シャボンディ諸島編
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サンジさんが持ってきてくれたパーカーはちょっとだけタバコの香りがした。
「洗ったから綺麗だと思うんだが、臭かったら着なくていいからね?」
「……んーん、これがいい」
ものすごくベタだけれど、サンジさんが抱きしめてくれてるみたいで心臓がそわそわする。
腑抜けた顔を隠すために袖で口元を隠すとやっぱりタバコの香りが鼻腔をくすぐった。
「アンリちゃんがそれでいいならいいけど、…あんまり嗅がねェでくれ。ドキドキしちまうから」
「あ、ぉ、ごめんなさい」
いくら安心できるいい香りだからと言って、さすがに嗅ぎすぎたら変態だ。やめておこう。自重、大事。
気を取り直してタルトだ。粗熱も取れただろうから、と差し出されたホラー梨のタルトは艶々と宝石の様に輝いている。
一つお皿に切り分けられていた分を私に差し出してどうぞと微笑まれた。
そういうところなんだよなぁ…。
頬の赤みを隠す様に、フォークで一口サイズにして口へ運んだ。その瞬間、タルトの香ばしさと、梨の甘味が口いっぱいに広がる。
「お、おいしい…!!!」
「そうか、よかった」
「うん!ホラーなしって言うからてっきりちよっとこわい見た目なのかなとおもってたんだけど、きれいだし、すごくおいしい!」
タルトからバターの香りがしてサクサクで、とろっとした甘いところと梨のシャリッとした感覚が少しだけ残ってて…!!手が止まらなくなり、あっという間にお皿の中は空っぽ。
「ハッ!!…ご、ごめんなさい!おいしくて、気がついたらなくなってた……!!」
「っぷ、はははは!
そりゃあ何よりだ!手が止まらないってのは、
眩しい笑顔を見せてくれたサンジさんは、まだ余波があるのかふつふつと笑っていて。
その笑顔は好きだけれど笑われるのはとても恥ずかしい。絶対食いしん坊だと思われてる。
「なにもそんなにわらわなくても…」
「あぁ、悪ィ。っくく、にしてもアンリちゃんは甘ェもん好きだなぁ」
「だ、だって、海で食べるものってだいたいしょっぱくなっちゃうんだもの」
「そっか…。じゃあアンリちゃんには、今までを埋める為に、とびきり美味いお菓子つくんねェとな」
きっとサンジさんはわたしへの同情が大きいのだろう。海で生まれ育ち、冷たくてしょっぱいもの以外あまり口にしたこと無い小さくて貧弱な子供。
同情や、哀れみが大きくて当然だ。しかも、こんなに優しい人なんだから。
なんだが弱みにつけ込んでしまったみたいで、罪悪感を感じてしまう。
「…そ、そろそろナミたちにくばりにいこっか」
「あぁ、」
サンジさんはわたしの頭を一つさらりと撫でると、ホラー梨のタルトの配膳をトレーの上に置いていく。
ずるいなぁ、そうやってまたわたしの心を癒そうとしてくるんだから。触れられた部分を手で抑えて、わたしも配膳を手伝う。
「んナミさ〜〜〜ん♡
スリラーバークに生ってたホラー梨のタルトが美味しくできたよ〜♡♡」
「おいしいおやつだよ〜!」
「わー!おいしそう!!」
ラブハリケーンまっしぐらと言うように、ナミ目掛けてすっ飛んでいくサンジさん。
わたしもチョッパー達の分が載ってるトレーを持って、みんなを集める。
ナミも一口食べるとおいしい、とパクパク食べてたので、やっぱり気が付くとペロっとなくなってたわたしは食いしん坊じゃない。チョッパー達もガツガツ食べてるし。
「だけど、困ったわ」
「また“空島”の時の行き詰まり再開だな」
「そうなの…。進むべき方角は分かってても到達の手段が分からない。どうやって行くの?“魚人島”」
「やっぱり、わたしが下を見て…!」
「アンタだけ魚人島に行けても意味ないでしょ?却下」
ぺちん、とナミにデコピンを喰らってしまった。うぅ、確かにそうだけど…。
そうこうしている内にシャークサブマージ号が帰ってきた。潜水艦に乗っていても、ルフィの声はよく響く。
「出たぞーーーー!!
