細雪〜バレンタインデー2025〜
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雪乃は藍染の家のために最善を尽くし、細々と働いた。藍染家の中にある全ての物品が証拠品として検分された。藍染の両親や藍染の家の者は、証拠品の鑑別が終わるまで、邸内に軟禁された。表に出られない藍染家の者達のために、雪乃は市場から食料を運ばせる手筈を整えた。そして引き売りが通りかかると、少額をつかませて、頻繁に藍染の家に立ち寄ってくれるように頼んだ。軟禁は長い時間に及んだが、雪乃が少しでも藍染の家の者達が苦なく暮らせるよう心を砕いたため、拘束されている間、藍染の両親達は飢えや日用品の不足に遭うことなく、軟禁の期間を終えることが出来た。
物品の鑑識と軽度の自白剤を用いた事情聴取の結果、藍染家には、藍染の謀叛に関わった形跡がまったくないどころか、藍染の謀反について、誰も何も知らなかったことが明らかになった。証拠品も一切見つからず、藍染の手腕の見事さに、皆空恐ろしさを覚えた。
藍染の両親は、一人息子のことを何も知らなかったことが、肉親の情としての悲しみとなって襲ってきて、しばしば涙を流していた。「止められたかもしれない」、と何度も言い、その度に雪乃は、
「ご両親のせいではございません。」
と二人をなぐさめた。
誰も止められはしなかっただろう。
今になると分かる。
長い間共に過ごし、それでも自分も分からなかった。
藍染は、普通の男ではない。
だからこそ、と思う。
だからこんなにも愛おしいのだ、かけがえのない唯一のその人らしさが、こんな形だったというだけのこと、と、凡人の雪乃は思う。
罪を犯した者と裁く者として、私達は繋がっている。
本当はもっと言葉が違う繋がり方なのではないか、と雪乃は思う。ではそれは何か?、と問われると、答えることが出来ない。
藍染の家と商売上関わっていた店への悪意を未然に摘み取ることに成功した雪乃とその配下達は、偽の空座町での決戦を前に、山本元柳斎重國から、初めて労をねぎらう言葉をかけられた。雪乃達にとって、それは嬉しいことだった。きっと雀部長次郎忠息の口添えあってのことだろう。
藍染との戦いは、護廷十三隊に勝利の手が上がった。世間の目は、そのことで落ち着きを取り戻し、意外にも藍染の家に同情する方向へと傾いていった。
「あんな息子を持って可哀想に―。」
その言葉が、己が生き延びるために必要でも、藍染の両親にとって、どんなに辛い言葉だったろうか。そのような目を向けられて、息子を分かってやれなかったという思いを抱えてまで、生きようと思わない、と血の叫びを心の中で上げているだろう。雪乃は任務にかこつけて藍染の家に足繁く通い、藍染の両親を思いやった。藍染の家には新たな希望が必要だ、と彼女は思った。
そうしている間に、護廷十三隊からの命令で、藍染家は新たな当主を迎えることとなった。その男子はまだ年若い、藍染の遠縁の、商家の次男坊で、死神ではなかった。人が良く、忍耐強く世間をかわしていくだけの器量と頭脳以外、取り立てて何の英才さもないような青年だった。護廷十三隊は、藍染家の存在の突出を恐れたのだろう。しかし藍染家は、お取り潰しを免れただけ良しとしなければならない。
これで藍染の帰る家はなくなった。
雪乃はその手筈を整える命に従いながら思念を暗くした。
今、藍染は無間の中に、一人居る。
藍染の両親には、そのことを伝えたが、両親は藍染を憎んだりしなかった。こっそりと「こんなことを言っては世間様に申し訳ないが、生きていてくれて良かった」と言って、安堵の涙を流していた。藍染の両親は、新しい当主となった青年に、大叔父、大叔母と呼ばれている。父母と呼んでくれる者のいなくなった春秋を、これから侘しく過ごすのかと思うと、雪乃は胸が痛んだ。藍染家更正監察官の任は、しばらく解かれそうにない。本当は自分が、二人を父母と呼ぶ道もあったのかもしれない。
いや、藍染に会った時から、そんな道は端から存在していなかったのだろう。
雪乃は複雑な思いを抱きながら、毎日の任務をこなした。
もうすぐ、あの日がやってくる。
今年もあの日だけは雪が降るのだろう。
雪乃は今年も、洋菓子店にチョコレイトを買いに行こうと思った。今年は藍染の両親にもチョコレイトを用意しようと思った。
そして許されるなら、獄中見舞いとして藍染にも。
毎年の変わらないことを続けたいと思っただけの、そんな雪乃を、今年は意外な二月十四日が待ち受けていた。