細雪〜バレンタインデー2025〜
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それから数年が経った。復興は終わり、再び平穏がやってきた。
藍染家の新たな当主となった青年に、嫁取りの話が上がった。無論、護廷十三隊の命令である。罪人の出た家は、そんなことも自由にならない。藍染家に嫁ぐ娘は、やはり藍染の家の遠縁で、青年とは面識がなかった。雪乃はその娘の素性を調査して、この婚姻をまとめて報告しなければならない。娘は生粋の箱入りで、無論死神ではなく、商家の次男坊という町人上がりの青年とうまくやっていけるのか心配でもあり、また藍染の家の多難な局面を乗り切っていけるだけの知力と胆力を持っているか不安なところだと雪乃は思っていたが、幸いにも青年と娘はお互いに気が合ったようで、力を合わせて藍染の家を盛り立てていくと話し合うと、この婚姻を進んで受け入れた。藍染の両親には不安ながらも選択権がなく、命令が上手く事が運んでいく契機となったことを心底ほっとして受け止めていた。
青年と娘が婚姻に同意した受諾書をまとめに雪乃が藍染の家を訪れると、藍染の両親が、しんみりとした様子で雪乃を出迎えた。雪乃が証書の署名を確認して、書類入れにしまおうとすると、藍染の母親が、「あなたがこの家に嫁いできてくれる、という道があったのかもしれないのに…」と、寂しそうにぽつりと言った。
「そのような道は、端から存在しなかったのだと思います。」
雪乃は、思ったよりも明るく、はきはきとそう答えた。
「しかし、人によってご縁の形は違うもの…恐れながら、私はこの家に嫁いだも同然だと、自分では思っております。ですから、どうか御母堂様も御尊父様も、お嘆きにならないで下さい。私はいつまでも、この家に、そしてあの方に頂いたご縁を、大切にして参りたいと思っております。それが、私に与えられた道なんだと思っております。」
雪乃はそう堂々と、笑って両親に告げた。その言葉を聞いて両親は、雪乃と息子は、今また再び想いを結んだのだと確信した。両親は涙ぐんで、雪乃の手を取った。
「藍染元隊長に、この度の婚儀が進むことになったとご報告する機会があると思います。ご両親からのご伝言をお預かりしたいと思いますが、何か…。」
そう言って三人で話をしようとしていると、
「小牧のお姉様!」
と言って、嫁ぐ娘が駆け寄ってきた。娘はまだ子供らしいところがあり、雪乃を「姉」と呼んでなついた。思わずそう呼ばれて、その愛らしさに皆笑顔になった。
娘に頼られて、藍染家更正監察官の任は、まだしばらく解かれそうにない。
それからしばらくの後、雪乃は無間への出入りを許されて、藍染に接見して藍染家のこの度の慶事を告げた。
「そうか…。」
藍染は少し安堵して見せると、
「ありがとう。君もご苦労だったね。」
と、雪乃をねぎらった。
「貴方が喜んだのではこちらも大慶、と申し上げるしかございません。良かった…。」
そう言って雪乃は朗らかに笑った。
「ときに君はどうするんだい。」
藍染が突拍子もなく言葉を放った。
「貴方と私の…?それは…。」
雪乃は、そんなことを言っても現状ではどうにもならないではないか、と思い、言葉尻を濁した。藍染はおかしそうに笑うと、
「ああ良かった。君が『平子隊長と私の』、と言い出すのではないかと思って、肝を冷やしていたところだよ。」
と言って、肩を揺すった。
「もう、ご冗談を…。」
藍染はよほど平子とのことを妬いているんだな、と雪乃は思ったが、どうにも出来ない事情になってしまい、それは後においておこうと思った。
「何にもしてやれないのに、嫁御稼業をご苦労なことだと思っているところだよ。私は君に何を返したら良いのだろうか。」
藍染が珍しくそんな遠慮を見せた。雪乃は少しはお灸が効いたのかと思い、
「貴方は何もなさらないで、ただ私の好きなようにさせておいて下さい。私はかかあ天下主義です。それに女は計算高いもの。男に惚れただけでは結婚は致しません。私は貴方の家に惚れたまでのこと、誤解しないで下さいませ。」
と片目をつむり、腰に手を当てて胸を反らした。
「可愛くないことを言う。」
藍染は呆れたように鼻で笑っていた。
「平子の家が太くて温かな家だったら、君は嫁(い)ってしまうのか…早く身を固めておくんだった。」
そんなことはないと百も承知で、藍染は憎まれ口をきいた。
「貴方こそ可愛くない、そんな時、どうしたら良いのか知っていらっしゃるでしょう。」
雪乃は少しふてくされて、藍染に心配をかけているのは申し訳ないにしても、平子のことは少し位いい薬かもしれない、と思い直した。
「駆け引きをするのか、本当に可愛くないね。私も若い娘でも見つけようかな。」
まあ、なんてことを、と雪乃が怒ろうとした時、
「愛している。」
と、突然藍染が言った。
「そんな安い言葉で満足するんだったら、いくらでも言ってあげよう。でも君には、そんな言葉では足りない気持ちを抱いていることを忘れないでもらいたい。」
藍染は笑みを残したまま、真剣な表情で、
「信じている。」
と告げた。
誰も信じていない人が、信じている、と言った―。
雪乃はその言葉に、黙って頭を垂れた。
「忘れません。貴方が伴侶で良かった。」
雪乃は下を向いて、涙をこらえながら言った。
何度でも思う。
いつか全てはおさまるべきところにおさまり、
全ては、再び、繋がっていく―。