TV Syndrome 〜サイト開設10周年記念〜
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今日も申の刻になる―藍染はこっそり伝令神機を手にした。音量をゼロにしたその画面に、夕どきコンコンの始まりを告げるCGが弾けた。
麻巳子は―相変わらず番組のはじめに、右の拳を突き出して何かをつぶやいていた。
他のセブンズのメンバーが、両手を顔の横で振っているのとは、著しい差異である。
信じていいのか、麻巳子。
私は信じてもらえないような身となったのに。
藍染は、麻巳子と直接会って旧交を温めたわけではないので、彼女が拳を突き出して例の言葉をつぶやいているのを、彼女の何がそうさせるのか分からずにいた。
麻巳子、まだ兄として慕ってくれているのか―。
何としてでもいい、麻巳子に覚えていてもらいたい、藍染の心は揺れていた。揺れていないのはむしろ麻巳子の方で、こんなにも毎日、恩人への思いを表している、そう言いたかっただろう。
二人のすれ違いを結びつける出来事が起きた。
しかしその前に、麻巳子の身辺について少し語っておきたい。
麻巳子達Seven Seasonsのメンバーは、売れに売れて、メンバー全員で、邸宅を持とうという話になった。彼女らは百年以上の間を共に過ごした間柄で、その艱難辛苦は彼女らの友情を篤くするのに十分過ぎる程のものだった。メンバー達は話し合い、瀞霊廷の中心街からもっとも近い山の斜面を造成し、別荘地をつくり、そこへ7人全員の家を一棟ずつ個別に建てた。家は豪邸と呼べる程立派なもので、皆5階建て以上の、エアコン、エレベーター、オートロック付きの、尸魂界で最新鋭の技術を持ったバロック式の見た目の邸宅を建てた。勿論瀞霊廷エンタープライズエンターテイメント、ひいては十二番隊の後ろ盾あってのものである。敷地にはおのおのの邸宅と庭の他に、簡易な病院や店、スタジオ等を設け、相当の広さとなった。芸能人が住まうために、警備員が多数配置され、それは一般人からは『セブンズ御殿』と呼ばれる程のものだった。ファンは皆聖地巡礼したがったが、ストーカーなどの物騒な事案を避けるため、敷地の近くに近付くと、警備員に止められることとなった。防犯カメラも多数設置され、彼女らの生活は守られたものとなった。
そこへ麻巳子は、クダちゃんと二人きり―正確には一人と一匹きり―で暮らしていた。
メンバーの全員が家族をセブンズ御殿に呼んだわけではない。家族から独立したかったり、家族と不仲だったり、様々な理由で家族を呼ばない者もいた。麻巳子も家族に捨てられて、本来なら一人暮らしを謳歌している側であったかもしれない。しかし彼女は、今はどこに行ったかも分からない両親と姉の行方を探し続けていた。これだけ有名になったのだ、名乗り出てくれないものだろうか、と麻巳子は思っていたが、両親達は両親達で、「とても麻巳子に顔向け出来ない。」と、病身の麻友子を抱えたまま、貧しい生活に甘んじる覚悟をしていたのである。
そんなこととも知らず、麻巳子は毎日毎日、クダちゃんと共に、家族で暮らす夢を見ていた。クダちゃんの先見の力をもってしても、何故だか家族の行方は分からなかった。麻巳子はクダちゃんに自由に生きて欲しくて、クダちゃんの不思議な力を使って、家族の行方を探させようとしなかった。また、クダちゃんはそれでも頑張って恐れながらも先見の力を使ったことがあるのだが、何故だか本当に両親達の行方は知れることはなかった。
