細雪〜バレンタインデー2025〜
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「たわけがっ!!奴は謀叛人ぞ!!何故その眷族をかばうか!?」
山本元柳斎重國の、雷撃のような怒号が、一番隊隊主室の床に拝跪する雪乃の頭上に落ちてきた。雪乃は頭を上げなかったが、けっして引こうと思わなかった。
「恐れながら申し上げます。私と私の配下の者が見分したところによりますと、藍染元隊長の両親と、藍染家の家人や女中達は、今回の藍染決起について何も知りません。彼らを罰するというなら、家宅をあらため、証拠をつかんでからでないと、感情的で一方的な冤罪になる可能性がございます。藍染との一戦を控え、護廷十三隊が汚点を残すことは、世論によって内側からの統制を崩されます。何卒私めに、藍染家の調査と更正の役目をお命じ頂きたく存じます。何卒、何卒。」
雪乃は必死で訴えた。もう何でもしようと思った。総隊長に対して不敬であることも分かっている。論理的なことを述べても、一大事が起こった直後では難しいかもしれない。しかし彼女は恐れなかった。総隊長である山本が聞いていなくとも、側には副隊長である雀部が控えている。彼の理性に訴えかけられないか、と彼女は言葉を継ぐことをやめなかった。
「小牧、どうしてそなたはそうまでして藍染の家の者をかばうのか?何か仔細があるなら、正直に総隊長にお話ししてみよ。」
雀部が、うまくとりなしてくれようとした。雪乃は雀部に感謝すると、
「大変個人的なことで不躾ながら、私がまだ若く、死神になったばかりで食べるのに困っていた時、藍染元隊長のご両親が、お寒い中、私めのためにぜんざいを作って食べさせて下さったことがございました。その大恩に報いたく、無辜の方を救うことでせめて恩義にお返し出来ないかと思った次第です。どうか私めに、藍染家更正監察官の大役をお申し付け頂きたく御願います。何卒、何卒!」
と、涙しながら懇願した。半分は嘘の話である。しかし藍染家の者を救いたいという思いは本心で、雪乃は流れてくる涙を止めることが出来なかった。
藍染の両親が恩をかけた―。
少なからずそのことは、山本と雀部の心を打った。それについて大事の際、体面を顧みず報恩しようとする雪乃の健気さにも心をえぐられた。
二人は騒乱のあった直後とは思われぬ沈黙を強いられた。しばらくの後、雀部が山本に、許しを乞う視線を送った。従うしかない、しかし山本は藍染への怒りで、素直に雪乃に温情ある言葉をかけてやれなかった。
「好きにせい!!」
ぺいっ、と唾を飛ばし、山本は隊長羽織を翻し、横を向いて隊主室を去ってしまった。雀部が、側の小机に載っていた洋便箋に、懐から出した万年筆で一筆記すと、もう権限を与えられたと同じなのだろう、総隊長の印璽を押して、雪乃に手渡してくれた。
「かたじけのうございます!!」
雪乃は涙ながらにその書類を受け取った。
そこには、本日付けで、雪乃が藍染家更正監察官として全権を担うことを証する文書を、雀部が山本に代わって記した旨が記してあり、総隊長が認めたことを証する御璽が押されていた。
「藍染の両親と積もる話もあるだろう。配下の者を隊舎に帰し、そなたは藍染の家に向かうがよい。」
雀部は、何も聞かずにいてくれた。
「ありがとうございます!この身を尽くして、一番隊のために忠誠を誓います!」
雪乃は何か矛盾したことを言っている、と思ったが、それだけ申し述べると、すぐに隊舎を後にした。
藍染の家に戻ると、藍染の母親が、あの日のようにぜんざいを作って待っていてくれた。配下の者はすでに馳走になり、世話になっていた。
藍染の家を救うことで闘う―雪乃は温かな思いを胸に、決意をあらたにした。