龍神族編
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「よーーーーし!!ヤロー共!
新しく仲間になったアンリだ!これからさっそく冒険にいっくぞーー!!」
「よ、よろしくおねがいします」
ぺこっと勢いよく頭を下げて、見せればみなさんから暖かい声が次々に聞こえる。
が、ナミさんが鋭い声で待ったをかけた。
「ちょっとルフィ、アンリも聞いて。
さっき島を見渡してみたけど、ここ、多分相当治安悪いわ」
「確かに、海賊船が遠慮もなく島の真正面に停まってるぜ!!お、おれの持病の船から出られない病が〜〜!!!!」
「大丈夫か!!ウソップーー!」
「はいはい、それは後でやって。
…それでね、ここの
「えっ」
「えーーー!!何でだよナミーーーー!」
わたしの困惑より、ルフィ、の抗議の方が大きくてかき消されてしまった。いや、まだこの声量には勝てない。
「まず、この子は超貴重な龍神族。
他の奴らがそれに気付いた瞬間、人攫いの恰好の餌食になる!それに、ルフィは一緒に島巡りするつもりなんでしょうけど、どーーせアンリのことほっぽり出してどっか行くに決まってる!」
「なるほど」
「だから、アンリには悪いけど今日は船に残ってほしい。私達が今日一日、島の様子を確認して、冒険するならそれからにしてほしいのよ」
「えーーー!おれ離れねェよ!!ゾロじゃあるめーし!」
「比べんな!!」
皆さんのガヤガヤした楽しげな声とは、どこか違った方向を一心にわたしに向けてくれているナミさんの言葉に、頷かざるを得なかった。心配、してくれてるんだもんね。
それを聞き入れられないほど、わたしは子供でもない。
「……わかりました、きょうはおとなしくしてます。おみやげ、たのんでもいいですか?」
「もっっちろんよ!アンリ用の服と下着いっぱい買ってくるわ!!」
「で、できるだけスカートたけはながめで、おねがいします!」
ナミさんがぎゅうぎゅうと抱きしめてくれる。暖かい。けれど、低身長のわたしは丁度ナミさんのたわわなおっぱいで顔が埋まりそうであっぷあっぷしてしまった。今世では溺れることはないと楽観視していたが、まさかこんな身近にあったとは…。サンジさんなら鼻血ものだな。
本日の方向性が決まったあと、タイミングよくサニー号は島に到着し、他の海賊船と同じように、けれど少し離れた入江に錨を沈めた。
「じゃあ行ってくる。ゾロ、荷物持ちお願いね」
「なんんでだよ!!」
「ちぇ〜〜…、まあ明日は行けるんだもんな!!土産買ってくるからよ!待ってろよ、アンリ!!」
「はい、たのしみにまってます」
「………」
「まってる、ね、るふぃ…」
「おう!!」
敬語を使うと真顔でじっと見てくるの、ホントやめていただきたい。ルフィから笑顔が消えたら、わりとそれだけで恐いから。
各々行きたい場所と、やりたい事が重なったメンバーと共に船を出ていった。フランキーさんとウソップさんはコーラと、新兵器の材料?を。ブルックさんとチョッパーさんとルフィ、は街を探検しにいった。
ナミさんは、ロビンさんとゾロさんを引き連れてわたしの洋服を買ってくれるみたい。ナミさんにしては太っ腹である。
みんなの姿が見えなくなるまで手を振って、一息つくと後ろから一筋の煙が立ち込める。
「あれ?さんじさんは、いかないんですか?」
「ああ。アンリちゃん一人残してってのも、心配だからな」
「ごめいわくおかけします…」
「レディにかけられる迷惑なんて、存在しねぇよ。それより、さっきルフィに殴られたとこ見せてくれ」
「だいじょうぶですよ?
手かげんしてくれましたし」
悔しいがルフィの本気で殴ったら、わたしの骨は折れてただろうし、海まで吹っ飛ばされていたに違いない。
しかし、そんなわたしのやんわりとした制止を聞き入れてくれず、サンジさんはあごをくっと掴み目線を合わせた。
そう、前世で言うところの、顎クイというやつだ…!!!
「……(ゔ、近い近い近い近い!!)」
「あんな音したから腫れてると思ったが、赤くなってるだけだな。…ったく、あのクソゴム。レディの顔に傷なんか作りやがったら承知しねェと思っちゃいたが、案外加減ができるみたいで安心したぜ」
「(今顔が赤いのはルフィのせいじゃない!
