シャボンディ諸島編
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結局トビウオ達は戦闘態勢に入っていたにもかかわらず、何処かへと飛んでいってしまった。
ロビンさんが考えるには、撤退命令が来たのかもしれない、と。
けれど相手は空からだし、よっぽどの事がないと普通このまま攻撃してちょっとでも弱らせるか、船を沈めるのがセオリーなんじゃないだろうか?
いや、海賊の素人であるわたしが何を言ってるんだと思うけれど、前世で読んだ漫画とかアニメだとそういうのが定石というか、ままある鉄板の作戦だと思う。
もし相手が敢えて攻撃しなかった理由が、そのアジトにあるのかもしれない。わたしがもっと、ちゃんと覚えていれば…。
なんて出来もしないことを悔やみ、拳を握った。このもやもやが杞憂であればいいけど。
サニー号は着実に波をかき分け、風に帆を押されて、とうとう指定されたトビウオライダーズのアジトへたどり着いた。外側は要塞の壁みたいな頑丈な作りになっていて、アルファベットのCの形に船が入るような穴が空いている。
フランキーさん曰く、海の上に無理やり建てたらしいその居住区からは何の物音もしない。
ルフィは無策に船をアジトの中へと進めた。
「はっちーーんおーい!無事なのはっちーーん!!」
「出てこいマクローー!!ハチを返せ〜〜〜〜〜!!」
ケイミーさんとパッパグさんが必死に声を荒げてハチさんを探すと、居住区の前に、檻がぶら下がっていた。中にはあまり見たことないシルエットの人?らしきものが入れられていた。
「あれ、はっちんかな?」
「しめたぞケイミー!!敵はちょうど誰もいねェ!きっとおやつの時間だ!!」
「……本気で言ってんのかお前ら…!!
コレ誰がどう見ても“罠”丸出しじゃねェかよ!!」
「全員その辺に隠れておれ達を狙ってるに決まってンだろ!!」
「…ケイミーさん、敵のアジトなのでちょっとはうたがいましょうね?」
「はっ!!!!すっごい裏読み……!!!」
「………そ、そんな悪いこと思いつかなかった…」
「だから捕まるんだよお前ら!!!」
……コレは、流石のわたしもフォローのしようがなかった。
人魚さん達がとてもピュアなのか、それともケイミーさん達が特別素直なのか見極める必要がありそうだな。
すると、檻の中の人物から声がする。
「ニュ!おれはここだケイミー!!
無事だから心配するな!!」
「キャーーー!!はっちん真っ黒け!
どうしたの!?焦げたの〜〜!?」
「ニュ!?いや、これはちょっと…、おれの都合だ。それよりコレ罠だから早く引き返せ!
おれは強いの知ってるだろ!?大丈夫だ、行ってくれ!」
言葉から察するにあの人は本当にケイミーさんを心配しているらしい。なんだ、ナミが警戒する人だからちょっと不安だったけれどいい人じゃないか、随分黒いけど。
しかし、その声に首を捻ったのは麦わらの一味のゾロさん達古株組だ。チャリ、と三連のピアスを鳴らしながら、既視感のあるシルエットと声に対してナミに問うていた。
「……やっぱ聞いた声に、珍しいシルエット…。おいナミ、どうだ」
「………う〜〜〜ん、怪しいっていうか、ほぼ…」
「何が?」
「聞いてみよう。
おい!アーロンは元気かァ!?」
「あ、アーロンって、確か………」
昔、ナミの故郷を支配してた魚人の海賊、だよね…?そ、そうか!忘れてたけど、確かあったよそんな話!!
うわ〜〜!!こんな再会とか果たすんならもっとちゃんと知っていればよかった〜〜!!!
