龍神族編
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足腰に力が入らなくなったわたしに、ナミさん、が肩を貸してくれてなんとかキッチンのあるスペースへ向かった。
広々としたスペースに大きなテーブルと人数分の椅子がある。どうやらお食事をする場所なんだろう。
席順は特に決まってないみたいで、わたしの近くにチョッパーさん、そして順に座っていった。さっき船長さんの頭だけ蹴り飛ばした金髪の男性はキッチンに入り、どうやらスープを温めてくれているようだ。
スープを温めなおして、わたしの元へ、コトと置かれて、話を切り出したのはナミさんだった。
「それで、あんたはどうしてあんな所流れてたの?喋れないのはそれと関係があるの?」
「喋れねェってんだけど、字も書けねェのか?」
長鼻の男性からの疑問に、わたしもハッとした。字、書いたコトないけど、流れてくるゴミや瓶に書いてたから分かるはず。
書けるかもしれない、と期待に胸を膨らませ遠慮がちにこくんと頷くと黒髪の女性が簡単な紙とペンを渡してくれた。
「じゃあ、あなたのお名前から聞いてもいいかしら?」
久しぶりの感覚に震えながら字を思い出して、紙にインクを滲ませる。
汚くなったが、読めるだろうか。
「…… アンリ、可愛い名前ね」
「!!(読んでくれた!あってたんだ!)」
「よし、これで意思の疎通は出来るわね!
じゃあ、悪いけどどんどん質問に答えて貰うわ。さっき聞いたけど、どうして海に浮かんでたの?」
海に、浮かんでたのか。
溺れた、という事でいいんだろうが、いかんせん“海の中に住んでた”と伝えても疑われてしまうのがオチだろう。
どうしたものかと悩んでいたら、思わぬアシストが隣から入った。
「………なぁ、コイツ、もしかして誰かに虐められてたのかな?」
「親とか、…もしかしたら奴隷だったって事も」
「奴隷紋を付ける奴ばかりじゃないって事か」
「だ、だから、あんなボロい服で…?」
「あぁ、悲鳴も上げられずそのまま海の中に放り込まれて…!?
なんて悲劇なんだ!!!その曇りがちな瞳をおれ色で染めてあげたい!!」
な、なんだかチョッパーさんのお陰(所為)でまた勘違いが加速している?
とりあえずにこりと笑うと、海パンの人をはじめ、数人が涙ぐんだ。罪悪感に心がちくちくするが、本当の事は伝えられない。
伝えちゃいけない、と母から言われている。
謎な空気に包まれた部屋の中に、鋭く重い声が放たれる。
「だが、可哀想だからって理由でなんの役にも立たなそうな、むしろお荷物な奴をずっと乗せとくのか?」
「オイクソ剣士、アンリちゃんになんて言い草だ!」
「可哀想だから、ずっと守ってやんのか?」
「アァ!!?」
“ずっとおれが、守ってやるからな”。
誰かの優しい声が、脳でリフレインする。
それは、駄目だ。わたしが龍神族だからとか、この人達を前世から知ってるからとかじゃなく、駄目だ。
「“せんちょうさん。
わたしを、つぎのしままで、のせてください”」
「ん?次の島まででいいのか?」
船長さんはきょとんとした顔でこちらを見るが、わたしはこくんと頷く。
守ってもらうのは、いやだ。
「よーーし、じゃあ次の島までよろしくな!アンリー!」
「…まったく、仕方ないわね。船長が許可したんだから、ゾロもそれでいいでしょ?」
「勝手にしろ。おれァ寝る」
「よかったなーアンリ!」
「チクショウ!オメェ後でオレ様のスーーパーーな発明品見せてやるよォ!!」
目をキラキラ輝かせるチョッパーさんや、泣きながらバシバシとわたしの肩を叩く海パンさんは、いい人なのだろう。良心が痛むが、仕方ない。
遠慮がちに笑って見せると海パンさんから「チクショウ!!泣いてねェ、泣いてねェぞーーー!!!」と言われるが、わたし別に何も言ってない。というか声出ないから。
とりあえずわたしを次の島まで乗せてくれる、という事で、ナミさんの一声で解散となった。わたしはまだ用意してくれていたスープが残っておりキッチンにいる。どこに行けばいいかも分からないし。
金髪さん、もといサンジさんはコックさんらしく、「おれはまだ用事があるが、アンリちゅあんはここでゆっくりしてていいからね」とコックさん直々に許可をいただいた。
そしてぼーっと考え事をしながら、少し緩くなったスープに口をつけた。
温度がある、しかも飲み物なんて久しぶりだ。もう口にすらできないと思っていたから、なんだ嬉しくて涙が滲んだ。
「っ!?
