新世界編
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深海から浮上する感覚というのは何年経っても体が覚えているらしい。窓から見える夜のような海を眺め、わたしは現実逃避をしていた。
「気持ちいいでしょ、ほら」
「あの…」
「もうアンリ、避けないで。ちゃんと分かってるから。ここでしょ?」
「あっ、ちょっとナミ…!」
「あんた介助ナシでお風呂入れないんだから一緒に済ませちゃった方がいいでしょ? ねぇ、チョッパー」
「ああ、包帯濡らしてもまた巻いてやれるけど、あんまりお湯かけるなよー」
「うう…せめてチョッパーも一緒に入ろうよ〜…」
「おれはいい、おととい体拭いたから!」
情けない声を出して逃げてもシャワー=テンポの小さな雲が追いかけてくる。傷に染みて痛いし、悪魔の実のせいで水場は体がだるいし、その上うちのパーフェクト美人航海士ナミさんの霰もない姿がずっと視界の内にいる。
もはや暴力と言ってもいいなだらかな双丘と、内蔵が全てそこに入ってるのか疑わしいほど細いウエスト。ああ、2年でわたしも成長したと思っていたけれど、やっぱりこれにはまだ遠く及ばない。観念してナミに頭を洗われながら、後ろに迫り来る滑らかな感触にひとまず拝んだ。
「何やってんの?」
「ご利益あるかなって」
「訳わかんないこと言わないの、ほら流すわよ」
「んぅーー」
「それよりその雲、甘くてうまそうだなぁー!」
人肌に暖かいお湯が雨のように降り続ける小さな雲が甘いものか。この体質になってからお風呂は苦手だし、長風呂なんてもってのほか。1人で入る事もままならないのに、元日本人の血が騒いでちょびっとでもいいから一日一回は湯船に浸かりたいのだからもうどうする事もできない。なんだかんだ面白がってお風呂に入れてくれるだけありがたいのかもしれない。
ナミと一緒に湯船に体を浸しながら飛び交う思考をまとめていると、風呂場の外からチョッパー以外の気配がした。デバフ状態の反応が遅いわたしとは違いナミは優雅にタクトを振ってシャワー=テンポをふよふよと移動させる。目だけで追っていくと、視線の先には頬を赤らめこちらを鑑賞しているブルックさんと、瞳孔を開いて鼻血を垂らしているサンジさんがいた。
「ヨホホ、お邪魔してます♡」
「やッ、違うんだアンリちゃん…!!」
雷が落ちる3秒前、ふやけた思考回路はしゃっきり起き上がり、喉の奥から信じられないくらい甲高い悲鳴が飛び出た。
「ゔ〜〜、もう絶対扉開けっぱなしでお風呂入らない…!!」
「はいはい、ごめんって。何かあった時に甲板の声が聞こえやすいと思ってね…。ほ〜らシャボン玉よ〜〜」
「そんな子供騙し通用しな、…わぁきれー!」
「すげーなぁ!!」
タクトを振って大小無数のシャボン玉を作るナミは本当の魔法使いのようだ。まんまと騙されたわたしとチョッパーを見て、ナミは意地悪に笑った。こうなったら次はアヒルさんと水鉄砲と浮き輪も持ち込んでやるんだ。水着も着てたら見られても平気だもんね!!
「それにしても2年ぶりのサニー号のお風呂、ほっとしない?」
「美女との混浴はいつになってもドキドキする…」
「あらうれしい♡
ロビンも一緒に入ればよかったのにね」
「きっと遠慮したんだと思う。
魚人島でも結構迷惑かけちゃったし、こういう事はこれから先も多いんだろうなぁ。ぱしゃんと足で水面を蹴った。
「そうだよな、甲板にナミいなくて大丈夫なのかな?」
「んーー、今は平気。上昇海流に乗る前に出るから。それに海獣が出たらあいつらか倒してくれるでしょ」
見た事ないクラゲや薄明かりをつけた魚が遊泳しているのを窓から眺めながら一抹の不安を溶かした。しかし数分後、不安を煽るように船は大きく揺れ甲板から騒がしい声が聞こえる。
「やっぱり任せちゃダメだったかしら…」
「ねぇナミ、窓の外のアレなんだろ?」
わたしが指差した窓の外を見ると、ナミは一目散に湯船から飛び出した。慌てた様子で髪も拭かずパーカーを羽織ったナミを、わたしも後を追うようにTシャツと下着だけ履いて出ると白い大蛇みたいなものが船の外に“いた”。
「大変!あれは“
「へぇ、そんな名前だったんだぁ」
ロビンさん曰く、この大渦に捕まった船は後日信じられないほど遠い海で“船だけ”発見されるような。
その話にああと、わたしは手を打って納得した。どこかで見た気がしていたのだけれど、その昔にわたしが1人で海を彷徨っていた時、本当に魚一匹見た事なくて、母も龍神さまもおらず寂しかった時にたまたま現れたのが、白い竜と呼ばれたこの長く大きな蛇だった。
