龍神族編
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一同が一斉に口をつぐみ、言葉を濁らせた。
それはきっと、わたしとサンジさんの顔が船長さんの言葉に対して妙な反応をしているからだろう。
「うっはっはっは!!
いや〜〜〜助かった!あと海って怒るとすげー怖いんだな!何回か溺れた事あるけどよ、あんな声一回も聞いたことねェぞ!」
「……っ、」
「…な、何言ってんだよルフィ!海が喋ったとか、アンリが喋ったとか!
いや、そりゃアンリも話せるなら話してェだろうけど、」
「チョッパーの言う通りだぜ!このキャプテ〜〜ンウソップ様にそんな嘘通じるかってんだ!どうせルフィが溺れてる時に見た幻覚かなんか…だ、だよな?
オ、オイ、サンジもなんか言ってやれよ…、そんな、顔してると、マジみたいだろ…?」
ウソップさんの問いかけに、サンジさんは反応した。わたしをチラリと見た後、申し訳なさ方に眉を潜めて。
「… アンリちゃんが、ナニカと話して、ルフィを助けた所はおれも見た」
誰かが息を呑んだ。
そりゃそうだ。
普通の、か弱い、声も出ないような女の子が。庇護対象である、わたしのような子が。
船長さんが溺れて真っ先に海に飛び込んだだけで驚きなのに、戦いができて泳ぎも得意なサンジさんより早く船長さんを助けて、その上“海の中で、ナニカと喋る”んだ。
船長さんに至ってはそのナニカを“海”そのものと話をしていたと、言っている。
船長さん以外がわたしに対して、警戒心を強め他のを感じた。ピリッとした空気に、肌がヒリつく。
きっとわたしが海と話していた、だなんてホラ話のような事を船長さんだけが言っていたならまた話は変わっていただろう。
わたしは船長さんをたまたま助けた女の子で、船長さんは首を傾げながらもわたしのことを次の島まで送ってくれて、わたしは彼らを海の底からずっと応援する、この命が尽きるまで。それで終わり。
なんて素敵で、メリハリのない物語。
でもそんな展開はもう望めなくて、今からわたしはこの人達にとって敵か、それとも悪意なき異端児か判断される。
それでも、この人達だからいいとさえ思う。
だって、沢山の“暖かい”をくれた人達だから。
だからせめて、今わたしにできる事は、誠意を尽くして、自分で自分のことを、自分の口で、指で、話すこと。
「“みなさんに、きいてほしいことがあります。いままでだまってて、ごめんなさい”」
スケッチブックの拙い文字が歪んだ。
熱い何かが、目頭から伝っていく、鼻も詰まってみっともない。
それでも書かないと、伝わらない。
「…っ、“わたしは、人ではないです。
わたしはりゅうじんぞくという、血をひいてます”」
「龍神族っ…?!」
綺麗な瞳をビー玉みたいに丸くしたロビンさんが、そんな、まさか、と呟きながらわたしを見つめていた。
「ロビン、何か知ってるの?」
「昔に、読んだ本に書いてあったの。
海には、魚や海獣、海王類、人魚、魚人のほかにも住んでいる種族がいて、その名前が“龍神族”。龍神という神に寵愛を受けた特徴として、その一族にはエラも尾ひれもないのに、海で息をしながら暮らしているという…。
龍神族の肉を一匙でも食らうと、寿命が伸びて怪我や難病が治る、百薬の長と言われている。その為、彼らは狩り尽くされたのだと、そう記述していたはず…」
「“なら、わたしはきっと、その生きのこりです。だましていて、ほんとうにごめんなさい。”」
頭を下げると、床にシミができた。
みなさんの思い込みを利用して、騙してた。
言わなかっただけ、だなんて体のいい言い訳だ。今も、頭を下げていると思わせて、本当は何を言われるのか、罵られるのか身を固めて震えているだけ。
すると、ふぅ、とナミさんやウソップさんがため息をつく声が聞こえた。
「ったくよ〜!びっくりさせんなよなァ!!」
「ホントよ全く!また能力者拾っちゃって襲われるんじゃないかと思ったわよ!!」
「… アンリちゃん、本当のこと言ってくれてありがとう。辛かったろ?」
サンジさんの暖かい手がわたしの涙を拭ってくれた。見える景色は覚悟していたような荒んだものじゃなくて、わたしを狩ろうとも罵ろうともしない、変わらない彼らの笑顔だった。誰を見ても、話をする前のわたしを見るような…。
「……あのなァ、ここにはロボットも喋る骸骨にトナカイ、ゴム人間、長っ鼻もいるんだぞ」
「そこにいれんな!!」
「おまえぐらい、全然普通だろ」
ぶっきらぼうに、ゾロさんはわたしを見下ろした。
全然、普通。
それがどんなに難しいか。きっと、海の底で1人蹲っていたら分からなかった。
人に触れて、言葉を交わして、自分を見せて、やっとわかる。怖くて仕方なかったけど、やっと。お母さんが言っていたような人以外もいる、と分かった。
胸も心も目も、熱くなって熱くなってまた涙がボロボロと溢れた。
「にっしし!!泣き止めよ〜!
