細雪〜バレンタインデー2025〜
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藍染が投獄された直後の二月十四日、雪乃はバレンタインデイの贈り物を、各隊の門前の受け取り箱に入れて回った。退勤と共に藍染の家の両親の元に向かいたかったので、雪乃は勤務前の早朝から各隊隊舎を回って歩いた。各隊には早暁から受け取り箱が置かれていて、死神に限らず一般民の婦女子も、贈り物を入れる姿が見受けられた。
五番隊隊舎の前を通りかかった時である。やはり門前には受け取り箱が置かれていたが、各隊と異なるのは、箱の隣に平子真子がニカニカしながら立っていたことだった。今日も冬日で寒く、十二番隊の出す予報では、まもなく今日も雪になるとのことであった。
「バレンタインデイなんて、ええ日が出来たもんや…俺のところにも、かわええ女の子が仰山チョコレイトを持ってくるんやろな〜。」
平子は揉み手をしながら待っていた。そんな最中、早朝の寒さで息を白くしながら、娘達が贈り物の包みを持って、おずおずと五番隊の門前にやってきた。
「お〜きたきた。お嬢さんら、俺に何か用?」
平子はニンマリと笑って手を出しそうになったが、
「あの…藍染元隊長への贈り物を、こちら五番隊で、まだ受け付けて下さるのでしょうか?」
という娘達の遠慮がちな言葉に、思わず手を引っ込めて、目を剥いて驚いた。
「はあ!?藍染!?どういうこっちゃねん!!お嬢さんら、あいつは罪人やで、ざ・い・に・ん!!」
平子は思わぬ言葉に肝を抜かれた。思い切って言葉を上げた娘達の姿を見て、一人、また一人と、藍染への贈り物をどこに持っていったら良いのか分からなかった娘達が、物陰から姿を現した。
「おい、ちょっと待てい!!お嬢さんら、俺に贈り物を持ってきてくれた子はこっち、藍染に贈り物を持ってきた子はこっちに、ちょっと並んでみい!!」
平子は慌てて列を分けてみた。平子に贈り物を持ってきた娘は片手にも満たなかったが、藍染に贈り物を持ってきた娘は、両手両足の指の数を足しても余る程だった。
「ちょい待ちいな!!なんでやねん!?ここには惣右介はもうおらへんのやで!?その贈り物、どないすんねん!?」
平子は慌てて昔ながらの呼び方で藍染を呼んでしまった。
そこへ雪乃が近寄ってきた。雪乃は二列に分けられた娘達の姿を見て、何が起きたのかをすぐに察した。数が多い方の列に並んでいる娘達は、藍染投獄の直後という、この繊細な事情を背負っている最中、雛森に贈り物を持ってきたわけではあるまい。雪乃はなんとか娘達の思いを汲み取ってやろうと、平子に近付いていった。
「あ!!アンタ!!一番隊の!!何つったか…藍染家更正監察官の…」
「小牧 雪乃と申しますが…。」
「そう!!雪乃さんや!!こらまたエライ女っぷりのええ別嬪さんやな…今度どう?一杯?」
平子はお猪口を口元で傾ける真似をしたが、自分に贈り物を持ってきてくれた娘達がぎょっとして顔を青くしたのに気付き、
「えーっと、コレはちゃうねん!!お世辞っちゅうやつや!!お世辞!!俺は好いてくれる子にはめっちゃ優しくするさかい安心しい!!」
と片目をつむって見せ、ドンと胸を叩いた。平子目当ての娘達は、片目で視線を送られたことに黄色い歓声を上げ、平子に贈り物を直接手渡すと、両手で握手をして去っていった。
「あー…なんやしんど…モテるっちゅうのも案外くたびれるもんやな…。」
せっかく自分目当ての娘達から贈り物をもらったというのに、平子はげっそりしてその後ろ姿を見送った。
「そや、こないなことしとる場合やないねん!!もう朝メシの時間やろ!?腹減ってきたわ!!雪乃さん、この子らのこと、どないしたらええやろ?」
平子は伸び続ける列を見て、思案顔になっていた。平子に心労をかけたくない、そしてこの娘達に、自分が藍染を想っていると知られて、お互いに傷付きたくない、そう思った雪乃は、風呂敷から予備のチョコレイトの箱を取り出すと、
「平子隊長、実は私も隊長に贈り物をお渡ししたいと思っていたところです。直接お渡し出来て光栄です。」
と遠慮がちに述べて、平子に手渡した。平子はえらく相好を崩し、
「ホンマに俺に!?むっちゃ嬉しいわ!!おおきにな、雪乃さん!!ホンマに後で一杯おごるわ!!」
とホクホク顔になった。雪乃はその言葉に喜んだところを見せると、
「このお嬢さん達には、一番隊の門前までおいで願おうと思います。総隊長からお叱りを受けるかもしれませんが、女性に手荒な真似はなさらないはずです。おまかせ下さい。」
と、平子に礼をした。
「あのジイさん頭固いからな〜。なんかあったらすぐに俺を呼んでくれ!!すぐに雪乃さんのところに飛んでいくさかい!!」
平子は雪乃を心配しながらも、初めてのバレンタインデイに浮かれ、浮き足立っていた。
「おまかせ下さいませ。ではお嬢さん方、一番隊へどうぞ。」
「気ぃ付けてな!!…なんや、やっぱバレンタインデイってホンマに最高やな…!!」
浮かれ立つ平子に再度頭を下げ、雪乃は娘達に笑いかけると、ぞろぞろと列を組んで一番隊隊舎へ進んでいった。
折しもそこでは山本元柳斎重國が、毎朝の日課である乾布摩擦の最中、場は、炎で凍りついた。
そこへ細やかな雪が降り出した。
細かな雪は衣服を濡らしやすい。
傘を持たぬ雪乃は、この後泥まみれになった。