シャボンディ諸島編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ケイミーさんが攫われたという知らせを聞いてから、トビウオさんに乗り込んだ。
持って来ていてよかった、断絶のヴェール。
お陰で、あれだけ小鹿のようにぷるぷる怯えていたトビウオさんもニッコリだ。
それはさておき、ケイミーさんは若い人魚。
ライダーさんによると、“それ”はとても貴重らしい。だから、人間屋の目玉商品になる。
なんとも胸糞悪い話だ。
しかし、だからこそ足がつきやすい、とも言えるとイカした髭のライダーさんは言った。
そして、無線が指示した1番GR「ハウンドペッツ」。15番GRあたりにいたわたし達は、急いで1番GRを目指す。
「ケイミーさん…、ぶじでいて…」
もうみんな着いてるかもしれない。もう助かってるかもしれない。そう楽観視しないと、心が保ちそうになかった。
流れる景色に、瞼をぎゅっと閉じる。
1番GRに近づくにつれて、段々周りがガヤガヤと騒がしくなる。目的のハウンドペッツを目前にしたときには、祭りのような喧騒が渦巻いていた。屋根の上には、わたしを乗せてくれているトビウオさんに似た生き物を見つけた。
「ついたぜ、嬢ちゃん」
「ありがとう、トビウオライダーさん!」
「気張りな!!」
「っはい!」
しかし、問題はここである。気のいいお髭のライダーさんは既に開いていた天井近くの壁穴からトビウオごと室内に入り、空中へポンとわたしを放り投げたのだ。突如として不意に襲いかかる浮遊感に、喉が悲鳴をあげることすら忘れる。
「ぇ、」
視界には清々しいまでの笑顔でサムズアップしているお髭のライダーさん。
ライダーさんにはわたしがブルックさんばりの着地をするように見えたのだろうか。ならばとんだお門違いだ。この体勢で落ちたら、確実に背中の骨を痛める。わたし知ってる、ぜったい痛いやつだ。
しかし、だ。わたしは今、トビウオさんに乗せてもらうために、非常時用に持ってきていた“あの”ヴェールを被っているわけだが。
「(ヴェール被ってると、怪我治んないとか、ない、よね…??)」
サァッと血の気が引いていくのを感じ、やばい、と脳内警報が鳴った。ただでさえ地面痛そうなのに、もし誰かを下敷きになんてしたら、きっとわたしのお尻でぺしゃんこだ。
あ、そういえば前にもルフィに無理やりバンジーさせられたっけ。その時は、たしか…。
もはや現実逃避というくらい思考がぐちゃぐちゃになった時、わたしの視界の端をきらりと金髪が掠めた。
「大丈夫か!?アンリちゃん!」
「……うん、ありがとうサンジさん」
この人は、いつもわたしの心配をしてくれる。
あんな喧騒のど真ん中で、悲鳴ひとつあげられなかったわたしを見つけてくれる。
それだけでわたしの心が暖かくなるのを、きっとサンジさんは知らないだろう。
顔に熱が集まってきたのを誤魔化すようにあたりを見回し、現状を聞く。
「そ、そうだ!ケイミーさんは?」
「ああ、舞台上にいる。だが爆弾つきの首輪をされてて…」
「そ、んな……」
冷たい牢屋に入れられて、あんな狭い水槽に見せ物のように縛られて、その上爆弾なんて。
ーーー酷すぎる。
咄嗟にサンジさんから離れて夢中で舞台へ駆け寄る。周りにいた衛兵らしき人が捕まえようとしてきたがサンジさんが蹴散らしたり、小さな体を駆使して逃げ回る。わたしには、まだ全てを薙ぎ払える力なんてない。ただ、自分を慕ってくれる可愛らしい人が今も苦しんでいるのを、黙って見ていられない。
しかし、わたしより先にケイミーさんへ近づいたのは、銃を手にいきりたつ女の人だった。騒がしい銃声や怒号を掻い潜り、ある一つの言葉だけがわたしの耳に届いた。
「うるさいアマス下々民!あいつらの狙いの人魚を殺すのアマス!!!」
「ーーは?」
流れる血が、冷たくなっていくのを感じる。
こういう人を人とも思っていない人間を見ると、わたしはどうもダメらしい。
「さあ魚!!死ねアマス!」
「うるさいな、てめぇが死ね」
