TV Syndrome 〜サイト開設10周年記念〜
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
藍染と麻巳子の二人が共に過ごした山の中の寺には、管狐(くだぎつね)が飼われていた。正しくは閉じ込められていた、というべきである。
寺の住職は本堂脇の書室の文机の上に、管狐を閉じ込めた竹筒をいつも載せていた。住職は管狐を使役して占いをしたり、霊験あらたかなことが起こったかのような見せかけを行ったりしていて、「先見の能力がある」と噂され、名僧の素振りをしていた。悪徳僧である。
管狐は大変臆病な質で、住職を恐れ、言われるがままにこき使われ、普段は古びた竹筒の中で身をかがめ、恐怖に身を縮めてガタガタと震えていた。何年もそんな状態であるというのに、管狐の臆病さは尋常ではなく、一度も逃げようともしなかった。もっとも住職は威厳ある、と言えば聞こえはいいが、居丈高に人を威圧する空気を放っており、多くの者にはその本性は見つからなかったが、かなりの悪僧だった。管狐の力を自らの修行の賜物の霊力だと偽り、高額な祈祷料を儲けていて、たまに墓参に来るだけの檀家の者にとっては名僧でも、毎日隣で暮らしたり通りかかったりする藍染や麻巳子には、その本性は知れていた。管狐は住職を恐れて、住職が留守の間、文机の上で竹筒ごとカタカタと震えていた。言う事を聞かなかった時、住職に握りつぶされそうになった恐怖が忘れられなかったようで、誰に助けを呼ぶことも出来ず、涙も流せない程恐怖し、毎日暗黒の日々を過ごしていた。
ある日のこと、住職は近隣の者に頼まれて、祈祷を行いに管狐を連れて寺の敷地を出ようとしていた。
管狐を竹筒ごと袂に入れ、麻巳子の家の前を通りかかった。その時たまたま藍染もその場にいて、二人はなんとなく渋々住職に頭を下げた。
住職は藍染が、山の借賃、と思い、しばしばお賽銭をあげていたのを知っていたようで、
「これはこれは藍染家の若君、本日もご精が出ますな。」
などとお世辞を言った。お賽銭をあげる余裕のない麻巳子のことは無視をした。
その時、たまたま管狐を入れている竹筒が袂から滑り落ちてしまい、竹筒が衝撃で真っ二つに割れてしまった。
管狐は、逃げ出す千載一遇の機会だというのに、遠くに逃げず、何故か麻巳子の懐へと潜り込んだ。管狐はガタガタと震え、恐怖から、麻巳子に助けてくれ、と懇願の眼差しを向けた。
「クダちゃん、くすぐったいよ。」
麻巳子は一重の着物しか着ておらず、管狐の毛並みが素肌にこそばゆかったらしい。しかし屈託のないその返事とは裏腹に、異変を感じ、管狐をどうにか助けなければ、という思いが強く湧いた。
「おお、これ銀嶺。」
住職は管狐に『銀嶺』、という名前を付けていた。しかしその名に反して、管狐は美しい黄金色の毛並みを持つ、小さな細い精霊だった。
「ぎんりょう?」
麻巳子は住職の呼んだ名前を反芻した。しかし管狐は麻巳子の方を必死に見つめて、ひたすら震えていた。
住職は無遠慮に、麻巳子の胸元に手を突っ込もうとした。いくら童女とはいえ、麻巳子は女である。住職が麻巳子を女だとはみていない世俗から離れた者だったとしても、あまりにも不躾な行為だった。
そこへ藍染が、突然刀をすらりと抜いた。
住職は肝をつぶして手を引っ込めた。手打ちにされる、とでも思ったらしい。
「いくら名家の子息とはいえ、当古刹の僧に手を出したらどうなりますかな?」
住職は冷や汗をかきながらも、藍染を威嚇した。
藍染は不敵な笑顔を一瞬作ったのち、側に生えていた竹をすっぱりと斬った。そして適当な太さの部分を一節切り出して、小刀で上面に穴を開けると、
「ご住職、これに管狐を移し替えて下さい。さすがに管狐を素のままでお連れになられましたら、ご住職の体面に傷が付きます。」
と述べ、うやうやしく新しい竹筒を捧げ渡した。それは前の竹筒よりも太くて大きな竹筒で、少しは管狐も住み心地が良くなりそうだ。
「おお、これは若君、失礼致しました。お心遣い、いたみいりますぞ。」
そう答えて住職は、冷や汗をかきながら藍染に礼を言い、竹筒を受け取った。
割れた竹筒の栓を拾い、使い回すことにして人心地つくと、住職は見せかけの威厳を取り戻し、
「さ、銀嶺。これへ。」
と厳かさを装って管狐に声を掛けた。
最後まで管狐は渋っていたが、住職に分からないように麻巳子が、
(大丈夫、クダちゃん!いつか必ず助けるからね!)
と口の動きだけで伝えると、管狐はすがるものを見つけたことに賭けよう、と思ったのか、麻巳子に掴まれて、着物の懐から出てきた。藍染も管狐に触れると、
(大丈夫。必ず助ける。)
と霊圧で告げ、一度うなずいた。管狐は意を決し、藍染の手に飛び移り、そのまま住職の持つ竹筒へと消えていった。
「うむ。聞き分けのいいことだ、銀嶺。」
住職は威厳たっぷりに取り繕うと、
「では先を急ぎますゆえ、これにて失礼致しますぞ。」
と、またしても藍染にのみ挨拶をして去って行った。
住職が見えなくなると、
「クダちゃん、大丈夫かな?」
と、麻巳子が心配顔で言葉を吐いた。
住職に失礼な扱いを受けたことなど、管狐への心配に比べたら、たいしたこともないようだった。
「機を見て必ず助けよう。クダちゃんは君のことが大好きみたいだしね。」
藍染は麻巳子を落ち着かせようと優しく、しかし力強く宣誓した。
「クダちゃん、待っててね。」
麻巳子は管狐の命を預かる決意をした。
管狐の方は、真新しい青竹の香りのする広くなった住まいで、住職の小言を聞きながら、近くの豪農の家に使役されに連れて行かれた。
しかし管狐は心強く思った。
必ず助けが来る―。
そしてやがて、麻巳子と共に、大きな舞台で光を浴びて、麻巳子の腰に揺られて踊る日々が来るとは、まだその時には思いもしないでいた。
管狐のクダちゃん―どうやら自らの未来には、先見の力は使えないようであった。