新世界編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
長く艶やかな黒い髪。真白の柔肌。
深海の宝石を詰め込んだような青く輝くの瞳。
出会った頃に比べるとぷっくりとしてきた頬に、小さくて桃色に染められた唇。桜貝のような耳は黒髪からちらりと覗くと赤く染まっていることが多い。手脚はまるで精巧な人形みてェに細くて頼りない。
彼女を構成するぜんぶが愛おしくて、おれの胸を毎秒高鳴らせる。
神秘的で可愛らしく、庇護欲そそるか弱いレディ。誰に対しても優しくて、人とのコミュニケーションに慣れていないからかおれがいつもの調子で愛を囁くと、すぐに顔を真っ赤にしてとびっきり可愛い反応をくれる。
それが2年前のアンリちゃんの印象だ。
地獄での血と汗が滲む修行の間、おれの頭の中でずっと励ましてくれたのはアンリちゃんだった。網膜に焼き付いて離れないアンリちゃんの笑顔や照れ顔。そして鼓膜にずっと記憶されて響き続いてるおれの名前を呼ぶ声。
最後に見たあの子の泣きそうに眉を歪ませて叫ぶ声まで、きっちり覚えている。
だからこそ、今度はそんな表情をさせない程強くなってアンリちゃんを守るんだ。
地獄で見た、あの燃えるような夕陽に誓った。
ひと目で、君だと分かった。
長く艶やかな黒髪は、ふわふわの綿菓子みたいな白銀の髪へ。深海の青から変わっても、おれを惹き付けて離さない青空を閉じ込めたような透き通る瞳。透き通る肌に、しなやかに伸びる手脚。
二年間不自由なく健康的に過ごせた証拠のように、見違える程肉付きがよくなった。
相違点はたくさんあるが、おれはひと目で分かった。目の前の天使はアンリちゃんだ。
なんたって、“あの時”シャボンティ諸島で離れ離れになった時と同じ表情をしていたから。
予想もしていなかった再会に、一瞬おれの中の時が止まった。ハクハクと必死に藻掻く金魚のように口を開いて閉じることしかできない。
どうしてかその場を離れようとする彼女の手を咄嗟に掴み、やっとの思いで愛おしい名前を口にする。頭では人違いかもしれねェなんて弱音が過ったが、己の鳴り止まない心臓に確信を持った。
もう一度念押しするように名前を呼べば、遠慮がちに一つ頷きやっとこちらに向き直した。
——ああ、やっと会えた。
その感情に囚われて、衝動的に彼女を腕の中に閉じ込めた。そこで初めて彼女の背が高くなっていることに気がつく。
成長を実感して同時に、彼女が体験した陰惨な戦争を思い出し抱きしめた腕に力が入った。
「…大変、だったね。マリンフォードでの件、聞いたよ。手配書も。驚きすぎて心臓が止まるかと思った」
アンリちゃんはなにも言わない。
だがおれは溢れ出た想いが、感情が、止まらずに吐き出すように喋った。
「何度もアンリちゃんが夢に出てきて、助けてって叫ぶんだ。おれはすぐに駆け寄るんだけど、毎回あと一歩のところで届かない。」
「……サンジ、さん」
「…よかった、きみが生きててくれて」
本当にそう思った。
出回ったアンリちゃんの手配書を初めて見た時、本当に心臓が一瞬止まったくらいだ。世話になったイワが見たという“突然マリンフォードに現れた謎の少女”の特徴とも一致したし(海を操っているように見えたって聞いたらウチの奴らならまず、間違いなく真っ先にアンリちゃんを思い浮かべるだろう)、写真の中の彼女はとてもボロボロで必死で。
せっかく見せてもらった手配書を握りしめた。
なにより心配だったのがあの高額な懸賞金。
ロビンちゃんと同様に、政府側がアンリちゃんの事を“知っている”からこその額だろう。
今こうして無事に再会できたのはアンリちゃんと、彼女を支えてくれた環境のおかげだろう。クソ羨ましいどこのどいつだか知らねェ奴だが、今だけは感謝してやろうと思う。
細い肩を掴むと、情けねェ程手が震えてた。
誤魔化そうとしたその時、アンリちゃんがおれの胸元に飛び込んできて、一瞬にして思考回路がトんだ。視界がホワイトアウトしそうになった。
前よりしっかりしてると言っても、おれと比べりゃ随分と細い腕でぎゅっとおれのシャツを握りしめ、すりすり愛らしく顔を埋めていく。
思考もなにも置き去りにして、心臓だけが駆けていった。駆け足の心臓は大地を揺らすぐらい大きな音を立てて、今にも爆発しそうだ。
煩ェくらい鳴り響いてる自分の鼓動にアンリちゃんも絶対気づいてるはずなのに、レディは気にも止めずにポツリと声をこぼした。
「……わた、わたしが、こうして生きてるのは、サンジさんのおかげ、だよ」
おれの心臓の方がクソ煩ェのに、やっぱりアンリちゃんの声だけは一言一句聞き逃せない。だが信じられない言葉が聞こえた。鼓膜から幸せのメロディがじんじんと染み込んでくるのに、どうしてだか理解が一瞬遅れちまった。
“わたしがこうしていきてるのはさんじさんのおかげだよ。”?????