咄嗟に動いた身体はケイミーさんと銃を構えた女の間に立ちはだかった。ひやりと冷たい銃口がわたしの眉間に触れる。だが、怖くはなかった。そして、咄嗟に出た言葉は、自分で思っていたよりも冷たく尖っていた。
けれど脳みそはいつもよりクリアで。わたしはケイミーさんの入っている水槽の海水に語りかける。
「(“小さな海よ、少しだけ力を、”…!?)」
その瞬間、寒気がわたしの肌を撫でた。
気を失いたくなるほど冷たくて、恐ろしいものが目の前に現れたような感覚にガクンと膝をつき、己の肩を抱いた。
けれど目の前の女の人も同じ、というよりもそれ以上のようで、何もしていないのに白目を剥いてのけぞるようにバタンと倒れてしまった。
その光景に呆気を取られていると、舞台裏からスタスタと白髪のおじいさんと、巨人さんが現れた。もう何が何だか分からん。
「ホラ見ろ巨人君、会場はえらい騒ぎだ。オークションは終わりだな、金も盗んだし。さあ、ギャンブル場へ戻るとするか」
「質の悪ィジイさんだな。
金奪るためにここに居たのか」
「あわよくば私を買った者からも奪うつもりだったんだがなァ。考えても見ろ…、こんな年寄り私なら絶対奴隷になどいらん!!わははは!」
首輪もしていないが、どうやら話を聞くにこのおじいさんも奴隷として捕まっていたらしい。
それにしては豪快というか…。さっきの寒気も、きっとこの人が何かしたのかもしれない。底知れない、深海のような強さを感じてまた身震いした。
周りを取り囲むようにいた衛兵も、おじいさんの出現に驚いている。
「レ、レイリー…」
「おお!?ハチじゃないか!?!そうだな!??久しぶりだ、どうしたんだこんな所で!!その傷はどうした!…あ〜〜、いやいや、言わんでいいぞ」
おじいさんは一人で完結して、あたりを見渡す。ケイミーさんに、水槽の前で片膝をつくわたし、そして倒れている男の人、会場の惨状。
「ふむふむ…、成程。
全くひどい目にあったな、ハチ……。君らが、助けてくれたのか」
そう自己解決し終わったのか、わたしに優しい眼差しと手を差し伸べてくれた。
それがあんまりにも自然で、流れるような所作だったから、わたしの処理が追いつかないまま手を取って立ち上がった。
そんなわたしを見て、おじいさんはクスリと笑う。
「お嬢さんは、まだか弱いらしいな。しばらくの間、私の後ろにいなさい。
さて…———」
おじいさんが“何か”をして、会場にいた数少ない衛兵達はバタバタと倒れていった。後ろにいたわたしに影響がないように気を遣ってくれたらしいが、それでも肌がビリビリする。
「その麦わら帽子は、精悍な男によく似合う…!!会いたかったぞ、モンキー・D・ルフィ!」
「!?」
どうやら本当にこのおじいさんは只者じゃないみたいだ。
あの後、ケイミーさんの爆弾付きの首輪を、素手で外してしまった。わたしはその光景にただ、立ち尽くすしか出来なかったから、なんだかひどい無力感が胸を巣食った。
おじいさんは舞台から降りて、ゆっくりみんなの元へと歩み寄る。わたしも降りなきゃ、と思っていたら、横から声がかかった。
「あの!アンリ様!
さっきは庇ってくれてありがとう…!!」
「い、いや、けっきょくわたしは何もしてませんから…!!」
「それでも、さっきの天竜人の間に割って入ってくれたとき、すっごく嬉しかったから!」
心底ホッとしたような声色でありがとうと言ってくれたケイミーさんに、わたしの無力感はすぐに溶けて無くなってしまった。ふしぎ。
ケイミーさんと話している隙に、どうやら店の周りを海軍に包囲されてしまったらしく、ルフィと残っていた海賊団の二人が先に戦闘を始めてしまったらしい。
わたしが店を出た時には、もう既に海軍の陣形はボロボロで、頭と体がバラバラになった猟奇殺人の被害者みたいな状態で元気に動いてる海兵もいた。わたしにグロ耐性があってよかった(?)。
しかし、これだけ奮闘してもまだ海軍は減らない。なにか広範囲攻撃でもしない限り…。
「んんん〜〜〜」
「おいアンリも早く逃げろ!!
