シャボンディ諸島編
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麦わらの一味は、みんな強くて頼もしい。
ルフィやゾロさん、サンジさんは勿論当然なのだが、他にも知らないうちに斬っちゃうブルックさんや、体のあちこちから何かが飛び出してくるフランキーさん、ミステリアスに微笑みながら背骨を砕くロビンさん。
それに、いつもなら戦いに腰が引けちゃうナミとウソップさんとチョッパーも最前線で戦っている。その姿に、憧れと尊敬の炎がゆらゆらと燃え上がって、現実的じゃない願いが心を占領する。
空を舞う、あの人と背中を合わせて戦えたら、なんて。
「……っはぁ、は、」
敵は減ってきているが、やはり孤軍奮闘。
海の上にぽつんと残された船上で、空を制するあの魚たちと戦うことは難しいようだった。
フランキーさんやウソップさんが手一杯で船を陸につけられず、どうしても防戦一方になってしまっていた。
わたしに船を操縦する知識や腕力があればまた別なのだろうが、最近二足歩行に慣れてきたわたしだ。自ら率先して動いても迷惑にしかならない。
縦横無尽に飛び交う魚たち、それを追撃しようとメインマストに登るチョッパーやナミ。みんなの雄叫びや、銃声、大砲の音が響き渡る。
その中で、わたしは必死に両手のひらを組み祈ることしかできなかった。無力、無力、無力。
「どうか、誰も怪我をしないで…」
小さな怪我なら治るだろうが、それでも痛い思いも嫌な思いもしてほしくない。
ぎゅっと目を瞑りたくなる衝動を抑えて、わたしはしっかりと瞼を押し上げた。わたしに出来ることは、祈ることと見つめることだ。
*
突然、獣の声が聞こえた。
海獣とはまた違った類の声で不思議に思い声がした方向を見ると、ルフィが誰かに攻撃されて追われていた。あれは、銛、だろうか?
銃声や波の音を覆すほど大きく鳴く獣の声は、どんどん近づいてきている。
地を這うように低くざらついた獣の声は、とうとう近海にも聞こえるんじゃなかろうかと言うほど、木造の無理矢理作った建物がその音波でぐらつくくらい大きく唸った。
バキバキと木を薙ぎ倒す効果音が聞こえ、現れたのは人の何倍も大きな毛むくじゃらの牛と、それにバイクのように跨るこれまた大きな人だった。
「バタバタと叩き落とされやがって!!
蚊や蝿じゃねェんだぜ、トビウオライダーズ!!!」
「自分ち踏み潰して現れやがった…!!」
「……、もうこのアジトはいらねェんだ!麦わらの一味さえ殺せりゃなあ!!!」
「申し訳ありませんヘッド!今すぐに全員コイツらを海へ引き込んで…」
ヘッド、と呼ばれた大男は苛立ちを隠さずに周りのいろんなものへと当たり散らしていた。
近くで警戒していたハチさんを大牛の足踏みだけで体勢を崩させた。
「どけェ!
人魚や魚人に用はねェ!!逃げたきゃどこへなりとも行きやがれ!」
「「!?」」
「おれは好きでこんな人攫い稼業やってんじゃねェんだよ!!よくわかってるよなぁ、おめェら…!!!」
「勿論ですヘッド!!!」
「すきで、やってない…?」
「今日はめでてェ日だ……、殺したくて殺したくて夢にまで見たその男が、今おれの目の前にいる…!!!ありがてェ、神様ってのはいるんだなぁ……!!」
あまり理解できない。
あの大男は、何を言っているんだろうか。
「ある日突然地獄のどん底へと突き落としやがった“その男”!!」
「アイツ、こっち見て喋ってねェか?」
「…………」
「…おれは今日ここで!!例え刺し違え様とも必ずお前を殺す!!!海賊、“黒足のサンジ”……!!!!」
「……………は?」
ヒュッ、と喉が呼吸を止めた。
サニー号に残っていた面々はその言葉に驚きを隠せずにいた。勿論、名指しされたサンジさんも同じく。知ってる奴か?とか、海賊になる前にいたレストランでのことじゃないか、とか。
「——そんな前の話なら、……まーーあの時は人に恨みを買う様なことばっかやってたから」
「討たれろ、自業自得だ」
「おれ達に迷惑かけんな、あいつコエーぞ」
半ベソかきながらサンジさんにひっつくチョッパーと、ウソップさんの言葉は中々鋭くあったが、しかしだ。
あの大男はごく最近の話だと怒り狂い、手に持っていたガトリング銃のようなものをこちらに放つ。怒涛の展開に頭が追いつかず、わたしは飛んでくる銛に、反応できずにいた。
「っ、アンリちゃん!!」
「あ」
一瞬見えたのは金の、サンジさんの糸のような髪が風にたなびく光景で。
その後きた衝撃を背中で感じ、全身が熱の籠った圧迫感に包まれる。目を開くと、サンジさんの顔が目の前にあり、その表情はとても焦っている様に思えた。
「アンリちゃんっ、怪我は!?」
「ごめ、んなさい。わたしはだいじょうぶ」
「無事でよかった…。
あの野郎、レディもいるのに物騒なモン撃ちやがって…!!しかも最近だと!?ますます分からねェ!」
「………ッ待て!この銛様子が変だぞ」
芝生に突き刺さった何本もの銛は、紫の煙をあげて蒸発している。
「コイツはサソリの毒の銛。刺されば3分であの世へいける!!おれの怒りの程を知れェ!!
