阪神共和国
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小狼の声が店内に響くと、オオサマと呼ばれた木之本桃矢(と同じ魂の人)が苦笑いをひとつ。
「お客さん、誰かと間違ってませんか? 俺はオウサマ、なんて名前じゃないですけど」
「えっ?」
小狼の気持ちはよく分かるけど、それが当たり前なんだよ。ちなみに、黒鋼は木之本桃矢(店員さん)に注意をされていた。
『やーい、怒られん坊』
「黒鋼怒られん坊ー!」
「うるせーチビども」
「王様って前いた国の?」
「はい…」
怒られた黒鋼を気にしたのか、正義君は店のシステムを教えてくれた。どうやらこのお店は全てやってくれるから、手を出さなくてもいいらしい。そりゃ怒られるわ。
「次元の魔女さんが言ってた通りだねぇ。“知ってる人、前の世界で会った人が別の世界では全く違った人生を送っている”って」
「なら、あの二人はガキの国の王と神官と同じってことか」
「同じだけど同じじゃないかなぁ。
小狼君の、国にいた二人とはまったく別の人生を送っているんだから。ーーでも言うなれば“根元”は同じ、かな」
「根元?」
「命の大元のー、性質とかー心とかー?」
「“魂”ってことか」
「そんなところかなー。ねー、メイリンちゃん」
『…あんた、本当ウザいわね。いい加減ぶん殴るわよ』
「あははははー、こわぁーい」
魂が一緒なんて、そんな程度じゃない。本当にその人なんじゃないかって期待してしまうくらい一緒で、けれど本当にその人じゃないんだなってくらい似ていない。顔も仕草も声色も一緒なのに、私と過ごした記憶はないし、接し方も違う。違う人なんだから当たり前なんだけれど、大切なものは変わらない。
なんて無慈悲で、罪なんだろう。
『…性格悪すぎ』
「あ、あの、大丈夫ですか、メイリンさん」
『…大丈夫よ、ありがとう。あとこれ私たちのいた国の宗教の話だから、気にしないでね』
「はいっ」
「小狼くーん、なくなっちゃうよ」
「……はい」
ゆっくりとお昼を満喫した後、“今日のこれから”を決めあぐねていた私たちを、正義君が案内してくれることになった。美味しいご飯も食べれたし、その上案内なんて本当にいい子だ。
そんないい子は家族へも優しいらしく、お家の人が心配するからと電話をしてくると走って離れていった。親御さんの教育も良いらしい。
「…そういえば、話が途中になっちゃってたね。夢を見たんだって?」
「はい。さっき出てきたあの炎の獣の夢です」
暇つぶしのためなのかただ好奇心が旺盛なのか、小さな子供と一緒になってショーウィンドーをじっと眺めていた黒鋼も話に混じり、というか小狼と同じような夢を見たらしい。もちろんファイも。 私のアレもそうなんだろうけれど。どうしてだろう、なんて考える暇もなくハプニングは次々と起こるものなのだ。
「“シャオラン”ってのは、誰だ!?」
「なんか用かなぁ?」
「笙悟が、気に入ったとか言ったのはおまえか!?」
「だとしたら?」
あからさまな不良グループが小狼に絡んできた、と思ったらファイが返事をした。この嘘つきがやりそうなことだ。しかしファイが否定しようが肯定してようが、生真面目な小狼は自ら名乗り出た。
「小狼はおれです」
「こんな子供か!ほんとに!?」
「ほんとっす!間違いないっす!!」
不良グループのリーダーなのだろうか、頭が二つに割れたデブが小狼に話を持ちかけた。喧嘩腰で。
「お前笙悟のチームに入るつもりか!」
「チーム?」
「笙悟んところはそれでなくても強いヤツが多いんだ。これ以上増えたら不利なんだよ!!