ナミの攻撃にあたっちまうぞ!」
「ぉわっ」
ウソップさんに引っ張られてその場から駆け出すと、先ほどまでいた場所にものすごい雷が落ちだ。ナミさんよ、味方巻き込み広範囲攻撃はやめてもろて。
あれよあれよと言う間に待機していたトビウオライダーズさんの後ろに乗せてもらって、おじいさん、レイリーさんの行っていた13番GRへとたどり着いた。
シャッキー'sぼったくりバーと書かれたお店の中からはとてもミステリアスな女性が現れて、満身創痍のハチさんをすぐに寝かせてくれるあたり、とても親しそうだった。これでひとまず安心だ。
シャッキーさんのお店で一息ついた頃、おじいさんがやっと自己紹介をしてくれた。
「え〜〜〜〜〜〜!!?
“海賊王”の船にィ〜〜〜!??」
「ああ、副船長をやっていた。シルバーズ・レイリーだよろしくな」
「副船長〜〜〜〜!??」
「す、すごいひとだったんですね、レイリーさん」
「ハハ、ただの老ぼれだよお嬢さん」
ウインクをして、グラスを傾ける姿は渋くてちょっとくらりときてしまうほどだった。デュバルのウインクとは比べ物にならない。いや、伝説の海賊と比べちゃ可哀想なんだけども。
レイリーさんは、寝物語のように昔の話を聞かせてくれた。“この物語”をきちんと知らないわたしでも知っている名前、ゴールド・ロジャー…、いや、ゴール・D・ロジャーという男について。
不治の病にかかっても、海を制覇し、海賊王になった男。それほどまでに強い力があったのに、海賊団は解散し、一年後に海軍へ自首をした。それがかの有名なローグタウンでの公開処刑の、あのシーンだ。
わたしにとってはただオープニングに流れる演説だけれど、レイリーさんにとっては己の船長の最後の言葉だ。さぞ、悔しいことだろう。
「あの日ほど笑った夜はない、あの日ほど泣いた夜もない。あの日ほど、酒を飲んだ夜もない…!
我が船長ながら、見事な人生だった…!!!」
「………」
わたしはまだ、ルフィが死んでもそんな風には思えない。夢の果てに、この人たちがたどり着くまでは…。
*
コーティングには3日かかる。レイリーさんはそう言って、わたし達に紙の切れ端を一枚ずつ渡してくれた。何も知らないわたしにナミがこの“ビブルカード”について説明してくれた。あまり難しいことは分からなかったが、個人専用の包囲磁石みたいなもの、と認識しておけば大丈夫だろう。
「3日後に会いましょう、見送りに行くわ」
「相手は大将だ!誰か死なねェようにしねぇとな!」
「縁起でもねェこと言うなよてめー!」
「ハチ!安静にしとくんだぞ!」
「3日か」
「そうだ私、死んだフリしてましょ」
「っふふ、それだとバレませんね」
ビブルカードをぎゅっと握りしめて、レイリーさんの壮大な話を思い出す。海賊王、ひとつなぎの大秘宝、あとロビンさんが追い求めてるポーネグリフだっけ?なんとなくしか知らない世界にここまでの謎が隠されてあるのか、となにやら途方もない気分だ。
「なァ…、遊園地行かねェか?」
「てめえは黙ってろ!!」
「「行きたい」」
ルフィの緊張感のない提案に、思わずわたしも挙手したくなったが、みんなの剣幕にしおしおと手は下がってしまった。
色々な提案(主に遊園地に行きたがるルフィを止めていただけ)をしながらみんなで歩いている時、ふとサンジさんの目線を感じた。
「どうしたの?サンジさん」
「あ、いやぁ、… アンリちゃんだけでも海に避難すれば誰にも見つからねェんじゃねェかと思ってな」
「あー、ブルックさんの死んだフリみたいな?」
「ああ、まぁそんなとこだな」
「ふふ。それわたしも思いついたけど、多分本気であぶなくならないとやらないかも」
「…どうして?」
「だって、みんながきけんな目にあった時、いっしょにいられないでしょ?」
わたしがいても足手まといかも知れないけど、と付け足すとサンジさんの表情は笑顔なのに徐々に曇っていく。きっと弱いわたしだけでも逃げていて欲しいのだろう。サンジさんはどこまでも優しいなぁ。
それでも、わたしだけ安全圏内にいるのは嫌だった。危ない橋は、みんなと渡りたい。みんながそちら側へ行くなら、わたしだって渡ってやる。
「心配してくれて、ありがとう」
「…ああ、キミは心配してもしたりないくらいさ」
サンジさんの手が、わたしの頭に触れようとした瞬間。ルフィが立ちはだかる男に声を上げた。
「誰だお前!!」
「……大柄の、くまみみ男?」
「ッアンリちゃんはおれの後ろに!!
