龍神族編
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結論から言うと、あの後ナミさんにめちゃくちゃ洗われた。
そりゃあもういたる所をゴシゴシと。お風呂から出た後も髪を乾かしてもらったり、何某クリームを塗ってもらったり(強制的に)、マッサージをされたり。
なんなんだ…?と、某宇宙猫の顔になりながら、今は女部屋でくつろいでいる。
「……な、なぜこんな、いたれりつくせりだったんですか…??」
「私がやりたいからいーの。今日だけ特別なんだから」
「はぁ……」
「ふふ、アンリ。ナミはね、今日あなたを船に残してしまった事を申し訳なく思ってるのよ」
「あ、ちょっとロビン!」
焦って頬を少し染めるナミさんは、くすくすと笑うロビンさんの口を閉じようと必死だった。まあ、どこからでも口を出せるロビンさんの方が何枚も上手なんだが。焦るナミさん、可愛いなぁ。
わちゃわちゃと楽しい空気が、部屋を包む。
「ありがとうございます、なみさん」
「…どういたしまして!」
「でも、おふろで体あらうのはやめてくださいね。およめに行けなくなるので…」
「アラ、じゃあお婿さんでももらえば?
1人いいのがいるじゃない」
わたしの羞恥心なんてナミさんの中では塵と同じなんだろうなってくらい、めちゃくちゃ適当にあしらわれた。
ぐぬぬ、また同じ目に合うことだけはなんとしても、なんとしても、阻止しなくては!!
「…で?
アンタとサンジくん、いつの間に仲良くなったワケ?」
「な、なかよ、く?」
「そーよ!サンジくんには、敬語、とれてたじゃない」
それはきっと、宴中のちょっとした会話のことを言っているのだろうか。
「アンリちゃん、悪いがグラスとってくれねェか?」「は、は、はい、…これでいいの?」「ああ、あんがと」
ぐらいの本当に業務的で、しかもテンパった会話なのに…。
「あれは、その、お礼というか、あんまりにもさみしそうだったので、つい…」
「へぇ〜〜〜〜、あっそう。
なら、私の事もナミって呼んでよ。ちなみに、敬語はナシでよろしく!
今後敬語なんて使ったら、はっ倒すから♡」
「いちばんバツがおもい!」
そんなこんなで(半強制的に)ナミさん、改め、ナミとのお風呂タイムは終了した。
今のところわたしへ距離をググっと詰めようとするのは、ルフィ、サンジさん、そしてナミ。あとは、案外呼び方とか口調とかはどうでもいいみたい。ブルックさんがいるから慣れたのかも知れないけど。
ああでも、チョッパーさんからうずうずとした視線を宴の時に感じていたので、今後迫られる(言い方)可能性はあるだろう。
あのふわふわの毛並みと可愛い瞳で詰め寄られたら、ナミ以上に勝てる気がしない。
というか、母以外の人間と10何年も接してないわたしにはハードモード過ぎるんだよ!!
「ここの人たち、ぜったいきょりかんバグってる…」
「みんなアンリの事が好きなのよ」
「ろ、ろびんさんっ…!」
ひしっとロビンさんに抱きついたら、頭を優しく撫でてくれた。うぅっ、ロビンさんの母性に無条件でオギャってしまう…。
「…まぁ、好きのベクトルが1人だけ違うヤツもいるしねぇ」
「んぇ、だれのこと?」
「あんだけ分かりやすければ、アンタもすぐ気付くわよ」
「ホゥ………??」
「ナミ、全然気付いてないみたいよ。
金魚みたいに目を丸くして、(可愛いわ…)」
「はいはい、そろそろ寝るわよ〜。
明日は島巡りするんでしょ?」
ナミのその言葉に目を輝かせて、はい!と元気よく返事をした。
明日は念願の陸だ。
ルフィが言ってた串焼きの屋台とか、ウソップさんがみた巨大魚とか、チョッパーさんが明日行こうって言ってくれた本屋さんとか。陸に上がるのが楽しみすぎて、ギラギラに輝いた瞳をそっと閉じても全然眠くならない。
こういう時は、色々考えてしまっていけない。
色々、というのは。
まぁ、左手の痣の事もあるけれど、なによりサンジさんの事。夕方の、キッチンで顔が近づいてきた。まるで“キス”しそうな…。
ぎゅっと目を瞑ると、サンジさんの熱が籠った瞳が浮かんできちゃって心臓がまた暴れ出した。
「……(あそこで誰も帰ってこなかったら、してたのかな、--“キス”)」
自分の唇にそっと指先を添えて撫でてみるけど、あの時ほどの熱さはなかった。
ぱっと我に返ると恥ずかしくなってしまい、毛布を頭までかぶった。
「(わ、わたしってば、なんで、こんな…!!
