新世界編
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助けた亀に連れられて〜、なんて歌詞もあったが、まさかサメと王さまに連れられて竜宮城に来ることになるなんて想像もしていなかった。ざらつくサメ肌を撫でながらそう思ったのは数十分前。
今わたし達は何故か囚われそうになっています。
色々割愛したせいで分からなくなったのかな?と思ったそこの人、朗報です。時系列順に追っても分かりません。突然竜宮城にみんな(チョッパーとサンジさんは療養のため置いてきた)で招待されたのに…。なのでここはしっかり割愛させていただきます。
「取り押さえんかァ!! たった4人の人間だぞ!」
「ウソップちん、ブルックちん、ナミちん、アンリちん!これ以上逆らったら本当に罪になっちゃうよ!」
側でケイミーが叫びパッパグさんが困惑している。しかし、わたしもみんなも毅然と振る舞い拳を握った。
「あー、ごめんねケイミー。犯した罪なら言い訳もできるけど、未来の罪をどうこう言われて捕まるのは、ちょっと…」
「大人しくする理由がありませんからね」
「逆らわねェと捕まるだけだ!」
ブルックさんは仕込み剣を抜くと、取り押さえようとしていた兵士達が怯んだ。優しい人ほど怒ると怖い。ブルックさんが怒ってるところをあまり見たことないが、いつもニコニコ愉快に歌っているだけのガイコツさんじゃないのは兵士達にも明白だろう。ナミもウソップさんもやられる前にやる、の姿勢で武器を構えた。わたしもそろそろ武装色を足に纏わせ戦闘大勢。
向こう側の下がった士気を盛り返したのは大臣のようなナマズ髭のお爺さんだった。
「怯むなお前達! 見ろ!これこそが予知された未来の序章だ!必ず仕留めよ、この国を守るのだ!!」
「よく言うぜ! お前らが仕掛けてこなきゃおれたちが暴れることもなかったろッ」
「楽しみにしてたのに、竜宮城のお酒」
「あはは、そこなんだ…」
残念がるナミに呆れ笑った。2年前のわたしならきっとこんな余裕もなかっただろう。
ウソップさんが新兵器を取り出した所でこの城の王さま・ネプチューン王が腰を上げた。じゃもん、とゆるい語尾が地方のゆるキャラみたいで可愛いと思ったのは最初だけで、この人は多くの兵をまとめ上げ島民からも愛され慕われている。強く優しい王なのだろうと予想がついた。ーーしかし、申し訳ないが誰だって未来予知なんかで捕まりたくはない。
三叉槍が鋭くわたし達へ向かってくる。その気迫にブルックさんが唸りを上げた。確かに、この人相手は骨が折れそうだ、と思った一瞬。三叉槍とわたし達の間に影が走った。
ガキン!と強い金属のぶつかる音が鼓膜を震わせる。
「「ゾロ(さん)!?」」
「お前先に着いて牢獄にいたんじゃ…!?」
「ーー祭囃子が聞こえたんで…、出て来た!!!」
ニヤりと笑う姿はまるで血に飢えた獣のよう。いや、下手するともっと恐ろしいかもしれない。なんせゾロさんの参戦で事態は一変したのだ。本当に、唐突な絵描き歌よりもあっという間に、兵士騎士大臣王さまに至るまで縄や鎖で縛り上げてしまった。て、手際が良すぎる。
これじゃあ本当に凶悪犯だ。
「あ〜〜〜ぁ…、ゾロさんやっちゃった」
「いくらなんでもやり過ぎだ!」
「そうですよ!反省してください!」
「おめェらが始めた戦いだろうがよ!共犯だバカ野郎!」
「おれ達ァ威嚇して逃げるつもりだったんだよ!!」
「ただ平和にショッピングと観光を楽しんでたのに…」
ボコボコにされた挙句簀巻きにされた兵士達の呻き声がそこら中から聞こえる。恨めしい眼差しも、ビシバシと突き刺さる。
「やっちまったモンはしょうがねェじゃねェか!!ガタガタ言うな!」
「しょうがねェで済むか!!魚人島に立ち寄って、うっかり竜宮城を“占拠”って!!どんな極悪海賊だよ!」
「じゃあやられればよかったのか!?」
「頃合いで逃げようって何度も言ったろ!?」
「逃げ方が分からねェ上にルフィがいねェじゃねぇか!!」
「ハッ、そうだルフィいない!!」
「そーーいえば結構序盤でいないですねェ、ルフィさん」
あの自由奔放に服を着て笑ってるような人だ。ゾロさんとは違う意味で気が付いたらいない。ぱっとゾロさんを見ると何故か眉を顰められぽこっと頭を叩かれた。
「な、なんで!?」
「お前今シツレーな事考えたろ」
「野生のカンで人殴るのやめませんか…!?」
そりゃあの筋肉で殴られたのにあんまり痛くないってことは手加減してくれたんだろうけど、理由がカンってのは横暴じゃないだろうか…?