笙悟が認めたんだ!おまえも相当強い巧断が憑いてるんだろ!もし笙悟のチームに入るつもりなら容赦しないぞ!」
「入りません」
「だったら、うちのチームに入れ!」
「入りません」
きっぱりと言う小狼は、なぜだか昔から変わってないなぁ、と親のような気分になった。こっちの小狼のことは、“知っていても”知らないのに。
「小狼君きっぱりだねー」
『それが美徳よね』
「んー、そういうのがタイプなのー?」
『誤魔化されるより100億倍マシ』
不毛な腹の探り合いだ。そんな会話を知ってか知らずか、展開は展開を呼ぶ。
「おれにはやることがあるんです。だから…」
「~~っ、そうか!!新しいチームをつくるつもりだな!!!」
何 故 そ う な っ た。
この人達、最初から話聞かなそうなオーラは出してた。一度でいいから正義君を見習って10分ほど口閉じて相手の言葉を理解しようとは思わないのだろうか。思わないんだろうなぁ。
「今のうちにぶっ潰しとく!」
「でっかいねーー」
「おれはそんなつもりはありません!」
けれど、もとより言葉を聞いていない不良グループのリーダーは、小狼を自らの巧断の鋭いハサミで攻撃した。
「聞く耳持たないって感じだね」
『ファイ、退きなさい。ここは私が』
ファイを制して私がいくつもりだったのに、それは黒鋼の手によって抑圧された。
「ちょっと退屈してたんだよ、俺が相手してやらぁ」
『…ドドン、と出て来たはいいけど』
「さっきまで楽しんでーー!」
「満喫してたよねぇ、阪神共和国を」
「うるせぇぞそこ!!」
相手をする、と言ったけれど黒鋼は丸腰状態。しかも、最初持っていた刀は次元の魔女に渡したとかなんとか。
「ありゃ破魔の刀だ、特別のな。
俺がいた日本国にいる魔物を斬るにゃ必要だが、巧断は魔物じゃねぇだろ」
「おまえの巧断は何級だ!?」
「知らねぇし、興味もねぇ。
ごちゃごちゃ言ってねぇで、掛かって来いよ」
黒鋼と不良のリーダーが睨み合っている。空気がピンと張りつめた。それに呼応するようにまた頭がピリピリする。
するとお家に電話していたはずの正義君が慌てて駆けてきた。
「正義くん、あれ知ってるー?」
「この界隈を狙ってるチームです!ここは笙悟さんのチームのナワバリだから!」
「あの人も強いのかなぁ」
『顔は面白いのに…』
「一級の巧断を憑けているんです!本人はああだけど、巧断の動きはすごく素早くて、それに!」
「くらえ!おれの一級巧断の攻撃を!!『蟹鍋旋回』!」
巧断から勢いよく繰り出された攻撃を、黒鋼は身のこなし軽やかによけた。けれど、黒鋼の代わりに攻撃を受けた大きな柱がスッパリと切れた。
「切れた!?」
「あの巧断は体の一部を刃物みたいに尖らせることができるんです!」
『…まさに蟹のハサミね』
建物のことなんか気にせず、不良リーダーは丸腰の黒鋼を追い詰める。しかし、黒鋼は間一髪のところで避けた。
「危ない!」
「手、出すと怒ると思うよー。
だから、メイリンちゃんも行っちゃダメだよー」
『う…』
こんなことを目の前でされると、体がウズウズする…。それに、頭痛も全然収まらない。
しかし外野が何と言おうと不良リーダーは次々と攻撃を放つ。
「『蟹道落』!!」
「黒鋼さん!!」
「巧断はどうした!
見せられないような弱いやつなのか!?」
「…うるせぇ。ぎゃあぎゃあうるせぇんだよ」
もろに攻撃を受けてしまった黒鋼は、もうボロボロだ。
「おれの巧断は一級の中でも特別カタイんだぁ!」
「けど弱点はある。あー、刀がありゃてっとり早く…」
ーーー瞬間、加護をするかの様に黒鋼の後ろに水竜が現れた。その場にいたみんなが目を丸くした。
「なに!?
お前、夢の中に出て来た…」
『夢の、中…』
「そっかー、“あれ”巧断なんだー」
その水竜は、大剣へと形を大きく変えたのだ。まるで、一緒に戦うと意思表示のように。
「なんだ、おまえも暴れてぇのかよ」
「そ、…それがおまえの巧断か!どうせ見かけ倒しだろ!こっちは、次は必殺技だぞ!『蟹喰砲台』!」
「どんだけ体が硬かろうが、刃物突き出してようがなぁ、エビやカニには継ぎ目があんだよ。
『破魔・竜王刃』!!!」
あれだけ硬くて鋭い武器を持っていた相手の巧断をたった一撃で倒してしまった。そのたった一撃は、物凄い迫力だった。
「ぐあぁぁああ!!」
「大丈夫っすか!? しっかり!」
「も…もう、チーム作ってんじゃねぇか、おまえ“シャオラン”のチームなんだろ!」
「誰の傘下にも入らねぇよ。俺ぁ、生涯ただ一人にしか仕えねぇ。ーーー知世姫にしかな」
その眼差しに強い信念と覚悟を感じながら、私は大道寺さんも姫だったなぁと思った。
(忠誠のその先)