もうやだ…!!!!)」
前世でも今世でも抱いた事のない感情に、じんわり涙がでてきた。
それでも夜は過ぎていく。ベッドの中で1人悶々と膝を抱える少女を置いて。
夜は過ぎ去り、朝日が頭を出す頃。わたしはやっと意識を失うように眠った。
まぁ、その数時間後起こされるんだが。
「アンリ、そろそろ起きないとお昼になっちゃうわよ」
「……ん〜〜、…お、ひる?」
「ええ、もうみんな朝ご飯食べ終わったわ。
ルフィ達なんて、貴方が目覚めるのを待ちくたびれてるわよ」
「……っええ!!?おひる!?」
「あら、おはよう。お寝坊さん」
バッと飛び跳ねるように起きると、ベッドの傍らに腰をかけながら本を読む、なんとも凛々しいロビンさんがそこに居た。
キョロキョロと辺りを見渡すと、窓からは眩しいくらい日が差し込み、ウミネコの鳴き声は空高くから降り注いだ。
わたしの脳が処理をし終わったあと、頃合いを見計らってロビンさんは一つ笑みをこぼした。
「わぁ〜〜〜!ごめんなさーーい!!!」
パジャマ姿で女部屋を飛び出して洗面台へ。
その道中に、甲板からおせーぞ!とルフィの声が。おはよーさん、よく眠れたかー?とウソップさんの陽気な声が耳に入ってきた。
「ルフィー!ごめーーん!
おはよーーーー」
「おー!早く食って出掛けるぞー!!」
「アンリ、転ぶからあんまり走るなよー!」
「はーーーーい!」
チョッパーさんからもお小言を貰ってしまい、急いで顔を洗う。
濡れたままタオルを持ってキッチンへ急ぐ。
だって、この匂いはきっとまだあの人がわたしのために待ってくれてるものだから。
ばたん!とドアを開くと、ちょっと目を丸くしたサンジさんが朝ご飯を温めながらこちらを見ていた。
「ごめんなさい、サンジさん!
おそくなっちゃった!!」
「おはよう、アンリちゃん。
……今日は随分と、その、可愛らしい格好だね」
「へ?」
その言葉に、自分の格好を上から見下ろすと。ナミのブラウスに、白いキャミソールが胸元から見えている。下は、サイズが合うのがなかったので下着以外に履いていない。
瞬間、ぼぼぼっと熱が走った。
あう、とか、あの、とか口籠もっていたらクスリと笑い声が聞こえる。
「こんな日が昇ってる時間にアンリちゃんのパジャマ姿を見られて、おれァ幸せモンだな」
「そ、そんないいもんじゃ…」
「おれにとっちゃ充分ご褒美だよ。
…それじゃあお寝坊さんなプリンセス、おれ特製のブランチでもいかがでしょうか?」
どこか芝居がかったお辞儀をして、サンジさんはキッチンの正面にある椅子を一つ引いた。
椅子を引いてもらうなんて、本当のお姫様みたいで、もぞもぞとおっかなびっくりそこへ腰かける。見上げると、ニッコリと笑いかけてくれた。う、まぶしい。
「紅茶はあったかいの?つめたいの?」
「じゃあつめたいので」
「りょーかい」
その声のあと、1分もかからないうちにほうれん草とベーコンのキッシュと、お野菜がいっぱい入ったポトフが目の前に現れた。
ほかほかと湯気が天井へ上がっていく様は、見ていて幸せになる。すん、と息を吸い込むといい匂いが肺と心を満たす。
サンジさんがコトンとアイスレモンティーを置くと、思わず声が漏れた。
「ふわ、…おいしそう」
「どうぞ、召し上がれ。」
「いただきますっ」
一口、二口。思った通り美味しくて、キッシュを運ぶ手も、ポトフを飲む喉も止まらない。熱いのではふはふ、と息を吹きかけて冷ましながら食べなきゃ火傷しそうだ。
夢中でブランチを食べているわたしの向かいへ座っているサンジさんは、何故かこちらをうっとりと眺めている、……気がする。
ちらりと見ると、またニッコリスマイルを向けられる。だから眩しいって!