大きすぎて初めて見る生き物だと勘違いしたわたしは、せめて顔だけでも一目見たいと近寄って、そのまま流されてしまったのだろう。まあどのみち辺りは海中だからあまり変わり映えせず、どこからどこの海へ流されたかなんて分からなかった訳だが。長年の謎が解決されて、なんだか喉にへばりついてた魚の小骨が取れた気分だ。回想というには朧げな記憶が口から出てたのか、みんなの顔を見渡すとドン引きしていた(ルフィ以外)。
「じゃああれは、夢のワープゾーン!?」
「違うわァ!!」
「とにかく、急いであの渦から離れるわよ!!」
「航海士様のご登場だ!!逃げるぞバカ供!!」
「ウワ〜ッ、ルフィなにその魚!?」
「いいだろー、釣ったんだ!」
「ぬぁにやってんの!!そんなの船に繋いでたら身動き取れないじゃない!ホラ魚が渦に巻き込まれてく!」
「やべ!本当だ、取り返すぞ!!」
「切り離すのよ!!!」
「「「「ええ〜〜〜〜!!!」」」」
ナミの無慈悲な言葉にルフィ達は顔を白くして驚いて残念がっているけれどあんな大きな魚ひっつけてるからかサニー号がちょっと傾いてる。
「フランキー、クー・ド・バースト!!」
「いや…スーパー手遅れだ!」
ひっついていた大きな魚が丸ごとずぼっと渦に呑まれ、誰かが呆気ない声を漏らした。ルフィだけは嬉しそうに弾んだ声でみんなにしがみつけ〜〜!と言った。さっきから感じていた不安が重力と衝撃になって襲いかかってきた。
悲鳴をあげてるのが自分か仲間かも分からなくなるくらい渦に弄ばれ、叫ぶのも疲れた時に、サニー号は“何か大きなもの”にはじかれて渦から出られた。岩にしては弾力があり、魚にしては大きなその影は一つではなく見渡す限り大きなクジラが、群れをなしていた。
「ラブーーーン!?」
「ラブーン!?お前こんなに大きく…!!」
「ばか言え!ラブーンがいるのはグランドライン前半だろ!?あの巨大じゃ“レッドラインの穴”も通れねぇ!」
どうやらクジラ違いらしいが、ラブーンというのはいつぞやに少しだけ耳にしたブルックさんの約束の相手らしい。確か“原作”の方にも最初ら辺に大きなクジラが出てきてた気がするが、その子だろうか。ラブーンを知っているメンバーが見上げては驚いた顔をしている。クジラ違いでも助けてくれたことには変わりないのだ。ありがとうございます、と一礼すると近くにいたクジラさんが目を細めた気がした。
なんだかピンチは切り抜けたようなので、わたしは一足先に着替えでもしようと甲板を後にした。女部屋に入っても、ブルックさんの涙声のビンクスの酒が聞こえてくる。
着替えや身支度を整えていると、ナミから号令がかかった。もうそろそろ海上に着くらしい。深くて暗い海の底から明るい水面を見上げる景色は何度見ても綺麗だ。
「出たァ〜〜〜〜〜!!!」
どーーん!とクジラの背から押し上げられて飛び出した時にわたし達を守ってくれていたシャボンはパチンと弾けた。
「うおーー!天候最悪〜〜!」
「ヨホホ!空は雷雨!」
「風は強風!」
「波は大荒れ!」
「指針的外れ!!」
「赤い海が見える!!」
「逆巻く火の海!」
「まるで地獄の入り口」
「起こってることぜーんぶ不吉!」
「望むところだ〜〜〜〜!!!!」
災害級の悪天候なのに、みんなといるとどこでもワクワクしてくる。
*
気分は一転。空模様とさほど変わらない荒れ具合である。
「………」
「ほら深海魚弁当だ」
「うほ〜〜うまそー!」
「…………」
「くじは?」
「おれ達だ」
「代わってくれ〜〜〜!!」
「…わたしも行きたいのに、ウソップさんだけズルい」
「ギクっ!?」
「安全かも分からない(ほぼ危険な)島なのよ。まだ魚人島での怪我がちゃんと治ってないんだからアンタは安静っ」
みんなが心配してくれてるのは分かるけど、せっかくの上陸なのに。とか、これくらいの怪我で大袈裟な、と思ってしまう。この2年間、怪我しなかった日の方が少ないのに。
無意識に膨らむ頬と尖る唇を優しく柔らかな指先が突く。ロビンさんだった。
「私達がどのくらい危険なのか見てくるわ。それに全員で行って、もし機関銃で撃たれたら助けに来てくれる人が居なくちゃ」
「……」
「アンリ!土産持って来てやるからまってろよ!!」
「…うん、待ってる」
ルフィとロビンさん(いつも例えが物騒だが)の説得に折れて大人しくお見送りした。ルフィ、ゾロさん、ロビンさん、ウソップさんはミニメリー号へ乗り込み、ナミが作ってくれた雲の橋で燃え盛る島へ向かった。
「アンリ、暑いの平気なのか〜…?おれダメだ〜〜“ルフィのお供くじ”外れて良かったよ…」
「…ふふ、確かにけっこう暑いかも」
「ルフィ1人で行かせらんないし。マ、どうしても行きたいんなら後で行けばいいわよ。何もなかったらすぐ帰ってくるでしょ」
「よし、ナミさん、アンリちゃん!!
