細雪〜バレンタインデー2025〜
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藍染が投獄されて、もう十指に余る程の年が過ぎた。今年もあの雪の舞う日がめぐってきた。
相変わらず一番隊門前の粗末な紙箱には、藍染への贈り物があふれるように集まった。総隊長である京楽の身の上による集まり方には及ばないものの、罪人としては過ぎた信奉のされ方である。
今年は夜が明ける前から小雪が舞う日となった。
今年も雪乃は早朝から各隊門前の受け取り箱を回り、五番隊で平子と腹芸をして、一番隊隊舎へ戻ってきた。朝食の前に、今年も二番隊から早朝任務要請が出ていて、雪乃は二番隊を訪ねる役を買って出た。一番隊の者は皆砕蜂と大前田にはあまり良い扱いをされておらず、その点では他隊と同じかもしれないが、とにかく雪乃がこの雪の中任務を請け負ってくれると聞き、皆ほっとしていた。どうせ早朝から足袋と唐傘を濡らしてしまったのだから同じこと、と思い、雪乃が傘をさして隊舎の門を出ようとした時、砕蜂に出くわした。砕蜂はぎゅっと目をつむり、頭を振ってしかめっ面をすると、一番隊の公式の受け取り箱と、藍染への贈り物の受け取り箱、両方に一つずつチョコレイトの箱を入れた。
雪乃は驚いた。
今まで毎年藍染にも贈り物をしていたのか、という顔を、もろにして砕蜂を見ていたらしい。彼女と目が合うと、雪乃は慌てて丁重に頭を下げた。
「そなた…藍染家更正監察官の、小牧、とか言ったな。」
砕蜂は苛ついていたが、それでも少し気が楽になった、という様子で、雪乃を見やって言った。
「私が左様ですが、砕蜂隊長、お加減でもお悪いのでしょうか?」
雪乃は砕蜂の尋常でない疲弊した様に驚いて、思わず声を掛けた。
「そなた、藍染と接見しているようだが、藍染に下らない嫌がらせはやめろと伝えろ!!」
と、砕蜂は怒鳴り返してきた。
「投獄されて以来、奴はこの時期になると毎年毎年私に霊圧を送ってきて、夜一様にお贈りするのと同じ、高級なチェリーボンボンの折を要求し、しかもこの雪の中、瞬歩を使わず、日が昇って人目につくようになってから来いという。それを一つでも違えると、かなえるまで頭痛がする程の霊圧を送り続けてきて、隊務どころではないわ!!無間の壁はどうなっているのだ!?穴でも空いているのか!?奴め、今度会ったら八つ裂きにしてくれる!!」
砕蜂はあまりにも怒り、雪乃に藍染につけ込まれていることを、思わず口にしてしまった。それにも気付かず、雪乃への八つ当たりはまだ続く。
「この雪の中、誰が隊務でもないのにそんな下らない真似をしに来るというのだ!!隊務だって大変なものを!!」
それを聞いて、雪乃は、吹き出したいのを必死にこらえた。藍染は、砕蜂が毎年、四楓院夜一に、夜一お気に入りの『チョコレイトガァデン』という瀞霊廷の人気洋菓子舗のチェリーボンボンを贈っていると知っていたのだ。その話は有名で、そのお陰で、女子の間では、「同性に贈るチョコレイトなら『チョコレイトガァデン』のものを」という程のもてはやされようで、それでその店は大きくなったのである。藍染はそこのチェリーボンボンが大好きなのだろう。しかしチョコレイトガァデンのチョコレイトは、女同士のプレゼント用、藍染にその店の物を贈る者はいない。雪乃に頼めばいいものを、雪乃からは毎年違ったものを贈ってもらうのが楽しみで、藍染は砕蜂を利用して、そのチョコレイトを楽しんでいるのだ。
おまけに藍染の策謀はまだ続く。藍染は、雪乃を雪中に駄用で呼び付ける砕蜂に憤りを覚えており、毎年雪になるバレンタインデイに自分が砕蜂を呼び付けることで、彼女に意趣返しをしていたのである。
なんとまあ仕方のないことを、と、藍染に対して呆れと笑いが湧いてくるが、砕蜂にとっては大変な迷惑である。
「砕蜂隊長、無間の壁の調査と、藍染元隊長への厳重注意は、私が承りました。それと砕蜂隊長、藍染元隊長は、お若い女性を探したい、と言っていました。どうかお気を付けを…。」
雪乃は神妙を装って頭を下げた。砕蜂は、体全体で「ゾッとする」と表現し、固まっていた。雪乃が頭を下げたので、砕蜂もなんとなく視線を下げると、雪乃の濡れた足袋が見えた。自分の足袋も濡れているが、毎年雪になる今日という日に他隊の者を呼び付けるのは、辛苦を味あわせるのと同じだと、ようやく砕蜂は気付いたのである。砕蜂は至らなかった自分に悔しそうな顔でしばらく黙っていたが、
「小牧、その書類はどこへ持っていくものだ。」
と険しい口調で訊いた。
「二番隊です。」
雪乃は答えた。
「貸せ。」
砕蜂は手を突き出すと雪乃に書類入れを渡すように言った。
「どうせ隊舎に帰るのだ。ついでだ。持って行ってやる。」
雪乃は一度は遠慮したが、
「私は無駄が嫌いだ。いいから貸せ!」
と言って、強引に書類を引き渡すように言うと、それを抱えて黙って逃げるように雪道を去っていった。
「ありがとうございます。」
雪乃は頭を下げて、申し訳ないと思いつつも、笑いをこらえていた。
これでこれからは、少しは一番隊の隊務が楽になるといいけれど、そう思っているうちに、細かな雪はますます強く降ってきて、だいぶ死覇装を濡らしたことに気付いた。去っていく砕蜂は相変わらず両腕を出していて、その燃えるような霊圧で、肩に積もる雪は、瞬時に蒸発していた。
今年も雪になったこの日―。
深夜には、愛する人に会える。
人とはかなり異なる幸せの形。
それでも良いのだ。
繋がっているが故に味わえる苦労も、また愛かもしれない。
何度すれ違おうと、また再び繋がり合えるだろう。
私達は、探している。
何度でも、と信じられる愛を探して、私達は生きるのである。
〈了〉