シャボンディ諸島編
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龍神さまの元を離れて何日か経ち、わたしはゆっくりと一味に馴染んでいった。
ロビンさんに時間があるときはこの世界の事を教えてもらったり、チョッパーのお手伝いをしたり。お洗濯や、お掃除をしたり。
働きすぎだと怒られて、ルフィ達と鬼ごっこしたり隠れんぼしたり。
……でも、まだあの時のサンジさんの真意については聞けてないんだよね〜〜!!!!
ズンズン高鳴る胸の音を手で抑えて、なんとなくあれ以来顔を合わせ辛くなったサンジさんのことを考える。
「……あそこから出してくれたってことは、本当にほしい、って思ってくれたんだよね?」
「とても素敵なアプローチね。
誰から言われたのかしら?」
「ぉわっっ!??ロ、ロビンさん!びっくりさせないでください!」
「ふふふ、ごめんなさい。
ただ、とても悩んでいた様子だったから。私で良ければ聞いてもいい?」
独り言を聞かれてた羞恥に、じわじわと赤くなっていく頬を両手でおさえた。
やっぱりロビンさんには敵いそうにないと思うものの、わたしだけでは消化しきれないこの事態に少しだけ手を貸してもらいたい気持ちがにゅっと顔を出した。次第に、あの、ともごもご口を動かしてしまった。
「…ロビンさんくらいきれいなら、あの、言われなれてるとおもうんですけど」
「うれしい、なぁに?」
「女の子としてほしいと思ったって、ど、どういういみとして、その、とらえたらいいんでしょうか?」
「………………」
「わたし、このふねにのせてもらう前は海の中でひとりぼっちで、その前は母と2人でくらしてたので…、男の人からそんなふうに言われたことなくて…」
前世のことはあまり覚えていないが、おそらくそこを含めたとしても、あんな素敵なことを言われたのは初めてだ。ましてや男の人をこんなに好きになったことはない。
それに、わたしは龍神族だ。
長く見積もってもあと10年も生きられない。自分の気持ちに折り合いをどうつけていいのかわからない。
「… アンリは、そう言われてどんな気持ちになったの?」
「え、」
「嬉しかった?それとも、不快だった?」
「そん、なこと!!
どんな理由であれ、あの人からもらうものは、なんでもうれしいです」
「じゃあそれをサンジに言ってあげればいいんじゃないかしら。きっと大喜びすると思うわ」
「…そうでしょうか?」
「えぇ、彼もきっと生半可な気持ちで言ったわけじゃないと思うわ」
そうだといいな、と思った。
やっぱりロビンさんはすごい人だ。一瞬で、この霧みたいに四散した気持ちをどうしたらいいのか分かった気がする。
「ン……???
わ、わたし、サンジさんから言われたって、いいましたっけ…?」
「うふふふ」
「ちょっと、ロビンさん!?」
バレてたらしい。伏せていた事も余計に恥ずかしくなって一気に熱が集まった。恥ずかしさを紛らわせるために、もー!と怒ってみるが、それを見てロビンさんは上品に笑うばかり。
「あなた達を見てれば分かるわ。
2人とも、ずっとそわそわしてるもの」
「そ、そんなに分かりやすいですか!?」
「ええ。ナミも何かあったって思ってるんじゃないかしら?
また相談してあげなきゃ、航海士さんが拗ねちゃうかもしれないわね」
拗ねちゃうナミも、拗ねちゃうって言うロビンさんも大変可愛らしいが!
ナミが拗ねたらまた幸せパンチを喰らう可能性が出てくる!それだけは避けないと…!!
………あと、サンジさんとお話ししないと。
また、心臓がとくんとくんと早足になってきた。
口元に手を当てながら、今後のことを考えていると、甲板の方からルフィがわたし達を呼ぶ声が聞こえた。何だかすごく興奮してる様子でずっと早く来いって言ってる。
顔を見合わせて、部屋から出ると目線の先は一面赤い壁に遮られていた。
「………え、」
「…やっとついたのね」
「おせーぞ!ロビン、アンリ!!