ヴェールを被った頭を抱えて長めのため息が漏れた。いくら悔いても遅すぎるその後悔は、誰の耳にも入れられないから、そっと胸にしまってわたしも知らない顔を作る。
(一応)わたし達グランドライン以降から入ったクルー達に対して、ウソップさんの虚実入り混じったナミの故郷で起こった凄惨な話を聞いた。
テレビの前だけだったら、悲しく辛い過去に対してただ涙を流していたが、仲間として“今”人伝に聞いただけで怒りが込み上げてくる。
もう他人事じゃないもの。わたしのために心配してくれたり、色々教えてくれたりしたナミは、紙の上の物語じゃなくて立派に仲間だった。
保護対象が過去に敵対したハチだと知り、各々が様々な反応をする。しかし、そうは思ってもみなかったケイミーさんはゾロさんに凄まれてか、涙目になりながらも叫ぶ。
「やだよ!!私、助けるよ!!!
はっちんは、私達をいつも助けてくれるじゃない!!パッパグ!」
「おうよ!
ケッ、コイツらこんな薄情な奴らだとは思わなかったぜ!!バァ〜〜〜〜カ!!!」
「うっせーー」
「見捨てないよはっちん!!」
「待ってろハチィ!」
罠だと注意しても勢いよく船から海へ還るマーメイド達を止めることは叶わず、ものの数秒で海の中に潜んでいた魚人達にケイミーさん達はあっけなく捕まってしまった。
「口程にもねえとはオメエらの事だ!!」
ウソップさん、まさにその通りではある。
しかし、心根の綺麗な彼女たちにそれはあまりにも酷だろう。
人魚を捕まえた事で、魚人たちが金持ちになれると大騒ぎしているのを見て、頭の芯がじわじわと冷えていくのを感じる。ああいう、人のことを商品だとか、金だと思う奴とはどうしても相入れない。
「…んにゃろォ!!
ケイミーちゃんに罪はねぇ!!おれは彼女だけでも助けるぞッ」
「待ってサンジくん!…いいわ、ハチも解放しましょう」
「えっ!?」
「ハチは大丈夫!実は無害なやつだから!!」
その言葉通り。確かにハチは、先程からケイミーさんとパッパグさんを助けたい一心で、痛々しくも檻に体当たりを続けている。…本当に、心配なんだな。
「いいんだよね、ナミ」
「ええ。だって、これじゃケイミーとの約束が違うもんね!」
「んナミさァん!!♡」
「ふっ、ナミらしくていいと思う」
わたしも頑張ろう!
一先ず、魚人たちに捕らえられたケイミーさんの救出から、とまだ頭の上にかかっていたヴェールに手をかけると、ルフィから止められる。
「アンリはまだそれ被ってろ」
「えっ、なんで!?」
「バッカだなぁーー、お前がそれ取っちまったらあの空飛ぶ魚が出てこねぇじゃねェーかよー!!おれァアレに乗りたいんだ!」
ケイミーはおれが助けるからよ!!と、言葉を残して魚人たちの元へ一目散に駆けてしまった。…物凄い私利私欲だけれど、船長からの初めての命令だ。
ぶすくれたまま静止したわたしに対して、ロビンさんが腰を折って耳打ちしてくれた。
「確かに、彼らの前ではそれを取らない方がいいわ」
「でも、わたしもみんなと戦いたいのに…」
「アンリがそれを取ってしまえば、敵の魚人たちにも龍神族であることがバレてしまう。
もし、トビウオに乗っていた人達にも知られてしまったら、また捕まるかもしれないわ」
確かに。
ルフィは絶対思い付いていないだろうけれど、相手のトビウオライダーズ?という人攫いグループにもバレてしまう可能性がある。
だが、そうなると完璧に戦闘不参加になっちゃうんだけど…。
ルフィがケイミーさん達を奪い返して、声が上がった。すぐさま、ゾロさんに檻とロープを斬れと指示を出すと、戦闘に猛り出すゾロさんは意気揚々と刀を鞘から抜いた。
「麦わらァ気を付けろよ〜〜〜〜!!!
もうお前らも罠の中だ!!トビウオライダーズが海中から囲ってるぞ!!」
「海からでも空からでもかかってこい!