クダちゃんは、相変わらず驚く程の臆病さながら、元気で暮らしていた。最近は麻巳子達セブンズのメンバーは、一人一部屋ずつ楽屋を与えられるが、まだセブンズが駆け出しで、楽屋どころか7人で一軒家で住み込みで合宿していた時、クダちゃんはしばらく大勢の気配に驚いて、カタカタと竹筒を鳴らし、震えが止まらなかった。メンバーは皆、「クダちゃん。」と優しく声を掛けるものの、クダちゃんはどうしても人慣れせず、麻巳子のお風呂にまでついて行きたがる有様だった。当然クダちゃんは舞台に上がる麻巳子と離れて楽屋で待っていることが出来ず、竹筒に入ったまま彼女のパンツのベルトループに吊り下がって、共に舞台に上がった。
「クダちゃん、クダちゃんからは見えないかもしれないけど、楽屋で待っていないから、かえってクダちゃんは沢山の人に見られることになっちゃってるけど、それでもいいの?」
麻巳子とメンバー達はため息混じりにクダちゃんを説得しようとしたが、クダちゃんは恐怖で混乱状態に陥り、とにかく麻巳子と一緒にいたがった。番組の司会者が麻巳子に、「その腰の竹筒には何が入ってるんです?」と度々尋ねるうちに、視聴者には、麻巳子が管狐を連れていることが周知され、現在に至る。クダちゃんは麻巳子と共に、スポットライトを浴びる身になったのである。ファンの間では、
「クダちゃんはセブンズの8人目のメンバーだし笑!」
と言われる程、クダちゃんは常に麻巳子と共にあった。踊る麻巳子の腰で揺れる竹筒は、いつしか麻巳子によってネイルカラーを塗られ、ネイルパーツでデコられ、ちょっとしたファッションになり、ファンからは、
「クダちゃんのおうちに使って下さい!」
と、ネイルパーツのプレゼントが届くまでになった。
クダちゃんも一躍セレブになった。
相変わらず、異常な程の怖がり屋さんではあるが。
そんな歳月を送るうちに、尸魂界でも、バレンタインデーに「逆チョコ」を贈るのが流行った年があった。セブンズのメンバーの元にも、そして麻巳子の元にも、勿論、沢山のチョコレートやプレゼントの山が届いた。
その中に、異彩を放つ贈り物があった。
それは麻巳子へのプレゼントである宝石を散りばめたプラチナのリップケースとお揃いの、豪華過ぎる程のクダちゃんの新たな住まいであった。
麻巳子が自身の身よりもクダちゃんを大事にしていることを知っている者―それは誰か―それは一人しかいなかった。
麻巳子は、胸が痛くなる程鼓動が早まるのを感じざるを得なかった。
麻巳子はそのプラチナで造られたクダちゃん用の筒を、天鵞絨(ビロード)の張られたプレゼントボックスから手に取った。贈り主からのメッセージは入っていなかった。
麻巳子は手掛かりを見つけようと、筒の蓋を開けた。筒の中にも、真綿をくるんだ暗いワイン色の天鵞絨が敷き詰めてあり、彼女はその布団代わりの円筒形のクッションを筒から抜き出してみた。
すると筒の底に、藍染家の紋の刻印と共に、四粒の宝石がはめ込まれていた。
アイオライト、トパーズ、オパール、イエローダイヤモンド…I、T、O、Y…
「I Think Of You.」
「I Love You.」より嬉しかった。
あの人が、あの人が見ていてくれていた―。
麻巳子は両手で顔を覆った。涙もため息も出ない程、その感動は強かった。
「惣兄ちゃん…!!」
麻巳子は涙も出ない程感激し、ひたすら声だけで慟哭した。クダちゃんが竹筒から心配そうに出てきて、麻巳子の肩に載って寄り添った。クダちゃんも分かっていて、小さな小さな涙をこぼした。
そうだろう、藍染も著名人で、名乗り出るわけにはいかないのだ。一大スキャンダル、とでも噂されれば、双方の身が危うい。
麻巳子は声を張り上げるのをやめた。
彼女はこの瞬間、さらに見違える程強く、美しくなった。
思いは人を強くする。
二人は今、やっとつながったのである。