今顔が赤いのはルフィのせいじゃない!!)」
「取り敢えず、チョッパーの救急箱から湿布をもらおう」
この後また湿布を貼られる時に顔が近くて、ずっと赤くなって固まってたわたしは悪くないと思う。
だって!顔近いし、ずっと見つめられるし、サンジさんのタバコと香水の匂いが混ざった、あの、ドキドキする香りがいつもより近くにあって…。ってわたし変態くさいな!?無意識に嗅いでることサンジさんに気づかれてない?大丈夫??
「…やっぱり痛々しいな。綺麗な顔に湿布だなんて似合わねェ」
湿布を貼り終わったわたしの顔を指で撫でるサンジさんは、ままならないといった表情を浮かべていた。きっと、わたしの覚悟を否定したくない、って思ってくれてるのかもしれない。それでも、女の子ってだけで傷作ってるのを見たくないんだろうなぁ。
優しいというか、ブレないというか。
「だいじょうぶですよ!」
「そっか、アンリちゃんは強いね」
「つよくなるよてい、ですけどね!」
「……そんな凛々しいレディには、プチマドレーヌなんて甘すぎるかな?」
食うかと思って焼いたんだが、とサンジさんはキッチンの奥から大きなお皿に山のように積まれた貝殻の形をしたマドレーヌを取り出した。バターのいい香りがここまで届いてしまって、わたしは勢いよく立ち上がる。
さながら、授業中に先生に当てられた生徒のように。
「いただきます!!!」
*
天気がいいから甲板の、芝生の上で食べようとどちらからともなく提案した。
それなら、とサンジさんはすぐにさっと紅茶を淹れながら、わたしに「すぐ横の棚の、中段の引き出しの中にレジャーシートがあるはずだから、取ってもらえるかい?」とわたしに指示をくれた。
上機嫌でレジャーシート(二人で座るにはやっぱり大きい)を芝生の上に広げていると、マドレーヌとアイスティーの入ったグラスを二つ持ってくるサンジさんが見えた。
片手はお皿、もう片方はグラスが乗ったトレーを持ってるのに、サンジさんは器用にわたしの隣へ座ってからお皿を置き、グラスを一つ渡してくれた。
「どうぞ、召し上がれ」
「いただきます。
…マドレーヌ、おいしいです!」
「ありがとう。フレーバーティーも入れたんだが、アイスでよかったかい?」
「はい!…おいしい〜〜」
気候があったかいせいで、丁度冷たい飲み物が欲しかったところだ。冷たいオレンジフレーバーの紅茶が喉を通って気持ちがいい。
プチマドレーヌ、そのものずばり。わたしでも一口大で食べれてしまうので、いっぱい食べてしまいそう。
「ははは、全部食っていいよ。
アンリちゃんのために用意したんだから」
「えっ!?みなさんの分は?」
「アイツら昼はどっかで勝手に食ってくるだろうしなァ。あ、ナミさん達の分は数個冷蔵庫に置いてあるから、ホント気にしねェで食ってくれ」
「ふふ、じゃあえんりょなくいただきますね」
にっこりと、太陽みたいに笑うものだから、わたしもつられて笑ってしまった。女性贔屓は変わらないようだ。
サンジさんはマドレーヌに手を付けず、隣に座って同じフレーバーティーを飲んでいる。
「……なぁ、アンリちゃん」
「ふぁい?」
「ルフィの事、名前で呼んでるよな?アイツ押し付けが激しいっつうか、その、嫌じゃねェか?」
「あ、はは…。まあ、なれませんけど、いやじゃないですよ?」
もぐもぐと、口の中からマドレーヌがいなくなる頃にまた一つマドレーヌを放り込む。そして合間合間に挟むアイスティーが極上に美味しい。忙しいわたしとは反対に、なにか考えながらサンジさんはちびちびとグラスに口をつける。そんな姿も様になるなぁ、なんて見惚れているとバッとこちらに真剣な眼差しが突き刺さった。
「アンリちゃん」
「んぐ…はい?」
「クソゴムの事を呼び捨てにするんなら、……その、…おれの事も、呼び捨てにしてくれねェかな?」
「…………さんじさん、を?」
「ああ」
「なまえで?」
「あぁ、できればルフィみてぇに敬語もなくして」
「む!むりです〜〜〜!!!」
「ガーーーーーン!!!