てめェも一味も皆殺しだァ〜〜〜〜!!!」
ドドドド。地鳴りのような音を立てて銛が装填されたガトリング銃は次々とサニー号にいるわたし達を狙った。
サンジさんはわたしを抱き抱え、ナミに襲いかかる銛を折らんばかりの勢いで蹴り飛ばす。
俊敏に動けず、ノロマなわたしはそのまま抱き抱えた方がいいと判断したのかもしれない。きゅっとサンジさんの首元に腕を回し、申し訳なさと、あの大男が言っていた言葉を頭の中で反芻していた。
「チクショウ…!!
思い出せねェ、誰だお前は!!」
その答えは、ルフィが握っていた。
目まぐるしく動く景色と、あまり回らない頭、そして嗅ぎ慣れない硝煙の匂いや緊張感からくるであろう息苦しさに、申し訳ないと思いながらもサンジさんに身を委ねて数秒。
大男の猛攻は、終わりを告げる。
霞む視界の奥で、何かヘルメットの様なものが落ちたらしいからん、というなんとも軽い音が聞こえた。
陸にいたルフィが、大男・デュバルの鉄仮面を蹴り落としたのだ。
攻撃が止み、サンジさんはわたしを降ろして、その光景を目を凝らして見つめる。
「………いいさ、よく見ろ。
このおれの、傷ついた顔をよく見ろ…!!」
現れたデュバルの顔を見て、みんな各々感嘆の声を上げる。サンジさんは眉間の皺をより深く刻み、まるでゾロさんのような般若の表情を浮かべていた。わたしはデュバルの顔面云々よりもその光景に驚き身を硬くしていると、サンジさんは海へと飛び込んだ。
「あ、あれって、一体……」
「…そ、そういやサンジのヤツ、アンリにゃあ“アレ”頑なに見せなかったもんな」
「“アレ”??」
みんなが気づいて、わたしが一切わからない事なのだろうか?
むーーん、と件のデュバルの顔面をまじまじとみても、般若顔の理由がわからない。いや、でもあの顔面、どこかで、見たことある気が…。
気がつくとサンジは泳いでデュバルの元へいき、そして。
「オラが一体なにをすた!?オラの人生返せ〜〜〜!!!」
「知るかァァ〜〜〜!!!!」
デュバルの顔面目掛けて、豪快に蹴りを入れた。
*
「何が知るかだ!!
おめェ以外に誰がこぬ責任さ取るぬらーー!」
「うるせー!! あの手配書に頭キてんのはおれの方なんだよ!!」
向こう岸で口喧嘩が始まるも、いまいち状況が掴めないわたしは頭の中がハテナマークでいっぱいだった。しかし、やっとこの猛攻に納得がいった他のクルーは口々に感想を呟く。
「びっくりした〜…、世界って広いわ」
「サンジの奴、奇跡の星の下に生まれてきたんじゃねェだろうか」
「いつかすごく面白い最期を遂げそうよね」
「おれァデュバルって野郎が不憫でならねェ…!!」
「こーいう事もあるんだな…」
「……いや、だから何なんですか!
せつめいしてよウソップさん〜〜!!」
ついに駄々を捏ねだしたわたしを見て、みんな忘れてたとでも言うように目を丸くしていた。
名指しされたウソップさんはあわあわと、「おれの口からは説明できない病が…!!」とのたうち回っている。
そこで、我らがお姉様・ロビンさんがどこからともなく出したのは一枚の紙切れ。いや、手配書だった。
「これ、読んでみて」
「えーーっと、…“デッドオアアライブ くろあしのサンジ”、けんしょうきんがく7700万ベリー…??これ、サンジさんのてはい書ですか?」
「写真のところ、誰かに似てると思わない〜?」
ナミがニヤリと笑いながらこちらに体を傾ける。その手配書を持って、ある男と見比べた。
向こう岸でギャーギャーと口論、というよりなんだろう、面白い光景が見て取れる。
「……あ!