いや、まあ失礼なこと考えなかったって言えば嘘になるんだけどさ。
ナミがさっと膝を着き、縛られ口を閉ざす兵士にそっと近寄る。そうだ、今はルフィの行方が優先だ。
「私たち、本当に急いでるの!だから意地悪しないで教えて…」
「そう、ルフィの居場所を」
「宝物庫はどこ?」「やめんかァ!!!」
それこそ頭を叩く勢いでウソップさんのツッコミが炸裂した。純粋なフリをして戯れるナミとウソップさんが面白くて普通に笑った。
やっぱり麦わらの一味はどんな状況でも騒がしい。これは2年経っても変わらなかったようだ。歌うブルックさんにマイペースに横暴なゾロさん、ナミの目はベリーになってて、ウソップさんが纏めようと必死なツッコミをしている。竜宮城占拠の立てこもり犯なのに、なんだかおかしくって笑ってしまった。
「コラ、アンリ。笑ってる場合じゃないでしょ!」
「ふふ、ヘイ姉御」
「とにかく、もう魚人島には居られないわねェ…」
「みんなもう出て行くの〜……?」
「ごめんね、ケイミー」
「サニー号はどこにある?全員集めてすぐ出発だ」
「でもサニー号はこの島に突入した時コーティング取れちまったぞ?」
「それに記録指針もずっと様子がおかしいの!島についてから全く収まる気配がなくて…」
なんだか出発するにも前途多難って感じだ。
そんな時、ふとインターホンのような高い機械音がした。え、
海底の城にしては大分現代っぽい作りに戸惑い、思考回路が止まったわたしとは違い、誰よりも早く動いたのはゾロさんは我が物顔で電伝虫の受話器を上げる。
うっすら聞こえたのは、落ち着いて丁寧な声色だ。周りの兵士達がフカボシ王子〜!!と呼ぶ。どうやら、あの人魚の入江にやってきた王子のようだ。
『今すぐに連絡廊を降ろし、総門と王宮の御門を開けてください!』
「…開けたらどうなる? そいつは出来ねェ」
「おーーい!お前、何言ってんだよーー!!
正直にワケを話せ〜〜!」
「でもウソップさん、話した所でやっちゃったことは消えませんし。それに王子さまって人魚の入江までわたし達を探しにきた人でしょ?」
「ギャーーー!!そうだった〜〜!!」
「そうだお前らっ、いっそおれとケイミーも縛ってくれ!共犯になっちまう!!」
「ゾロちん怖いよ〜〜〜!」
ケイミー達を怖がらせるのは本意じゃない。確かにゾロさんの所業は恐ろしいが、わたし達からすれば当然なのだ。
今まで動かなかったネプチューン王がもぞもぞと動き、電伝虫の向こう側にいるフカボシ王子にこの悲惨な状況を伝えた。
「フカボシ!そやつは麦わらの一味の三刀流の剣士!懸賞金1億2千万ベリーの“海賊狩りのゾリ”じゃ!!」
「ゾロだよ!!!!」
『父上!!』
「……聞こえたろう、ネプチューンを含めこっちには大量の人質がいる。こいつらの命が惜しけりゃアそっちでおれ達の出発準備を整えろ!」
悪辣極まりない言い回しに、本当に極悪海賊団になった気分だ。まさか“命が惜しけりゃ”なんてテンプレ過ぎる悪者のセリフを仲間から聞くとは思ってなかったよ。
ゾロさんはこちらを一瞥しフカボシ王子に要求する。
「必要なものは、コーティングしたうちの海賊船、サニー号。後は残りの船員、暗黒女一人、ロボット一台、タヌキ一匹、エロガッパ一匹だ」
「エ、エロガッパ…って……!!!ヨホホ、私それツボ!!」
「にこにこ美人な黒髪のおねーさんと、小さい親切なトナカイさんと、金髪でスラっとしたカッコいい人です!!もしかしたら鼻血流してるかも知れないから、特徴としてはそこも重要かも…」
「長い。あとウザい」
「いやフランキーのロボに対してもなんか言ってやれよ」
「あ!ゾロ、お金は10億ベリー…」
「やめろてめェクラァア!!」
わたしの抗議には目もくれず、ゾロさんはめんどくさそうに明後日の方向を向いた。ウザいってなんだ!こっち見ろ三刀流!