暴れてやるぞ〜〜〜〜!!!
野郎共ォ!戦闘開始だーー!!!」
「「「「「うおおおう!!!」」」」」
それがスタートの合図になったのか、海の中から唸り声のようなものが響く。それはみんなにも聞こえていたのか、くるぞ!と特に戦闘面で遺憾無く力を発揮するゾロさんとサンジさんは飛び出した。
タイミングよく、人を乗せたトビウオが海面から勢いよく飛び出してくる。わたしは恨めしそうにただ空を泳ぐ魚群を睨みつけた。
「あーぁ、みんなのお役に立ちたかったなぁ…」
わかっている。
わたしが捕まってしまえば、お役立ちどころか迷惑を塗り重ねてしまう。つまり、実質的な戦力外通知だ。もう海からも離れた室内にいた方が邪魔にならなくていいのかもしれない。
ぼんやり空を見上げていると、丸くて黒いものが降ってきた。
「あ、れって………?」
「うわっ爆弾!!!投げ込まれた!」
「ッアンリちゃん、下がって!」
上の階の手すりからサンジさんが力強くジャンプして、そのまま爆弾を蹴り飛ばしてしまった。サニー号の周りで喧ましい(けたたましい)程の爆発音が鳴り響く。
サ、サンジさんが気づかなかったら、今の攻撃で吹き飛んでたかもしれない。いくら戦闘に参加出来なくとも、わたしにはわたしのできることがあるかも知れない。
それなのに、腐って敵との交戦中にぼんやりしているだなんて、海賊が聞いて呆れる。もっとしっかりしなくちゃ!
頬をパシパシと叩いて気合を入れてると、空中から帰ってきたサンジさんが慌てて駆け寄ってくる。
「アンリちゃん!怪我はない!?」
「ありがとうサンジさん、かすりもしてないから大丈夫だよ」
「よかった…。——ったく、レディに当てやがったら、生かしちゃおかねェぞ…!!」
「ヒョワ……」
物凄い剣幕で空を睨みあげるサンジさんに、思わず肝が冷えた。も、もしわたしが当たってたら、戦闘現場が殺人現場になってたかも知れないのか……。治るとはいえ、色んな意味で怪我には気をつけよう。
「帆を畳んで!邪魔になる!!」
「…あ、わたし手伝う!」
「オウ!!こっちだアンリ!」
フランキーさんと帆を畳んでいると、やはりというかなんというかルフィがあのトビウオに飛び乗っていた。ここからだと楽しそうな顔がよく見えるなぁ。
「なにやってンだアイツぁ」
「さぁ…。あ、手ふってますよ。ちょっと楽しそう」
激しい戦いの中なのに、ルフィときたら楽しそうでわたしも思わず笑っちゃった。
しかし、浮ついた気分も束の間。潜るぞ、という通信が聞こえてすぐにトビウオは急降下。
そのまま海へと潜ってしまった。
ヘルメットを被らず、しかも悪魔の実の能力者であるルフィは勿論、溺れてしまうだろう。
脳内ですぐに出た結論に頭より先に体が反応してしまい、前のめりになるわたしをフランキーさんが間一髪支えてくれた。
こ、今度は落っこちるとこだった……。
「お前はここで焦らずゆっくり帆を畳んでろ。おれ達ァ船乗りだ、泳ぎはスーパー得意ってモンよお!!」
機械仕掛けの大きな手で撫でつけられて、そのまま下へ降りていくフランキーさんは、やっぱり兄貴ッ!って感じだ。
ただまあ、そんな事をしてたからかルフィ救出に出遅れてしまい、先立って助けに行ってしまったブルックさんを助けるチョッパーさんを助けるナミとフランキーさん、という図が出来ていた。……なんだろう、ミイラ取りがミイラになる、を体現したのかな?命懸けの遊び過ぎない?
