新世界編
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41
ーーハーピィ。
人間の女性の顔と体を持ちながら六翼の真白い羽を持ち旋風を起こす。“その出自”故に焼き尽くすような眩い光と蠱惑的な声で人間を惑わし、鋭い爪は亡き魂をも掴む。
醜悪だと忌み嫌われる空想上の“化け物”である。
*
周りの島民がバタバタと倒れていったのを見計らい、声をかけるとルフィは己の役割を理解しバンダー・デッケンに向かっていった。
縛っていた縄を羽根を飛ばしてサッと切る。これでルフィも両手両足使える。
「しらほし姫! メガロさん起こしてもらえますか!?」
「は、はい!」
「ほら、チョッパーも起きて!」
容赦なくチョッパーの頬をつねりながら次々に縄を解いていく。話を聞かない島民から逃走を図るなら、バンダー・デッケンとルフィに気を取られてる今がチャンスだ。
チョッパーはフラフラ目を覚ましたが、サンジさんは揺すっても声をかけても起きる気配はない。まだ目の奥がチカチカしてるけど、逃げるのが先決!やむをえん、このまま運ぼう!
わたしは意を決してサンジさんの足と肩に手を回して横に抱き上げた。黒スーツに身を包んでいる為分かりづらいが、抱っこしてみるとがっしりしてて、確かな重みがある。体温も高くて、手に伝わる感触や鼻を通るタバコの香りがやけに主張している気がした。
わたしがチビすぎてサンジさんの長すぎるお御足が地面とスレスレだけど、わたしよりふらついてるチョッパーに運ばせるよりマシだろう。
頬っぺたが熱い。誰にも見られなくてよかったかもしれない。
「あれ…? アンリがサンジのことお姫様抱っこしてるように見える。悪ィ、おれまだ寝ぼけてるみたいだ」
「みられてた。ちゃんと起きてよかった」
「それで本当に良いのかッ!?」
やいやいうるさいチョッパーを押し込み、全員メガロさんの背に乗り込んだらちょうど片付けたルフィもビョンと飛び乗った。
やっと一息つけば視界が揺れた。
「し、しらほし姫!何故そいつらと!?」
「ごめんなさい皆さま! お夕食までには戻りますから!!」
「いけサメェ!!!」
なんとも悠長な言葉を残して、メガロさんはまた必死に空を泳いだ。しかしその空さえも塞ぐ程大きな海坊主(この顔も深海の航海で見た顔だ)が現れた。
「よし、行くぞ弱虫! 海の森!!!」
「はいっ!!」
ルフィが居るなら一先ずわたしの役目はこないだろう。そろそろ視界のうるささも限界がきたらしく、意識は白へと飛ばされた。
✳︎
瞼を開けると、見たことある天井だ。横を見ると本当に知ってるクローゼットや大きなドレッサー。すぐに半日ぶりのサニー号だと見当がついた。布が擦れる音と共に起き上がれば外で人の気配がする。ドアを開けて外を覗くとルフィ、チョッパー、横たわるハチさん、しらほし姫、メガロさん、フランキーさん、起きたサンジさん、何故か合流してるナミとケイミー。そして、恰幅の良い着物の魚人、ジンベエさんがいた。よかった、どうやら無事会えたようだ。
安堵したのも束の間、重々しく開かれたジンベエさんの口から衝撃の事実が放たれた。
「11年前…、アーロンの奴を東の海に解き放った張本人は、わたしなんじゃ!!」
ヒュ、と息を呑む音が他人事のように聞こえた。その衝撃のまま壁にへたり込み顔を出せずに耳をそばだてる。
聞こえてきたのはナミの故郷の話だった。こんな話、進んで話したいような内容ではないからわたしはちゃんと聞いたことはない。だけど前世の記憶として知っているそれは、きっと想像以上に壮絶だ。
ナミを傷つけられたならわたしも立ち上がるべきだけれど、あのジンベエさんがなんの考えもなしにアーロンを放っておく訳がない、とも思う。きっとなにか事情があったのかもしれない。進むにつれて語られたのは昔の魚人島の話。“奴隷解放の英雄”フィッシャータイガーさんと、人間に歩み寄ろうとしてくれたオトヒメ王妃さまの話だった。
