TV Syndrome 〜サイト開設10周年記念〜
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
藍染が鬱々とした日々を過ごしていたある日のこと、彼は市丸と東仙と三人で、高級料亭で策謀のための密談をしていた。遠慮する東仙に酌をしてやっていると、厠から帰ってきた市丸が、
「お向かいの部屋、なんか訳アリっぽいイヤな感じやな。」
と、暗い顔で、しかし笑いを貼り付けた顔で言った。藍染と東仙は、黙って市丸の顔を見ると、無言で続きを促した。
「こないなとこに来られへん稼ぎっぽい親子連れが、なんか結納もろうてるわ。」
市丸は、金持ちである新郎側の人間に対して胸糞悪い、という口調で吐き捨てた。普段は酷薄な三人だったが、何故だかその時は皆顔を曇らせた。
「藍染様、いかが致しますか?仔細を尋ねに参りますか?」
「いんや、面倒事に首ツッコむのはアカンて。」
東仙の気遣いに、アカンと言いつつ何か気にかかったのだろう。市丸は切り捨てるような口調では言葉を発していない。
藍染がどうすべきかと思っていると、
「お客様、困ります!」
「アンタ何者だ!?」
という、店の中居と番頭の声がして、何者かがドタドタと店の奥に入ってきた音がした。
藍染達は襖を少し開けて賊を見た。
賊、と言ったが、入ってきたのはまとめ髪にキャップをかぶり、サングラスをしたデニム姿の娘で、その勢いの凄まじさは嵐のようだった。
「お姉ちゃんに勝手な真似をするな!!」
娘は怒号を上げ、金持ちの新郎側の用心棒の男達に、足で的確に金的潰しを食らわせ、みぞおちや首の後ろなどの急所に拳を叩き込むと、新郎と新郎の両親にも同じように制裁を加えた。顔は見えないが、流れるように美しい動きは、まるで舞っているようで、凶行の悪辣さを感じさせなかった。
結納が行われていたと思われる座敷には、存在感が薄かったが、いかにも肺病持ち、という感じの、顔色の悪い痩せた着飾った娘がいて、驚きのあまり咳き込んで、立つことも出来ないようだった。
「お姉ちゃん!!もう大丈夫だから!!」
娘は細身の体のどこにそんな力があるのか、と思われる程の動きで、振袖の病身の娘を横抱きにすると、
「お父さん、お母さん!!ついてきて!!」
と言って、とっとと座敷から走り去った。
「あ、あんたは麻巳子!?」
初老の夫婦は驚いて立ち上がり、目を見開いた。
「話は後!!いいから外に出て、道に止めてある車に乗って!!」
娘はドタドタとあっという間に外に出た。娘の両親と思われる夫婦を謎の車に押し込み、病の姉をも車に乗せると、娘は急いで助手席に乗り込み、
「申し訳ありません!!涅隊長、お願いします!!」
と大声を上げ、疾風のように去っていった。
その四角い箱型の乗り物には、車輪というものがなく、どうやって走るのかと夫婦と咳き込んでいる娘が思っているうちに、その乗り物はフワリと浮き上がり、不思議な動力であっという間に料亭を後にした。十二番隊が今、精力を傾けてあらたに開発しているホバークラフト車だった。
「早かったネ。キミ一人で十分な相手だったとは、下らんネズミだろうヨ。キミは気付かなかっただろうが、隊長格が三人もいて、何をしていたのか、呆れるところだヨ。」
涅は訳の分からないことを言いながら、なんてこともないように新型車を運転した。
「お姉ちゃん、お父さん、お母さん、やっと会えた―。瀞霊廷エンタープライズの人に頼んで、十二番隊が瀞霊廷に網羅している監視カメラ機能をお借りして、やっと見つけた―借金のカタにお姉ちゃんを金持ちの嫁に差し出すなんて、どうして私に言ってくれなかったの!?そんなことをしたら、お姉ちゃん死んじゃうかもしれないでしょ!?」
麻巳子は涙ぐんでまくし立てた。麻巳子の両親も姉も、麻巳子の心遣いに申し訳が立たず、ただただ号泣した。
「みんな、私を棄てた、って思っているかもしれないけど、私、恨んでなんかいない!!むしろ子守奉公になんか出さないで、広い世界を見せてくれたことに感謝してる―だからこれからは一緒に暮らそう!これからはみんなが安心して食べていけるよう、もっと一生懸命稼ぐから!!」
「麻巳子…!!」
麻巳子の両親も姉も、感謝で言葉すらも出なかった。ただ手巾で顔を押さえてうなずくと、涙が止まらなくて仕方がない様子だった。
「お涙頂戴劇をどうもアリガトウ。盛り上がっているところすまないがネ、これからちょっと十二番隊に寄らせてもらうヨ。」
「十二番隊に?」
てっきりセブンズ御殿に直行してくれるものだとばかり思っていたが、涙で言葉も出ない家族に代わり、麻巳子が疑問を口にした。
