龍神族編
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ぷかぷか、ふよふよ。
波に攫われ漂っていると、ぽっかり空いた穴の中に水が流れて沈めてくれる。
挫折しそうな程、大きな穴だった。
それも今じゃ、ぼんやりとしか思い出せないけど。
わたしには、前世の記憶、らしいものあがある。
世論でいう所の普通な幼少期、学生期を過ごし、成人過ぎても普通の事務職で好きでも嫌いでもない仕事を毎日毎日行っていた。
趣味と呼べるものもなく、何かに全力で取り組んでいる人を見ると眩しかった。
オタクの友達は、そんなわたしを心配して、よく遊びに連れて行ってくれたり、おすすめの漫画をくれたりしたな。
そんなつまんない人間だったわたしが、ある日、家でくつろいでいると強盗が侵入してあっさり殺されたのだ。
随分あっけなく終わった人生に、涙すら出ない。
呆然としていると、意識は暗く深い場所まで落ちて、やっと差した光は水面からの眩しい光だった。
そうして“次の”わたしは海で生まれた。
海沿いの街、という意味じゃなく。
事実海の中で生まれ、育った。
母にどうして?と聞くも、わたし達はそういう種族なのだと聞かされた。
生まれ変わりなんて信じていなかったが、人間の姿(鏡がないので触って確かめた)で、エラもヒレも鱗もなく、海の中で生活しているとなると、ちょっとファンタジーな世界へ生まれ変わったんだなと信じざるを得ない。
母曰く「私達は龍神様に愛されている」
母曰く「陸の上にも人間がいて、その人たちは皆危険だ」
母曰く「私達龍神族は、女性しか生まれず、そして短命である」
母曰く「龍神族の肉を食らえば長命になる、という人間もいるがそれは間違いだ。私達を食らえば海の怒りが起こる」
だからわたし達は決して、自らが龍神族だと言ってはならない、と。
母の母も、その母から聞いた話だそうだ。
その話を聞いたのが10歳頃。
この世界に生まれて、海の中で生活する事15年ほど。
今年、母が死んで3年くらいになるだろう。
母は私の全てだった。
世界には、わたしと母しか居らず、この深く暗い場所でずっと一緒に暮らすものだと思い込んでいた。
けれど、“龍神族は短命”。
その証拠に、母は年を追うごとにボロボロになりながら亡くなっていった。
喪失感がわたしの心からずっと消えない。
前世でわたしが亡くなった時も、みんなこうだったのかな?
暗くて、深くて、瞼が開いてるのかさえ分からない。
このまま何処までも落ちて行ったら、誰にも気付かれず、わたしも死ぬのだろうか。
ああやって、また居なくなるのだろうか。
「---それは、嫌だなぁ」
ぽつりと呟いた言葉が泡になって溶けた。
すると、大きな渦がわたしを取り巻き、力強い波に攫われてしまった。
生まれて初めてこんな大きく強い力に取り込まれて、何が何だか分からないまま体は思いも寄らぬ方向へと流されていく。
「え、え、え、ちょ、っと待って」
流されて、流されて、流されて。
わたしの記憶はそこで途絶えた。
*
ワイワイ、ガヤガヤと騒がしい音が聞こえる。女の人の声と、男の人の叫び声。
なんだか楽しそだし、どこかから美味しそうな匂いがする。
ん?匂い?ここに生まれてから匂いなんてものに出会ってないよね?そもそも海の中だったし、空気なんて、無いわけだから…。
そこではた、と気が付き勢いよく瞼を開けた。
視界いっぱいに入るのは、知らない木目の天井。横にそらすと机や椅子、何かの棚も見える。
わたしの直感が、告げる。
ここは、海の中じゃない。
全く別の、陸。
「(でも、一体どうして…?)」
困惑と焦りで冷や汗をかいてキョロキョロしていたら、部屋の扉がガチャリと開いた。
てちてちと可愛らしい効果音で歩いてくるもふもふの毛皮、否動物に何故か既視感があった。
「あ、もう起きたのか!
海水飲んじゃってるから、まだ安静にしてろよ」
「……???」
動物が、喋ってる…?
この世界は海の中で暮らす人の他に、動物も喋るの?
思ってたよりハイファンタジーすぎない?
「おれはこの船の船医、トニートニー・チョッパーだ」
……………今、なんて言った…?
なんだか、とてつもなく聞き覚えのある名前だった気がする。
悲鳴が出そうになりながらもぐっと堪え、ここが何処なのか聞こうと決意し、どうも見覚えのあるピンクのハットに茶色い毛の生物を見据える。
「……っ、………?」
あれ?声が、出ない?
いや、数年前までお母さんとはよく喋っていたし、流される前にも言葉発せれた。
何故?どうして?
「お前、もしかして喋れないのか?
