龍神族編
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ぼちゃん、とあっけない音が聞こえた。
頭の中の考えが嫌な方へ嫌な方へと進んでいって、記憶の、奥の奥にあった前世の古びたものがペラペラと風に煽られて素早くめくられる。
悪魔の実。きちんと知らないけれど、たしかその驚異的にまずい果実を食べたら、超人パワーを手に入れる代わりに泳げなくなってしまう。
泳げない、溺れる、溺死。
まさかの主人公、溺死……??
「(それはダメでしょ!!?)」
とっさにスケッチブックを殴り捨てて、落っこちた船長さんの後を追いかけた。
船上がどうなっていたのか、知りもしないで。
ごぽごぽと水の音が鼓膜を震わせる。
船の上にいたのは3日ほどなのに、懐かしさで胸がきゅっと熱くなる。
しかし、そんな感傷に浸っている場合じゃない。目を凝らして船長さんを探さないと。
足は勢いよく水をかいた。
ふと、海が騒がしい方向に目を見張ると抵抗なく沈んでいく赤がある。
急いで船長さんの元へ泳ぐけれど、沈むスピードが速い。これも悪魔の実のせいなのか。
せめて抵抗してくれていたら…、と咄嗟に呼ぶ声が喉につっかえる。
「船長さん!!…ルフィ!」
返事も気がつく様子もまるでない。
手を伸ばすと届く距離まできたのに、わたしの手は海の意思に阻まれた。
“このモノ、悪魔を宿している”
“海を拒絶した陸のモノ”
“水底へ”
“水底へ連れて行かねば”
「……な、何言ってるの!?」
誰もいない暗く深い底から冷たい音が聞こえる。昔から知っているような声。
これは、……海?
海がこれほど明確に言葉を話すのは、初めての事だ。それほど悪魔の実の能力者は海に嫌われているのだろうか…?
“いくら龍神様の宝であっても”
“このモノを生かしておく理由は”
“---無い。”
海の意思は固く、船長さんとわたしの間には幾重にも重なって壁があるようだった。
…わたしはこの壁を壊せない。
そんな力持ってないし、わたしなんかのキックやパンチじゃ母なる海はビクともしないだろう。
ギリ、と奥歯を噛み締めることしか、出来ない。いや、考えろ、考えろ。
わたしだけで船長さんを助け出せ。
恩に報いろ。決して忘れるな。逃げるな。
「……わたしは、この人に恩がある。
今回は見逃して」
“できぬ”
「…なら、わたしは死ぬしか無い」
波が大きく揺れた。
これは、いける、何も知らないわたしだけれど、直感が告げた。
「わたしはこの人に恩がある。
この人を無事に、仲間の元へ連れて帰らなきゃいけない。待ってる人が、いるんだ。
わたしはその人達にも返せない恩がある。なのに、この人を連れて帰れなければ、合わせる顔がない。
報いるために死ぬしか無い、そうだろう?」
“それは駄目”
“駄目だ”
“龍神様が、お怒りになる”
“もう宝は一つしかないのに”
“我々が諦めれば、”
“そうだ、我々が離せばいい”
“今回限り、目を瞑ろう”
“ぱっと閉じよう”
「ありがとう」
重なっていた壁がふわふわと溶けてなくなり、手を伸ばせば赤い服が掴める。
意識はないけれど心臓が動いているのを確認して、麦わら帽子を手に取って海面を目指す。
“海の上で、龍神族が暮らせるわけがない”
“幻想は壊れる”
“そう遠くない、日だ”
ごぽごぽという泡の音と、海の声がわたしの鼓膜を震わせる。
そんなの知ってるよ、と思ってたより冷たい声が出た。
バサァと海面に顔を出すと、船は少し進んでしまっていたようで麦わらの一味の船尾もちょっと遠くに見える。あーぁ、遠いよ。
でも仕方ない。海面を泳いでいくか、と一かきすると、近くでバサァとまた音がした。
嫌な予感がまた胸を駆け巡る。
その方向に目を向けると、金色のまあるい頭が、濡れてさらにまあるくなっている。
---サンジさんだ。距離や表情で察するに、今の流れを見られていたんだろう。
「…… アンリちゃん、今のは」
「(…あとで、話します)」
話せるかな?
海では出た声も、今は届かないのに。
*
サニー号に戻りシャワーを浴びて、わたしの前に出された暖かいミルクをこくん、と飲んだ。船長さんはあれから甲板の草っ原で寝そべっている。放っておいてもいいのか聞くと、みんな口を揃えて「ルフィだし、大丈夫」「それよりお前は大丈夫なのか?」「早く暖まった方がいい」って言う。説教もされたが心配もされた。
今のわたしには痛いばかりで苦笑いが出る。
なんたって今はキッチンでサンジさんと2人きりだ。やばい、やっぱりわたしが龍神族なのバレたのかな?
「……ねぇ、そろそろ聞いてもいいかい?」
きた。こくりと頷くとありがとう、と優しい言葉が返ってきた。サンジさんはわたしが怖がらないように、嫌がらないようにすごく配慮してくれている。もう一層のことみんなの前でバラすように話した方が楽だろうに。
そんなこと、一切しないし考えてもいないだろう。優しい、優しいなぁ。
「君は本当は喋れるのか?…あぁ、いや、人魚、魚人なのか?」
わたしはそのどれもに首を振る。
手元に戻ってきたスケッチブックにさらりと、躊躇いもなく書いていく。
「“しゃべれないのは、ほんとう。
にんぎょでも、ぎょじんでもない”」
「そうかい、疑って悪かった…。
だけど、それじゃ一体君は…---」
何者なのか、そうサンジさんが紡ぐ前にキッチンの扉がガチャ!!と勢いよく開いた。
「アンリーー!!!さっきはありがとー!
すんげー助かった!」
「ちょっとルフィ!まだアンリ休んでるのよ!?」
「そうだ!っていうかお前も寝てろ!!」
「ん?おれぁいいよ!いっぱい寝たし!!
それよりお前すげーーな!海と喋れんのか!?」
「「「「……え?」」」」
その場にいた人、船長さんのこえが耳に入ってしまった人達はすっかりキョトンとしてしまい、わたしへ視線が集中した。
サンジさんは、船長さんの発言に信じられない、と呆れ返って思わず顔を手で覆っていた。
(義を尽くすもの)