TV Syndrome 〜サイト開設10周年記念〜
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それから瞬く間に数年が過ぎた。
藍染も麻巳子も、あれから少し背を伸ばし、藍染は一人で生きていけるにしても、麻巳子も藍染の教えを受けて、たくましい方に育った。
二人で踊る日々は、それは楽しいものだった。
これが永遠に続けばいいのに、などと思いもしない程、二人にはそれが現在進行形で、夢中な日々だった。
藍染には、霊術院の卒業が待っていた。
その春の麗らかな日のことを、まだ昨日のことのように覚えている。
いつものように山の中での鍛錬を、藍染は終えた。
今日はいつもとは違った。
大山鳴動して―とうとう 卍解 に至った―。
その時の山鳴りが凄まじかった、と後から麻巳子に聞いた。しかし藍染は、それは自分のせいではなく、崖崩れでもあったのだろう、と答えた。
何故なら―その力は世界を変える禁忌の力故に、人に漏らしてはならぬ、と、斬魄刀に戒められたからだ―。
思ったよりも藍染は興奮しておらず、冷静だった。
嗚呼、卍解に至ったと身上書に書ければ、昇進も早く、給料も上がるのに、そんな下らない考えが一瞬浮かんだのち、麻巳子の顔が思われて、なんとなく寂しい予感がした。
何故だか分からないが、悲しかった。
「麻巳子、今日も待っていてくれたんだね。」
藍染はいつもの山寺の辻で舞う麻巳子に、笑顔で、しかししんみりと声を掛けた。
「麻巳子、もうあとひと月もしたら、もうここには来られなくなる。霊術院の卒業が決まって、護廷隊に配属されることになったんだ。」
藍染は嬉しいような、でも残念な気持ちで麻巳子に告げた。
「本当に!?すごい!!惣兄ちゃんおめでとう!!」
麻巳子は喜びを表して、満面の笑顔になった。その顔を見て、藍染は、麻巳子の日常には何も変化がないのかもしれない、と思ったが、その後麻巳子が告げた言葉に、頭を殴られたような衝撃を受けた。
「惣兄ちゃん、実は私も惣兄ちゃんにお別れのあいさつをしなくちゃならないんだ。実は明日から、『青空座』っていう歌舞団に入るから、そこの人が迎えに来て、もう明日でこの家ともお別れなんだ。だから惣兄ちゃんとも、もう会えないの―。」
麻巳子が、悲しそうに、しかし思ったよりもしっかりとそう答えた。
青空座―芸事を職にしない藍染でも、最近その噂を聞いていた。なんでも歌舞に秀でた幼い娘を金で集めて、新たな一大勢力を作りはじめている歌舞団だった。盛んに全国公演を行い、支援者を着々と増やしていた。
藍染は、麻巳子に身の危険がないかどうか案じた。歌舞団など、幼い娘に春をひさがせるのが真の目的なのではないかと思い、思念が暗いところに落ちた。
「惣兄ちゃん、心配しないで。私が自分で決めたんだ。私が青空座に入れば、家には三百万環もお金が入るんだって。これで少しは安心して麻友子を医者にかけられる、って、お父さんもお母さんも安心してた。」
麻巳子は努めて冷静を装っていた。つまりは両親は麻巳子を売ったのだ。一時金が入る上に、口減らしが出来る―麻巳子の両親の選択に、藍染は残酷さを覚えた。
「惣兄ちゃん、お父さんとお母さんを怒らないで。これは私のためなんだ。」
憤りや悲しみややるせなさを隠しているのかと思いきや、麻巳子はどうやら別の意味で興奮しているようだった。
「この家を出て、広い世界を見に行くの。そして大きな舞台で、いつか沢山の人に私の踊りを観てもらうんだ―これは私に与えられた唯一の好機かもしれない―だから私、行くんだ。これを逃したら、私、近所のお金持ちの家に、子守奉公に出るしかない、って言われたの。そんなの絶対に嫌。私には踊りしかない。だからこの機会は、危険でも絶対に手にしないといけないの。これは私のためなの。私、絶対に舞踏家になる!!」
麻巳子は、燃えるような瞳で、藍染を見た。その背後にいつか燃え立たせた青い炎は、先が見えないながらも希望に満ちていて、もはや世界を包む光芒のように眩しく感じられた。
「惣兄ちゃん、今まで本当にどうもありがとう。惣兄ちゃんのお陰で、青空座の団長さんに、筋が良い、って褒めてもらったよ。」
麻巳子は不安を押し隠して無邪気に笑って見せた。
「麻巳子―。」
藍染は、初めて藍染に偽りの笑顔を見せた麻巳子を哀しく思った。しかしその決意は、誰にも止められないことも分かった。
「麻巳子、君には自分の身に迫っている危険の意味、僕が心配している世間の残酷さの意味が分かっていると思うけど、それでも君は行くんだね…。」
藍染には、先程自分が卍解に至ったよりも、麻巳子の身の上の心配の方が大事であった。もし世界を変える力があるというなら、彼女の進む道を変える力が欲しい―、藍染は心底祈った。
「大丈夫、惣兄ちゃん。もしものことがあったら、下っ腹を思いっきり蹴っ飛ばして逃げる、そうでしょ?」
彼女の両親が教えないので、藍染が教えた護身術を口にして、麻巳子は不敵に笑った。
嗚呼、彼女はこんなにも大人になった―藍染は、麻巳子ならきっと大丈夫だろうと確信した。
いや、むしろそれは、確信であってくれ、という祈りだった。
麻巳子は旅立ちに燃えている。自分も己の道を切り拓いていかねばならない。
「麻巳子―、どうか無事で―。」
藍染は何度撫でたか分からない麻巳子の頭を、感慨深い気持ちで撫でた。
「もう子供扱いはしない。君は世紀の舞姫だ。君の一番の応援者は、僕だということを忘れないで欲しい―。」
藍染は、麻巳子の小さな―それでも少しは広くなった肩に両手を置いて告げた。
「ありがとう、惣兄ちゃん!!いつか私が舞台に立ったところを観に来て!!」
麻巳子は弾んで言った。それはいつもの無邪気な麻巳子だった。
「いつかまた会おう。約束だ。」
藍染は麻巳子の手を取り、手の甲に口づけた。
麻巳子は手を胸にやり、礼をした。ただそれだけで、人を魅了する絶大なる空気の支配を感じた。
こんなにも自分を虜にした存在にはもう出会えないだろう―藍染はその空気の圧倒的な力に、陶酔する自分を感じて、酔いを感じるのを禁じ得なかった。
「今までありがとう、麻巳子。心底楽しかった。」
「こちらこそ本当にありがとう!こんなにも良い思い出が出来て、沢山色々なことを教えてもらって、私、幸せだった。」
二人はしんみりしたものの、涙は出なかった。
またどこかで、夢の続きを見られる、と思った。
そう、夢は続く―。
今日も画面を隔て、昼も夜も―。