取り敢えず、麦わらのジョリーロジャーが描かれてあるメインの帆と、後ろの帆も畳めた事だし甲板へ戻ると丁度ウソップさんが大砲でトビウオ撃ち落とし大会を開催してた。
一発で命中させるあたり、さすが狙撃の王様と呼ばれるだけはあるなと拍手をするとウソップさんとチョッパーとハイタッチして盛り上がった。
きちんと参加はできないけれど、なんだかお祭りみたいでやっぱり楽しい。(後ろでサンジさんが歯噛みしている気がするけど。)
上空にいるトビウオライダーの通信がチラリと耳に入る。しかし、意味がわからない。
「チョッパー、ゼロファイトって何か分かる?」
「…いや、おれもよく分かんねぇけど。その後、医療費が100万だとかも言ってしなんかイヤな予感がする…」
警戒しながら通信の意味を考えていると、一人の巨漢なライダーズが大金棒を振り回してこちらに向かっているような。目が合うと、にやりと口角が上がった気がした。
「なんかでっけーヤツが来たぞ!」
「あいつハンドル持ってねェ!!まさか“体当たり”ってこっちゃねェだろうな。あの速度と巨大で突っ込まれちゃ船がもたねェぞ」
「でもそれって…」
普通の、海に嫌われていない人間が海賊船より頑丈なはずがない。己の怪我も厭わない攻撃を、電波の向こう側にいる人が指示して、金棒を振り回しているあの人はそれを100万ベリーで受けた、という事になる。…正気の沙汰じゃない。
「…おい、ルフィお前魚の方いけよ」
「おおよしきた」
なにを意図した会話なのか全くついていけないが、ルフィとサンジさんは少しストレッチをした後、思いっきり助走をつけて、こちらに神風特攻よろしくな捨て身タックル中のトビウオに向かって飛び上がった。
「思い知れ!
この速度で落下する巨体の破壊力は“隕石”にも匹敵する!!」
「破壊力が増すのは、飛んでるお前も同じだ!」
サンジさんはスマートにトビウオの上を目掛けて金棒を振り回す巨漢な男の顎に蹴りをキメ、ルフィはゴムゴムの実で風船のように膨らむとそのクッション性を利用して自分の腹にトビウオを沈めて、鞍を掴むとジャーマンスープレックスをかました。
「す、すごい!カッコいい……!!」
「二人共カッチョイ〜〜〜イ!!!」
チョッパーと2人で興奮してると、着地したルフィはトビウオを今夜のおかずとして紹介してくれた。この子達には直接的に恨みはないが、色々やってくれたし食卓に並ぶのが楽しみだ。(なんだかんだ魚料理も久しぶりだし二倍楽しみ)
ほぼ音を立てずに着地したサンジさんは、紫煙をくゆらせてトビウオをまじまじと見ていた。
興奮状態のままサンジさんの元へ駆け寄った。
「サンジさんすごいね!」
「レディのお気に召したようで何より。そんじゃあ、…おれともやってくれる?」
すっと両手を開いて前に出すサンジさんに、先程のウソップさんとのハイタッチを思い出した。理解するよりも早く、パァアっとわたしの表情は緩くなり、わたしでも届くように低い位置で待っている線は細いがしっかりした手に向かってぱちんっと軽快な音を立ててタッチした。そういえばさっき、サンジさんったら歯噛みして羨ましがってたもんね。
興奮状態でニコニコなわたしは、何を思ったのかサンジさんの肩を掴んで背伸びをすると、こそっと手を当てて耳打ちした。
「さっき、すごくかっこよかったよ…!」
「エッッッ♡♡♡!!!!??!」
「うわ、サンジが溶けたッッ!!
アンリお前何かしたのか!?」
「ええっわたし!?してないっ、むじつだよ!」
デッキの芝生を赤く染めるサンジさんを、ゴリラモード(仮)のチョッパーが介抱していて、わたしはおろおろとその場を眺めることしかできなかった。いやだって、まさかあんなことだけで鼻血出すと思わないじゃない…!!