見てみろ!!!」
愕然としている中、大きく手を挙げてルフィが、やっとここまできた!と感慨深く声を張り上げる。
「ししし!!
誰1人欠けずにここへ来れてよかった!!」
「てっぺんが見えねぇ……!!!
でけぇ〜〜…!!!!」
「これが、
赤々とそびえ立つ土の壁は、わたし達を出迎えてくれているような、なんとも雄大な雰囲気に飲まれてしまう。
「なんだか泣けてくらァ…!!色んなことがあったなァ……!!」
「おれは物心つく前に“南の海”からリヴァースマウンテンを超えたらしいが、30年以上も前の話か」
「私は“西の海”から5年前、この海に入ったわ…」
「世界をもう半周した場所で、この壁はもう一度見ることになる。
………その時は、おれは海賊王だ!!!!」
高らかに放つその言葉は、自分に言い聞かせるでも、誇示するためでもなく、きっとこの海に、この壁に向かって意思表示をしているのだろう。
小さく笑う船長の背中を、ほかのクルー達は誇らしく眺めている。
その中、私は、ーーーこの光景を見て今更ながらに理解した。
しかしにわかには信じられなくて、信じたくなくて、膝から崩れ落ちた。
「おっと、大丈夫ですか?アンリさん」
「え、あ、はい。だいじょー、ぶ、です」
そうだ、なぜ今まで気が付かなかったのか。
みんなをチラリと横目で盗み見ながら思った。色々と、わたしの知っている、いや、よく“見知った姿”だったから、違和感がなかったのかもしれない。そもそも、そんな考えにも至らなかった。
ブルックさんがギターを握っていないこと。
フランキーさんがまだ人間らしいフォルムをしてること。
ロビンさんにまだ少しだけあどけなさが残っていること。
チョッパーがバッテンのついたハットをきちんと被っていること。
サンジさんの分け目が、左右逆なこと。
ウソップに髭が生えていないこと。
ナミの髪が短いということ。
ゾロさんの片目に傷がないこと。
ルフィの胸に、大きな傷がないことを。
思い起こせばヒントは色々あったのに、わたしは考え付きもしなかった。考えが足りなかった、ともいう。
「ここが、まだ“2年前”だなんて……」
大きくそびえ立つ赤い土の大陸は、さっきとは打って変わって嘲笑うようにわたしを見下した。
*
腰が抜けて動けなくなったわたしは甲板にあるベンチに運ばれてなんとかことなきを得た。赤い土の大陸を見ただけで腰を抜かすだなんて、とルフィとウソップに笑われてしまったのは言うまでもない。
しかし、問題はそのあと。
ナミは、わたしに伝え忘れてた!と可愛らしくぺろっと舌を出して悪びれる事なく(所謂テヘペロ!の表情が似合う人って本当にいるんだなぁって感想しか浮かばない。可愛いくて…)簡単に次の進路を説明してくれた。
そう、次の島、魚人島だ。
ナミの腕にある
その為、ルフィ、ロビンさん、ブルックさんがシャークサブマージ3号、潜水艦で海底探索に行くことになったのだ。
海の中ならわたしの専売特許!と、息巻いてさっきの衝撃をごまかすように護衛を名乗り出た。というのも、わたしの龍神族としての能力だ。
龍神さま曰く、「我ら龍神族は、海の神だ。故にこの海のどの生物よりも尊く強い存在。
アンリも薄々勘付いているのであろう?