まさか、まさかとは思うが、おれがアンリちゃんを支えていたとでも言うのか…?? も、もしそうだと仮定するなら、このおれがアンリちゃんを守れてたのか、?
あんな別れ方をしても、おれと同じように、アンリちゃんも想ってくれてたって事か???
ふつふつと煩悩が浮かび上がっては目の前でぱちぱちと弾ける。脳がクラクラして、何かに誘われてる気分だ。頭を振り、自我を取り戻せ。
「……あ、あ、の、アンリちゃん…。そろそろ、おれ…!!」
「…??」
頼りなさげに目尻を下げた視線とかち合った瞬間、つま先から頭のてっぺんまで血が昇って沸騰した。蓋をしていた下心が、溢れ出て止まらない。
天使の輪っかみたいに光り輝くふわふわの髪も、ぷっくり桃色の唇も、透き通る青空の瞳も、細い肩も、こ、この健やかに育ったたわわな胸も、ぷりんとしたお尻も、おれが……!!??
ゴクリ、何度目かの生唾を飲み込めば溢れ出たものもまた塞げるかと思ったが。
おれのキャパシティもとうとう限界が来たらしい。
「んグウへェ!!!!」
*
アレから、アンリちゃんに全ッ然会えねェ…!!
レイリーんトコで目覚ると居なくなってるし、サニー号に戻っても、島中探しても居ない。
もしかしたらあの時会ったのは幻なんじゃねェかと思ってしまうほど、アンリちゃんの面影がこの島になかった。レイリー達に念押しされたがこうもままならねェと幻覚だと言われた方が信憑性は高い。つい、探るように小電伝虫でフランキーと通話した時に“そっちにどれだけ集まってる?”なんて聞き方しちまった。おれ達が集まれば出れるって事は、アンリちゃんは無事船に着いたって事だろう。
通話後に安心して一息吐けば、マリモからの視線が痛かった。
早く、会いたい。
何だかんだあり騒動の渦中にいたルフィも回収できたし、世話ンなったレイリーにも挨拶を済ませた。スリラーバークの可愛いゴーストプリンセスとも再会出来て、とんでもなく幸先がいい。きっとこの後再びアンリちゃんと会って、想いを通わせ…!!
