TV Syndrome 〜サイト開設10周年記念〜
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それから藍染は、五番隊の食堂に大型テレビジョンを5台据え付けるよう指示した。食堂の四隅と中央に、である。
護廷十三隊の中でも、テレビジョンを娯楽として導入したのは五番隊が初めてで、五番隊の福利厚生導入に、士気は、一気にたかまった。
藍染の人の良さは折り紙つきだが、この待遇は他隊の者達を大いにうらやましがらせ、五番隊の評判は上がった。何せ隊士達は、食事を摂りながらテレビジョンを観られるのである。
その実、本当は藍染がSeven Seasonsの情報を追いたいだけなのだが、夕食時には、Seven Seasonがレギュラー出演している、『夕どきコンコン』の情報を求めて、隊士達は夕食の席に集った。
藍染は「ニュースでも見なさい。」と表向きは言っていたが、それを守る隊士はいなかった。雛森桃ですら、である。
『夕どきコンコン』を観ながら食す夕食は、隊士達
にとって至福の時間となった。
Seven Seasonsのメンバーは個性豊かな面々の集まりで、一見まとまりがなく見える。パフォーマンスも、ファンとのコールアンドレスポンスがある曲でもなければ、メンバー達は思い思いの動きを見せていて、統一感がないが、しかしそれがなんとも味わい深い。
セブンズはボーカル二人、ダンサー五人からなるグループである。
リーダーで最年長のボーカル・Setsuは、グループの中で最も長身だ。モデル体型と言ってもいいその細長い体を、常に見せブラと細身のパンツスーツに包み、ヒールを履いたその姿は神々しさすらある。もうアイドル卒業と言ってもおかしくない年齢であろう。Setsuはセブンズの全楽曲の一割強の作詞作曲、プロデュースを担う程の実力派で、趣味はデスクトップミュージック関連、ボーカルも西洋人顔負けのシャウトを効かせるパワーボーカルで、卒業後はアーティストとして独り立ちするんだろう、とファンの間ではもっぱらの噂だ。でも彼女自身はSeven Seasonsのメンバーであることをこよなく愛しており、卒業の噂を否定している。
もう一人のボーカル・Yumeはメンバー最年少、グループの中ではもっとも背が低く、まだ初等女学校に通っている。グループの妹役担当で、よく通る澄んだアニメ声は、一見Setsuと相性が悪く感じる。しかし二人のハーモニーや掛け合いは絶妙にクセになるギャップで、尸魂界の人々を新しさで魅了した。リボンやフリルにまみれたロリータファッションで飛び跳ねる幼さの残るパフォーマンスは、あざとさからしばしば炎上の的だ。しかし彼女はメンバーからも、本当はファンからも愛されていて、よいアイコンである。
その二人のボーカルに合わせて、ダンスチームの中では最年長、セクシー過ぎて目のやり場に困る、ポールダンス出身のJuri、パラパラを踊ってギャルマインドを爆発させる、どんなグループの困難の時でもアゲてく精神の持ち主、ファッションリーダーのUsa、幼い頃からクラシックバレエやソシアルダンス畑出身の、優雅な動きのちょっと浮世離れした上品なお嬢様のHaru、常に血糊で汚した包帯姿のナース服で、まるで関節が外れているのではないかと思わせるダンスとも言えないような奇妙な動きを見せるガリガリに痩せたAya―彼女らが、Sui―いや、麻巳子の仲間達だった。
当の麻巳子はと言えば、典型的なストリートダンスが持ち味で、そこへブレイクダンスや前衛舞踏など、何でも取り入れてアレンジを加える、ストリートダンスとはいえ結構な技巧派である。アースカラーのヘソ出しの多いスポーティなパンツスタイルは、彼女のほどよく鍛え上げたしなやかに割れた腹筋を見せつけるのに最適で、ダイエット女子は皆、「Suiのお腹になりたい!」と言う程の健康的に痩せた体である。そこには心身の健全さが宿っていて、グループのメンバーの中でも周囲への好感度が高かった。
五番隊の者達は、夕食時に夕どきコンコンを観ては、誰がいい、彼がいいなどと楽しんでいて、正直テレビジョンに映るアイドルグループ―いや、「Sui」である麻巳子に、「この平和を壊すのか」と滅入らされるとは、藍染は思わなかった。
ただのアイドルでもない、推しとも言えない、それらを超えた麻巳子に、心を奪われた―もうどれくらい会っていないだろうか―時間や距離は、心を離すのに意味をなさない、こんなにも思っている、こんなにも欲している、しかしそれを口にしても良いものか、いや、いけないだろう、といつも自制の念がよぎる。
君は僕の輝ける星―だがその光で、私以外まで、誰が照らせと言ったのか、と悩ましく思った。麻巳子の成功を喜ぶと同時に、こんなに遠くなった、と哀しくなる。自分はこの世界を転覆させる者で、君の幸せを壊してしまうかもしれない。
伝令神機が鳴った。東仙からの着信だった。
暗い思念に堕ちそうな藍染の目に、SetsuとYumeの歌声に合わせてステップを踏む麻巳子の姿が映った。
君は、輝いている。私は―。
藍染は夕食をそこそこに切り上げると、隊の私室にこもり、今日の夕どきコンコンの振り返り配信を一人で観た。それが藍染の日課になっているとは、誰も気付かない。
藍染の伝令神機には、Seven Seasonsの楽曲やミュージックビデオが全て配信で落としてあり、配信限定のライブ映像やメッセージ映像なども全て網羅され、人に見せられないものとなっているのが、藍染自身も滑稽で、自嘲し、涙さしぐんでいる。
「麻巳子―。」
躍動するその体には、光を放つ者だけが持つ守護があるのだろう。
東仙に策謀のことで返信をすると、藍染は目を閉じた。
夜は、もう明けないのではないか、と思う程、自身の後ろ暗さがこたえた。