陽射しの麗らかなある日─。
五番隊隊舎の斬術訓練所に、隊長たる藍染と、五、六名の少女隊士達が、休憩に使う庭石に座し、きゃあきゃあと騒いでいた。五番隊は穏やかな隊風とはいえ、少女達と藍染の戯れは、やや風紀的に好ましくないものを感じさせた。
「私はですねぇ、藍染隊長、隊長にまっすぐ前から見つめられるのが好きです！」
ある一人の少女が、あるまじきことに藍染の両頬を、斬魄刀を持ち慣れていない柔らかい手のひらで包み、自分の方へと向け、きゃあと嬌声を上げた。
他の少女達は、いやーん、ずるいー！などと騒ぎ立て、藍染は許可していないのに、次の少女が、
「あたしは、こう、斜め45度のこんな感じで流し目をされるのが好きですー！」
と言って、また藍染の両頬を手で包んで、少し横に傾けた。
藍染は、のんびりと、こら止しなさい、などと言ってはいるものの、気が向いたのか、少女達に付き合ってやる、と言った体だった。
訓練所には他に誰もいないらしく、少女達は憧れの隊長に迫る絶好のチャンス、とでも思ったらしく、無邪気に騒ぎつつも、どことなく不慣れな女の妖しさを醸していた。藍染は不快に思ったが、本性を隠し通すため、作り笑顔を浮かべていた。


そうこうしているうちに昼餉の時間になった。今日の御膳係の隊士が、少女達に
「何をしているんだ！今日はお前達も御膳係だろう！」
と怒声を浴びせた。少女達が振り向いて、藍染の姿が現れると
「失礼致しました！藍染隊長！その隊士達とお話でも…。」
とたじろいだが、
「いや、いいんだよ。君達も御膳係を忘れて遊びにかまけていては、席官への道は遠いよ。」
と藍染が少女達を軽く嗜めたので、少女達も肩をひそめて去っていった。まだ食べ盛りの年頃である、少女達は、米粒を口に入れる頃には、藍染のこと等、きれいさっぱり忘れていることだろう。
「藍染隊長もどうぞ食堂へ。ただ今準備をさせておりますので、」
と少女隊士達を呼びにきた御膳係の隊士は藍染を隊舎内に案内しようとしたが、それを遮って、
「もう少ししたら行こう。もう誰もいないと思うが、斬術訓練所を見てから行く。」
と藍染は言い、御膳係の隊士を労うと、訓練所の方へ歩を向けた。


誰もいまい、と思い訓練所の入口まで来ると、一人の女性隊士が訓練を終え、訓練所に向かって一礼し、隊舎に向かうところだった。
「精が出るね、日比谷君。」
藍染は日比谷、と呼ばれた隊士を褒めた。彼女は、五番隊では藍染を除けば斬術の腕は一番、と言われている、日比谷 カレという隊士だった。