「ンなんて事もあるかも知れねェ〜〜♡♡」
「…マジでコイツ何の病気だ?」
「アホの病気だ、ほっとけ」
ゴーストプリンセスちゅあんがおれの心配をしてくれて、島が騒がしい理由をアホ共でも分かりやすいように説明してくれた。なんでも軍艦が現れたらしい。そりゃ、あんだけ盛大に騒げば軍艦ぐらい引っ張ってくるだろう。腐っても元海軍本部のお膝元ってワケだ。
——その時。気が付いたのは、「「え!?」」とルフィとゾロの声が、もう一つの声と重なった瞬間だった。今まで気配すらしてなかった草陰がガサガサと動き出す。
三者同様に警戒するが、現れたのは毒気を抜くような笑顔。2年前よく見た顔に一瞬動きが遅れたが、ルフィは関係なく笑顔で飛び着いた。
「エース!!来てたのかーー!?」
「ああ、アンリを送るついでにな」
「ヘェー!!ンで、アンリは??」
「それがよぉー!アイツすぐに迷子になりやがってドコにも居やしねェ!」
ったく。と機械音がする重そうな片腕で頭をガシガシと掻いているのは、少し違えど、正しくおれ達の知るルフィの兄貴、ポートガス・D・エースだった。
しかし奴は2年前の戦争で死んだ筈じゃ。
頭を過ぎった“常識”は、目の前で音を立てて崩れていく。こんな事、今上陸してる海軍が知れば世界がひっくり返る大事なんじゃ…。
いや、その前に!!!!
「…ンおれのアンリちゅあんとどういう関係だコラァ!!」
「「そこかよ!!?」」
「あひゃひゃひゃ!なっつかしいなぁこの感じ〜!!」
睨み上げるようにズンズンと迫ったが、エースは余裕のある笑みを深めおれを観察するだけだった。
全てを知ってるのか知らねェのか、ウチの船長は何にも動じず膝を叩いて笑っていやがる。
ックソ!!アラバスタでの恩やルフィの兄貴じゃなけりゃ、エースの胸ぐらを掴んで噛み付いてる所だ。
やる気はなかったが一触即発の雰囲気も、チョッパーが(可食部が多そうなデケめの)鳥で迎えに来てくれて区切りがついた。船までの移動は難なく済んだし、ありがてえ。
しかし、問題はエースも着いてきたってとこだ。折角だから最後まで見送らせてくれ、と言われれば船長が断る理由もない。…けれど、おれの頭にはさっきの会話がリピートして鳴り止まねェ。
アンリちゃんをここまで送ったって事は、この2年間の中で深い仲になってるっつー事だ。
恐らくルフィとの会話を聞く限りシャボンディまで!2人で!!し、しかもあの(おれの記憶確かなら)名実ともに天使になったアンリちゃんに対して“アイツ”とか言ってなかったか…???
「クッッソ馴れ馴れしい〜〜〜!!!!!
でもうらやましい〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
「おいルフィ、コイツ海に捨てるぞ。うるせぇし汚ねェ」
「汚ねェとはなんだ、汚ねェとは!!」
「涙と鼻水撒き散らしてる奴に汚ねェっつって何が悪いんだ鼻水コック!!」
「ンだとこの屁こき剣士!!!」
「うるさくてごめんなぁ、エース」
「面白ェ〜だろ〜〜!?」
「わっはっはっは!いーってことよ!相変わらずだなぁルフィんトコの船員は!!……にしても、おれが羨ましいか」
マリモとの喧騒で聞こえなかったが、エースは確かに海に向かってそう呟いた。
悔しそうに燻る、火花みたいな声で。
*
「ばかみたい…」
それは誰かを中傷するというより、自虐する言葉だった。キッチンのドア越しにアンリちゃんの震える声が聞こえ、おれは思わずキッチンへ足を踏み入れた。
足音に気付いたのか、細い肩を硬らせ青の瞳孔が揺れた。振り向くだけで美少女と讃えたくなる。
「サ、サンジさん! もう起きても平気なの?」
「ああすまねェ、おれが不甲斐ないせいで片付けさせちまって」
「ううん、これぐらいさせて」
「そうかい? なら、拭いてくから貸して」
テキトーな理由をつけて(気絶してアンリちゃんに片づけをさせちまった事は凄まじく申し訳ないが)、少しの間二人でいれる口実を作った。さっと袖を捲り上げ、隣に立ち布巾を片手にすればまんまるな美しい目と視線がかち合った。騒がしくなるおれの心臓を無視して、隣から聞こえたか細い声に出来るだけ穏やかに応える。少しだけ待ってくれ、これ以上おれをときめかせないで。君に聞いておかなきゃいけねェ事があるんだ。