「おかえり、ごくろう様!」
「だめだ全然海の底も見えねェや!本当にあんのか?魚人島!!」
「ヨホホホ!潜水艦、初めて乗りましたー」
「もっと下なら着く前に死んじゃうわ」
潜水艦組は深海の感想を口々に言うが、どれも魚人島への道標には至らない。
ナミも魚人島のことを教えてくれたローラという女性にもう少し聞いておけば、とらしくもなく漏らした。
すると、突然シャークサブマージ号近くから何かがザバァと上がってきた。
大きな体躯を海から跳ね上がらせて、獰猛な牙をにたりと見せた海兎だった。大きい、わたしより何倍もある。恐怖で体が震えて、足が動かないけれど、目は逸らさなかった。
わたしを見つけた海兎は一瞬身を固まらせたが、自棄になったのかピョォォン!と咆哮し突撃してくる。狙うは甲板だろう。
来るな、来るな、と心の中で唱えて睨むばかりだったが、ルフィは勢いよく腕を伸ばす。
「海の上で、おれに勝てると思うなよ。
ゴムゴムの〜、
大きな体だからこそ、ダイレクトにその拳を受けた海兎は鳩尾やられてしまったようで変な声を上げて後ろに倒れていった。
チョッパー達は、なにやら前に海兎よりも大きいものを見たらしく余裕をかましていた。わたしも早くそうなりたいものだ。
ルフィが殴った衝動で、海兎の口から何かが飛び出した。太陽を浴びて、わたし達に影を落とすそれは、見たことない。否、おとぎ話の中のみで知っているシルエットをしていた。
みんなが上を見上げ、まさか、と口々に唱えていると、飛び出してきたもの、二人が甲板へ落下した。
「きゃーーーー!!」
「ぬぁ〜〜〜〜〜〜♡」
「…ハッ!!」
「わーー!!サンジさんしっかりー!」
「!?なんか変なのもいるぞ!!」
運悪く、と言うのか運良くと言った方が正しいのか、サンジさんの上に落ちてきた落下物は、人魚とヒトデの形をした何かだった。
人魚の女性は起き上がると物凄い驚いた顔でサンジさんに謝罪するが、女性、しかも待望(らしい)人魚さんにもう既に目がハート状態だ。みんな人魚であることに驚いて、人魚の女性は人間がいっぱいいる事に驚いていた。どっちもわかる。
「消化されそうになってた所、助けてくれてありがとう!!私、海獣に食べられ易くって!かれこれ20回くらい!!何かお礼しなくっちゃ!——そうだ、たこ焼き食べる!?」
元気ハツラツを体現した女性は、ケイミーと名乗った。
あぁ、やっぱりこの子知ってる。
始まるのだ、あの戦争が。あの壮絶な別離が。
わたしは、どうしたらいいのだろうか。
この場に似合わない表情を抑えながら、ぐっと拳を固く握った。
「… アンリ、どうしたの?
そんなに握ると爪が食い込んでしまうわ」
「あ、いえ。だいじょーぶです、ロビンさん。それに、体質上きずにはなりませんし」
「そう…。眉間にシワが寄っていたから、サンジが取られちゃうって心配してるのかと思ったわ」
ロビンさんの茶化すような言葉に、目の前で繰り広げられているラブハリケーンと人魚さんを中心にみんなが集まる様を見つめる。
「あはは、なに言ってるんですかもう」
「ふふ、暢気なのね」
「?」
別に人魚さんが嫌ってわけじゃないが、なんかこう、胸騒ぎが収まらない。一息つきたくて、と心の中で言い訳を呟きみんなからそっと距離を取る。が、誰よりも先に渦中にいる人魚さんとばちんと目があってしまった。
「ぎゃぁあああああぁぁあ!!!!」
「ひっ、なな、なになになんですか…!?」
わたしを見て、またもや目を見開き仰天する人魚さんに声が裏返った。急にその顔はびっくりする!!だれだってびっくりするから!!
「あ、ごめんなさい!
すごく不思議な雰囲気のコだなってびっくりしちゃった!!」
「あ、そうだったんですね…。初めまして、人魚さん。アンリといいます」
「なんだオメー人見知りか?」
「だって、人魚さんって見るのはじめてだから」
嘘は言ってない。
海にいたときでさえも見たことないから。というか、魚1匹見たことなかったから。
「それにしても不思議だなー。
アンリの海洋生物除けって、人魚には効果なさそうなのに見たことねェんだろ?」
「住んでる海域が別だったとか?」
「んーー、海にいたさいごの方のきおくって、どうもあいまいで…。それに海流にのって流れてただけなので海域とかはあんまりかんけいない、かも?」
ナミとウソップと話していると、ケイミーさんの顔がどんどん青ざめていく。
はくはくと、まるで呼吸が出来ない金魚のよう。やっとのことで絞り出した言葉は、蚊の鳴くような声だった。
「…あ、あなたも、人魚なの?」
「あ、いえ、ちがくて。
わたしは龍神族って一族の、まつえい?です」
「「りゅ、龍神族ゥ〜〜!!!?!?」」
ケイミーさんと、ヒトデさんの声がリンクしてまた仰天された。
やっぱり海の方達にとっては、なんかこう、気持ち悪い存在なんだろうか。
「龍神族って、“あの”龍神族だよね!?」
「そうだぞ、龍神のおっさんにもあったぞ。面白かったよな〜〜!!」
そういうと、ケイミーさんは何故か座っていたベンチから降りて、芝生の上で土下座?をしだした。な、なにが起こってるの…??
「龍神族とは知らず、失礼なこと言っちゃってごめんなさい!!!!」
「ちょ、ちょっと顔あげてください!だいじょうぶ、だいじょうぶですから!!」
ね、と安心させるように笑いかけると、ケイミーさんとヒトデさんは何故か瞳に涙の膜を張り、堪えるように、……いや現実逃避はよくない。わたしをアイドルを推すオタクの眼差しで見つめ返してきた。
「あの!アンリ様!!」
「アンリ様!??」
「「サイン下さい!!!!!」」
(坂道を転がる石のように)