「ーーこれが、ここ16年程のこの島の差別との戦い…。そして、魚人海賊団の成り立ちじゃ。お前さんの故郷を苦しめたアーロンは、つまりわしの弟分なんじゃ…!責任を感じとる!!」
人間と魚人の確執を話した後なのに、ジンベエさんはしっかりナミへ謝罪を申し出た。しかも、何かあればアーロンの元に駆けつけれるようにしていたようだ。だが悪知恵はアーロンのほうが上で海軍を買収し、情報操作していたそう。
やっぱりジンベエさんは信頼できるひとだ。良いひともいれば、悪いひともいる。人間も魚人も変わらない。滲んだ目元を腕で乱雑に擦って立ちあがろうと腰を上げる時、処分は受けると言ったジンベエさんにナミがやめてと制止した。
「私が嫌いなのはアーロン!…とにかく、あんたがアーロン一味の黒幕じゃなくてよかった。ーーだってルフィの友達なんでしょ? アンリからも、あんたに助けてもらったって聞いてるし」
「……」
「確かにアーロン一味には酷い目にあわされたけど…、そんな酷い渦の中出会った仲間もいるのよね!」
「ナミさんそれっておれのこと!?」
「全部繋がって私が出来てんの! 魚人だからって恨みはしないわ」
「………」
見えてなくても分かる。ナミの言葉にジンベエさんは愕然として、言葉も出ないのだろう。わたしだってナミのかっこよさが心臓に突き刺さってる。いや、本当に感動で泣きそう。
「私の人生に勝手に謝らないで! 捨てたもんじゃないのよ?今、楽しいもん」
「………何ちゅう、勿体無い言葉…!!
……かたじけない…!!!」
“後ろ”を知っているからこそ出てくる言葉。前を見ている明るく聡明で。ああ、わたしナミのこういう所大好きだ。
そこからジンベエさんは普段の落ち着きを取り戻したように状況の整理をし、最近までホーディのストッパーをしていたハチさんが助言をした。出るタイミングを間違えてしまい唸っていると突然、森の奥から大きな映像電伝虫が出てきた!とチョッパーが驚く。
映像特有の砂嵐から徐々に音声が届く。大きな画面に映ったのはハンチング帽を被った魚人の姿だ。
『あーーー…ザザー…。全魚人島民、聞こえるか? おれは…、魚人街の“新魚人海賊団”船長。ホーディ・ジョーンズだ』
新魚人海賊団の船長と名乗ったホーディの演説(と、呼ぶには凶悪で不安を煽る内容だったが)に、物陰に隠れてたことを忘れさせるくらいには独りよがりなもの。ネプチューン王を酷く罵り、ネプチューン王の一族への不信感を煽るものだった。そして、画面に映し出されたのは、ネプチューン王が拘束されている姿。もう、守ってくれる王はいないと言っているも同然だ。
「……あれって、ゾロさんがやったやつじゃ…?」
誇れることではないが(むしろゾロさんがネプチューン王を縛ってなければホーディがあそこまでのさばってはいないだろうが、)まるで自分が討ち取ったと言わんばかりなのは腹立たしい。わたし達が暴れた後でもしらほし姫を心配して何処までも追いかけて殺してやると言ったネプチューン王は、確かに強かったのに!
『旧リュウグウ王国との決別の時だ。ーーー3時間後、ギョンコルド広場にて。
この無能な王の首を切り落とす!!』
固唾を飲む音が、何処からか聞こえた。さっきのジンベエさんの話通りなら、きっとホーディはネプチューン王の首を刎ねるのだろう。そんな事10年間も閉じ込められていたしらほし姫にはあまりにも酷だ。
ホーディは更に王城にあった署名箱と、オトヒメ王妃が命懸けで手に入れた“天竜人の書状”にまで手をつけた。リュウグウ王国にとって必要な二つ。オトヒメ王妃が一生懸命に残した遺産だ。グラグラと腹の底で怒りが煮え立つのを感じる。
『ーーそして最後に、海賊“麦わらの一味”!!
