TV Syndrome 〜サイト開設10周年記念〜
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「はい、緊急で動画を回しています。Seven Seasonsのリーダー、Setsuです。いつもご覧頂きありがとうございます。今日はSuiの配信の日ではないのですが、どうしてもSuiが、クダちゃんと共にお礼を述べたい人がいる、ということで、全員集まりました。今日はクダちゃんのお引越し配信でもあります。」
ワーッとメンバーが拍手をする。
Seven Seasonsの公式動画サイトから、配信開始の通知が伝令神機に届いた。藍染は私室の文机に座って、真剣に画面を見つめた。
「あ、アーカイブは残しておきますので、ご都合の悪い皆様は後から是非ご覧下さい。」
Setsuが仕切ると、Suiが包装紙を開けて、外箱だけの状態になったプレゼントボックスを大事そうに両手で持って、座の中心に座った。
「いつもSeven Seasonsを応援して頂き、本当にありがとうございます。今年の逆チョコプレゼントは熱かった…なんか女のコからも沢山頂いてしまって、本当にありがとうございます。本当に全てのファンの皆様にお礼を言わせて頂きたいのですが、今日だけは勘弁して下さい。私の大事なクダちゃんに、特別なプレゼントを下さった方がいらして、私もクダちゃん共々是非お礼が言いたくて、そしてクダちゃんが新しいおうちに入ったところを是非見て頂きたくて、わがままを言って配信の準備をして頂きました。今日はセブンズ御殿のスタジオからお送りさせて頂きます。クダちゃん、大丈夫かな?…なんか、安定のダメそうぶりなんですけど、クダちゃん、頑張ろう?ね?」
麻巳子が腰からピンクのネイルカラーを塗られた竹筒を外すと、クダちゃんはあらかじめ言いつけられてはいたが、カメラが回っていることに緊急して、また竹筒をカタカタと震わせていた。
「あーっ、クダちゃんの安定の『カタカタ配信』が始まっちゃったね!」
Yumeがおかしそうに笑った。
麻巳子の配信の日はクダちゃんの竹筒が多く映るが、クダちゃんはどうしても竹筒から出て来ない。ファンの皆はクダちゃんの可愛い姿を期待しているのだが、クダちゃんを盗み撮りした時にしかクダちゃんの姿を見ることが出来ず、しかも警戒心の強いクダちゃんはなかなかその機会を与えない。そのせいでファンは「クダちゃんの入った竹筒」としかクダちゃんの姿を認識出来ず、カタカタ震える音から、いつの間にかクダちゃんの映る瞬間は、『クダちゃんのカタカタ配信』と呼ばれるようになってしまった。
動物愛護の気持ちの強いファンからは、「動物虐待なのでは?」という意見が上がり、一時SNSが炎上したが、麻巳子が困って、
「あの、クダちゃんは一応『管狐』なんで、神様みたいなものなので、ペット扱いしないように気を付けます…(クダちゃんと共にショボン…)」
と返答した時には、なんだかみんながおかしがって、その騒ぎは立ち消えとなった。
麻巳子は箱の蓋を開けた。
紺色の天鵞絨張りの箱には、麻巳子に宛てて贈られたリップケースと、水筒のように大きなクダちゃんの新居が並んでいた。
セブンズのメンバーも、画面を見つめるファンからも、その煌めきに感嘆のため息が漏れた。
分厚くプラチナを使った容器に、パヴェで無数のダイヤモンドを全面に象嵌し、オパールで作られた二羽の水鳥が、アクアマリンとサファイアの水面で羽ばたき、巣の近くにはイエローダイヤモンドとエメラルドと白蝶貝で作られたミズバショウが咲き、琥珀で作られた巣には、真珠の卵が2個、はめ込まれていて、ピンクトルマリンで「K」とイニシャルが作られている。それがまぎれもなく「クダちゃんの家」だという証だ。
麻巳子に贈られたリップケースには、同じデザインを縮小した象嵌に、やはりピンクトルマリンで「Sui」とはめ込まれていた。
