ここで日比谷 カレという隊士について、もう少し説明しておきたい。

彼女の母親は、じつは瀞霊廷の人間ではない。彼女は「マーベル大陸」という異界の人間で、その大陸のカルファという国の荘園持ちの貴族の娘だった。とりたてて武ばったこととは縁のない乙女だった。美しい銀髪と、深いスミレ色の瞳をもつ、純粋な心の持ち主だった。

カレの父親は席官を勤める死神だった。将来はどこかの隊の隊長になるのでは、と噂される程の腕の持ち主だった。高い背と、精悍な顔立ちや体つきは、峻厳な強さの現れだった。

ある日のこと、カレの父親は、虚を退治している最中に、異界に紛れ込んでしまった。手負いの彼は、虚が倒れたことを確認すると、力尽きてその場に倒れ込んだ。ここは何処だろう、どうやって元の世界に帰ればいい。ぜえぜえと肩で息をしながら辺りを見回していると、そこは現世の中世ヨーロッパに似ていた。時空を超えてしまったか、そう思っていると、ちょうどお付きの侍女を連れて教会から帰ってきた、美しい乙女に見つけられた。まあ、ひどい傷、と乙女はドレスやハンカチが血で汚れるのも躊躇せず、彼を介抱した。そして自分の屋敷に彼を運び込むと、付きっきりで看病した。そうこうしているうちに、カレの父親と母親は恋に落ちた。そして生まれたのがカレだった。

カルファ中の誰よりも剣が強く、死神としての武の道に鍛えられた精神の強さをも併せ持ったカレの父親に、カレの母親の両親はすぐに惚れ込んだ。そして結婚の許しを出した。可愛い一人娘に、このように心身共に強健で精悍な婿が出来た、両親は神に感謝の祈りを捧げた。