「アンリ、なにサンジくんのことノックアウトしてるのよ!戦うヤツ一人減っちゃうでしょ!」
「あぁう、ごめんなさい…???」
「うふふ、まあいいじゃない。少し休ませてあげましょう」
「はぁ〜、……どうせ上空の魚達を撃ち落とさなきゃ敵の親玉倒せないんだし、いいか」
ナミがチョッパーを引き連れて見張り台から攻撃するらしく、「その間、サンジくんは任せたわよ!」と残して行ってしまった。
こんな所で寝ていたら危ないから、とロビンさんが隅の方まで寄せてくれたけれど…。
「…かいほうって、したことないんだよね」
不安しか煽らない言葉が漏れ出てしまって、咄嗟に口を噤んだ。こんなことならチョッパーに弟子入りしてるんだった。
しかし、とにかく鼻血だ。まだ少しだけ流れている血をティッシュで拭って、濡れタオルを作り額に乗せた。
「あ、でもその前に、かいほうってくらいなんだから…」
おそらくサンジさんなら怒らないだろうとたかを括り、まるっこい頭を持ち上げて、心の中で貧相な身体でごめんなさい、と呟いてから間に私の太ももを滑り込ませた。
意外にもサンジさんの金色の髪は細くて柔らかいからちくちくしない。さらさらとした手触りが楽しく、ついつい何度も撫でてしまのだった。
*
アンリちゃんがあのヴェールを被ってから、やけに様子がおかしくなった。
けど、馬鹿なおれはアンリちゃんのヴェールを被った姿を見て、どうしようもねェ将来の願望と、あのクソオヤジの顔が同時に浮かんで盛大な舌打ちをしてしまった。
あ、いや、アンリちゃんに向かってじゃない。目を逸らしたのだって、嫌な顔を向けたくなかったからだ。
しかし、彼女の不安を助長させるだけになっちまったみてェで、ロビンちゃんにも怒られちまった。
体質を変化させるっつー魔法のヴェールだ。後々どんな悪影響を及ぼすかも分かんねェ。
一先ずアンリちゃんの気持ちを浮上させる為のドリンクを作って、彼女が居づらそうにちょこんと座るベンチへ足を向けた。
芝生がなる音で気が付いたのか、俯きがちだった視線を上げて純白の向こう側にある深いブルーの瞳と目が合った。それだけでどくんと、おれの心臓が大きく揺らぎ、血が熱湯みたいに熱くなる。だがここでメロリンすると格好がつかねェからひた隠して、なるべくスマートにアンリちゃんの隣に座る許可をとった。天使も裸足で逃げ出す程心優しいアンリちゃんは、少しだけ隣にずれて俺が座るスペースさえも確保してくれた。本当、なんて優しいんだ。
さっそく喜んで欲しくて、先程手早く作ったドリンクを渡した。
「あ、の。これは?」
「ああ、まだ敵さんの所にゃ着かねェだろうなと思って淹れてきた、おれ特製のスペシャルドリンク南国風でございます」
「ありがとう、ございます…?」
からりと氷が冷たい音を立てている。柑橘系の果物とブルーハワシロップ、バタフライピーをブレンドしたおれ特製のドリンクがお気に召したようで、グラスを覗く瞳は弓なりに細まった。ああ、こんなにも美しく可憐で優しい女の子に、さっきおれは何をした?心細くしな垂れている彼女に、おれはなんてことを…。
「……それ、アイツから貰った龍神族の体質を無かったことに出来るっつー魔法のヴェールだろ?アンリちゃんが被ってる姿見て、あのクソ親父が夢に出てきたって、前に話してくれた時のこと思い出しちまって。目、逸らしちゃったんだ。……気を、悪くしたかい?」
「い、いえ!!でも、いつもならまじまじと見つめてくるのに、……だから、わたしの方こそ何かしちゃったのかな、って」
「いや本当、それはねェから。」
そんなことを、万に一つもありえない。
なんたって、アンリちゃんが海を恋しく思おうが帰せそうにない程、おれは君に恋焦がれているんだから。
きょとんとした表情でおれを見つめるアンリちゃんに、くすりと笑いが溢れた。
ありきたりな理由を口から滑らせて、おれはなんの迷いもなく彼女の手を取り跪く。
こうして本当のナイトのように、アンリちゃんをずっと守れたらいいのに。
「…なんせ今からアンリちゃんの初陣だ。怖い思いもするだろうが、おれが君を守るから」
「…あ、え、その、」
「ハハハ、ヴェール被ってても分かるくれェ顔真っ赤だな。……っんとーーに、」
「…???」
本当に、君はおれの心を掻き乱すのが上手い。
レディと見れば心が高鳴り、何に置いても守りたくなるおれだが。
アンリちゃんといるとどうしてこう、必要以上に構いたくなっちまうのか。どうしてこんなに、縛り付けておきたくなるのか。
騎士道にあるまじき事だと、分かっているのに。
水面に揺らぐ日差しのように、どこか眩しく心地の良い微睡から意識が浮上した。
もう少しだけこのままでいてェが、何か忘れてるような……?