サンジさんっていうより、あの男の人にそっくりなのか!!」
「ぬおおおぉぉおお!!!!
オメーのせいでアンリちゃんにまで知られちまったじゃねェか〜〜!!!」
「オエーーー殺されるゥ〜!!」
この、おそらく似顔絵であろうイラストは、特徴は捉えているが、わたしからするととてもサンジさんには見えなかった。
流石に口には出さないが、サンジさんの方がかっこいいしな、とそっと手配書は返しておいた。
「てめェのくだらねェ言いがかりで、何でナミさんやアンリちゃんまで危ない目に遭わせにゃならねェんだ!!」
「…、おめェが海賊として名を揚げちまった船!!ならばそのクルーもおれの恨みの対象になって当然!!」
「おめェら全員死ぬがいい〜〜!!!」
再び怒り出したデュバルは、毒の銛を激しく撃ち出した。刺さってしまえば危険な毒に、サンジさんは避けつつ間合いを取ると、トビウオライダーズの通信が聞こえた。
周りにいたトビウオから黒い網が広がり、サンジさんを包囲する。
「サンジさん!!?」
「網を破れ!海へ引き摺り込む気だ!!」
船の上から身を乗り出すが、どうやら網が硬くて破れないようだ。冷や汗が、ぶわりと吹き出す。どうしよう。どうしよう。
サンジさんは抵抗できないまま、ボチャンと海へと引き込まれてしまった。
奥歯がカタカタと震え、背筋は芯からつめたくなっていってるはずなのに、どうして血は沸騰するように熱いのか。
呼吸は浅くなり、水面が激しく波打つ様子に眩暈がした。
わたしの、たいせつなものを、うばう奴がいる…?
断絶のヴェールを被ると、わたしは何もできない。海の声も聞けないし、体力もないし武器も満足に扱えない。
だけど、ルフィがヴェールは取るなって言ったから。ロビンさんがわたしを心配してくれたから、ずっとこのままでいたのに。
これはいけない、やっちゃだめだろう。
握れば冷たいヴェールを、頭の上からしゅるりと脱げば鮮明な青が視界一杯に広がった。
「ナミ、これ。あずかってて」
「ッえ、ちょっとアンリ…!!
ここはハチ達に任せておけば…!」
「うん、でもごめんね。
龍神族は大切なものを取られることが、すごくきらいみたいなの。だから、あの頭の足りないお魚さん達に分からせてあげなくちゃ。
——海がだれの
ぼちゃんと身体を海へ沈め、辺りを見渡すとぽつりと小さくなった魚の尾鰭と、それに掴まれている黒の背広が見えた。
海流に手伝ってもらって加速し、距離を縮める。あと少しでトビウオの尾ビレに手が届くと言うところで、気を利かせた海がトビウオライダーの眼前に海流の壁を作ってくれた。
戸惑うライダーズ達の声に、思わず笑みが溢れた。
「つかまえた」
「な、なんで前に進めねェ!!
というか、なんでお前ヘルメットもなくしゃべれ…!!」
「もがッッゴボッ…!!」
困惑に表情を染めるライダーと、どんどん震えていくトビウオに顔だけ笑ってみせた。
「駄目よ、海賊のものとっちゃ。…アア、それともお魚さん達は、わたしに食べられたいのかな?」
歯を見せて笑うと、トビウオ達は龍神族を前にした恐怖からか白目を剥いて、とうとう気絶してしまった。なんて呆気ないこと。
「なんて可哀想な小魚ちゃん…。
馬鹿な人間に使役されたが故に、恐い思いをして」
「……ッ!!(アンリちゃん…!!まさか、またあの時みてェに…!?)」
「ヒェ…!?な、なんなんだお前!!」
「わたし?わたしはアンリ。
大切なものを奪われたら怒っちゃう、ちょっぴりお茶目な海賊だよ」
ぺちんと両手を叩いたら、トビウオもろともライダーズ2人は濁流に飲まれて海面へ打ち上げられた。わたしは知らなかったけれど、のちに船上から見ていたナミから「小規模なノックアップストリームが現れたけど、あれアンタの仕業!?」と詰め寄られた。
上の方が騒がしいが、今は一刻も早くサンジさんを陸へ連れていかなきゃ…!