いったい幾環かけて、いかほどの歳月をかけて作らせたのか、という程、精緻で見事な、もはや「芸術品」だった。
「ちょっとー!!ガチでヤバくね!?こんなの家が建つって!!」
Usaが手を伸ばして平気で触った。鬼ロングのネイルがカチカチ鳴った。
「コレ…マジデ四大貴族カラナンジャ…」
Ayaがあやしい言葉つきでボソボソとつぶやいた。
「こんな美術館級のプレゼント、見たことないわ…。」
「本当ですわ…お上品で可愛らしいこと…。」
「『可愛らしい』ってレベルじゃないでしょ…お嬢様はやっぱ言う事が違う…。」
JuriとHaruが掛け合いを始めた。
皆、しかし一様に度肝を抜かれていた。
「クダちゃん、新しいおうち、気に入った?」
Suiが竹筒を撫でると、カタカタが止まった。
クダちゃんは、「新しいおうち」が気に入ったようだった。
「クダちゃん、じゃあ新しいおうちに入ってみよっか?」
麻巳子の声掛けで、クダちゃんのお引越し配信が佳境に入るところだったが、クダちゃんは竹筒の蓋を開けても人目を嫌ってどうしても出てこなかった。
仕方がないので、麻巳子は竹筒の出入り口と新居の出入り口をくっつけて、クダちゃんが移動する姿をあまり目に出来ないようにした。
するとクダちゃんは、ワイン色の天鵞絨の極上の肌触りの良さにひかれて、スルッとまたたく間にプラチナの筒に移動してしまった。
「あー!!せっかくのいいところが短過ぎるー!!」
Yumeがクダちゃんに文句を言った。
クダちゃんは怖がってプラチナの筒の中で震えていた。プラチナの筒は重さがあり、クダちゃんが震える度、今度は「ゴトゴト」という音を立てるようになった。
「わ、今度からクダちゃんの『ゴトゴト配信』に名前変更だね!」
さっきから興奮してYumeがずっとしゃべっていた。
「クダちゃん、良かったね!天鵞絨、気持ち良さそう。クダちゃん、お礼を言わないと…。」
麻巳子はプラチナの筒の口を開けたまま、クダちゃんをのぞき込んだ。さすがのクダちゃんも、藍染に申し訳なく思ったのか、プラチナの筒の口から顔をちょっと出して、キュウ!と鳴きながら、ちょこっと頭を下げた。その瞬間は、100万いいね!を記録した。そしてまたクダちゃんは、いつものように頭を筒の底に向けて出来る限り中に入ってしまい、もう姿を見せようとしなくなった。
「歴史的瞬間に立ち会えて光栄だわ、クダちゃん。」
Setsuが微笑んでSuiに視線を送り、流れを作った。
麻巳子はプラチナの筒を、造り付けられていたやはりプラチナの太いチェーンで腰に着け、クダちゃんを撫でるつもりで、筒を優しく撫でた。
「本当にありがとう、ソウ兄ちゃん…。」
麻巳子は澄んだ瞳で、小さな声で言った。
メンバーは「今何て?」と突っ込むこともせず、ただ麻巳子に祝福の眼差しを向けていた。きっと四大貴族の太いファンの誰かと顔見知りなんだろう、としか思っていないかもしれなかった。
深く訊くのは野暮だ―。
メンバーは皆、麻巳子の瞳を見て、そう思った。
途端に、「ソウ兄ちゃん」がSNSのトレンド入りをした。
「『ソウ兄ちゃん』って誰だ?」
と皆が噂した。そして様々な憶測が飛び交った。しかしSeven Seasonsのメンバーは子供の頃からずっと瀞霊廷エンタープライズエンターテイメントの元にいて、過去と呼べる程の過去は、はなから白日の元のようなものだった。皆、
「どうせ口に出して言える、ってことは、付き合っている相手とかではない。」
と即断した。
そうだ、付き合っているとか、そんな下賤な思いではない―。
藍染は伝令神機の画面を見つめながら、遠い昔に思いを馳せた。
あの山の木々に抱かれた、幼い日の木漏れ日の匂い―。
(麻巳子、今すぐ会いたい―。)
藍染は上を向いて、静かに目を伏せた。
美しくなった―。
そしてこの思いにいまだ邪念などない―。
己の中に、『慈愛』というものがあった日々―。
「美しくなった―。」
口にしたら、たまらなくなった。