側から見ればカオスな状況なんだろうが、サニー号に乗っていれば必然的にこうなる。ギャーギャー騒がしいのに、それでも交渉は上手くいったようで、フカボシ王子は条件を飲んだらしい。
『一ついいか、ゾロくん…。』
「んァ?」
『こんな状況でコレを伝えるのは不本意だがジンベエへの義理を欠くにはいかない。
“元王下七武海、海侠のジンベエ”より“麦わらのルフィ”へ。君らがこの島に到着したら伝えてほしいと…。伝言を二つ預かっている』
真摯な声が、電伝虫から聞こえた。
ジンベエ、の名前に人質もざわつき始めた。ルフィがジンベエさんと友達だと知っているウソップさんはわたしの方を見た。一つ頷けば、それを見ていたゾロさんはまた静かに口を開く。
「……ならルフィは今ここにいねェが、おれ達から伝える。言え」
『一つ目は“ホーディと戦うな”。
ーーもう一つ!“海の森で待つ”!!!』
ホーディ、とは人だろうか?それとも組織名?海の森って…?? あまり上手に飲み込めない二つの伝言は、それでもしっかり胸に留め置いた。
数十分後、大きく響く音と共に城が揺れた。
わたし達よりも先に激しく動揺したのは、人質と、なによりネプチューン王だった。
「ーーまさか、デッケンの槍か!?
硬殻塔の方じゃもん!!しらほしが危ない!
衛兵はついておるのか?!」
「いえ、全員こちらで捕まっております!」
「ぐぬぬ…おい海賊達!!兵に代わって姫の安全を確かめてこいっ!!」
「あァ?なんの話だ?」
王と兵の間で何やら騒がしくなってきた。曰く、この国のお姫様が危ないらしい。ゾロさんは断固拒否するが、ものすごい剣幕で鎖を引きちぎらんばかり必死に唇を噛み締め眉を顰めるネプチューン王に、いつしかの龍神さまの影を見た。
「しらほしはわしの一人娘じゃもん!訳あって常時命を狙われとる!この機に娘に何かあったらおぬしら!!海溝の果てまで追い立てるぞ!!」
どれだけ見た目や立場が違っても娘を想っている父親の姿が瞼に焼き付いて離れないあの人に似ているのだろう。
ブルックさんが真っ先に“人魚姫”の単語にはしゃいで走って行ってしまった。お偉い騎士さんを背負って。
「…うん、わたしもちょっと見てくる!」
「アンリ気をつけてね!」
「ついでにルフィも探してくるねっ」
ナミとウソップさんに手を振って、ブルックさんを追いかけた。海底特有の薄暗い廊下を過ぎると渡り廊下のような吹き抜けた道につながっていた。もうそろそろネプチューン王が言っていた“硬殻塔”なのだろう。
閑静な廊下に雑音がフェードインした。攻撃を受けたのか少し壁が崩れている塔が見えてきて、その元に黒いアフロが見える。あのシルエット、どう考えてもブルックさんだろう。手を振って声をかけようとしたところで思いとどまった。よーく目を凝らすと、人間がいたのだ。
この竜宮城に、わたしたち以外の人が。見れば見るほど可笑しな人達は、格好から察するに海賊で、その中にはとんでもなくボロボロの重傷者までいた。嫌な予感がして物陰に隠れ状況を見ていると、何人かが立ち上がり剣を取った。
もう戦意すらない眼で。
「これはマズい…!! この侵入不可能な硬殻塔に、まさか敵兵を送り込んだという訳か!! これは、奇襲だ……!王が危ない!」
聞こえたのは、ブルックさんが抱えている騎士さんの不安に満ちた叫びと、目の前の硬殻塔のデカい扉がサクッと気軽に開く音だった。
「行けェ!サメ〜〜!!