まだ覚醒していない脳みそをぐるりとまわし、チーンと鼓膜の奥で音がしたと同時に、現在の状況を思い出した。ガバリと起き上がると周りで仲間が戦っていたのだ。ああ、おれは何をやらかした…?また女性の敵と戦ったか?
キョロキョロと見回すと、後ろから夢の中でもしていた声が聞こえた。
「あ、よかったサンジさん。
やっと起きてくれた」
「アンリちゃん、おれァ一体…」
「えーっと、…そ、そうそう、わたしと話してる時に、急にたおれちゃってね!人手が足りないのにってナミがもうぷんぷん怒ってて、でもサンジさんがまだ起きそうにないから、チョッパーに代わってわたしがかいほうしてて」
「アンリちゃんの、手厚い、介抱…!?」
「てあつくないてあつくない!
わたしたいそうな事はなにもしてないの!
サンジさん、鼻血出してたから、ちょっとすずしい所で、ひざまくらくらいしか思いつかなくてね」
「ッッッッエ!!?」
アンリちゃんの、その細くて頼りない、柔らかそうな太ももで、おれ、おれを優しく…!?
目の前にあるさらけ出された太ももに、少しだけ何かが乗っていた跡がついており、それがおれの想像力をさらに掻き立てた。こ、言葉にならない……。なんだ、そのご褒美は…!!!
今日が命日であっても理解できる程、おれは幸せ空間にいたようだ。クッッソ!!感触を覚えてないことが悔やまれる…!!
後悔と興奮で鼻血と涙が出そうになるが、ダンダンと地面に拳を打ちつけてなんとも言えない衝動を殺したし、理性を総動員させて深呼吸もすればなんとか落ち着く心臓。
しかし、その振動を受けたアンリちゃんから、どんなスイーツよりも甘く、落ち着いた理性がぐらりと揺さぶられる上擦った声が聞こえた。
「っんぁ…………へ、??」
「……あの、アンリちゃん…、今のって、」
「い、いや、今のはね、その足がビリビリしてて、変な声が出ちゃっただけで…!」
「それならおれが揉んっへぶ!!?♡♡」
「戦闘中になにやってんの!!!!」
後頭部にキマった強烈なチョップは、暴走しそうだった本能を強制的に終了させてくれた。
視線だけで確認すると、やはりナミさんで。おれは心の底から感謝の念を送った。
もうちょっとでエロエロな展開になりそうだったし、ナミさんがいうように戦闘中だし、それになによりアンリちゃんに嫌われずに済んだ。本ンン当にありがとうナミさん…!!!!
ただまあ、ナミさんからはとても冷ややかな目で見られてしまい(いや、おれにとってはこれもご褒美なんだが)、「ちゃんと働かないと、今後アンリと2人きりにさせないわよ」と、敵意に満ち溢れたお言葉をいただいた。
ガンバッテハタラカセテイタダキマス…。
(純白の先に恋焦がれる)