細雪〜バレンタインデー2025〜
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毎年のバレンタインデイには、各隊には門前に贈り物を納める箱が置かれる。
各隊の隊長、副隊長、席官は、よほど親しいか、よほど隊務上の付き合いがなければ、その日の昼間に直接会って、相手から贈り物を受け取って談笑したりはしない。皆多忙ということもあるが、それが出来ない程の数の贈り物が集まるのだ。贈り主は死神とは限らない。一般の者もおろう。また、お互いに多忙ゆえに、専用の箱に入れることで失礼する、という死神もいた。雪乃は後者を装い、毎年のバレンタインデイに、五番隊の門前の箱の中に、藍染への贈り物を置いた。贈るのはチョコレイトの箱と、一筆の文だけだった。関係を断たれ、もう伝えるべき言葉もない。雪乃は、「寒い日が続きますが、どうぞご自愛下さい。」とか、「今年は雪がよく降ります。お体を冷やさないようにして下さい。」とか、当たり障りのない、心遣いの言葉のみを記して、それでも、「気にかけている」と、意思を示し続けた。ホワイトデイには、特別の愛情を示し合わない者達には、各隊から各隊へと、義理として、各隊公式、とされる贈り物が返ってくる。毎年たいがい、隊花の焼き印を入れたどら焼きの折とか、隊花を染め抜いたふくさなどが配られた。雪乃の元にも、そうした返礼品が返ってくるが、当然藍染からの個人的な文などは添えられていない。雪乃にはいくつかの隊に義理としてチョコレイトを贈る隊長などの贈り先があり、複数の隊から返礼品が贈られてきた。それ故に、彼女に藍染から特別な返事がないことは、他人の目には雑多にまぎれて誰も気にすることがないものになっていた。
雪乃一人のみが、心を冷やしていた。
そんなある日のこと、雪乃は隊務で、藍染の私邸の前を通らなければならないことになった。雪乃は、重苦しい気持ちで、どうせ藍染の両親と顔を合わせることはないだろう、と思い、歩を進めた。
しかし間が悪いことに、藍染の家には植木職人が入っており、藍染の両親は外に出てきて、職人達に指図をしたりお茶出しをしたりしていた。
雪乃は気付かれないように瞬歩を使おうとしたその時だった。藍染の母親が「あっ」と声を上げて、雪乃に気付き、駆け寄って彼女の袖を掴んでしまったのである。「どうした」と言ってその様をみた藍染の父親も、雪乃に気付いてしまった。雪乃は立ち去れず、絶望の淵に立ったような気持ちになった。しかし母親は、雪乃の顔を見ることも出来ない、という様子で下を向いて泣いていた。父親も、目を潤ませて、近寄ってその様を見ていた。「ごめんなさいね」と、母親は何度も繰り返した。父親も、とうとう目頭を拭った。藍染の心変わりを、彼の両親は無念に思っていた。雪乃は、自分が藍染の両親に不敬をはたらいたために遠ざけられたわけではないことを悟った。しかしそれは、かえって雪乃に、「『藍染に』、自分を想う気持ちが無い」から遠ざけられた、ということをまざまざと思いしらせた形となった。
雪乃は涙を堪え、過ぎた日に感謝を述べると、形ばかり、
「いずれまた、ご縁がある日も参りましょう。」
と言って、かえって両親をなぐさめた。両親は泣き崩れていた。雪乃は、
「隊務がございますので失礼させて頂きます。」
と、頭を下げて、後ろ髪を引かれる思いで場を去った。
そう、縁は切れたものだと思っていた。
しかしそう思うのは、真実を知らず、見方を変えることが出来なかっただけかもしれない。
簡単に、人と人との紐帯は途切れはしない。
片方が思い続けるかぎり、気付かなくとも、何事も起きなくとも、もう片方はその思いの波紋の中で生き続けるのである。
それは思う側の心を苦しめながら、暖めもしている。
それは、ある日運命が変わった時、思いもかけぬ道を切り拓く端緒となるのである。
藍染は決起した。
それは新たに、藍染と雪乃を結び付ける契機となった。