しかし、なんだろう。こうもガン見されると言うことは、何かを求めてるんじゃなかろうか?という思考へ至り。分かりきっているであろう感想でも述べてみる。
「あ、えっと、…今日もおいしい、です?」
「はは、アンリちゃん見てればわかるよ。
今日も口にあって何よりだ、マドモアゼル」
本当に嬉しそうに笑うから、胸の奥がぎゅっと掴まれた音がした。
ああもう、心臓にわるいなぁ…。
ここには、わたしのお皿とフォークが擦れる音以外聞こえない。
とても静かで、でも居心地はわるくない。
もそもそと食べるわたしと、それを見ながら休憩しているサンジさん。
他人の食事シーンなんて、見ててもつまんないだろうに。
そんな疑問を抱きながら黙々と食べていると、キッチンの扉がバーン!と開いた。
「アンリ!よかった、やっぱりまだ食事中ね」
「んナミすわぁん!!♡♡♡
さっきぶり〜〜!!!!」
「おはよ〜」
「おはよう、じゃなくて!
アンタの支度を待ってる奴らがうるっさいから、手伝いに来たの!」
ぷりぷりと腰に手を当てて怒るナミは今日も可愛い。というか、日々可愛さが進化している。
これは、サンジさんからハートが飛び出しちゃうのも全力で分かるなぁ。
しかし、怒られてる原因がわたしにあるので、謝りながらも慌ててフォークを口に持っていく。
「あとちょっとで、食べおわるからまって!」
「あ、そーいやアンリちゃん、食後のプリンも用意してんだけど」
「ぷりん!?いただきます!」
「コラ!!ナニおやつまでまったり頂こうとしてんの!」
「だって、サンジさんのプリンだよ!?絶対おいしいやつだよ!!」
「サンジくんも甘やかさないでくれる!?」
「にょへへへ〜♡
だってよぉナミさん、あーーんな可愛い顔で美味そうに食ってくれたら、なんでも用意しちゃうって〜〜♡」
ナミとサンジさんの会話なんて露知らず、キッシュを咀嚼しながらプリンに想いを馳せた。
あんなに食材がシンプルで作り方も簡単なのに美味しいものをサンジさんが作ってしまうと、きっと目が飛び出るほど美味しいものになるに違いない!
期待しかない瞳でナミに訴えかけると、たじろぎ、ハァ〜とため息をつかれた。
「…もーいいわよ。じゃあプリン食べながら髪セットするから」
「へへ。ありがとう、ナミ」
「はいはい、お代は高いわよ」
「あ、……わたし、おかね、ないから。
(今だと)体でしかはらえないんけど、それじゃだめ、だよね…?」
瞬間、空気が凍りつく音が聞こえた。
わたし、なんか変な事言った?
海の中で暮らしてたんだから、そりゃお金持ってないよ!?ナミのことだから、きっと荷物持ちとか雑用でこき使うくらいのはず。さすがに売り飛ばさないと信じてる。
というか、この世界の単位ってベリーだよね?1ベリーは日本円でいくらくらいなんだろう?
換算率が分かっても単価とか税金とか色々違うだろうし…。陸に降りるって事は、単価も学べるって事だよね!?後でウソップさん辺りに詳しく聞いてみよう。
自己解決していると、両肩をがっしりと掴まれた。誰に?2人に。
「……… アンリ、アンタ身体で払うの意味分かってる??」
「いいや、ナミさん。アンリちゃんは純粋無垢な天使だからおそらく分かってねェ。
見てくれ、この通りすげーーーー不思議な顔してる」
「うわ……ありえない!ほんんとありえない!!情操教育がルフィ並で“コレ”って!!」
「全くだ。
アンリちゃん、それマジで心臓に悪ィから、今後は口が裂けても絶対ェ言わないでくれ」
目の前で教育ママのように怒っているナミと、真顔でエッそれ何の感情なの?と問いたくなるサンジさんが、口を揃えて「分かった?」と圧をかけてきたので頷くしかなかった。
何だこの人達、めっちゃ仲良しやん。
というか、今わたし仲良くディスられたよね?これが、この世界のいじめ…??
それでもご飯は食べ終わり、プリンを一口ずつ食べる。うぅ、やっぱり美味しい〜〜!とろける〜!!もはや飲み物だこれ〜〜!!!