“海の森”まで〜〜〜〜〜〜!!!」
「……!??メガロ!?」
「あれ!? ルフィさん!??」
「エッルフィいたの!!?」
隠れていたはずなのに思わず出ていってしまって、驚愕。フグのように膨れたサメのメガロさんの上で意気揚々とはしゃぐ我らが船長。そしてさらに驚愕なのはその船長と目が合い、にん、と口角を上げられたことだ。
ああ、背筋を這うような嫌な予感ってのは、この事だったらしい。
「にひっ、アンリみっけ。丁度いいからお前もこいよ!」
「ヒッ!? い〜〜〜や〜〜!!!!」
ぐぐっと伸びた手は、わたしの腕を引っ掴んでルフィの意のままに縮んだ。ルフィを包んでいた同じシャボンの中に入れられた後、メガロさんは嗚咽を漏らしながら尾鰭を動かした。
あんなに大きかった硬殻塔はいつのまにか小さくなる。手を伸ばすだけ無駄だった。
「いくぞっ散歩〜〜〜〜〜〜!!!」
*
「……えーーーっと。つまり、ルフィが迷い込んだ硬殻塔に一人寂しそうにいたのがしらほし姫で、しらほし姫は誰かに命を狙われてるからお外に出られなかったけどルフィが守ってくれるからお外に出た、と??」
「おぅ!」
「うう、すみません〜〜…!!」
「ああっ、別に怒ってないから泣かないでください!」
水中を出て、浮き輪付きのメガロさんは空を泳ぐ。けれど彼はまだフグみたいにパンッパンになっており時々漏らす嗚咽は本当にかわいそう。だがその原因、というかパンッパンになっている理由がなんとこの国のお姫様、人魚姫のしらほしさまが入っているかららしい。
(ルフィはフランクに紹介してきたが)という事は、今頃硬殻塔の中はもぬけの殻。ブルックさんと騎士さんがそのことを伝えれば、ただでさえパニックの王城にさらに激震が走ることだろう。
ふう、と深く息を吐き胡座をかいて、かの有名小坊主さんのように両顳顬に人差し指を立てて目を閉じた。
「何やってんだ?」
「…ちょっっとパンクしそうだから情報整理」
「そっか〜」
情報過多にも程がある。小さな皮肉のような言葉だったがルフィは分かってなさそうに相槌を打つ。うんうん、よし、何事も整理すればわたしのやるべき事が見えるはずだ。そうに違いない。
えーっと、ゾロさん達は竜宮城で王様達縛って立て篭もり中(ナミ、ウソップさん、ブルックさん、ケイミー、パッパグさんが一緒)。
その王城がわたし達以外の何者かに襲撃を受けていた。これはまあゾロさん達がいればなんとかなるだろう。
あとはフランキーさんはサニー号を見つけに、ロビンさんは探検に。サンジさんとチョッパーは、まだシャーリーさんのところにいるのかな?