な、なな、な、なんで………??」
さっきとは打って変わって、この世の終わりのような雰囲気で顔を青ざめてわたしへ詰め寄るサンジさん。肩を掴まれて少し心臓が駆け足になる。
「だ、だって、さんじさん。わたしより年上でしょ?るふぃは、見たところ1っこか2こくらいしかちがわないだろけど、」
「ちなみに、レディに年を聞くのは失礼と分かっちゃいるが、アンリちゃん。
………きみいくつだい?」
「えっと、たぶん14か15くらい…?」
母を失ってからと言うもの、時の経つ速度が緩やか過ぎて自分が今幾つなのか分からなくなってしまったのだ。誕生日すら覚えてない。
けれども、前世はNOとつき返せる日本人であるわたしは、学生時代体育会系の部活に所属(いたような気がする)おり、上下関係には口酸っぱく言われていた(はず)のだ。
故に、推定15歳のわたしからして、タバコを吸っているサンジさんの事を呼び捨てにするなんて持っての他。
ナミさんみたいに、くん付けするにしても漂う某アイドル事務所感が拭えないのだ。
「ぐぬぬ…おれがもーー少し遅く生まれていればぁあ…!!!」
「そ、そんながっかりしなくても…」
涙に滲む瞳が何故か悔しそうに燃えて、クソーーーーーー!!と海に向かって叫んでいる。まったく忙しない人だ。
ズズッとグラスからアイスティーがなくなる音が聞こえた。それを皮切りに、しおしおしたサンジさんがわたしへ手を差し出す。
「…お代わり、いるかい?」
「へぁ、はい。ありがとう、ございます」
気の利く人は、どんな精神状態でも気が利くらしい。素直にすごいと思った。
自分のグラスも合わせて持って立ち上がり、わたしを覆う影が一つ。ぽやと見つめていると、目線を合わせるようにしゃがみ込む。
影は小さくなった。
「……ふ、でもまァ。聞けねェと思ってたアンリちゃんの綺麗な声で、おれの名前を呼んでくれるだけで奇跡みてぇなモンだもんなぁ。
ーーーそれだけで満足しねェと」
にっこり笑いかける暖かな人は、どこか寂しそうに見えた。無意識に奥歯を噛み締める。
わたしの心臓、抑えてね。
今からやる事に、顔に熱は集まってくるだろうけど、他意は、まだないの。
アイスティー、入れてくるねとサンジさんは背を向けて長い足で一歩一歩と遠ざかっていく。無我夢中で、わたしは立ち上がり彼の背中へ飛び込む。折り目正しくシワのないシャツを、きゅっと握りしめた。
「っ!!」
「あ、の!!サンジさんのこと、よびすてにはできない、けど……!!
はなしかた、だけなら、がんばるから…」
「ヴッッ…………………」
視界が霞んでしまうほどの勇気。これを零してしまうと、他に何か感情があるんだって思われてしまいそうで。わたしは、まだそれに気付きたくなくて、ギュッと我慢した。
そんなわたしの中の攻防戦の事は露知らず、サンジさんはへなへなとまたしゃがみ込んでしまったものだから、慌ててシャツを掴んでいた手を離す。
しゃがんで、顔が見えなくなってしまったサンジさんを覗き込むようにして、今度はわたしが小さな影で、小さくなった彼を包み込む。
「サンジさん?!どうしたの、?
おなかいたい?」
「……あのね、アンリちゃん」
「はい…じゃなくて、なに?」
「さっきみたいな事、他のヤローにはしちゃダメだからね?!
特にあの顔!ありゃァ絶対にダメだ!!」
「そ、そんなにぶさいくだったか…」
「っ!?や、違ェ!!ブサイクなもんか!!!その、すげー可愛かったから、あんな顔を他のヤローに見せでもしたら襲われるかも知れねェだろ?!」
「おそわっ!?な、ないよ!!」
それにサンジさんは分かってない。
あんな事するのは、サンジさんにだけって事。あと、呼び捨てが出来ないなんて嘘をついた事。
へんなこと言う人はしりません、とそっぽ向いてまたプチマドレーヌを口の中へ放り込む。バターの味が甘くてよく分からない。
「……なまえで呼んだりしたら、ほかの人とはちがういみがついてちゃうじゃない」
わたしの言葉は海風に溶けた。
その後、わたしのご機嫌を取るためにお代わりの紅茶には、ライムが輪切りになって氷と一緒に赤茶色の中に浮かんでいて、サンジさんの思惑通り、まんまと機嫌が直ってしまった。
(波の音だけが聴いている)