龍神族編
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マリンスノーが一頻り降った後、積もる事なく影も形もなくなった。あれはもしかしたら夢なんじゃないかってくらい、儚くて綺麗な景色だった。
未だ空を見上げて茫然とする龍神さまに、次のかける言葉が見つからなかった。
突然、龍神さまの目の前に蹲み込んだのはルフィだった。
麦わら帽子で顔はよく見えなかった。
「おい、おっさん」
「……なんだ、悪魔の実の若造」
「アンリは貰ってく。いいよな?」
「本来で、あれば。おれと契らずとも海で療養してほしいところだが、あやつもそれは望んでおるまい」
「おれはアンリと冒険がしてェ!!
アンリはどうだ?!」
急に話を振られてわたわたとしてしまったけれど、サンジさんが大丈夫、と笑ってくれたから、それを真似て笑ってみせた。
「…わたしも、みんなと一緒に旅がしたい!!
この世界を、もっと好きになりたい!!」
「………っぬ"〜〜〜!!!!!
ぉ、お、大きくなりよって〜〜!!!!」
先ほどとは打って変わって鼻水を垂らしながら汚い泣き顔を見せた龍神さまに、思わずぎょっとしてしまったわたしは悪くない。
おうおうと咽び泣く(うるさい)龍神さまの背中をばんばんと叩くルフィは、本当に怖いもの知らずなのだなと改めて思った。
「んぬ、…… ずび、アンリよ。
いい仲間を、見つけたな」
「〜〜!!でしょ!」
ニッとお互いどこか似た笑顔で笑い合う。
きっとこれで大団円だ。
船で待機してた組もなんだなんだと集まってきて、ようやく全員の顔を見れた。みんな口々にわたしのことを心配したぞとか、無事で良かったと言ってくれた。
チョッパーは特に、「化け物って言われて、ツライって分かってたのに、あの時何も言ってやれなくてごべん〜〜!!」と泣きながら駆け寄ってくれた。
「……それは、そうと。
さっきからその横のヤツはなんなのだ?おれを睨みつけてくるわ、アンリにピッタリとくっついているわ!!おのれはフジツボか!?」
「オメーがまたいつアンリちゃんを攫ったりしても動けるように、こうやってくっついてんだよ!!!」
「おおアンリよ!!こやつ、こやつ口が悪いぞ!!こんなヤツやめてこっちの悪魔の実の小僧にせんか?!あの忌々しい果実を食うているが、おれはこちらの小僧の方が好きだ!!!!」
「わははははは!!おっさんおもしれー!」
「もう!!サンジさんも龍神さまもおもしろいけんかしないで!!
…あ、あとサンジさんちょっと近すぎ!」
二人揃って青くなっている所を見ると、相性はいいらしい。そういえば、この二人優しすぎるところなんてそっくりじゃないか。
わたしが一味の船に戻った記念に宴をしよう、とルフィが言ったが龍神さまはそれを拒否した。名残惜しくなるから、と。
「アンリよ。お前が海以外で生活するのを止めはしない。だが、今から言うことは必ず覚えておきなさい。
一つ、治癒能力はあまり使うな。それはお前も理解した通り、元より短い寿命を削る物だ。心得よ。
一つ、もしまた痣が出たら今度は寿命が残り少ないと思え。何処にいようとおれが迎えに行く。
一つ、……痣が出ずとも助けて欲しければ、海に向かっておれを呼べ。愛しい子の頼みならばいくらでも助けてやろう」
「龍神さま、本当に子ばなれがにがてね」
「無理を言うな。
あぁ、あとこれをやろう」
ふわり、とわたしの手に収まったのは、真っ白のヴェールのような布だ。
レースが透き通っており、触ると溶けてしまいそうなほど綺麗。
「断絶のヴェール、といってな。
それを被っている間だけ、龍神族の体質が無効化される」
「え、どうしてそんなもの…」
「あの繭の糸のために試行錯誤している段階でな、間違って反対の効果が出る糸が生まれたのだ。……時間を持て余していた故、遊び半分でおれが編んだものだ。嫌か?」
遊び半分でこの美丈夫が編んだだなんて、そう考えると笑いが込み上げてくるが。
笑うな、と叱られるけれど想像の中にいる龍神さまが可愛らしいから仕方ない。
「それと、自由に旅をするのはいいが、子を成すことも考えよ。…お前には、あまり時間がないのだから」
「ああ、それなら大丈夫。
わたし、こどもは産む気ないから」
「な"ん、だと………!!!!??」
けろっと答えたわたしの両肩を掴み、がしゃがしゃと揺らす龍神さま。そ、そんなに驚くことかな?よく見ると、会話を聞いていた他の男性陣はだいたい固まっていらっしゃった。(ルフィは除く)
おう、この感性は現代っ子のそれなの?