心を落ち着かせる為にアンリちゃんを出来るだけ視界から外して食器を拭くことにだけ専念するが。隣から伝わる息遣いや体温に至るまで、この2年間を地獄で過ごしたおれにとっては緩やかに心臓を蝕む甘い毒だった。
あまり見ないように意識を集中していれば、人体の曲がるギリギリまで首を捻っていた。
「…サンジさん、それ首痛くならない?」
「わ、悪ィ…!2年間アンリちゃんのことを思ってイメージトレーニングまでしたんだがそれが仇になったみてェで、感動でまた鼻血が…!!」
「感動で鼻血が!?」
そう告げれば、アンリちゃんは驚いたように声を上げた。嘘じゃねェけど本音でもない言葉にこれだけ可愛いリアクションをもらって若干良心が痛んだ。
クソッ、恋は人を臆病にさせるって聞いたことはある、がこんな事初めてだ。
色んなことに気を取られつつ、最後の弁当箱を受け取ると、鈴を転がしたような優しい声がおれを呼んだ。
アンリちゃんが優しく甘くおれの名前を口にするのに感動して、反応が遅れる。
「ありがとう、」
「…アンリ、ちゃグハッ!!」
「あ〜〜!!サンジさんしっかりー!」
蕩けるような瞳、さがった目尻と眉、仕方なく緩む頬、嬉しさを噛み締めるように紡ぐ感謝の言葉に、おれは限界を超えた。
堪えていた心臓はとうとう暴れ出して抑えが効かず、脳みそがフル回転したおかげで鼻血がまたドバドバと出る。それもこれも全てあの地獄が原因であると帰結してしまい感謝はすれどその倍恨めしい。
床に膝をつく形で崩れていくおれを、細い腕がしっかりと抱きとめた。想像した硬い床の感触ではなく、ふにゅんっ♡と効果音でも付きそうな程(おれの脳内ではばっちり付いてた)柔らかくいい匂いがする感触が、おれを襲う。
ばちばちと火花が飛ぶ視界が捉えたのは、心配そうに表情を歪めるアンリちゃんだった。しかもとんでもなく近い。そりゃ可憐ないい匂いもするワケだ。
己の状況を理解すればするほど鼻血が溢れて止まらない。なんて勿体な、…じゃない、情けないんだ。血の出しすぎか、心なしか手が震えてきた。アンリちゃんに血がついてないか心配だが、彼女は素早くおれを寝かせて待ってて!とキッチンから飛び出そうとした。きっと、チョッパーを呼んでくれるんだろう。こんなおれを心配して。
視界が再び暗くなっていく。気を失いかけた、その前に。おれは聞いておかなくちゃいけない事がある。
もはや本能のままにアンリちゃんの折れちまいそうなくらい小さな手を掴み、途切れ途切れに待ったをかける。
「…ング、チョッパー呼ぶ前に答えてくれ、アンリちゃん」
「な、なに?」
「アイツ、ーーーエースとは…」
ーーその時、船がグラリと大きな音を立てて傾いた。
*
ぷかぷかと波に揺られながら考える。
手元に煙草しかねェと、嫌でも脳みそは動くものだ。
この広い海ではぐれた仲間に会えるのか。
男3人で一つのシャボン玉に押し込まれて、このシャボン玉の酸素は後どれくらい保つのか。
クソ剣士は追い出しても死なねェんじゃねーか。ナミさんやロビンちゃんは怪我してないだろうか。
アンリちゃんは、無事だろうか。
どう足掻いてもおれの脳みそは彼女の事ばかり巡ってしまう。
考えるのは、まだサニー号か海中を進むより少し前の事。
シャボンディ諸島を出航する前、エースは自分の人生と再び対峙する事を選んだ。
奴の人となりなんて知らねェが、エースなりに悩んで出した決断なんだろう。いくらアンリちゃんやルフィ達が死に物狂いで助け出したとはいえ、テメェの人生はテメェで決める。そりゃ分かる。その事を最後にアンリちゃんに告げるのも、分かる。
聞けば頂上戦争の恩を感じたエースが、アンリちゃんをシャボンディに送り届けたらしい。ーーだが、最後の最後にアンリちゃんのく、唇を奪うのは、神さまが許そうとおれは許さねェ!!しかも不意打ちだァ!?? そんなモンッアンリちゃんが嫌がるなんて微塵も考えてねェ自己満足クソ野郎のする事だ!
