまだ奥へと続いていて、そこからキラキラとした結晶が漂ってくる。
「ほら、以前見たがってたろ?
“その時”が来たんだよ。呪いなんかに負けないでね」
ーーーーーーーーーー
何もない虚無のような空間で、男は大きな鏡の前で優雅に座っていた。
「右目の力が消える。
あれは捕らえたクロウ・リードの血筋である『小狼』をもとに作った写身。ーーー羽根を集める為に。羽根を玖楼国の姫に戻す為なら何事も厭わぬように。しかし、本体である『小狼』は写身に己の心を写した」
男は昔話のように、実験の結果報告のように語る。
「右目を取り除こうとしたが、さすがはクロウの血筋。魔力を込めた眼を取り除けば写身も壊れる。本体と同等の力を持つ写身は何度も創れるものではないし。それに、たとえ他者の心が宿っていても羽根を集めるという目的さえ違えなければ良いだけの事。
だからそのまま手放した。
時を読み、場を読みら写身が玖楼国へ行き、遺跡の力の鍵となるあの姫と出逢うべく道筋を間違いなく歩めるように」
男の目は大きな鏡を写しているようだったが、その実、男の過去を振り返って見ているようだった。
しかし、鏡が映している映像の中に、ある少女が出てきて思い出したかのようにぽつりぽつりと語る。
「……そう、クロウ・リードの成れの果てが打った一駒。アレにも細工を施した。
些細な、記憶をどこまで操れるかの実験だ。
行き場の失った魂に、クロウ・リードの血筋という最高の器を用意し、写身の右目の封印が切れると同時にかかる呪いをかけた。
“全てを忘れる”という呪いを」
全ては計画。メイリンの全ては遊戯に過ぎない。クロウ・リードの生まれ変わりの、エリオルがメイリンを旅立たせることも予測が付いていたし、魔女がこの一行に同行させるのも道筋通りだった。
「けれど、写身の歩むべき道筋といい、アレの道筋といい。計画通りだったのだ。
ーーーーあの魔女が阻むまでは」
ーーーーーーーーーー
三日月がぽっかりと浮かぶ、澄んだ夜。
それを見上げる魔女も、素晴らしく澄んだ綺麗だった。
「……左目を与えた事で、『小狼』の魔力は半減した。だから時が流れ成長し、飛王が施した雄平の刺青が破れるまでずっとあの子は待っていた。己の自由と、時間を対価として。
けれど、飛王の魔力は強い。『小狼』やメイリンと同じく、彼もクロウ・リードの血筋で、彼に次ぐ力の持ち主。それに、飛王は夢を叶える為なら、きっとどんな事でもするわ」
それは予想などではなく、残酷なまでの事実。
「夢のために飛王が人の魂を集めていたのはわかってる。でも、それを邪魔するのは干渉できる範囲を超える。あたしが飛王の元にいる『小狼』に手を出せなかったのも同じ。だからあたしは待っていたわ。『小狼』が目覚める時を。
けれど、それは同時にもう一人の小狼の右目の封印が切れる事も意味する。もう一人の小狼に与えた心が、『小狼』に戻ってしまう。それに、……飛王がかけたメイリンの呪いが発動することも。」
きゅっと眉を寄せ、思い悩む。
小狼には干渉値が超えてしまうから何も出来なかったが、メイリンは違った。
「メイリンの母の願いで、あたしも呪いをかけた。“全てを思い出す”という呪いを。
メイリンにとってはどちらに転がっても地獄ではあるけれど…。
飛王、貴方とあたしどちらが勝つかしら」
月を睨む、魔女の赤い目は死んでいなかった。
(ラブラドライトを我が手に)