「な、なぜだ!?そなた慕っているものがいるんじゃないのか!!?」
「い!?…それと子どもかんけいないじゃん!!
……だって、子どもをうむってことは、またこんな思いをする子がふえるってことでしょ?
わたしはわたしを、肯定してくれる人達に、ほんとうに運よくであったけど、次の子はそうじゃないかもしれない。
そんなの、かわいそうすぎるよ」
ゆっくりと微笑むと、龍神さまは力なく両肩から手を離した。この人にしてみれば、見守る対象が居なくなるってことだから、悲しいのかもしれない。
「……そうか。
いや、そうだな。………おれのせいで、都合の悪い身体に生まれてしまったのだ。
もう不幸な子を増やすことはない」
龍神さまは納得したのかそういって微笑んだ。
皆船に乗り込み、出発の準備が整う。
「またね、龍神さま!」
「ああ、また会おう愛しい子。
できれば、お前がゆっくりと年老いることを祈って」
波に乗って、サニー号と同じ高さまできた龍神さまは、その大きな手でわたしの頬に触れた。後ろが少し騒がしいけれど、今は許してほしい。
「…ありがとう、お父さま」
「……っ、ああ。お前の行先に、海の加護があらんことを」
龍神さまが大手を振ると、海は答えるように飛沫を上げて私たちの船出を祝してくれた。
*
“龍神の箱庭”を出て少しして、わたしは皆を見渡した。何かを待ってるかのように皆甲板にいてくれた。あの、ゾロさんでさえも。
意を固めて、胸の前で手を固く握る。大丈夫、この人たちなら。
「……あの、みなさん。
今回は、ごめいわくおかけしました!!」
「なっ、ちょっとアンリ!?私たちのそんな事言って欲しいからアンタを助けに、」
「ならびに!!!
迎えにきてくれて、ありがとう!!!!」
ナミの言葉を半ば無視して、わたしは続けた。頭を下げて、お礼を言う。
わたしは中途半端なことをして、結果的に巻き込んでしまったんだからこれくらいの謝罪は当たり前だ。だから、お願いをするのは、謝った後だ。
「一度ふねをおりたわたしだけど、また、仲間にしてくれますか!?」
声が裏返っても、嗚咽が混じっても、わたしはこれを言わないと本当にもう一度仲間にはなれない。ぷるぷる震える視界は霞んでいるけど、涙は溢さない。
わたしの小さな小さな意地だ。
「なぁに言ってんだ!!
お前はもう、おれの仲間じゃねぇか!!!」
ルフィがばしん!と大きく背中を叩いた勢いで、涙がぽろっと出てしまった。
「ばかやろーー!!ずっと仲間に決まってるじゃねぇかーー!」
「そうだぞー!
アンリが無事で安心したんだからなコノヤローーー!!」
「ええ、本当に」
「コンチクショー!!あんな身に染みるコト聞いちまったらよォオ!!!怒れねぇよバカヤローー!!!」
「ヨホホホホ、アンリさん。
ご無事で何よりです」
「ばか!!どれだけ心配したと思ってんの!?」
「ったく、世話かけさせやがって」
「にっしししし」
「アンリちゃん、メシにしよう」
「ゔん゛!!!!!」
日溜りが、暖かくて心地いい。
キラキラと眩しく輝く太陽。光が反射して、波が綺麗なドレスのような一面の海。
そして、だいすきな人達の姿が、こんなに近くにある。
これは皮肉な程綺麗な夢の続き。
わたしはまたあなた達のいる世界で、生きていけるの。
(色彩をくれた人)