東京国
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しゃらしゃらと、何かが風…いや、波にのって私の耳に届く。けれど、周りの空気が上へ上がる音であまりよく聞こえない。
この綺麗な音はなぁに…?
「…ま……ない、で」
誰…?
私以外にこの水底に誰かいるの?
「のろ…なんかに、…まけ……ぃで」
周りがうるさくて、よく聞こえないの。
けれど、声の主は私より水底にいて、その姿が輝いているのは分かる。あなたは、だれ?
さっき、なんていったの?
「あなたは、まだ…」
きらきらひかるその人は、私に向かって指をさすと、金色の蝶が、何十何百と水面に向かってひらひらと空気の真珠と一緒に上へ上へと…。
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『…っはぁ、はぁ』
飛び上がるように覚醒し、気がつくと、そこはベッドの上だった。
心臓が、ばくばくとうるさい。呼吸も、苦しい。さっきの夢のせいだろうか…。
『……って、ここは…?』
「起きたか」
『…黒鋼に、サクラ』
ベッドの横には白雪姫のように眠りについているサクラがいた。昨日から、眠りっぱなしのようだ。
そして、ベッドに背を預けるように黒鋼。
起き抜けの頭で申し訳ないが事情を説明してもらった。
「…と、まぁこんなところだ」
『そう、小狼達は外で食料調達。私たちはお留守番ってことね』
私とサクラが置いていかれたことには納得だが、ファイはこういう時いつも黒鋼に任せていたはずなのに。珍しい事もあるものだ。
…まぁ、昨日の今日で私も顔を合わせにくい部分はあったからありがたいが。
「…
『っふ、前にもいったでしょ?
私にはそんな大それた力はないのよ。ただ、不思議な夢を見てね…』
よく思い出せない、水の中の夢。そして、金色の蝶。前にもこんな夢見た気がするけれど、きっと気のせいだろう。私には魔力も夢見の力もないのだから。精神上の問題の方が大きいに違いない。
『……けれど、あの人はなんて言ってたんだろう』
「あぁ?」
『んーん、何でもないわ!』
考えても仕方がない事を振り払い、今はこの国のことや、いろんな考えないといけないことが残っているのだから。
ファイがなんで魔法を使ったのか、小狼のあの人が変わったような態度や眼差しは?
レコルトで見たあの映像が〈前のわたし〉のものだとして、それがどうして本になって、あんな所にあったの?だれが、差し向けたの?何のために?
疑問符が飛び交って、頭がこんがらがってくる。
「…まだ、言えねぇことだらけか?」
『……黒鋼』
「あの魔術師で頼りになるんならそれでいい。だが、そうじゃねぇなら話せ」
この人はこんな所で不意をつくように優しいからずるい。この人の背中にも、色々なしがらみや思惑がのし掛かっているのに、こんなことを言われてしまうと、本当に重いものも持って歩いてくれるかも、と期待してしまう。
『…わた、しは……』
紡ぐ、その時。
眠っていたサクラの掌がピクっと反応した。
私も黒鋼もハッとして、サクラを凝視する。
「…おい、姫!おい!!」
『サクラ!?サクラどうしたの?』
こんなに声を荒げても起きないサクラに違和感を感じていると、黒鋼は何かに気がついたのか、サクラの目の前に掌をかざす。
「……息、してねぇぞ」
『………へ、』
「医者に!いや、医者でいいのか!?」
「治療で治せるものではありません」
奥のカーテンからゆらりと、色素の薄い中性的な人が現れた。どうやら、先ほど黒鋼が言葉短く教えてくれたここ都庁を仕切っている集団の1人の、牙暁さんって方だろう。
しかし、その気配のなさに、私と黒鋼は慌てて戦闘態勢に入った。
「……貴方達は異世界、別の次元から来たんですね」
『…どうして』
「夢で視たんです、貴方達が来るのを。
未来が視えるんです、いつもじゃありません。ただ、時折。何かこの東京に大きな変化が起こる時に。
神威が来た時も視ました」
「………おまえ、夢見か」
「貴方の国ではそう呼ばれているんですか?」
「あぁ、結界を張る姫巫女の中に、夢で先を見るものが希にいる。その巫女を夢見と呼んでいた」
夢見、羽根、地下の水、小狼、サクラ。
どこかで覚えのある光景、ガンガンの警報のように鳴り響く頭痛。そして、ボコボコと、水の音が頭の中で通り過ぎた気がした。
「その子は眠っています」
「寝てるだけで息が止まるかよ」
「体ではありません」
『体、じゃない…?』
「眠っているのは、魂です」
魂。心。それが、眠ってしまった、というのだろうか。ここに居るのは、体だけのサクラだと。
ズキリ、とまた頭が痛む。なにかが、ゆっくりとした足並みで、こちらに近づいてきているような。
すると、突然牙暁さんが何かを察したように窓の外に目線を向けた。
「なんだ」
「都庁を守っていた“結界”が、…消えた」
『結界…』
この建物を守れるほどの“結界”、腐ることのない水。おそらくその地下に、サクラの羽根は眠っているのだろう。
それが、消えた。そしてサクラの魂は眠っている。今、この東京でなにがおこっているの…?
その時、締め付けられるように酷かった頭痛が収まり、頭の中で鐘の音が響いた。
“こちらに”
“はやく、こちらに”
“もうそろそろ時間だ”
男の人の声が、聞こえた。低く、深い。不快な声。けれど、強制力があり、抗えない声。
ギリリと奥歯を噛み締めて抗うが、無駄な抵抗だと言わんばかりに、縛られる力が強まった。
『…しゃお、らん』
「…おい、小娘。どうした」
『さくら、くろがね、もこな』
「何かがおかしいです、その子を離さないで!」
『……ふぁい、』
パリン、とガラスが割れるような音が響いた。
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黒鋼はぼーっと自分たちの名前を呼ぶメイリンの肩をつかもうとするが、細く白い手がそれを邪魔した。その手は、黒鋼の手を振りほどくような力はなかったが、今は違う。まるで、冷たい目をした小狼のような、しんとした冬の水のような雰囲気を感じた。
「…小娘?」
『ごめんね、黒鋼。
わたし、呼ばれてるから行かないといけないんだ』
声色はいつもと同じだが、口調が違う。
いや、たまに彼女はこのような柔らかい口調になる時があるが、常にではなかった。
それが、声色、口調のみで雰囲気や表情には伴っていない。ちぐはぐだ。
メイリンはくるりと回転して、スカートをはためかせ、黒鋼と牙暁の横を通り過ぎていく。
「……こんなところ、夢では…。
あの子は、一体…?」
別の次元、別の世界。
願いを叶える店で、空を見上げていた黒髪の魔女。侑子は、憂うような表情で、空を見上げる。
「右目の封印が、切れる。
メイリン、貴方の賭けはどちらに転ぶかしら」
(砕かれたアメシスト)