これを見ろ!』
映像の向こうから呼ばれた声に、ふと我に帰った。自然と目線を上げると、ゾロさん、ウソップさん、ブルックさんがなにやら窮屈そうな檻の中に閉じ込められていた。
これには一味全員びっくりだ。
『この部屋も国王の処刑が終わる頃には水でいっぱいになる…。下等な生物、人間どもはこれだけで死ぬんだよなァ…!?』
「……ッ…」
『懸賞金4億ベリー“麦わらのルフィ”!!
お前の首は地上の人間達への見せしめにちょうどいい!!ーーさァ!旧リュウグウ王国の大掃除を始めるぞ!!』
『3時間後、この国はプライドある魚人島に生まれ変わる!!!』
*
遠くから、泣き叫ぶように呼ばれるシンボルマークに胸が痛くなる。作戦とは言えしらほし姫とジンベエさんに怪我がなければいいのに。
「オイ!ぼーっとしてんなよ、そろそろだ」
「っ、はい」
フランキーさんの声と足元からやってくる浮遊感がもう直ぐ着地だと告げる。ウソップさんとチョッパーさん達はコーラ樽の準備が出来たようで衝撃に備えている。わたしもロープをキツく握り広場から聞こえる叫び声に耐えるように奥歯を噛んだ。
「大丈夫だ、ほら」
後ろから聞こえた優しい声はサンジさんだった。その瞬間、悲鳴に似た声は希望を呼ぶ歓声に変わった。サンジさんを見ると言ったろ、と短く笑っていた。胸の奥から溢れそうな不安がじわじわと解けていくようだ。
「“ガオン砲”発射!!!!」
フランキーさんの合図と同時にけたたましい轟音と衝撃が襲う。すぐに落下の浮遊感と地震のような揺れ。やっと地面だ。サニー号から降りればルフィが静かに怒っている。
舞台となるギョンコルド広場の周りには魚人島の住人全員いるんじゃないかと言うほど広場の周りを囲っていた。その人々が一斉にルフィとわたし達に希望を探し、好き勝手にわたし達に言葉を投げかけた。
「お前らは本当にこの島を滅ぼす気なのか!?」「なぜ竜宮城を占拠した!!」「人魚達を誘拐したのはお前らなのか!?」
「答えてくれ!お前達は魚人島の敵なのか!!味方なのか!!?」
「敵か、味方か…?ーーそんな事、お前らが勝手に決めろ!!」
いくらこっちが妥協点を探しても策を練っても帳尻を合わせても、やっぱりルフィには通じない。大勢の敵と住民に囲まれながらも堂々と貫く後ろ姿は身の丈以上に大きく感じた。
「人魚姫さんなんと麗シ〜〜〜♡
すみません、パンツ見せてもらってもよろ…」
「やめんかあ!!」
「ナミさーーん!おれがあのバカ共助けたんだよ〜惚れた!?」
「ハイハイ」
「バーーーカおれ達は自力で出口まで来てただろ」
「それはおれが助けてやったからだお前達!!」
「パッパグさんのおかげで本当に、わたし達ついた時する事なかったもんね」
「あ、アンリ〜〜〜!!」
「アンリちゃんから離れろヒトデマン!」
「そういえば、さっき王様を助けたくじらさんはなあに?」
「途中で見つけて船引いてもらったんだ!」
「新兵器2台あるんだ!乗りたい人〜〜!!!」
「「えーー!?新兵器〜!?」」
敵さんが何か仰々しく言っていたけど、この喧騒で全然耳に入ってこなかった上にわたし以外誰も反応してない。聞き返すのも違うし、とりあえず心の中で手を合わせる。ごめんなさい。
「よわほしの奴ここにいたら危ねェぞ」
「捕まった事自体計画外じゃ、1人で逃すのもな…」
「タイミング逃しちゃったね」
