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その少し後、麻巳子に熱愛報道が持ち上がった。
相手は今売り出し中の梨園の子息、倉賀野 京太郎という歌舞伎役者だった。京太郎は麻巳子と同い年で、尸魂界の梨園の子息では珍しく、普通の芸能界の仕事も少しかじっていた。尸魂界では梨園の者は一般の芸能界の仕事はしない。しかし京太郎は気取りのない性格で、梨園に新たな風を吹き込もうとしていた。
だが、京太郎の両親や、他の梨園の者達は、それをこころよく思わなかった。時代の流れが変わってきたことを、一般大衆は歓迎していたのに、梨園のしがらみが、京太郎を型にはめようとしていた。
実は京太郎に、時代劇の仕事が舞い込んだ。題材は山本総隊長の無名時代に脚色を加えたもので、『武神黎明』と、タイトルまで決まっていた。テレビジョンのドラマ放映で、役上の山本の恋の相手役の女優として、Suiが抜擢された。
一般大衆は老若男女、大いに期待し、大いに盛り上がった。SNSでは「#武神黎明」のタグが大盛り上がりし、何度もその話題はトレンド入りした。
麻巳子の身辺も忙しくなった。麻巳子が演じる役は、男装した武家の姫君で、姫君としての所作から、武人としての所作、殺陣など、覚えることがいくつもあり、不慣れな麻巳子は、忙しいなか、毎日最低一刻はドラマのための稽古に費やした。その努力を知った京太郎が、SNS上でSuiをねぎらっただけで、熱愛の噂が広がってしまったのである。それだけ『武神黎明』にかける人々の期待が大きかった、ということだろうが、梨園はそれを理解しなかった。梨園の各家の公式SNSは、遠回しに「京太郎を誘惑した不埒な娘」として、Suiをいわれなく誹謗中傷した。
そして、Suiの夕どきコンコンでのお決まりのつぶやきは、
『くらがのきょうたろう すき』
と言っているとまで難癖をつけてきたのである。
これに一般大衆は激怒し、梨園の公式アカウントは大炎上した。
Suiのファンも、他の民衆も、梨園ボイコットを起こした。そのせいで梨園の界隈は、壊滅的な経済的打撃を被ることとなった。
それでも梨園も、京太郎も、伝統の誇りから、謝罪の意を見せなかったのである。対策は後手後手にまわり、結局『武神黎明』の企画は流れることになってしまった。Suiは最後まであきらめずに稽古を続け、誠意を見せたが、事態は覆らなかった。麻巳子とて経済的被害を被ったのである。
麻巳子は、京太郎が梨園の慣習に押さえつけられ、何も言えないのが分かっていた。だから、汚名を負っても耐えていたが、瀞霊廷エンタープライズエンターテイメントから、稽古の終了を言い渡されると、その日のSNSで、「『武神黎明』、永遠なれ」と、ひと言だけ投稿した。実はもう麻巳子の男装姿のイメージヴィジュアルは撮影が済んでいて、解禁を待つだけになっていたが、麻巳子はその写真と共に、そのひと言を投稿したのである。
姫君の姿でなく、京太郎演じる山本と共に戦う武人の姿を投稿することで、「共に役者として闘いたかった」との無念の念を、麻巳子は言い切ったのである。
これにより、世論はSuiに激しく傾いた。京太郎はまだしも、梨園は、倉賀野家は、著しくその威勢を失墜してしまった。
「謝れない相手なんて、最後まで頑張ったSuiにふさわしくない。」
そうして熱愛報道は、彼方へと消えていった。
その間、肝を冷やしていたのは藍染である。
毎日麻巳子は夕どきコンコンの始まりに、例の仕草を見せているが、藍染はチラと京太郎とのことを疑った。
麻巳子に対して邪念なんてない、なんて自分は愚かなんだ、と己を叱るが、藍染は正直、嫉妬していた。麻巳子だって恋の一つや二つはしたかもしれない。己を振り返ってみろ、麻巳子に言えないことだらけだ―。