ゴポポポ。水圧が和らぐ音が聞こえると、そろそろ光が差し込む水面が見える。落とさないように、サンジさんの体に回した腕に力を入れ直した。
バシャン、と海面から顔を上げて、サニー号にいるみんなに手を振る。
「アンリ!!」
「なんかヤバそうだったけど、よかった!2人とも無事か〜〜!?」
「うん、大丈夫!…あれ、でもサンジさんまた気絶してる!?エッなんで!??」
「……なんか幸せそうな顔だし、もうそのまま沈めとけばいいんじゃねェか?」
さっきまで意識があったのに、また気を失ってしまったサンジさんの体を引いて、なんとか陸まで連れ出した。ザパリと海から上がる時に、近くにいたゾロさんに手を貸してもらった。なんだかんだ2人は仲良しみたいだ。(とても呆れた表情をしていたが…)
サンジさんの体を横にして胸に耳を当ててみる。呼吸はあるし、心臓も動いてる。あんなに水中にいたのに、本当に頑丈な体だ。
「さっきの海流、」
「?はい」
「…いや、なんでもねェ。ルフィが見込んだ奴だ。聞くだけ野暮ってモンだな」
ククッと笑っていらっしゃるが、今日のゾロさんは機嫌がいいのだろうか?
ゾロさんはおもむろに大きな手で、わたしの頭をガシガシと撫でる。
「わ、ちょっとゾロさん!?」
「……もうちょっと乾いてる時にやりゃよかったな」
「人の頭なでといていう言葉でしょうか!?」
「またやらせろ」
「おうぼう…???」
「アンリちゃんの頭から手退けやがれクソマリモ…!!」
ゲホゲホ、咳き込みながら台詞を吐いたのはサンジさんだった。まだ気管に海水が残っているのか苦しそうに眉を顰めて、ギンっとゾロさんを睨みつけてる。
「よく眠れたか?アホコック」
「ッ、アンリちゃんに触んな、お前のアホが移る」
「じゃあお前も触ると移るんじゃねェのか?」
「移るかバーーーカ!!」
気が付いて早々に顔を突き合わせていがみ合いをするサンジさんとゾロさん。これはあれだよね、やっぱり喧嘩する程仲がいいってやつだよね。わたし前世から知ってるよ。
「ヨホホホホホ!
さぁ、アンリさん。そんな格好では風邪をひきますよ。ささ、これをどうぞ」
「あ、ありがとうございます、ブルックさん」
パサっと肩にかけられたのは、ブルックさんが愛用している黒いタキシードスーツ。とても縦に大きいブルックさんのを借りてしまうとあまりにも動きづらいので、戦闘に不向きでは?と思ったが、周りを見渡すと何故か建物は木っ端微塵だし、ルフィと大男・デュバルが一騎打ちしていた。もうボス戦ならわたしの出番はなさそうだ。
毛深い大きな牛が、突然ルフィに怯え出して、主人であるデュバルを振り下ろして逃げてしまった。しかし、数歩も歩くとその大きな体躯を傾けて、泡を吹いて気絶した。
まるで、さっきのトビウオ達のようだ。
「不思議……」
「アンリちゃん、」
「サンジさん!もう大丈夫?」
「ああ、…ホントアンリちゃんには助けられてばっかだな」
「そんな事ないよ。わたしの方こそ、いつも助けてくれるお返しが少しはできたみたいでうれしいっ」
にっこり笑うと、サンジさんはなんだか悲しそうな笑みを浮かべて、海水を多分に含んだジャケットを脱いだ。
「これ、少しの間持っててくれるかい?」
「はい、いってらっしゃい!」
「ン、いってくるね。…頼んだぞ、アホ剣士」
険しい顔つきで、サンジさんはネクタイを緩めながらルフィとデュバルの元へ向かう。
無意識の内に、両手は相変わらずお祈りするように組んでしまったが、視界はヴェールがない分はっきりと見えた。
「この言いがかりバカの一件、おれが始末つけてやる…!!」
「始末!?黒足ィ、そんだば死ね!!
おめェが生きて海賊を続けてる限り!!オラには永久に平穏の日々はこねェのぬら!
こんな濡れ衣もうたくざんだらべっちゃ!!」
ズドドドドド!!
毒矢のガトリング銃は火を吹くようにサンジさんの足元を狙い続ける。しかし、もう攻撃は見切った、とでもいうように華麗に避けるサンジさんに、わたしは思わず見惚れてしまった。
「黙れ!おれにとっても見たくねェ、見せたくなかったあの手配書の落書き!!!
そいつが実在してんじゃねェよ…!!!」
目、鼻、頬、口、歯、あご、と次々に強烈なキックがデュバルを襲った。主に顔面、というのはよくよく考えればとても痛そうだが、宙を舞う鳥のように相手を翻弄するサンジさんは、とても、とても格好良くて。口を閉じることさえ忘れてしまった。
「ぶへぁ…!!!
も、もう、…やべへ、」
「“
「ダバァァァア!!!!」
タン、と着地したサンジさんは、髪をかき上げながらデュバルへ向かって、口は含んだ煙を吐くように言う。
「至高の業が織りなす上質な味わいを堪能しやがれよ、クソ野郎」
(見過ごせるわけがない)