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麻巳子の足跡が消えた直後、藍染は麻巳子の生家を訪ねてみようと思った。
麻巳子の家族は藍染を知っているし、別に特段怪しまれたりはしないだろうと思っていた。
ところが、意外なことが起こっていた。
麻巳子の家は半壊していて、もう誰も住んでいなかったのである。
麻巳子の家は半壊で済んでいたが、あの山寺は滅茶苦茶に倒壊していた。
なんでもあの別れの後、山寺の建っていた山で大規模な山崩れがあり、寺の本堂から庫裡から、寺の所有だった建物を、全て押しつぶしてしまったのだという。幸い土砂は、墓地と近隣の家々を飲み込むには至らなかったが、麻巳子の家は元々があばら家だったため、わずかな土砂の流れにも耐えられなかったのだろう。黒く煤けていた木の壁には穴が空き、雨戸は打ち破られ、黄ばんだ障子紙が破れてひらひらしているのが残酷だった。家の倒壊に気を付けながら中を少しのぞき込むと、家財はかなり運び出されていた。残っている物もあったが、それはぼろぼろになり、持って出る価値のないものだけのようだった。
土砂崩れの勢いは収まったようだったが、立ち入りは禁止されていた。しかし寺には時折人の行き来があった。なんと、あの傲岸不遜な悪僧だった住職は、土砂に埋もれて本堂ごと潰されて亡くなってしまったとのことで、先祖の墓を新たな菩提寺に移そうとしている元檀家の者達が、ぽつぽつと墓を訪れていた。行き交う者達は皆噂話をしていた。
この寺には管狐がいたそうで、それが山崩れの前に逃げ出してしまい、その加護を失った寺は、災厄に見舞われたのだと―。
誰も住職の死を悼んでいる者はいないようだった。それよりも、真偽の定かでない噂話が、信仰心という名をかぶって一人歩きしていた。
クダちゃんの力は確かだった―。
藍染はあのか弱い管狐の姿を思い出し、麻巳子とクダちゃんは無事だろうか、と茫洋とした頭で思った。
寺は廃寺となり、やがて人々の記憶から消えた。
麻巳子が表舞台に立った時には、過去が遠く消えていて、人々の噂にのぼるようなものが何もなくなっていたことが、彼女に幸いした。
藍染は麻巳子の住んでいた陋屋の玄関口に、泥だらけになったぼろぼろの万葉集を見つけた。中身をめくると、お気に入りの歌にでも印を付けていたのか、稚拙な字で、「麻巳子」、と丸で囲んだ名前が時折記されていた。
藍染はその万葉集を、そっと懐に入れた。
長い雄伏の時間を超えて、麻巳子は世界へと姿を表した。
ガールズアイドルグループ『Seven Seasons』―人々が略するに『セブンズ』―の華々しいデビューと、破竹の進撃が、世を席巻した。
その時には人々は伝令神機を手にし、やがて十二番隊が、『霊子テレビジョン』を開発完了させていた。
瀞霊廷エンタープライズは、霊子テレビジョン第一放映企業として名を馳せていた。
瀞霊廷エンタープライズは、芸能部門『瀞霊廷エンタープライズエンターテイメント』を創設し、その代表所属グループ『Seven Seasons』のダンサー、『Sui』として、麻巳子は日毎人口に膾炙するようになった。
藍染が麻巳子の姿を再び見つけた時には、相当の年月が経っていた。
そしてその姿は、手に届く世界から、画面の向こう側へと移っていたのである。