ルフィも下がれ!!そいつは七武海の一人だ!!!」
ザッとサンジさんの背中に隠されて、気がつけばみんな大柄のくまみみ男に対して戦闘態勢に入っていた。王下七武海。言葉は知っているが、目の前の男がそうなのか。威圧感、敵意そういった類のものは一切感じないが…。
すっとくまみみ男が手袋を外し、みんなの緊張感が高まっていくのを感じる。
「七武海!?なんで、みんな揃って知ってんだ!?」
「その攻撃を受けるな!!衝撃波だ!!」
この敵と顔見知りなのか、サンジさんの言葉に唖然とするルフィだが、しかし放たれたのは衝撃波というよりも特撮モノのような爆破が起こった。何もできず身をわたしはサンジさんに守られながら難を逃れた。
「うォい!!衝撃波ってうそじゃん!!」
「あれは……!!」
「「ビームじゃ〜〜ん!」」
「喜んでる場合かアホ共!!!」
「バーソロミュー・くま…、なぜまた…!」
「………!!あの野郎!!」
話から察するに、どうやら少し前の島でこのくまみみ男と一味は相対していたらしい。
その時に壊滅状態にまで追い込まれて、しかし生き延びていることに気がついたくまみみ男が追ってきた、ということか。なるほど。
わたしの理解よりも先に動いたフランキーさんは、その大柄を風来砲で数メートル先まで吹っ飛ばした。そして、ルフィも。
「強ェと分かってんだから…、始めから全開だ!!」
わたしも、全力で頑張らないと!!
そうは言っても戦闘慣れしていないわたしに、七武海の相手なんて大役は難しいようで。早々にナミに引っ張られて木陰に隠れていた。
ルフィ、ゾロさん、サンジさんの3人が連携プレーを見せてくまみみ男にダメージを与えていく。
「あのビーム強ェなぁ…」
「あのしちぶかいさん、本当に人間なんですか?」
「確かにウチの化け物3人で精々ってトコ見ると、人間か疑わしいわよね…」
「あ、いやじゃなくって…!
そもそもビームが出る人間っているんですか?」
わたしは“この物語”も、ましてや陸の人間の知識も薄い。こんなファンタジーな世界なんだから、ビーム一つ撃てる人間がいてもおかしくないっちゃないんだけど。
「フランキーなら、撃てそう…」
「アイツ半分機械よね?」
「え、そうなんですか??」
確かにあの格好で寒くないってことは機械なのかも知れない。いや、今はそうじゃなくて!!
ナミ、チョッパー、ロビンさんと話していると、丁度3人がくまみみ男の背中を地面につけていた。
「やった!!やっつけた!!?」
「すげェ〜〜〜〜な!アイツら〜〜〜!!!」
「相手は七武海……。そう簡単にはいかなそうよ。彼らの表情からすると…」
どうやらまだ戦闘は続くらしく、わたしは“次”の準備に取り掛かる。瞼を閉じて、耳を澄ませて、わたしの鼓動を大地を伝って海へと知らしめる。わたしはここにいる、と。
あれがもしわたしの想像してる“もの”なら、きっとこの中で有効な手は、わたしの中にある。
その時、瓦礫に埋まっていたはずの大柄のくまみみ男は何もなかった顔で立ち上がり、両手からビームを出す。それにゾロさんが被弾してしまい、倒れてしまった。
あのゾロさんが…、と一瞬取り乱したが、わたしは、わたしの方に集中しなければ。それで出来なかったなんて言ったら、きっとゾロさんからも呆れられる。
みんなゾロさんの穴を埋めるように、相手に攻撃の隙を与えず絶え間なく反撃していくが、どれも効いている様子はない。
ブルックさんの身軽さで真上から剣を突き刺すが、何故か体の表面で止まってしまい、慌てふためいた隙に口からビームを撃とうとしていた。そんな危機一髪のところを、ウソップさんの射撃で食い止め、ナイスなコンビネーションを見せて、ホッと一息をつく。今のは、本当に危なかった。
「あれ!?アイツの様子、なんか変だぞ…!?」
「……やっぱり」
バリバリと欠損した肩から電気が走っている様子を見て、確信が持てた。それなら、やっぱり“これ”だろう。さっきナミと打ち合わせしていてよかった。しかし、木の根元を走るナミに反応したくまみみ男はナミに向かってビームをチャージしている。
「ナミさん危ない!見つかった!!」
「しまった!」
「ナミッよけて!!」
「“八十輪咲き、四本樹!”
