細雪〜バレンタインデー2025〜
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藍染が出奔したことは、虎徹勇音の天挺空羅により死神には知れることとなったが、双極の丘で起きたことは、一般民にはしばらく公にされなかった。
しかし死神は知っているのである。
一番隊の席官ともなれば、雪乃にも当然出陣命令が出ている。主に瀞霊廷内の警護と治安の維持が命じられたが、雪乃は職務を離れ、矢も盾もたまらず藍染の生家へ走った。一般民はまだ何も知らなかったため何の動きも見せていなかったが、他隊の平隊士達が、早くも藍染の生家を打ち壊そうと、藍染の家の者や門や土塀に襲いかかっていた。罪人の家は打ち壊しに遭えば、殺され、犯され、奪われるのである。しかも後からそれを正当化されてしまうだろう。藍染の家は、藍染家の私兵と死神達が、つばぜり合いになっていた。藍染家の者達は、藍染が尸魂界を裏切ったことを、打ち壊しにきた死神達によって初めて知り、顔を青くして、家財を、命を守ろうと必死になっていた。藍染の両親は、「何かの間違いです」と大声で泣き叫んでいた。
おそらく藍染の家の者は何も知らない。
雪乃は藍染のやり口の鮮やかさからして、藍染の家の者は白であろうと確信していた。何故こんなことを、と、長く側にいた自分さえ知らなかったのは何故か、と、藍染に対して疑問と嘆きが湧いて止まらない心を抑え、雪乃は偽りの大声を上げた。
「一番隊直命藍染家更正監察官、小牧 雪乃が推参致しました。死神のお手前方、刀を引いて下さい。ここからは藍染家の内情調査のため、藍染家には一番隊の指揮下の死神が調査に入ります。皆様ご苦労様でした。」
そう言って雪乃は狼藉を図ろうとしていた死神達に慇懃に頭を下げた。一番隊の席官がやってきてそう宣言したのは、「以後、藍染家に私的に手出しをした者は、護廷十三隊の隊規に背いたとみなす」と責められたに等しい。私怨や、短慮や、暇つぶしの興味本位で藍染家に襲いかかっていた下っ端の死神達は、恐れをなして去って行った。
雪乃が藍染家にたどり着いてから、様子がおかしいと、雪乃の配下の死神達が、やはり藍染の家を探して加勢に来てくれた。藍染の両親は雪乃にすがり、「あなたが来てくれて良かった」と身も世もなく大声で泣いた。雪乃は藍染の両親を抱きしめて、
「この騒動は自分のことでもあります。」
と、言った。自分のなすべきことは、誰かを打ち倒すことではなく、無辜の者達を守ることだと思った。藍染と武力で敵対するのではなく、何の罪もない、藍染の家の者達を守ることで闘おう、と彼女は腹をくくったのである。温かい時間をくれた藍染の両親や藍染の家の者、そしてそれは裏を返せば、藍染自身が、自分には大切で愛しくてたまらないのだと、雪乃は心の中で再確認した。彼女は配下の者に、
「昔自分がお世話になった藍染の家のために、藍染惣右介の味方になるのではない方法で、力になりたいのです。そのために山本総隊長から厳罰を受けるかもしれませんが、後のことをよろしく頼みます。」
と頭を下げると、配下の者達に藍染家の警護を任せ、一人一番隊隊舎に戻った。
どんな誹りを受けようと、正式に「藍染家更正監察官」としての命を、山本元柳斎重國から受けるために。
「まだ絆が切れたわけではない」、そのことが、雪乃を強くした。
腹が決まると、もう恐れるものなど何もなかった。
過去のものと思っていたものが、みるみるうちに繋がっていく。藍染という存在は、そして藍染の家は、自分が心の内で思っているかぎり、自分の中からなくなってしまったわけではないのだ。
どんな形であれ、繋がっているという安心感を持っているとは、こんなにも心が軽いものか、と雪乃は思った。