今深海魚で冷たぁ〜いデザート作るからね♡」
「「わーい!」」
結局船番として残ることになったが、サンジさんのデザートに免じて納得しておこう。
ナミが暑さで髪を結い上げる。確かに周りが本当に火の海だからすごく暑い。亜熱帯だった女ヶ島とは違い肌を焼くような熱が常にあった。もわもわした空気が苦手だから、上陸組じゃなくて良かったかも?と思うことにしておこう。
しばらくして、サンジさんがダイニングルームからひょいひょいと手招きしている。周りを見渡すが、どうやら私を呼んでいたらしい。駆け寄りダイニングルームへ入ると、綺麗にお皿へ盛り付けられたクレープがあった。
「わぁ〜!!ドレスみたいできれい!」
「深海魚の淡白な白身で作った冷たいクレープだ。シャンパンと一緒にどうぞ」
「美味しそう!」
「召し上がれ」
私はてっきり甲板にいるみんなへ配膳のお手伝いかと思ってたが、どうやら違ったらしい。サンジさんは広いダイニングテーブルに備えられた椅子一つだけを引いてエスコートしてくれた。演技がかった仕草なのに、サンジさんがするとドキッとしてしまうのはなんでだろう。
いただきますと手を合わせて、真っ白で綺麗な生地に赤紫のベリーソースがかかったクレープを小さく切り口へ運んだ瞬間、口の中にひんやりと冷たいものが広がった。とろけた生地からほんのりと白ワインの香りが鼻から抜ける。
「おいしい〜〜とけてなくなっちゃった〜♡」
「お褒めに預かり光栄の限りです、マイプリンセス」
「…?」
口の中の余韻を楽しんでいれば、いつもよりこちらを伺う視線を感じて覗き込むと目が合ったのに、サンジさんの瞳はあっちへこっちへ大水泳大会だった。どうやらさっきのお風呂覗き事件(事故)を、まだ気にしてくれてたらしい。特徴的な眉ばかりを下げるばかりで、なかなか目がわない。
なんだか段々かわいそうに思えてきた。仕方ない、わざとらしく咳払いをしてふやけた表情をキュッと引き締めた。
「サンジさん、ちょっとしゃがんでくれる?」
わたしがそう言うと、サンジさんは返事もなく目にも止まらぬ速さで床に正座したのだ。項垂れて、まるで地獄で沙汰を待つ罪人の様だ。わたしとしてはそこまで反省してるなら、もう許してあげてもいいんだけど、彼の中では整理がついてないのだろう。
「…あのね、覗きって犯罪なんだよ。窃視罪って言ってね。プライバシーを侵害する行為であると共に性に関する風紀を乱しかねないとして処罰の対象に…」
「あの、アンリちゃん。おれ達海賊……」
それはまあ、そうなんですが。確かに海賊行為そのものがアウトだし、それに加えて窃盗、暴行、傷害罪に殺人罪まで(麦わらの一味はしないけど)、そんな人達に法律的なモラルを問うなんて馬鹿らしいにも程があるだろう。この世界にそんな法律があるかは別として。
「つ、つまりわたしが言いたいのは!!法で定められるくらい嫌な思いをする人が大勢いるって事!」
「面目ねェ……」
「それに、お風呂場なんて覗いたらサンジさんがまた鼻血出して倒れちゃうかもしれないでしょ? ブルックさんにも後で言っておくけど、もう乗せられてきちゃダメだよ」
「アンリちゃんがおれの心配を!?」
「そりゃそうだよ、わたしだって急にナミの入浴シーンなんて見たら倒れちゃう自信があるもの」
一緒に入るのはこれっきりにしたいのに、何が面白いのかそうさせてくれない。男性陣からしたら贅沢な悩みだろう。チョッパーがまだまだサンジさんの血液型の輸血パックが足りないって嘆いてたし、“不本意に覗いちゃった”んだとしても細心の注意を払ってもらわないと。
ふとサンジさんの方を見ると、なぜかさっきより気分が落ちているようだった。もう項垂れるというよりか床に沈んでいってるようにも見える。
「…そこ、そこじゃねェよアンリちゅあん…」
「そこ?どこ??」
ううううと唸るサンジさんの目が、やっとわたしを見つめる。唇を尖らせて、目には涙の膜が張ってるからだろうか。どことなく恨めしそうな、サンジさんにしては珍しい表情に思わずわたしの心がふわりと浮いた。
「……ナミさんには、ヤキモチ妬かねェの…?」
