龍神族編
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「よし、服さげていいぞ」
あれから1日経ち、わたしは贅沢なことにチョッパーさんから喉の調子などの診察を受けている。
ただ、やっぱり喉には異常が無いようで、精神的なものだと診断が出てしまった。いたって健やかなんだが…。
「あ、でもちょっと栄養が足りてないみたいだ。髪や爪がぼろぼろになってるだろ?
ここにいる間はサンジに言っとくけど、それ以降もちゃんと食べろよ?」
つぶらな瞳に心配されてしまい、素直に頷く。だが、海の中というのは意外と栄養が偏ってしまうし、あまりお腹が空かないのだ。
食事というのも、2日に1回摂れば満足、と言うほど。ただそれを伝えるとこの船医さんはカンカンに怒ってしまうことは想像に難く無い。やっぱり優しいのだろう。
医務室を出ると、甲板でくつろいでいたナミさんとロビンさんに呼び止められた。
ナミさんが言うには島を出たばかりで次の上陸までは多く見積もっても一週間くらいらしい。それまでは、ここにいさせてもらう。
話はそれだけだろうか、ときょとんとしているとナミさんから、言い方がすこぶる悪いが、舐め回すような視線をいただく。
こ、こんな美人からガン見される事になるとは、想像だにしなかった。
「っていうか服は私達の貸すとして、問題は髪よねー」
「あら、長いのも可愛わよ?」
「でもロビン、この子前髪で顔隠れちゃってるし、後ろも踏んづけちゃうくらい長くて、鬱陶しいったらないわ!」
「ふふ。そうね、価値のある光りそうな原石を前にして、元泥棒さんは気が気じゃないかもね」
目の前の綺麗なお姉さま達は、何やら不穏な言葉の応酬をしている。
ロビンさんに前髪を持ち上げられて、美人の顔がわたしの双眼に映る。
アッ、この人達両目で見たら目が潰れそう。美人が過ぎる。
「確かに、綺麗なお顔を髪で隠してしまうのは勿体無いわね。このまま切っちゃいましょうか」
「そうね!今日はこのまま快晴が続くようだし、外で切りましょう!」
「っ、っ、」
疑義を呈する事も出来ず、わたしはあれよあれよと言う間にてるてる坊主のようなカバーを付けられて、椅子に座らされる。
「じゃあロビン!よろしくねー!」
「ええ任せて」
ロビンさんが自信満々(ポーカーフェイスだから分からん)に言うと、わたしの肩や二の腕あたりから花が咲くように腕が数本生えた。
一瞬ギョッとしたが目の前でロビンさんが腕をクロスしていたので、彼女の悪魔の実かと自分を無理やり納得させる。
いや、でも普通に切ろう???
しゃきんしゃきんと小気味好い音が耳元で聞こえる。前世を思い出すような懐かしさに瞼を閉じる。
「あら、やっぱりズレるわね」
「あちゃーー」
いや、それ人の髪切ってて一番言っちゃ駄目なやつ!!この人達まじか!?
目瞑ってる場合じゃ無い!!!
得体の知れない喪失感に肩を落とすと、通りすがりの救世主が現れる。
「ん?何してんだオメーら」
「あ、ウソップ。
あんた丁度いい所に来たわ」
「選手交代かしら?」
「ホントに何してんだオメーら!!」
わたしの肩から生えてる腕に対してから、その腕達がハサミを握ってる様に対してか、それとも美女2人の表情と真反対のわたしに対してなのか、ウソップさんのツッコミが響く。
ナミさんが事情を話し、ウソップさんが交代で切ることになったらしい。
なぜまだ散髪を諦めない……。
「よーしじゃあサロン・ド・ウソップ開店だー。お客様〜、今日はどのようになさいますか〜〜??(裏声)」
「女の子の髪で遊ぶなんて…、最低ね」
「真面目にやれ!!」
「お前らに言われたかねーよ!!」
なんのコントを見せられてるんだろうか、と思わず笑ってしまった。声が出てないのでセーフである、と主張したい。
気を取り直して、後ろからウソップさんの「取り敢えず髪を踏まずに、前髪も鬱陶しくない程度に切ってくぞ」と言う声が降ってくる。わたしはお願いします、の意でこくんと頷いた。
しゃきん、しゃきん、とリズミカルな音がまた鼓膜を震わせる。ウソップさんの手つきは心地がいい。
一時間もかからずにわたしの今世初の散髪は終わったらしい。
「よーーし、こんな感じか?」
「ちょっとちょっとー!いい感じじゃなーい!」
「前髪が揃えられてて、前よりよく顔が見えるわね」
「ウソップ様にかかりゃーこんな所だ!
アンリ、また気になるところが出てきたらいつでも言いに来いよ」
ウソップさんの手が頭に乗り、撫でられるが、やっぱり心地の良い手だからか、全然嫌じゃなかった。
ロビンさんが大きな鏡を持ってきてくれてわたしの前に掲げる。
「どうかしら、自分でも見てみたら?」
「………」
初めて、今世のわたしの顔を見た。
肩より下まである黒髪に、色の白い肌。瞳は海の青より、少し深い色。この顔には、見覚えがある。
「……(おかあさん、に似てる)」
こんなに幼くはなかったが、鼻筋や目元がわたしが小さかった頃のお母さんとよく似ていて、思わず鏡を指でなぞった。
鏡の中と、わたしの動きがリンクしていて、死んだお母さんではない事が瞬時に理解できた。視界がぼやけてしまう。鏡の中のわたしは、泣きそうな酷い顔をしていた。だが、これだけは伝えないと。
こんな得体の知れないわたしに、優しさをくれて。母を思い出すことすら億劫になってしまっていたわたしに、こんなに素敵な形見があったことを教えてくれて。
ナミさん、ロビンさん、ウソップさんの手を一緒に握ってよく見えるようになった目を合わせる。
「(本当に、ありがとう)」
口パクになってしまうけれど、伝わっただろうか。わたしの、こんなに嬉しい気持ち。
ちゃんと伝わっているだろうか。
この気持ちが全部伝わっていないかもしれないが、その答えとして三人は満面の笑顔を見せてくれた。
(喉を詰まらせる程の優しさ)