今日は宴だぞーーーー!!!」
「…だそうだ、アンリちゃんの食べたいもの、なんでも言ってくれ!」
「コック、酒」
「お前のはねェ!!!何んださっきの“全然、普通だろ”って!アンリちゅぁんはなぁ!特別優しい天使のような可愛い聖女なんだよ!!」
「天使か聖女どっちかにしろよ!!」
「チクショウ…!!そんな小せェ体でデケー悩み抱えやがったのか!それをおれ達ァ気付けねェで……泣いてねぇ!!泣いてねェぞーー!!!」
「アンリさんの真摯的な行動に私も胸打たれて涙が止まりません!
胸ないんですけどヨホホホホホ!!」
「あんたらうるっっっさい!!!!」
「ふふ、アンリ。そんなに泣いちゃうと目が腫れちゃうわ」
「おれ、冷やすもの持ってくるよ!」
差し出されたハンカチでとんとんと涙を拭いても拭いても溢れてくる。暖かさが喉の奥から込み上げて止まらない。
「……っ….、(ぁり、)が、とう」
ナミさんの激昂でも止まなかったガヤガヤとした騒がしさが、一言で治り、私の喉がひくっ、としゃくりあげる音が聞こえる程の静けさがこの場を包んだ。
「あああああアンリ!??喋った!喋ったぞ!!!」
「そりゃ海でも話せてたんだから喋れるだろ、何言ってんだおめーら」
「アホかルフィ!それが話せねぇって話だったんだろうが!!」
「まさか話せねェってのも嘘だったんじゃ」
「そんな訳ねェだろ!!アンリちゃんはさっき話せないのは本当だとスケッチブックに書いて伝えてくれた!!」
「…… アンリ、このスケッチブックに書いてある言葉、嘘じゃあないわよね?」
サンジさんが私を庇ってくれて、また混乱がみんなを包む。ナミさんが調書を取る刑事のような真剣な表情を向けたので、コクコクと首を縦に振る。
あ、いや、これについては本当にわたしも訳がわからない。海では話せて、あがると話せなくなるだなんて、人魚姫じゃあるまいし…。
チョッパーさんがとてとてと冷やすものをわたしに差し出して、「ちょっとごめんな、」と蹄でわたしの喉を触診する。
「口開けてくれ」
「……」
「…やっぱり何もないんだよなァ」
ありがとな、と言いチョッパーさんは考え込むようなポーズで固まってしまう。
皆さんも魚の小骨が喉に詰まったような顔でわたしを見ている。
あ、ブルックさんだけ表情わかんないや。
「ねぇ、チョッパー。
こういう可能性はないかしら?」
ロビンさんが綺麗なお顔でわたしを覗き込む。
*
ザバァンと音を立てて、潜り込むとボコボコ
上へ上へ泡が登っていく。
冷たい水が頭から爪先まで体を包み込んで、一つ水を分けると体が傾いていく。
「これでどうかしら」
「…あーー、あー、話せます」
「じゃあ水面に顔を出して、声を出してみて」
「……ーーぁ、」
「!もっと息を吸って、張るような感じでやってみてくれ」
「すぅ……ぁーーー、あーー」
すごい!声が出た!!!
裏返ったりざらざらしてるけど、いつもみたいに喉で空気がつっかえたり、何もない!!
「で、で、…でまし、た。ろびんさん!」
「えぇ、私の仮説が当たってたみたいね」
「おい、チョッパー結局どういうことだよ」
「そーだ!おれも泳ぎてぇ!」
「お前はやめろ」
船長さんがこちらへ降りてこようとするから、みんな必死になって止めていた。
チョッパーさんは興奮気味の、生簀の中から頭だけ出したわたしの隣へ立って説明し出した。わたしも気になる、という顔をしていたのだろうか、にっこり笑ってチョッパーさんは行った。
「ロビンに言われるまで気がつかなかったが、アンリは元々海で住んでて、そこでしか話してこなかっただろ?
だから初めての酸素だったり、海以外で使う筋力がほか以外低かった。
使い方を知らなかっただけなんだ」
「つまり、知らねーもんは使えねーって事か?」
な、なんと。
さっきのわたしの出生の秘密より、よっぽとつまらん理由で話せなかっただなんて…。
そんなのまるで、引きこもりすぎて人と話せなくなったニートが外で久しぶりに声出すとき裏返ったりボリューム調節できなくなったりするのの、延長線ってことじゃないか…。
なんだったんだ、わたしの悩みは…。
皆さんにも迷惑かけて、本当に、本当に……
「本当によかった、海の中以外でも君の声が聴けて」
「っ!!!」
「海じゃァ、おれがアンリちゃんとお喋り出来ねェからな」
落胆するどころか、わたしの髪をそっと撫でてそんなことを言うなんて。
サンジさんは女の子大好きで、これは特別じゃないって分かってる。リップサービス、くらいの気持ち。
でも、落胆や迷惑そうな顔や、気持ち悪いものを見る目じゃなくて、どうしてそんな…。
感じたことのない気持ちがブワッとこみ上げてきて、どうしたらいいのか分からなくなり、
「あ、沈んだ」
ぽちゃん!と水が弾む音と共に頬の熱から逃げてしまった。冷たい水の流線が顔の熱を取ってくれるまで出られない。
(こえ)