でも空気が凄いことになってるから、誰か入ってきてくれないかなぁ〜〜…、無理かぁ。
まあ、そんなことを願ってみても、誰も助けにこない事はよく知っている。
ごちそーさまでした、と手を合わせたあと。
わたしは恥も外聞も掻き捨てて、ブラウスのボタンを上から一つ、また一つとゆっくり外していく。
あんまり下を向くと、横の髪が垂れ下がってきたので、垂れた髪は耳にかけた。
この後また叱られるんだろうなぁと、小さなため息を吐く。
2人ともギョッとした後、目がハートになっているサンジさんにあの、と声をかけた。
「サンジさん、その、今からきがえるので。
むこう向いてて…?」
「ドッキューーーーーーンンン!!♡♡
アッチ向いてまーーーーす!!!」
「アンタは外出てなさい!!!!」
何かが限界に達したらしいナミは、サンジさんを蹴り出してしまった。
一応、ここってサンジさんの城なので追い出すのは流石にかわいそう、というか本来であればわたし達が出て行く予定だったんだけど…と思ったのだが、息を乱して怒っているナミにそんなこと言えない。
そんなことしたら絶対噛まれる。
ほら、こっち向いた!やっぱこわい!!
「アンンタは本当に!!
無自覚!鈍感!天然魔性のオンナ!
ほんんとに無自覚な分、私よりタチ悪いわよ!?」
「うわぁ、わるぐちのれぱーとりーがすごい…」
「はぁ〜〜〜、アレがサンジくんだったからいいものの……。頼むから本当に他でやらかさないでよ?」
「だいじょうぶだよ、ナミ。
おうとつもないわたしに、あれだけはんのうするのは、ちょーぜつ女の子だいすきなサンジさんくらいだから」
「え、いや、まあ、サンジくんが特別ああなのは認めるけど…」
「でしょ?
ふふふ、ナミや、ロビン、さんみたいに、グラマラスじゃないから他でやってもげんなりされるだけだよ」
何を心配されてるかと思えば、そんな事だったらしい。なんだやっぱりわたしとは無縁じゃないかー、と笑い飛ばしてるとまたため息をつかれた。解せぬ。
サンジさんも外へ出してしまった事だし、取り敢えずお出掛けの支度を済ませる事にした。着替えも、ヘアセットの道具も、お化粧品も持ってきてくれていたみたいで、見たことないものに目を輝かせてしまう。
特に、スカイブルーのワンピース。
シフォンケーキみたいにふわふわで、スカートの裾の部分に所々ゴールドのレースが見えている。
あぁ、心が躍るってこういう気持ちの時に使う表現なのかと、改めて思った。
ブラウスを脱ぎ、ノースリーブのそれに腕を通す。海の温度に慣れきったわたしにとって、この島は暑い。だから涼しげなノースリーブなのかな。
後ろチャックはナミが閉めてくれた。
ウエストで切り返しになってスカートが広がっているから、あまり凹凸のないわたしでもシルエットが綺麗に見える。
今まで、ナミやロビンさんの服を貸してもらっていたから。サイズは勿論、スタイルがまるで違う2人の服は、ありがたいが“着られている感”がすごくて。それが、少しだけ惨めだった。貧弱な体だと、ずっと言われてるようで。
でも、今着ているワンピースはわたしの事を考えて買ってきてくれた、“わたしだけの”服。
嬉しいの言葉以外見当たらないのに、何故か目頭が熱くなった。
「服ひとつで何喜んでんのよ」
「ごめ、だって…」
「本命はこっちなんだから。
ほら、足だして」
言われるがまま、椅子に腰掛けたまま足を差し出すと、カチリと音を立てて何かがぴったりと当てはまった。
「ほら、アンタずっと裸足だったじゃない?
ロビンが気付いて買ってきてくれたのよ」
「あ、あぁ……」
「ワンピースはブルーだったから、白で爽やかなイメージにしてみたんだけど、どう?」
「…とっても、とってもうれしいです」
わたしの足には、白い貝殻のように小さいストラップ付きのパンプスが収まっていた。
歩きやすそうでヒールも低くて、爪先が丸い、可愛らしい靴。
白なのに汚れてなくて、この世を知らないみたいな靴。まるで世界を知らないわたしのようだ。それでも、歩けばこの白も汚れて、擦り切れてしまうことだろう。
わたしも、みんなと歩けるなら、いくらだって———。
*
服と靴くらいで泣かないで!化粧ができないでしょ!と言われても涙は出てしまって、結局あの後支度ができたのはそれから30分程後の話だった。
おずおずとキッチンから出ると、やっぱり「遅ェぞーー!!」とルフィに怒られた。
しかし、それ以外のクルーのみんなはわたしの姿に少々騒ついた。
「おぉー!、アンリすげーおめかししたな!!」
「まぶたがキラキラしてるな!」
「ふふーん!まぁね、私がプロデュースしたんだから当然でしょ!?」
「いや、アイツのもとがいいだけだろ」
「アンリはもとから可愛いもんな!」
チョッパーさんとウソップさんは、何故かナミからボコボコに殴られていた。
遠目にいたロビンさんからは「似合ってるわよ、靴も、服も」と、うれしい言葉が送られた。
ゔっ、また泣きそう…。
スンと鼻を啜って、おず、とサンジさんを見てみると。何故かこちらを見つめながら固まっていた。
え、石化?確かそんな能力使う人いたよね?超絶美人の。いや、でもそんな急に通り過ぎるわけないし。
ずっと目はあってるけれど、これはもしかしてわたしよりも奥を見てるとかってオチか?