しかも帽子で隠してだァ!? なんつー事してんだ!!!!
あの出来事の0.02秒後はこう思っていた。頭も心臓も腹も煮えたぎり、怒りで気が狂いそうだった。だが、エースにあんな事をされたアンリちゃんの表情は、満更でもないみたいに頬を薄い桃色に染めていたのだ。
瞬間で沸騰した頭も腹も心臓も、その光景を見てサッと熱がひいていくのを感じた。いや、血の気が引いたのだろう。頭に氷水をぶっかけられた時みたいな、そんな衝撃と共に熱は下がった。
おれと同じ“2年間”が、彼女の中でも経っている。当たり前だが、そう思った。
以前は彼女の心が、おれに少しずつ近寄ってきている気がしていた。おれの好意を知って、歩み寄ろうとさえしてくれた。
「おれが君を心から欲しいと思ったって事だ」なんて言い切ったおれの言葉を、忘れない、忘れたくないと言ってくれた。
だが、“2年”。アンリちゃんは海の中でも麦わらの一味の中でもない、別の世界を見てきた。その中には、アンリちゃんの虜になった男の1人や2人や30人いるだろう。あんなに美しく気高く可憐な、天使みたいな女の子は他にいない。
その中の1人が、どうやらエースのようだ。
おれには分かる。おれと同じ、彼女に心を奪われた男の顔をしていたんだから。
おれとエースで一つ違っていたのは、アンリちゃんも楽しそうに隣に立っていたってことだ。今の彼女はおれに、あんなに弾けた笑みは浮かべない。声も表情も強張って、なんだかぎこちない。彼女の優しさにおれが縋って甘えているだけのような気がした。
それに、“エース”、と名前で呼んだ。
おれ以外の仲間に対しても未だ敬語が抜けきれない様子だし、さん付けで呼ばれてるのもおれだけじゃない。ルフィと同い年のウソップだってさん付けの敬語だ。
レディの中では三つ以上年が離れてるなら敬語、になるらしい。それを聞いたのは2年前の2人きりの甲板だった。
仲間に対しても慎ましやかな性格が前面に出ていたアンリちゃんが、エースにはまるでルフィと同じように接している。これは、きっと“特別扱い”と呼んでもいいだろう。
おれがレディにするのと同じ意味なら、きっとそれが指し示すのは“恋”で、間違いない。
——2年間で彼女は恋をした。
そして、その
「いや、納得出来るとか出来ないとかの問題じゃあねェよな…」
「ンあ?なんの話だ???」
「…いや、何でもねェ。そろそろこっちも腹ァ括らねェと」
「?????」
「こんな狭苦しいシャボン玉ン中で喋んな。取り敢えず、ジメジメしたまゆ毛は出てけ」
「んだと!?」
「なんだよお前ら腹減ってんのか?しょーがねェなぁ〜〜。スルメ、足一本やれよ」
「ッッ!!!?」
ケツの下でデカいタコが大きく首を振った。
右も左も分からねェ暗い深海で、随分頼りになる奴をルフィもてなづけたもんだ。
サニー号に戻って見せてやれば、きっとみんな驚くだろう。アンリちゃんも、宝石みたいな目を落っことしそうな程まんまるくしてびっくりするんだろうな。
「アァ〜〜…、クソ!」
どんなに離れても、どんな事をしてても彼女が気になって仕方ない。
はぐれたサニー号を見つけた時、最初に目で追ってしまうのはやっぱりアンリちゃんだから。心を奪われてしまえば、もしも取り戻せた所で後の祭りだ。
安心したように手を振る彼女に、おれは諦めと愛しさを滲ませ全力で手を振りかえした。
(叶わずとも)