龍神族編
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「せっかくだから挨拶も兼ねてみんなに髪切ったの見せてこいよ」
「切りっぱなしじゃダメよ!
もうちょっとお洒落させましょう〜」
「ふふ、ノリノリねナミ」
大人の悪ふざけとは怖いもので、髪や顔に手を加えられあれよあれよと言う間にちょっとお洒落なランチでも食べに行くのか?と言うほどのおめかしを施された。
これはもう、ナミさん楽しそうダナー…、と現実逃避しかすることが無い。
わたしの顔は今や、前世で見たことのあるチベットスナギツネそのものだろう。
この世界にいるのか知らんが。
「さぁ!可愛くなったし私も満足したから行ってきていいわよー」
「お前ホンント容赦ねェよなー。
あ、そういやァフランキーがアンリに見せたい物があるって言ってから、工房まで案内してやるよ!」
「それはそうとアンリ、昨日のメモはまだ残ってるかしら?」
ロビンさんの優しい声が唐突にわたしに降りかかる。
そういえば、と貸してもらった服のポケットからメモ帳とペンを出す。
「やっぱり、もう書く場所があんまりないわね。ちょっと待ってて」
優雅な腰つきでその場を去って数分、何かを手に持ったロビンさんが帰ってきた。
きょとんとした顔で見上げていると、少し屈んだ美女がわたしにスケッチブックのようなものを手渡してくれた。
「それ、差し上げるわ。
私が使っていたものの余りだけれど」
「おぉ!!これでちゃんとアンリと意思疎通が出来るな!」
「この前のは間に合わせだったもんねー、さっすがロビン」
わたしの為に、持ってきてくれたのか…。
ほかほかと心の奥があったかくなる。この人たちには貰ってばかりだ。
心のままに、早速スケッチブックに大きく見やすいように筆を走らせる。
書き終わって、ロビンさんのスカートをきゅっと引っ張る。それに気付いたロビンさんはまたわたしに目線を合わせてくれた。
「“ありがとう”」
ここに置いてもらううちは、この言葉を使う場面が多くなるだろう。
ロビンさん達はスケッチブックを見て、最高の笑顔を浮かべた。
「「「どういたしまして!」」」
その後、美人二人のお手振りを見ながらわたしはウソップさんの後ろをついて回った。
フランキーさんのいる工房を除くと大きな体躯を小さく丸めたロボットがいて、びっくりしている間に挨拶は終わった。
フランキーさんもいい人(ロボ?)で、可愛いくしてもらってよかったなァ!と機械のようにずっしりした手で頭を撫でてくれた。
フランキーさんの所を後にして、ふらりと歩いているとブルックさんに出会い、綺麗に整った外見を褒めてくれて紅茶を一杯いただいた。
甲板へ続く階段を下りると、ゾロさんが刀を壁に立てかけて座って目を瞑っていた。
眉間のシワがすごい。
「(寝て、るんだよね…?
起こしちゃ悪いから早く去ろう)」
抜き足差し足、とまでは行かないが極力足音を立てずに前を通り過ぎる。すると、おい、と地を這うような低い声が背後から聞こえて、思わずびっくりしてコケた。
「(ね、寝てると思ったのに…!コケたの恥ずかしい!!やっぱり今世は陸向いてない!)」
「…ここにいる奴は何も勘が鈍いわけじゃねェ。まぁ、ルフィは例外だが。
ナミもロビンもフランキーもウソップもだ。ブルックはアレで剣士だ、鈍い訳ァねぇ。
チョッパーは医者だからな、お前の病気が治るまでは何も聞かねぇだろう。……クソコックは女と見りゃ例外なく信じる」
何を語られてるのか、理解できなかった。
あれか?ゾロさんはみんなが大好きってこと??とアホなことを考えていた。
察知したのか、ゾロさんは閉じていた目蓋を片方開けてこちらを睨む。こくり、と固唾を飲んだ。
「あの時、テメェ自身がテメェのことを語ってねェことくらい、おれ以外の奴も気付いてるって事だ。
ほとんどの奴は子供だからって理由であんまり警戒しちゃいないがな。お前を次の島まで乗せる、ルフィが決めた事だから仕方ねェが…」
「もしあいつらに何かしてみろ、そん時はおれが斬る」
放たれる殺気に身震いがした。