まあ、相手はあのサンジさんなのだから、声をかけて怒られることはないだろう。それは、確信を持てた。
「あの…、サンジさん?」
「——…あ、あぁ。
いや、その、……すごく。すごく、綺麗だと思って見惚れちまってた」
「ひ、ぇ………??」
「本当に、天使が舞い降りたのかと思ってね。
髪も、スカートも、唇も、全部がふわふわで。どこかに飛んでいってしまいそうな気さえする」
言ってる事はいつものような、ハートを飛ばしてる時みたいな甘いセリフ。
なのに表情はすごく真剣で、じわじわと熱を帯びて今にも顔から火が出そうになる!
火照ったわたしの手をするりと、取って。
サンジさんは、タバコを口から離して、そのままわたしの手の甲へキスを落とした。
「あ、ぇぇ……」
「そんなに美しく可憐だと、悪いオトコに襲われねェか心配だ」
「ひ、ぁ…だ、だ、から!
だれもおそいませんってば!!!」
「おわっ、と」
恥ずかしくて恥ずかしくて、思わずサンジさんをドンと押してロビンさんの元へ逃げてしまった。また、手にちゅって!ちゅって!!
この人手フェチか何かなんだろうか!?
「んふふふ、あんまり虐めすぎちゃダメよ、サンジ」
「無垢なプリンセスには刺激が強すぎたか。
——まぁ、さっきのは冗談としても。
本気で襲われたら、ウソップかクソゴムを盾にしてでも逃げてくるんだよ?」
「いやそっちこそ冗談であれよ!!オメーが言うと笑えねぇんだよ!」
「な、なーんだ、じょーだん、か…」
本気にしてしまって恥ずかしい!
嘆きと羞恥心の波に飲まれながら、わたしはナミから上陸にあたっての諸注意を聞かせれていた。その姿は、さながら遠足の時の先生のようだ。
「いーーい?
街に行ったら、絶対にルフィとウソップとチョッパーから離れない事。チョッパーは、出来る事ならずっとアンリを乗せて歩きなさい」
「はい!」
「あぁ、まだ体力も通常の何倍も足りないんだからな。アンリ、あんまり無茶するなよ」
「はい!」
「アンリ〜〜?ったく、ちゃんと分かってんのかしら。
私達は調べ物があるから船番してるわ。
何かあったら電伝虫を鳴らして」
「「はーーーい!!」」
「アンリ!早く行こう!
屋台がいっっぱい出てんだ!!とうもろこしもあったぞ!食べた事ねェだろ!とうもろこし!!」
「ない!」
「おい、サンジは着いてこねぇのか?
あんだけ“襲われねェか心配だ”っつってたのに」
「ッエッエ、今のサンジのマネ似てたな!ウソップ!!」
「アホか。おれは今日、食料調達だ。
…ンン、出来る事ならオメーらと代わって、ルフィも薙ぎ払ってアンリちゃんと2人っきりでデートしたかったっつーーの!!」
「アンリのやつ、ルフィと大はしゃぎだもんな。諦めろ、バカコック」
船を降りて、島の空気を目一杯吸い込む。
春が溶けて混ざり夏が近い、少し水分を含んだ照りつけるお日様の香り。
懐かしい季節の香りと、さわ、と頬を撫でる生温い風。
あぁ、陸だ。
冷たい、ひとりぼっちの海じゃない。
わたしが1人感動の中、最初の分かれ道でサンジさんとはお別れした。大通りに向かうわたし達とは、方向が違ったようだ。
最後までわたしに気を付けるんだよ?と念を押して心配そうに歪ませる顔に、笑顔で手を振った。時刻はもうお昼すぎだ。どうせ夜になったらまた船で会えるのに、サンジさんはいつも大げさなんだから。
———なんて。
日が沈むまでは、そう思っていた。
その夜。
わたしは、自分の意思でサニー号を降りた。
(海はせせら笑う)