「…な、」
どうしてそうなるのか、とか。年上なのに可愛くて心臓がぎゅっと痛いとか。そんなことを差し引いて口から出た言葉は、「あれ夢じゃなかったの!?」だった。
「そ、そりゃねェよお!!」
「だって、てっきり風邪ひいた時の夢みたいなものかと…」
「やっとアンリちゃんを口説けると思ったんだが……」
ブツブツと何か言っていたけれど、サンジさんはそっぽ向いちゃったからわたしの名前くらいしか聞き取れなかった。
「とにかく覗きはダメだよってコト!! ハイ、お話おわり!ナミ達に持っていってあげてね!!」
「うぅ、アンリちゃんなーんも分かってねェ……」
沈んだ雰囲気であっても給仕は全うするのは彼がプロフェッショナルだからだろうか。それにしてもあれが夢じゃなかったなんて、恥ずかしさで当分サンジさんの顔を直視できない。熱に染まった頬を冷やすように、もう一口クレープを頬張った。が、白ワインの香りとは違う何かの香りに違和感が走る。勿体無いけれど口の中の物をごくっと飲み込んでフォークもナイフも置いた。頭を捻って考えても出なかった答えが、数秒後油断という形で現れた。
ドアの向こうから人が倒れたような重い衝撃音が聞こえたと同時に、わたしの体も重力にへたり込んだ。壁やドアの隙間から、うっすら煙のようなものが風といっしょに流れてきていた。目視でも確認できるようになってやっと、明確に香りが強くなっているのを感じる。
「な、に…これ……!?」
体の重みの正体は眠気だった。猛烈な眠気に気を許してしまいそうになるが、これは明らかな“敵意”や“害意”の現象だろう。キッチンにいてこれなのだ。甲板にいたはずのナミ達は、サンジさんを助けないと…!!
意識が朦朧とする中、わたしは先ほど手から離したナイフをもう一度握り、強く手の甲を刺した。結構思いっきりいったようで、ぶっちゃけものすごく痛い。でもおかげで目は覚めた。額から脂汗を垂らしながら、手を抑えてキッチンのドアを隙間分だけ開ける。煙に紛れて見覚えのない養蜂場のような作業服でガスマスクを付けた人間が眠って意識のないナミやチョッパーを縛っているのが見えた。その瞬間、自分でも驚くくらいカッと頭に血が上ったのを感じる。勘付かれないようにと思っていたことも忘れて、ドアをバタンと音が鳴るほど強く開いた。
「なっ、!?」
「この女も仲間か?“
作業着の男達はわたしを警戒して持っていた銃を構えた。能力を使って羽を出そうとしたら、背中ではなく腕が大きな翼となった。いつもなら、練習通り出せるのに。きっと怒りと睡眠ガスのせいでうまく頭が回らないからだ。目の前にいた作業着の男達が動揺したのが手に取るようにわかる。みんなが眠っててよかった。
こんな醜い姿をサンジさんに見られなくて、本当によかった。
力強く数回羽ばたかせると、サニー号の中に充満していた煙が晴れる。作業着の男達は驚きのあまり銃口をこちらに向けるのも忘れて、当たりをキョロキョロと見回した。さっきの煙を吸った所為か手足が痺れているが、今はナミ達の方が先だ。いつの間にか鉤爪になっていた両足で踏み込むと作業着の男がもう手の届く範囲に入った。右翼で薙ぎ払えば、頭を柵に打ち付けて気絶した。もう1人の作業着の男が照準を合わせず撃ちまくる。と言っても一発ずつ込めるライフル銃だから、一発目以降は空撃ちだ。硝煙燻る中、股を蹴り上げたら奇声を上げ倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ…ん、よし。あとは、みんなを起こして」
その前に腕を人のそれに戻さなければ。戻れ戻れと念じて目を瞑ったその時、後ろからバシュンと銃声のような、しかし軽い音が鼓膜を震わせた。
振り返る前にわたしの体は地に倒れて、指一本も、瞼も、眼球さえも動かせない。最後に見た景色は2階の階段からわたしを狙い撃った奴と、後ろに構えていた奴。
どうやら作業着の男達は4人組だったらしい。
「……しく、じったぁ…」
「ーー連れて行け」
ガスマスクから聞こえる籠った声を最後に、わたしの意識は途絶えた。
(甲斐なく沈む)