細雪〜バレンタインデー2025〜
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雪乃は藍染の起こした動乱の以前から、一番隊の席官を務めている。それは優秀な死神だった。その精鋭ぶりは他隊の比ではない。総隊長である山本元柳斎重國と、副隊長である雀部長次郎忠息に仕えているのである。他隊との、また一番隊内部での様々な齟齬を上手く収めていくのは、その武力や知力による手腕だけでなく、心の機微に敏感な者でないと無理な所業である。雪乃には心優しいところがあり、時にそれが己を押し潰し、傷付ける要因となった。だが彼女はそれを押し殺してじっと耐えている。忍耐の鬼である。
しかし彼女のその苦労は、総隊長とそれを支える副隊長の交代という激動を、難なくかわす助けとなった。京楽と七緒は、物堅い雪乃の性格と働きをすぐに気に入り、自分達を支える席官として、一番隊席官新人事の際、登位させておいたままにした。一番隊にとって、たとえ総隊長と副隊長であろうとも、京楽と七緒は異分子なのである。雪乃はその労苦をすすんで取り除く苦役を買って出た。それは自分の力ではどうにもならないことに立ち向かう者への、そしてそうした者に従わなければならない自分への情けであったが、そういう弱腰な意気の気遣いが、時に組織にとって大きな成果を運よく生むことがある。他の前隊長時代からの席官も、雪乃の苦労を知っているので、やがてまとまりを見せ始めた。そうして新生一番隊は、目鼻を付けてきたのである。
雪乃は七緒の心遣いに頭を下げると、皮の書類入れから、二番隊から預かってきた書類を、大事そうに捧げ渡した。砕蜂と大前田は、京楽と七緒が護廷十三隊を指揮する立場に登位した、ということに敬意を払っていないようだった。ただの「異動」に毛が生えた、程度にしか受け止めていないかもしれない。一番隊の席官を呼びつけても、隊務なのだから当たり前、という意識だろう。それはそれで正しいが、二番隊の「隠密機動を担っている」という誇りが、どうにも京楽と七緒を平坦なものとして見ている態度として透けて見える。一番隊の席官をこんな悪天候下に顎で使うことに、ここまで遠慮を見せないのも珍しい。雪乃が受け取ってきた書類は、別に席官を呼びつけて手渡しする程重要なものでも、急ぎのものでもなかった。
七緒は一瞬渋い顔をしたが、何も言わず、雪乃をねぎらって隊主室へ報告へ上がるようにいざなった。要するに「暖を取れ」ということである。京楽は七緒から渡された書類に目を通し、締め切りの日付けに目をやると、呆れたように肩をひそませ、
「砕蜂隊長は女の子なのに体が冷えないのかなあ…いつも薄着で、前に『いつも体が燃えるようだ』と言っていたしね…女の子は体を冷やしちゃあいけないよ…もっともそれは男だって同じさ。ああ寒いねえ…雪乃ちゃん、足を火鉢の上に出してもいいよ。ご苦労だったね。」
と言って、自分が火鉢の上に足を掲げようとした。
「ちょっ…何やってるんですか!隊長は足袋を履いていらっしゃるでしょう!?足袋が焦げたらどうするんですか!」
七緒は京楽の肩をバンッ!と叩いた。火鉢の炭が軽く崩れた。京楽は頭をかいてあぐらをかくと、
「僕らに付き合っていると、かえって休まらないんじゃないのかな…雪乃ちゃん、自分の部屋にかえって、足袋を取ってくるかい?」
「雪乃さん、湯殿で足を洗って、足湯をしてから足袋を履き替えて下さい。後は私がやっておきます。」
七緒が京楽から書類を受け取って、二人は雪乃にもう休むように言った。雪乃は礼を言うと、隊主室を辞して、自室へ下がった。そして袴の裾をからげて湯殿で足を洗い、檜の浴槽の縁に腰掛けて、足湯をして暖を取った。そんなことも席官でなければ許されないことだ。一人で湯殿で呆けていると、様々なことが頭に浮かんでくる。
今日は特別な日だ。
京楽も七緒も、黙っていてくれていることがありがたかった。