お前が海で生まれ育って、一度も海の生き物を見た事がない、ということを」。
龍神さまはドヤ顔でそう言った。
確かに母と暮らしていた時も、わたしが身を任せて流れていた時も、海の生き物には会った事がなかった。それこそ魚や海獣、海王類、人魚、魚人など。見たこともないし、いるとは思ってなかった(魚はまだしも)。
龍神さまが言うには、理性ある海の生き物はわたし達を畏怖し、理性なき生き物は恐怖し近寄らないそう。
だからこそ、この——海洋生物除けと呼んでいる——能力で潜水艦という密室に、悪魔の実の能力者3人じゃ心許ないだろうと名乗り出たのだが、逆に説教されてしまった。
なんと、ルフィにまでも来るな!と怒られる始末。むーーん、とむくれ面のわたしの肩にサンジさんがぽんと手を置く。
「アンリちゃん、アイツらはアンリちゃんが心配でああ言ってるんだから。そう落ち込まねェで」
「分かってるけど、やくに立ちたくて…」
「…あ、そーだ。今からおやつを作ろうと思ってたんだが、それの試食してくんェかな?初めて扱う食材でどうしたもんかと思ってたとこなんだ」
「……わ、わたしサンジさんの作るものは、なんでもおいしいって言っちゃうよ?いいの?」
「ゔぐっ……!!!
あ、ああ、勿論だ!むしろアンリちゃんのお墨付きならみんな満足できるだろう」
しゃがんでくれたおかげで、優しい瞳と目線が絡み合った。気を遣われてるって知ってるけど、心地いい。沈んでいた気分もいつの間にか浮上していった。
「なにつくるの?」
「あーースリラーバーグってとこに生ってた梨なんだが、コンポートとタルトどっちがいい?」
「タルト!!」
「ははっ、りょーかい。じゃあちょっとだけ時間かかるから、アイツらと遊んどいで」
サンジさんが後ろでに指さしたのは今から遊ぶ気満々で海パンを履いたウソップと、浮き輪をもったチョッパーだった。
「やきあがるまで見てようかと思ってたんだけど…」
「可愛い子にずっと見られてたら緊張しちまうよ。出来たら一番に呼ぶからそれまでゆっくりしてな」
丁寧にわたしの頭を撫でたサンジさんは、それでも有無を言わせずキッチンへと入っていった。スキンシップが前よりスムーズな気がする…、子供扱いだからかな?
気を取り直して、サンジさんが言ったようにウソップ達に遊んでもらうことにした。
どうやら、フランキーさん発明のびっくりプールというもので遊ぶらしい。海の上でプール…、楽しそうだ。
「あれ?そいやぁ、アンリ。
お前水着ねェんじゃねぇのか?」
「アッ!!今までテキトーな服きて泳いでたから、水着のそんざいをわすれてた…!!」
「いや、流石にダメだろ」
「ふっふっふ!
そんなこともあろうかと、アンリの水着買っといたのよね〜!」
キラーンと瞳を光らせて、ナミがしたり顔で言う。どうやら前の島でわたしの服をしこたま買ってくれた時に、ついでに購入してくれたそうだ。天気以外に未来も予知できるのかな?この航海士は。
ナミに言われるがまま女部屋に行き、恐る恐る綺麗なクローゼットに手を伸ばし、言われた通り奥にあった袋の中を見た。
そこには、なんとも可愛らしい水着があったのだ。
「おぉ〜〜〜!!」
ビキニタイプではあるが、わたしのような凹凸があまりない人種には有難い作りの水着だ。
薄いミントグリーンの生地に白いシースルーのフリルがふんだんにあしらわれていて、パンツ部分もレースがあるお陰で短いスカートのようになっていた。
海の中でも母が陸で買ってきた大きなワンピースを着てたし、ここに来てからもナミとロビンさんのお下がりをきてアクアリウムを漂っていたのだ。有難い、大切に着よう…。
折角だから髪もポニーテールにしてみた。量が多いし長いしであんまり意味はないだろうけど気分の問題だ。
さっそく甲板に戻ってナミにお礼を言えば、「似合ってるじゃない、よかった!あ、お代は水着の元値×3倍ね」と目をベリーにしてきたので苦笑いを返しておいた。どうやって払おう…。
あとは何故かサンジさんに見せると面白いことになりそうとウキウキしてた。
仲良しダナーーー(遠い目)
チョッパーとウソップと合流してびっくりプールに入ると、水温が低くて気持ちいい。
「アンリ気持ち良さそうだな!」
「うん、きもちーよ」
「アンリがいりゃあ、チョッパーが溺れても安心だな!」
「まかせて!誰が溺れてもたすけまくるよ!」
わははは!と楽しく泳いだり、水中で睨めっこしながら遊んだ。
暫くすると、シャークサブマージ組から連絡が入ったと聞きつけてわたし達は甲板に戻った。ルフィとロビンは落ち着いて楽しそうに深海探索をしてるようだが、ブルックさんは海獣に怯えて悲鳴を上げるばかりだ。
心配でそわそわと焦るわたしに、キッチンからお声がかかった。サンジさんだ。
「なしのタルトできたの?」
「ああ、焼きあがったぜ!ぜひ味見を……、うぉぉお〜〜〜〜!!!!!♡♡
な、な、な、なんて格好をしてるんだいアンリちゅわん!!!♡♡♡」
「わっ」
サンジさんの久しぶりのメロリン状態に、驚いて声を出してしまった。こうなったサンジさんは暫くメロリン状態が続く。
しかし、いつものように触ってこなくなるし、周りをハートを飛ばしながらクルクル回るだけなので心臓には優しい。
「惜しげもなく晒け出した生足!腕!!