……だけれど、言っていることは真っ当で、意地悪なんかじゃない。ゾロさんは、優しい。
的外れでアホなことを考えてた、と思ったけどなんだ、やっぱりわたし合ってたじゃん。
ぺたんと座り込んで、スケッチブックに書き込む。ゾロさんもそれに気付いて少し待ってくれている。
「“だいじょーぶです。
わたしみなさんのことだい好き。
だから、つぎのしまでちゃんとさようなら、します”」
「………」
「“ほんとうに、かんしゃしてもしたりないくらい。ひろってもらって、まだみじかいのに、もうこんなに好きになってる”」
「……じゃあ、どうして本当のことを言わねぇ」
「“好きだから”」
分かってる。
わたしが龍神族だと言えば、信じてくれるだろうし、龍神族だからって売ったり食べたりしない。下手すると、仲間にだってしてもらえるかも。
でも、言わない。
ただでさえわたし達は短命の種族だ。もし知ってしまったら、少なくともチョッパーさんの治療が報われないし、守ってもらうのはまっぴらだ。…それにお母さんの言いつけを破る事になる。
だから、言わない。
「“あなたたちのこうかいは、だれにもじゃまさせません。海賊王に、なってほしいもの”」
「“わたしがふねをおりても、海のかごがあらんことを、いのります”」
にっこりと笑って見せると、ゾロさんはそれ以上何も言わなかった。
船首の方へ歩いてみれば、チョッパーさんとウソップさんと船長さんが釣りをしていた。
わたしに気付いたチョッパーさんは釣竿を置いてこちらに駆け寄る。可愛い。
「アンリ〜!!ウソップから聞いたぞ!
髪切ったんだよな、似合ってるぞ!」
「おーーーー!!アンリーー!
お前くんのおせーぞ!一緒に釣りしよう!」
「“ありがとう”」
こくんと、頷く。
船長さんの横顔は太陽の光に照らされて溶けていきそうなくらい、眩しかった。
「(やっぱり、この笑顔曇らせたくない。
…遠い海の底から見守っていきたいなぁ)」
「ほら!おれの釣竿貸してやるから一緒にやろう」
「アンリも釣りすんなら、このおれ様がもう一本作ってやるよ!
フランキーに金具作ってもらって、引き上げる時にあんまり力がいらねェような…」
「なんだそれ!!!おれも欲しぃ〜〜!!」
「カッコいいやつか!?カッコいいやつなのか!!?」
一気にガヤガヤと喧しい空気になった。
この船のトラブルメーカーという、ムードメーカーは船長さんなんだなぁ。と、ぼんやり眺めていると、おい!!!とがなるような怒声が飛んできた。
ビクッッとさっきより驚いて飛び跳ねると、サンジさんがタバコを吹かせながらお菓子を運んできていた。
「アンリちゃんはまだ病み上がりで、お前らのテンションに慣れてねェんだから優しくしろ」
「そっか、アンリごめんな…」
チョッパーさんが人一倍しょんぼりしてしまったので大丈夫です、と書く暇もなく手と首をブンブン振って否定を表す。こんな時に声が出ない不便さを痛感する。
打って変わって船長さんはそっか、悪りィとあんまり態度には出ずケロっとしている。楽しいから本当に大丈夫ですよ、と書こうとスケッチブックを手に取る。
「それよりも、アンリちゃん見違えるほど綺麗になったねんんんえええ♡♡♡!!
ついに天使のお迎えが来たのかと思ったよぉおおお♡♡!!」
「いや、唐突に天使が迎えに来たら恐いわ!!」
「そんなことよりサンジ!!そのクッキー食ってもいいのか!?」
「アホか!これはアンリちゃんの分だ!
オメーらの分はキッチンにある!分けて食え!!」
やったーーー!と船長さんらは釣竿を置いて、はしゃぎながらキッチンに向かった。
わたしは持ってきてもらって悪いなぁ、と思いありがとう、のページをサンジさんに見せようとスケッチブックをめくっていると、影がひとつ落ちた。
影ができた空を見上げると、ふわりと、麦わら帽子が宙を舞っている。
「あ、」
誰かから声が漏れたのは、船長さんがそれを追いかけたと同時で。
次にルフィ!と声が聞こえたのは、船長さんが麦わら帽子を追って海に落ちていったのと、同時だった。
(ぼちゃん、と落ちた運命サマ)