なんにせよ、この二人がここにいる事はわたししか知らない。
「……(とにかく、王さま達を拘束した挙句竜宮城に立て籠って王子さま達を脅したって事、お姫さまには言わない方がいいかも)」
「それよりよ、もうサメから出ていいんじゃねェか?」
「い、いえ……、わたくし、まだこの中の方が…」
「オゥエッフ…!?」
メガロさんは脂汗を浮かばせて、また一つ嗚咽を吐く。いや、もういっそのことぶち撒けたいだろうに、ご主人さまを丁寧に運ぶ姿に感銘を受けた。王さまに訴えれば名誉賞とか貰えるヤツだよ。
「どうだ?10年ぶりの外!」
「……ドキドキ、します。わたくし、とても悪いことを…」
「悪ィワケねェだろ、外出るだけでよー。変なヤツだな、おまえ」
「ちょっとルフィ、」
「……このような事を、“冒険”というのでしょうか?」
「あははは、うん…。ドキドキすんならそりゃ冒険だな、アンリ」
突然振られた話に、ドキッとする。なんだかんだしらほし姫の境遇や言動を理解してしている事を見破られた気がしたから。
わたしも昔は外に出る事は危なくて、悪い事だと言いつけられていた。けれど、いつの間にか乗っていた船の上は心地よくて楽しくて、足の裏で触れた土の感触に感動した。
あれも、“冒険”と呼べるのなら、きっと今の状況も彼女にとっては“大冒険”なのだろう。こくんと、頷けばしらほし姫はルフィ様のお友達はお優しい方なんですね、と誰よりも優しく柔らかい声で言った。
「そういえば、“海の森”っつったか? なんだそれ?面白ェモンか??」
「ーー“海の森”は、お墓です! 建ってからまだ一度も訪れてないお墓があるのです…。10年間ずっと行きたかった場所です……」
「“海の森”…………????」
真新しく聞き覚えのある言葉に首を傾けた。なんせ本当についさっき聞いたのだ。
「あの、ルフィ。もしかしたらその“海の森”、ジンベエさんがいるかも」
「なに!?本当か!??」
「う、うん、ジンベエさんからの伝言だって。
でもお墓だとは聞いてなかったから、もしかしたら違う場所なのかもしれないけど…」
前世では至って普通のことだ。名前が同じ場所が3つも4つもあるとか、そのせいで別の場所に集合しちゃって不便だとか。ヒドい時は目的地にたどり着けずにゾロさんみたいにぐるぐる迷子になっちゃうとか。
しかしまあ、今の目的はしらほし姫のお散歩を完遂すること。どの道お墓の“海の森”には行くのだ。ジンベエさんに会えたら御の字くらいのスタンスでいこう。
暫く空を泳いだ所でなにやら海岸の辺りが騒がしい気がした。下を覗き込めば、誰かが魚人達に海岸の隅に追いやられている。段々近づく度、それは“誰か”から明確なある人に変わった。サンジさんとチョッパーだ。もうすっかり立ち上がって元気に島民を睨みつけるサンジさんを見て、ほっと胸を撫で下ろした。と、同時にそわそわが襲いかかる。
「……ね、ねえ、ルフィ。わたし、汗臭くないかな? さっきちょっと運動しちゃって」
「ン?別にクサくねェぞ??」
「ならよかったぁ」
「????」
別に何が、と言う訳じゃないがエチケットというのは大事だろう。無駄話をしていると、サンジさんが気が付いたように大きく手を振る。飛び跳ねてハートを撒き散らす姿を見ると、本当に回復したのだろう。ルフィも二人に気付いたようで大声で呼びかけた。
「ルフィ様とアンリ様のお友達ですか?」
「海賊の仲間だ」
カラッと返事をしたルフィはメガロさんから一人飛び降りた。わたしも習うように飛び降り、二人に向かって笑顔で手を振る。ルフィは一目散に二人の後ろで倒れていたある人物に向かっていく。周りの島民に違和感を覚えるが、一先ず合流できたことに胸を撫で下ろした。
「んアンリちゅわ〜〜ん!!会いたかったよ〜♡♡」
「周りの人達が騒がしいけど、何かトラブルでもあったの?」
「…ああ、ここで人攫いがあったんだと。おれ達が人魚を攫ったとか言いがかりをつけられててな」
メロリンから一気に真面目な表情に戻るサンジさんは、ちゃんと体調が戻ったらしい。一時はどうなることかと思ったが、本当によかった--しかし、“今の状況で“その誤解はちょっと不味いかもしれない。
それに加え後ろで倒れているのはハチさんだった。チョッパーが見てくれてるから安心だけれど、あんなになるまで一体何があったのか…。
「アンリちゃん、難しい顔してるけど何かあったのかい? ウソップやケイミーちゃん達が見当たんねェが、関係ある?」
心配そうにこちらを覗き込んでくるサンジさんに、思わずときめいてしまう。うん、一人で抱え込むの良くないよね。サンジさんなら頭良いし、何か思いつくかもしれない!
「あのね、実は…」
わたしが言い終わる前に、周りにいた島民の騒がしさがどっと大きくなった。
振り返ると、我慢が限界突破したメガロさんが、涙目になって口のものーーつまりはお忍び観光中だったしらほし姫を吐き出してしまった衝撃映像が視界に飛び込んできた。
「「「し、しらほし姫〜〜〜!??」」」
「……あっちゃ〜〜…」
「あーあー」
「でっけーーー!!ひ、姫ってまさか、!
