TV Syndrome 〜サイト開設10周年記念〜
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テレビジョンインタビュー収録を三日後に控えた日のことだった。
インタビューの依頼書が届き、藍染が希望を述べてから、五番隊は狂喜の渦に包まれた。特に座談会のメンバーに選ばれた雛森や席官達は喜び勇んで、憧れのアイドル達と何を話そうか、と浮かれ上がっていた。
夏季休暇も近く、書類仕事も一段落ついて、五番隊は開放的な雰囲気に包まれていた。そんな夏の日の暑い午後のことである。
Seven Seasonsの配信開始を告げる着信音が鳴った。
藍染は伝令神機を隊主室でのんびりと開いた。
しかしその知らせは、とんでもない知らせだった。
瀞霊廷で一番大きな往来で、Seven Seasonsがゲリラライブを始める、という内容だった。
すでに背後の交差点の巨大スクリーンには、セブンズの姿が映し出され、スタッフがSeven Seasonsのロゴの入ったうちわやフラッグやサイリウムを配り、続々と集まってくる人々の整理に追われている画像が映し出されていた。セブンズのファンは300万人とも500万人とも言われている。なかなかコンサートチケットも取れない彼女らのステージが、タダで間近で観られるのである。人々は争って交差点を目指した。
交差点の近くの道は既に封鎖され、巨大なステージと化していた。藍染は―。
行こう。
そう決めて、迷いなく立ち上がった。
もう手ぶらで会いに行ける歳ではない。
先日リップケースを贈ったので、今度は麻巳子のために、ハイブランドの口紅を用意しておいた。ラッピングされ、ショッパーに入ったプレゼントは、藍染の体には小さくて、それを隊主羽織の袂に入れても余裕で運べる程だった。
財布と矢立てを懐に入れ、ライブの音源テストを行っている音声を放ち続ける伝令神機を握り締めると、藍染は隊主室の窓から身を踊らせた。
後のことなんて、考えられなかった。
「今度会える機会があるなら、何としてでも会いに行く」―そう決めていた。
藍染は瞬歩で街を駆け抜けた。
流れていくのは、街並みなのか、己の身なのか、高揚感でよく分からなかった。
(Sui、いや、麻巳子―。)
我ながら大人げない、と思った。
何と思われようと構わなかった。
ただ、会いたかった。
交差点は凄まじい人混みと化していて、既に配布グッズは品切れだった。あまりに混雑していて、隊主羽織を着た藍染が紛れていても、誰も気にも留められない程だった。
藍染は人混みをかき分けて進んだ。
道行く人々は、皆幸せそうだった。
このままいけば、全ては壊れてしまうだろう。
そう、壊すのは私だ。
でも―。
このままでいたい。
全て投げ捨てる。
全て掬い上げる。
全て君に捧げる。
君のいるこの世界に、大いなる祝福を。
急いで走れば、まだ間に合うだろうか―?
時刻はもう申の刻、巨大スクリーンはカウントダウンを始め、人々は歓声を上げた。
Seven Seasonsのメンバーは、いつもの定位置につき、思い思いに手を振った。
Suiだけが、直立したままスッと右手を前に伸ばす。
この人混みの中、聞こえるはずがない。
しかし藍染は、彼女に向かって声を上げた。
「麻巳子!!!」
巨大スクリーンのデジタルの秒針が、天辺を打った。
彼女は、気付いた。
そして拳を力強く握り締め、藍染の目を見て、微笑んだ。
麻巳子の、水蜜桃色に化粧された艶めく唇が、生気をはらんで言葉を紡ぐ。
『 く だ け ろ
き ょ う か す い げ つ 』
それは、君だけが、私だけに使える、もう一つの『鏡花水月』。
君が見せるのは『覚めない夢』などではなく、さらに美しく色鮮やかに彩られた、新しい『超現実』だ。
その魅力の前では、我が 卍解 でさえ色を失う―。
藍染は、全てを忘れて恍惚とした。
何者にも振り回されない自信があった。
でも君には、翻弄されたくて仕方ないんだ―。
口紅を贈ろう。
「礼はいらない。少しずつ返してくれればいいから。」
そんなキザな台詞すら、君には吐けない程、君は尊い―。
耳をつんざく音楽が響く。
麻巳子がステップを踏む。
煌めく彼女の同胞の「家」が、腰で揺れた。
君と私の、新たな舞台の幕が、今、上がる―。
その記憶は、あの山に抱かれた木漏れ日の匂いの中に、やがて還っていくのだろう―。
〈了〉