“ショック!!”」
凛とした声が響いて、くまみみ男に目をやるとあの大柄から細くしなやかな手が咲いており、口を無理やり塞いでいた。
何をやらかすのか聞いていたロビンさんは、わたしにウインクで合図を送ってくれる。これで、心置きなく決められる。
ボフン!と盛大な内部爆発をし、膝から崩れ落ちるくまみみ男に追い討ちをかけるようにわたしは両手を組んだ。すぅ、はぁ、と深呼吸するとわたしの鼓動に合わせるような愛しい音が聞こえた。
「力をかしてね、“海よ”!」
祈りにも似たわたしの声に呼応するように、海水の柱がくまみみ男を包んだ。敵めがけての放水、初めてだけれどうまくいったらしい。
味方の誰一人として巻き込まずに散っていく海にありがとう、とこぼす。
もうくまみみ男は、バチバチと体をスパークさせてショート寸前だ。
「ナミ!!」
「分かってるっての!
雷光槍=テンポ!!」
水浸しの体に、一直線に体を貫く雷の槍。
これならどうよロボット!と得意げでいられたのも束の間。わたし達の攻撃でついにシステムがショートしたのか、ビームを乱射しだした。
「おわァ!!あんにゃろ暴走しやがったー!!!」
「わ、わ、わ、わ〜〜〜!!!!」
わたし達が逃げ惑う最中、サンジさんとゾロさんが立ち上がり真っ正面から向かっていく。
みんなと同じくらい、いやそれ以上にボロボロなのに、どうしてあんなにも……。
「“悪魔風脚!
画竜点睛ショット!!”」
「とうとう破片が溢れたぞ!
もうひと押し!!!!」
「鬼気、九刀流…、“阿修羅!魔九閃!!”」
「……!!もう一押し!!」
「がんばれ…!!」
「いけ〜〜〜〜〜!!ルフィ〜!!」
「ギア3!!“ゴムゴムのォ”〜〜〜〜!!
“巨人の回転銃”!!!!!!!」
「ハァ……、ハァ…」
とうとうくまみみ男のロボットは壊れて、動かなくなった。最後のルフィの技がきちんと決まったらしい。思った以上に力んでいた体は、その動かなくなった大柄のロボットを見て、ずるずると力なく座り込んでしまった。
それはみんなも同様で、肩で息をしながら座り込んでいる。
わたしは少し休めば傷もなくなるし、自己再生できるけど、みんなは違う。こんな時もっと癒せる能力があればと悔やんでしまう。
「……(ゾロさん、やっぱりキツそう)」
瓦礫で影になっていて見えないが、きっと一味の中でも1番ダメージを蓄積しているだろう。
せめて、何か…。そう思い立ち上がった時、空から筋の通った声が聞こえた。
「まったくてめェらやってくれるぜ!!」
「!!?」
「なっ、なんだ!?また敵か!!?」
「どこから声が!!」
「上だ!上!!」
ほいさァ!!という掛け声で落ちてきた。土煙の中、大きな影が二つ揺れて現れたのは、さっきのくまみみ男と、そして声の主だった。
鉞を担いだ、おかっぱの、“前の世界”でいうところの金太郎のような風体の男が、敵意をバシバシと向けながら立ちはだかった。
(理不尽な地獄へ)