計画にない事だったけど、しらほし姫がルフィを呼んでくれた事で魚人島の人たちに一体感が生まれたのもまた事実。きっとジンベエさんだけじゃ、ここまでにはならなかっただろう。
家族が痛めつけられても、怖い目に遭っても涙を流して我慢できる強さなんて、みんな持ってる訳じゃない。
ルフィもそう思ったからか、しらほし姫の呼び方が“よわむし”から“よわほし”になっていた。いや、それでも失礼なんだけど。
大きな音を立てて瓦礫から這い出たホーディは人間と仲のいいジンベエさんを嘲笑い、世界中の人間を奴隷にすると言う。誰も魚人に逆らわなくなる世界で、なんと海賊王になると宣った。ホーディの好戦的な感情を煽るセリフに、わたし達の前に足し塞がった兵士が雄叫びを上げる。相手は総勢10万の兵に対して、こちらは僅か11人の海賊だ。普通だったらこの戦力差に慄いて逃げ惑うか、戦ってあっさり敗れるだろう。“普通”なら。
「一人頭、1万人って所か…」
「数いりゃいいってもんじゃねェだろ、海軍の精鋭じゃあるまいし」
サンジさんとゾロさんが今にも飛び出してきそうな敵を睨み警戒している。ゾロさんのいう通り数がいても統率が取れてなければ烏合の衆も同然だ。叩くなら早い方がいい。
フランキーさんは新しい兵器を起動させ、ナミ達はそこに乗り込んだ。
拳に力を入れて、わたしも目の前の敵へ気持ちを切り替える。11人対10万人のこの境地に立たされても、この人たちの為に戦える事の嬉しさの方が勝ってしまう。
ーーーそんな中、ルフィは街を歩くような無防備さで敵大勢へたった1人で向かっていった。
ルフィが一つ睨むと敵は呆気なくバタバタと倒れてしまい、立っているの半分だけ。
下っ端の魚人や人間の海賊からしてみれば何もしてないのにどうして味方が倒れたのかも分からないだろう。後ろ姿だけであんな気迫だったのに、常人が前にいたらそりゃ泡吹いて倒れちゃうよね。
「これは、…覇気!?」
「たった2年でここまで…!!」
「すごい、ルフィ様…!!!」
「“覇王色”やっぱ素質あったかあの野郎」
「これくらいやってもらわねェと船長は交代だ」
ロビンさんやジンベエさんは驚いていたけど、サンジさんとゾロさんはカラカラ笑いながら嬉しそうに船長の後ろ姿を見ていた。わたしもなんだか嬉しくなった。蛇姫様も“覇王色の覇気”使いとは聞いていたが、2年間で見る機会はなかった。もしかしたらルフィも、とは思っていたがまさかこんな形で見られるとは思っておらずなんだか嬉しい。
「ホーディ、っつったな。お前はおれがぶっ飛ばさなきゃなァ」
「!」
ルフィの放つ雰囲気が変わり、ホーディは少し後退る。
「お前がどんな王になろうと勝手だけどな。
ーー“海賊”の王者は1人で充分だ!!」
飛び上がったルフィの腕は風船のように膨らみ立っていた残りの敵に大砲のようなパンチを繰り出した。それを合図にみんなに気合が入る。
「よし行こうか」
「降参が先か、全滅が先か…」
「壊させやしねェぜ、マーメイド天国」
「この国には重要な世界の歴史が眠ってる」
「熱いですね〜ライブ日和!!」
「わたしもみんなに負けないように頑張らなきゃ!」
「さァ!サニー号“ソルジャードック”新兵器!!!!」
「ワクワクしてきた!」
「お披露目だァ〜〜〜〜〜!!!!!」
さぁ、狼煙はあがった。
心の準備は出来たか、不届き者。