ダメだサンジ!!絶対に振り返っちゃダメだぞ!?」
「ン?どうした??」
一人だけ置いてけぼりのサンジさん以外、目線の先には大きく煌びやかな人魚姫が陽樹イブの日差しの元に晒された。
「「「人魚姫誘拐事件だ〜〜!!!!」」」
麦わらの一味に新たな余罪が追加された瞬間である。まあ見られてしまったらしょうがない。目下の問題はサンジさんの容体だ。せっかく(珍しい血液型を)輸血してもらって元気になったのに、また大量の血を見ることになるかもしれないのだ。
状況が飲み込めないサンジさんも、周りの言葉から“後ろに何があるのか”をだんだん理解していく。チョッパーとわたしが慌てている間に、目の前の表情が困惑から覚悟に変わっていく。あ、これはダメだ。
「ひめ、姫ってまさか…!?」
「サンジさん!!!!」
咄嗟に強く名前を呼ぶと無意識に視線をわたしに向ける。なんのプランもないけど、サンジさんを食い止める方法はこれしかなかった。
なんだか自分が計算高い女になったみたいで嫌だけれど、これも人命救助。そう心の中で何度も唱えて、少し上にある彼の両頬を掴んだ。
ぐっと引き寄せると鼻先がくっつきそうな程近くなる。
「……わたしだけを、見てて」
あなたの命の為に、より見慣れたわたしで我慢して、という意味だったが彼にはどう聞こえたのか。自分でしでかしたことなのにいつもより強く感じるタバコの香りに、熱を帯びる頬に、心臓が沸騰しそうなほど熱い。
目線の先が硬直して10秒も満たないタイミングで、サンジさんは煙草を吸わずとも口から煙を吐いた。
「あ、あ、あ、あ、ばばばばばは…!!」
「うわぁぁ〜〜〜!!サンジーー!」
どうやら可笑しくなりそうだったのはわたしだけではなかったようだ。目の前にあった小さな海色は瞳孔が開いて激しく動き、和太鼓でも叩いてるのかってくらい大きな鼓動はこちらまで聴こえる。身体を小刻みに震わし、最終的にはロボットのような煙を吐いて、そのまま気絶してしまった。
チョッパーは涙ながらにサンジさんに駆け寄り目をハートにしたまま失神してるサンジさんを見るやいなや「心配させんな!」と殴っていた。もちろんわたしもお叱りをいただいた。
「サンジに急な負荷をかけんなァ!!」
「で、でもほら、血が出てないから万事解決、みたいな…?」
「問題増えてるじゃねェか!!つーかなんだコレどうなってんだ?!」
「固まってるねェ…」
オカマの血を入れたからかな…?と初めて見るサンジさんの症例におっかびっくりの様子のチョッパー。反省している、ように見せてサンジさんさっきの事忘れてないかなぁと淡く期待してみる。
側ではハチさんを心配するルフィと、ルフィにどやされて泣いちゃったしらほし姫。
そして、しらほし姫を守ろうと結託した島民達はわたし達“極悪海賊”を捕らえたのだった。
なんの因果かさっき王様や兵士達を捕らえた方法と同じく、簀巻きである。抵抗する間も無く、というよりかは一般人ということでブレーキがかかった。正直に言えばこんな拘束何とでもなる。ええなんと、この状態でも入れる保険があるんです。全て女ヶ島に帰結するのだが、これも例外ではない。
というより結構デカめの思い出話になる。
あれはわたしが手ではなく背中から翼を生やせないかとマリーゴールドさま達に相談した時。本来、動物系悪魔の実能力者には人型と獣型と、その中間である獣人型がある。マリーゴールドさまとサンダーソニアさまは獣型が得意とする。まぁ、ハンコックさまがお強い為に獣人型を必要としないのだろう。
だがわたしのモデルハーピィは獣型がない。
これについては、そもそもハーピィ自体獣人の部類に入るからだろう。故に獣人型になれば両腕は翼になり、両足は鳥のような鋭い爪とざらりとした皮膚になる。
それが!!全くもって可愛くないのだ!!!
