白雨〜2025年七夕に寄す〜
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好いた相手に近付くために、根回しをすることが多いと思う。相手が自分のことを未知だというのに、いきなり告白をして玉砕することを、愚かだと思う者が多いのではないだろうか。一見しただけで相手を虜にする美貌や才知を持つ自信のある者など、ほんの一握りだ。
藍染は何も怖くない。
己が尋常ならざる強さを持っているため、未知のものにも対処出来る自信があり、未知なるものへの好奇心があるが、穏健で、「君子危うきに近寄らず」を体現したような偽りの姿を保つ以上、常識人のふりをしていなければならない。根回しをする者を煩わしく思っても、それが凡人というものだろう、と思い、過ごしている。
藍染の元には、一年を通して手紙を添えられた贈り物が降るように届く。藍染程の頭脳を持てば、二、三度も、文と贈り物が続けて届けば、相手の人となりや好みは把握出来てしまう。同隊隊士など、偶然顔が分かれば、その行動や思惑は藍染の手の内だ。
ある夏の日、隊舎の離れで古書の整理をしているうちに、藍染は激しい夕立に見舞われた。
その軒下へ、同隊の女隊士が、箒を持って駆け込んできた。中庭を掃除していたらしい。まだびしょ濡れにならないうちに運良く軒下へ駆け込んできた娘は、手拭いで肩と髪を拭き、中を伺った。
「どなたかいらっしゃるのでしょうか?」
いつもは雨戸まで閉まっている離れの、軽く散乱した古書の向こうから、まさか藍染がやってくるとは思わなかったのだろう。今度は古書の整理の仕事か、と休む間もなく続く任務に、緊張を解かないでいる顔と声音で言葉を上げて、薄暗い離れの中を凝視していると、娘は思わず現れた藍染に、恐縮して頭を下げた。
「そんなにかしこまらなくていいよ。」
藍染は笑って言った。
平隊士は大忙しなのだろうが、藍染はいざという時に命をかけねばならぬ分、普段は有閑の身で、今日は隊主室を空けて、こんなことをしていた。
藍染は娘を離れに上げると、ねぎらって少し休むように言った。離れの畳は黄色く変色していて、古さを隠せない。真っ黒に煤けた梁や柱を見て、娘はこんな陋屋で何が起きるわけもない、と思ったのか、安心して藍染の言葉に従った。箒を上がりがまちに立てかけ、畳の上に上がると、雨はますます強く降ってきて、白い壁を作り、二人の姿を周囲から隠した。
雨の湿り気のせいで、娘の使う香の匂いがする。その沈丁花から採ったという香りは、藍染の記憶の中にあった。娘はここ何年か、藍染の誕生日や現世から入ってきた風習の度に、文と贈り物を隊主室の前にそっと置いていた。文から、娘の指に付いたと思われる移り香がして、その香りから、藍染はその娘が誰なのかを知っていた。娘の方は、藍染が自分を認識するにはまだ至っていないと思っているらしく、二人きりになった気恥ずかしさもない程、他人行儀だった。
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