おれを虜にしたいならそう言ってくれればいいのに〜〜♡♡♡」
「おしげもなくって、べつにおしいものじゃないからね…」
「ンン〜〜〜〜!!!人魚姫も嫉妬するほどの可憐さだ…!!
プリンセス、ホラー梨のタルトをどうぞ」
その場で跪くサンジさんにも慣れたもので、笑ってその場を凌げるようになった。
けれど、わたしの右手をきゅっと取るサンジさんの瞳には、もうハートがなくなっていつもの真剣な眼差しに戻っていた。
「……しかし、他のヤローも見るんだと思うと、一層の事アンリちゃんをどっかに隠したいだとか、どうにかしてその可憐な姿を独り占めできないか考えちまうな」
「ぁ、わ」
「紳士的でいたいおれにとってすげェ猛毒だな。なにか羽織って頂けると嬉しいんだが、嫌かな…?」
眉をハの字にさせて困った、というポーズを取ってはいるが目の奥にギラついた何かが身を潜めてる気がした。
伝播するように顔も体も熱くなる。熱に犯される、というのはこういうことを言うのかもしれない。
「……パ、パーカーとか、もってないので…、サンジさんのかしてくれたら、うれしいかな」
「ン"、…それはそれで毒だな……。
まあ、ムシ除けにもなるし、他のヤローにこの格好見られるよりマシか」
ちょっと待ってて、と足早にキッチンから出ようとしたサンジさんの背中を見て、あ、いまだと本能が告げた。そのままの勢いで袖をきゅっと掴むと、優しく振り返るサンジさんの顔。
ほ、本能的に掴んだけど、ど、どうしたらいいのか…!!!
あわあわと口を動かしていても、ゆっくり言いたい事を待ってくれる優しさが滲みる。
勇気を少し、振り絞ってもいいだろうか。
「ぁ、の」
「なぁに?」
「あの、ね。サンジさんが、あの水槽からつれだしてくれた時、言ってくれたことば」
「……あ、あぁ。あれかい?
あれなら、アンリちゃんの重荷になるだろうし、忘れてくれ」
「わ、わすれない!!」
「?!」
わたしの勢いに少々たじろいでいるようだけれど、そんなの構うもんか。
「わたしはね、とってもとってもうれしかったの。あんな別れ方したのに、こわい思いもさせたのに。それでもわたしを欲しいって、思ってくれて、うれしかったの」
「アンリ、ちゃん」
「今はどうこたえていいのかも、どうするべきなのかも分からないけど…。
あの言葉だけは、もらったまま大切にしててもいい、かな?」
「……ああ、そうしてくれたらおれもとっても嬉しいよ」
サンジさんのブルーの瞳が優しく微笑んで、わたしも合わせて笑った。やっぱり素敵な人だ。
パーカーを取りに行ってくるから待っててね、と頭を撫でてから改めて出ていく背中をぽぉっと眺めた。
閉まる扉を背に、サンジさんが顔を赤くして天を仰いでいる事も知らずに。
(ことのはの魔法)