着てた服もボロボロだったし…、」
あ、違う。なんだか誤解を生んでしまったようで船医さんはつぶらな瞳をウルウルとさせていた。
い、居た堪れない空気になってしまったから、早く誰かきて。それか、早く誤解を解いてわたしの喉!!
わたしの願いが届いたのか、船医さんがやってきた扉がまた開く音がして、誰かきた!と希望の眼差しを向けるとオレンジ髪の、これまた見覚えがある美人が入ってきて船医さんに声をかける。
「…あら、あんたもう起きたの?
だったらシャワー貸してあげるからとっとと入ってきなさい。身体は拭いたけど、頭とかギシギシでしょ」
「ナミ、こいつ声が出ねぇみたいなんだ」
「え?……はぁ、また厄介ごとが舞い込んできたわね。あ、ごめんなさい。悪気はないのよ。この船の船長って色々無闇に首突っ込むから」
そこからナミと呼ばれた美人さんはわたしに服を持たせて、シャワールームへ案内して、「髪乾かしたら甲板に来なさい。これからの事もあんたの事も話さないといけないから」と言い残した。
トントン拍子で話が進み過ぎて呆然としてしまったが、取り敢えず蛇口をひねると頭の上から暖かなお湯が細かに流れてくる。
この世界に生まれて初めて、暖かいシャワー…。久しぶりだぁ。
それにしても、考えることが多すぎてこんがらがってしまう。整理がしたい。疑問は3つ。
①何故船の上なのか。
これについてはあらかた予想がつく。
流されていたわたしをここの人が拾って看病してくれたのだろう。
②何故ここの人(動物?)は見覚えがあるのか。
これについては考えたくないが、一つある。
まだ決定じゃないし考えたくない、パス。
最後、③何故声が出ないのか。
これは本当に分からない。声が出ない。
さっきまで喋れてたのに。
船医さんが疑うような精神的疾患も、肉体的な疾患もないはず…。
頭をひねるがこればっかりは分からない。
取り敢えずあの美人さんが言っていたように頭を清潔にして、タオル(これも久しぶりの肌触り)で髪を拭いた後、貸してもらった服に袖を通して甲板へ出た。
其処には先ほどの船医さんとナミと呼ばれていた女性。麦わら帽子を被った少年や、長い鼻の少年。金髪の男の人や壁にもたれて寝こけてる人。黒髪のすごく綺麗な女性と、…何故かパンツ一丁のアロハ服の男性と、ホネ…??が居た。
久しぶりの海の上なのに、ハイファンタジーと人の多さがわたしを襲う。
「おーーー!!オメェ起きたのか!!!」
「っ!」
「ちょっとルフィ!この子の事さっきチョッパーが説明したでしょ?!」
「あ、そっか。お前喋れねェんだっけ?」
目の前の麦わら帽子の男の子は、キョトンとした顔でこちらに近づいてくる。
言葉を発せれない喉を抑えながらこくこくと頷くと「おれァルフィ!この船の船長で海賊王になる男だ!!」そう言ってにかっと笑っていた。
陸の人は怖いって聞いてたけど、暖かい人だ。
そう思っていたのも束の間--。
「オイルフィ!!
幼気なレディに近付くな!!彼女は繊細なハートを痛めてンだぞ!!!!」
大きな怒声が響き渡り、目の前にいた船長さん(この時点でわたしの疑惑も確信に近いがまだ認めたくない)を金髪のスラっとした男性が蹴り上げた。いや、頭だけ狙って蹴った。
すると、びょーーーんと効果音がつくようにルフィくんの首が伸びて、またすぐに元に戻り何でもなかったように蹴られたところをさすっている。
「あーーーびっくりしたァ」
「っ、っ、っ…!!!」
「大丈夫ですかレディ?
あんのクソゴムは放っておいて。
さぁジンジャースープを作っているので、中へどうぞ」
こちらも何でもなかったようにわたしの足元に跪いて、胸元に手を当てくるんとした眉と綺麗な瞳でこちらを見ていた。…が、そんな紳士的な態度なんて今は目に入らない。
だって、そんな、首が、伸びて、縮んで。
なんでどうして、この世界の陸の人ってみんなこうなの?動物も喋るの?ホネも動くの?と頭で疑問符が浮かぶが、そのどれもにわたしは見覚えがあるし、答えが分かるのだ。
疑惑が、確信に変わる。脳の理解に気持ちが付いていけずに、声にならない悲鳴をあげる。
力が入らなかくなって、膝から崩れ落ちた時に見えた船の帆にはデカデカと麦わら帽子に被った海賊のドクロマークが見えた。
あぁ、もう決定だ。
ゴムみたいに伸びる麦わらの男の子、船医は喋る青い鼻の動物で、麦わらのドクロマーク。
果てはルフィ、ナミ、チョッパーという名前。
陸の人間だから知らない、では片付かない。
ここは前世で、みんな一度は目にしたことのあるほど有名な、海賊の、ONE PIECEの世界だ。
(海と、知ってた世界)