ど、どうしたんだいアンリちゃん!!何か苦手な物でも入ってたか?!それともショウガがキツかったか?!」
慌てるサンジさんに首を横に振る。
さらさらと、とまではいかないが先ほどの紙にまたペンを走らせる。
「“こんなにあたたかいもの、口にするのは ひさしぶり だったから”」
その文字を読み、サンジさんは絶句する。
嘘ではない事を書いたつもりだが、どうしたのだろうか。
口元に手を当て、沈んだ表情でそうか、と低く呟くと、隣に腰掛けわたしの手を取った。
「この船にいる間は、いつでもあったけェ好きなもの作ってあげる。
悲しい気持ちや、苦しい気持ちを押し殺さずに済むんなら、おれがいくらでも…」
握られた手が、あたたかい。
人の温度は、こうもあたたかいのか、と久しぶりに思い出した。
いくら前世で国民的に人気の漫画だったから、と言ってもこの人は、今ここで生きている。わたしの言葉を聞いて、体温を感じて生きているのか。声にならない、言葉をはくはくと口を開いて伝える。
「…(ありがとう)」
「……い、いや、いいんだ船長が次の島まで乗せると決めたんだ。それに、おれは世界中のレディに恋する男なのさーーー!!」
わざとらしくハートを撒き散らしハリケーンのようにクルクルと舞い踊るサンジさんにすごい既視感を感じる。
顔はいいのにそうしていると本当に残念で、声は出ないが笑ってしまった。
「お、やっぱりさっきの“笑ってるだけ”より可愛い笑顔だ」
「っ、」
「あー、いや責めてるわけじゃないんだ。
さっきフランキー達に笑ってたのはおれ達を安心させたかったからだろ?むしろレディに気ィ使わせたヤロウ共に蹴りいれたいくらいだ」
ニッ、と笑う彼は先ほどよりも年相応の笑顔を見せてくれた。前世の記憶を引っ張り出して、確かサンジさんは飲食店で働いてたんだと思い出した。なるほど、どこかホッとさせるのは接客業で培った技なのだろう。
穏やかな空気の中、スープは気がつくとなくなっていた。
「“ごちそうさま。おいしかったです”」
「こちらこそ、綺麗に飲んでくれて嬉しいさ。まだお代わりあるが平気かい?」
お腹いっぱいだと伝えるためにこくんと頷いた。そうかい、とまたニッと笑う彼は煙草に火をつけて椅子の背もたれ側を腹にし、またわたしに問いかける。
「好きなものや苦手なものがありゃ言ってくれ。この船にいる間はアンリちゃんの好きなものを作りたいんだ」
「……“きらいなものはない。さんじさんの作るものは きっと なんだっておいしいから”」
むしろこの世界の食べ物は分からないものだらけだ。確か海獣?とか海王類?の肉も食べるらしいし…。だからなるべくいろんなものを食べてみたい。船を降りて海へ戻るのだからそれまでは前世と似た味が食べたいというのが本音だ。
書いたメモを胸元で掲げると、目をハートにして、ついでに煙草の煙もハート型になり(すごい器用なことをするなぁ)、
「んんなぁんて可愛い事を言ってくれるんだ〜〜〜!!!もっっちろんウマいメシを作ってあげるからねーーー!!♡♡」
「……(器用に面白い人だなぁ)」
その奇声ともとれる元気なお返事に、「うるっっさい!!!」とナミさんが怒鳴り込んでくるまであと数秒。
(指針はまっすぐ)