食堂でテレビジョンを観ながら、本当に京太郎とSuiはデキてるんだろうか?、と噂話をする隊士の話が耳に入るだけでイライラする。
完全に、狂っていた。
それが事態が終息したことで、己の進むべき道がはっきり見えた。
もう黙って見ているだけの関係は終わりにしよう。
次に会える機会があるなら、どこへでも飛んでいく。もうこんな思いをするのはこりごりだ。麻巳子、私がどんなに気を揉んでいるのか分かっているのか。
あの幼かった子供が、私を翻弄する―。
いや、翻弄して欲しいんだ、いつでも君を追っていたい―。
あの美しい姿が、焼き付いて離れない―。
この思いを、己よ、汚さないでくれ―。
それからまたしばらく経った。
テレビジョン第一放映企業である瀞霊廷エンタープライズから、護廷十三隊各隊長に、テレビジョンインタビューの依頼が舞い込んできた。
インタビューの司会者は、各隊長が自由に指名して良いとのことで、内容は勿論、そのお相手選びだけでも大きな話題となった。
浮ついた話の大嫌いな山本総隊長は、はなからこの企画を拒否していた。しかし世論の期待は抑えがたく、副隊長である雀部に、
「総隊長は歌舞伎はお好きですかな?どうでしょう、先日ドラマ化のお話の上がった役者、倉賀野 京太郎など…。」
としつこく頼まれ続け、
「小童め!!好きにせい!!」
と、折れるしかなかった。
雀部としては、権威の失墜した倉賀野家に、梨園に、再興の機会を与え、世の平穏を守りたい意思があったのかもしれない。
とにもかくにもまず一番手である山本総隊長のインタビュー回の司会者が決まったことで、企画は大きく動き出した。
次に二番隊に順番がまわってきた。
砕蜂隊長は司会者に、引退したての元アスリートの女性のスポーツキャスターを指名した。なんでもドラマを観ているよりは、スポーツ観戦をしている方が気が紛れて好きだ、と答えたらしいが、日焼けして色の浅黒い、健康的に鍛え上げた体躯を持つ、黒髪を一つにまとめただけの気取りのないキャスターなど、誰を頭に置いて選んだのか、想像に難くない、と言ってやりたい。
その次は三番隊の番だ。
市丸はセクシー路線で人気の、売れっ子の映画女優を指名した。市丸が、熱心にテレビジョンや映画を観ているとは思えない。なんでもせっかくの機会やから、綺麗どころを呼んで、目の保養をさせて欲しいんや、と、ふざけた返答をしたそうだが、豊かな胸と尻、くびれた細い腰、長い絹のような金髪をなびかせたその女優を、誰を頭に置いて選んだのか、想像に難くない、と言ってやりたい。
四番手は四番隊だ。
卯ノ花隊長は、剣道師範の免許を持つ、中堅の時代劇俳優を指名したという。彼はまだ年若い頃、『剣道無頼』という時代劇で、若手俳優の中で名を挙げた。彼は紳士な人柄だが、『剣道無頼』の中で、力任せの破天荒な太刀筋で敵を打ち負かす爽快な殺陣を見せており、その時の撮影の思い出話を聞きたいと希望したという。その役だけ見れば、誰を頭に置いて選んだのか、想像に難くない、と言ってやりたい。
そしてまだ依頼書が届いていないが、次は五番隊、藍染の番だ。藍染は、Seven Seasons全員を指名しようと思っている。彼は朴念仁をよそおっているので、インタビューには雛森や席官を連れて、「集団座談会」という形をとり、話下手を補わせて欲しい、との希望を出すつもりだ。雛森も隊士達も、毎夕観ているテレビジョンの中のアイドルに実際に会えて、それは喜ぶだろう。自分は周りにしゃべらせて、その間、じっくり麻巳子の姿を楽しもうと思う。帰りに全員対全員で連絡先でも交換出来れば、怪しまれずに麻巳子に近付ける。そこまで考えを練って、藍染はほくそ笑んだ。
インタビューの収録はいつなのだろうか?
正直、そこまで待っていられる気がしなかった。