カレの母親の家に、幸せが訪れた。祖父母となったカレの母親の両親は、孫の一挙手一投足に目尻を下げ、この幸せをもたらしてくれたカレの父親に、感謝と恩情を向けた。一人娘に自慢の婿が、と、吹聴して回る程だった。カレの両親の夫婦仲も睦まじく、カレの父親は、この幸せを守るために、死神であることを捨てようと思った。どのように元いた世界に帰ればいいのかも分からず、せめて最後に任務完遂の報告だけでも、と思ったが、護廷隊では既に彼は死んだものと思っているだろう、と考えた。
何より娘が生まれた、この幸せを守りたい。彼は伯爵家の跡継ぎとなることを決意した。

しかし意外な運命がカレを、カレの家族を待ち受けていた。
カレが四歳になった年だった。
彼女はレイピアという細身の剣を欲しがった。カルファという国では、この剣で、斬る、というより、突くという攻撃をする。何かにつけて早熟なカレは、大人用の剣が欲しい、と目を輝かせて言った。彼女の祖父母は、まあ、この子はおませさんね、と笑って言ったが、彼女の父親は剣というものを知っている。彼はしゃがみこみ、彼女の目を見て言い聞かせた。
いいか、お前が私と同じく剣の道に進むというなら、恐怖心や心を狂わす血の猛りと戦い、常に己を平静に保つように努力しなければならない。女の身でも怪我もする、傷も出来る、それに耐える決意がお前にあるか、伯爵令嬢として、過った道に剣を振るわないと誓えるか、と問い詰めた。

初めは驚いて泣きそうな顔をしていたカレだったが、やがて健気にも無邪気ににこりと笑うと、誓うわ、お父様、カレはお父様の娘だもの、と言い放った。

これには皆が笑い、彼女の健気さに感動もし、お前は父君の立派な跡継ぎだ、と、抱き締め合った。

彼女の運命が動き出した瞬間だった。