「見たところ、君のお姉サンは百万人に一人の肺の奇病だヨ。このままだともう先は長くない。」
涅は前を向いたまま言った。途端にその場は凍りついた。
「四番隊なんて生ぬるいネ。わが十二番隊が威信をかけて、君のお姉さんを救ってあげよう。なあに、ちょっと健康診断をするだけだヨ。そちらのご両親もご一緒に。セブンズ御殿に病原菌を持ち込んだりしたくないダロウ?新型車のテスト運転にも協力してもらったことだし、そのお礼だヨ。」
涅は、ただ麻友子の病原体のサンプルが欲しかっただけなのだが、十二番隊の恐ろしさを知らぬ麻巳子達は、涅の「好意」に感謝した。瀞霊廷エンタープライズとのつながりもあることだし、悪いようにはならない、と思った。
麻友子は本当に百万人に一人の肺の奇病だった。
両親と麻巳子は違ったが、これを機に、麻巳子の家には定期的に十二番隊の隊士が出入りし、麻友子の治療にあたることになった。
その後の経緯は明るいものだった。涅にも情があったのか、麻友子は奇跡的に回復を見せ、ほぼ常人と同じような暮らしを送れるようになった。そして十二番隊から出入りしていた隊士のうちの一人と恋仲になり、危うく命を落としそうになりながら、一男一女を産んだ。子供達は麻友子に似ず父親に似て健康で、しかも死神の能力を授かって生まれた。どこまでが涅の作為かは知れない。孫を授かった麻巳子の両親は、やっと訪れた幸せに涙を流して喜んでいた。
「麻巳子。」
ある時、オフの日に広い庭でバスケットボールをしていた麻巳子と二人の子供にお茶を淹れながら、麻友子が言った。麻友子は、「家族は多い方がいい。」と言う麻巳子の言葉に甘え、夫と共に麻巳子の邸宅に一家を構えた。夫はセブンズ御殿から十二番隊へ通勤していたが、涅の差し金で、セブンズ御殿への目の役割をしているのかもしれない。
「一応、これで家系図はつながったから、麻巳子は自由に、好きなように生きて。アイドルをしていると、結婚もままならないだろうし…。お父さんとお母さんは心配するかもしれないけど、私が言うのもなんだけど、結婚だけが全てじゃないから、私は麻巳子に自由に生きて欲しい。」
麻友子はやはり麻巳子の姉だった。麻巳子の胸の奥にあるものを分かっていて、はっきりとは言わなかったが、助けてもらった分の責任を、自分も背負おうとしていた。
「お姉ちゃん…。」
麻巳子は麻友子の愛情がありがたく、胸が痛かった。私は子供の頃から、何も変わっていないよ、と、ある胸の内を答える代わりに、憎まれ口をきいた。
「あー!じゃあもう、お姉ちゃんが代わりに私をバスケットボールから解放して!!この子達死神で、体力オバケだからもう疲れたー!!」
麻友子の二人の子供達は、肺病で動き回れない母親に代わって相手をしてくれる麻巳子のジャージの裾にすがって、「もっと遊んで!!もっと遊んで!!」とケラケラ笑っていた。
そんな幸せがやってくるのは、またしばらく後の話―。
話は元に戻る。
麻巳子が結納の席をぶち壊しにして去っていったのを、藍染達三人は黙って見ていた。手を貸す必要もなかった。自分が幼い日に教えたとおりの護身術で相手を倒していく火事場のクソ力、あれは見紛うことなく麻巳子だった。
「イヤー、見事やったね!アン子、死神になったらええのに。きっと出世するわ。」
市丸は騒ぎが収まったのを見計らって襖を閉めると、手酌で一杯あおった。
藍染には何が起こったのか、あれだけで手に取るように分かった。麻巳子は、ようやく安逸を手に入れられそうだ。それを知って、そして息災な姿をこの目で確かめられて、心底ほっとした。
麻巳子は化粧もしておらず、粗衣だったというのに、この世界の同じ人間だとは思えない程美しかった。もう、辺りにまとっている空気の麗質さが違った。
画面越しに見ているだけにしよう、と思っていたのに、思わぬ偶然に火が点いてしまった自分の心が、騒がしくて落ち着かなかった。
藍染は料亭の者達に大枚を握らせると、今日のことを内密にするように頼んだ。何せSeven SeasonsのSuiが騒ぎを起こしたことが見つかれば、彼女のアイドル生命に傷が付きかねなかった。なのに彼女は、それにも頓着せず、必死で事を起こした。その必死さは、余計に彼女を美しく見せた。
あの美しさ―目立たぬはずがない。
「まったく、おてんばなところは今も変わらず、か…。危ないことをする…。」
藍染は笑って、おしぼりで手を拭いた。
「何わろてはるん?」
市丸が海老の天ぷらにかぶりつきながら尋ねた。
「何でもないよ。飲み直そう。」
藍染は市丸と東仙に酌をしてやった。
いつか、会えるのだろうか。
直に見た、躍動するあの美しさにあてられた。
藍染は、あと一歩を踏み出そうとしていた。