マリーゴールドさま達は??と頭の上に浮かべていたが、ハンコックさまは深く納得していた。だが同時に、地獄はそこから始まった。
わたしの我儘からスタートした地獄の内容は至ってシンプル。両腕だけをハンコックさま自ら石化させ、足だけ使って屈強な九蛇海賊団を全員倒せ、という修行。という名のボコリ大会だった。お陰で背中から翼が出せるようになったし、足技も上手くなった(そして打たれ強くなった)。
遠い目で思い出した記憶は、ちょっぴり鉄の味がした。しかし、ハードな思い出はこの状態にゆとりを持たせることとなる。本ンン当に、わたしも逞しくなったものだ…。
けれど重傷のハチさんまでふん縛って目の敵にするなんて。
「お前のことも思い出したぞ!昔、アーロンと連んでたゴロツキだな」
「あの、違うのです皆様…。ルフィ様やアンリ様はわたくしを…」
「もう大丈夫ですよ姫様!!こいつら全員打首に…」
「いやいや、大事なしらほし姫が話してるんですから…」
「ん? おいお前ら、あっちから何か飛んでくるぞ!」
ルフィがそう言っても島民は信じず、ギャースカ騒いでいるだけ。いっその事、と思った時一人の島民が明後日の方向を指差した。
「お、おいあれ!本当に何か飛んで来るぞ!」
「えっ!?あ、あれは…まさかーーバンダー・デッケン!?」
飛んでるのは大きな珊瑚礁。その上に、脚が多い魚人が乗っていた。バンダー・デッケンって、確かオバケ?だったよね? 道すがら出会った大きな海坊主も確かその名前を呼んでたはず。聞こえてくる高らかな笑い声は、どこか下品さがあった。バンダー・デッケンを見たしらほし姫は震えている。もしかして、コイツがしらほし姫の命を狙ってるのか?
「やぁあっと見ィつけたぞしらほしィ〜〜!!! さァ答えろしらほし!YESならば“死”を免れる!!
ーーこのおれと!結・婚・しろォ〜〜!!!」
「何度も命を狙った男が性懲りも無く求婚だと!?」
「サイッテー……」
こんな求婚、告白があってたまるものか。告白っていうのは、もっと素敵でロマンチックじゃないと。好きな人からじゃなくても、それくらいは常識だ。それにこんなか弱い女の子相手にYESか死かだなんて!!
沸々と煮えたぎる怒りに俯いていると、しらほし姫はか細く柔らかな声を必死に張り上げてた。
「………タイプじゃ、ないんですっ…!」
「「そういう問題ィ〜〜〜!!?」」
「ーーーよく言った!」
バンダー・デッケンは大きなショックにのけ反った後、怒りを露わにし大きな手斧を握った。
「おれを想わぬお前など生きてるだけで目障りだ!! 死ねしらほしィ〜〜〜!!!」
「お逃げくださいしらほし姫!」
「……っ…!」
「逃げるなそこにいろ弱虫ィ!」
自分に靡かない女は死ね、だと?いくら10数年片思いを拗らせたからといって、そんなことまかり通るわけない。自分の器の小ささが問題だろうに。けれど、わたし達は縛られてる状態だし、手斧を投げるほうが早いか…!?
「お前何言ってんだ! さてはデッケンの手下だな!?姫に死ねと言うのか!」
「遠くへ行かれたら守れなくなる!!」
「……にひ。そうだよね、ルフィ」
わたしは何を躊躇してたんだろう。ルフィ達がいるなら、多少の無茶は大丈夫。
一つ深呼吸をして、集中。“この技”は神経擦り減るから、特に一般人には使いたくないんだけど仕方ない。
目の前がチカチカしてきたのを合図に風が舞う。
「お、おいアンリ頭から羽生えてるぞ!?」
「あのねーちゃん光ってねェか!?」
「おおおおすっげ〜〜〜!! 鳥人間かよ〜かっこいい〜〜〜!!!!」
「ルフィ、チョッパー、目をつむってて…」
髪が羽のようにぶわりと広がる。チカチカ、ぴかぴか視界がうるさい。眩い光達を一喝するように、小さくつぶやく。
「ーー明けの明星」
(煌々と、ひかる)