細雪〜バレンタインデー2025〜
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それから何年も、尸魂界復興事業は続いた。
瀞霊廷は元の街区を残しつつも、新たな街並みへと生まれ変わっていった。そのなかで、『ルフォール』は生き残った。早々から営業を再開させ、新規開発でせわしない街の中、そこだけ時の流れがゆるやかなまま、といった風情だった。店の目印だった金色の鋳物の卵のオブジェは、黒く煤けたものの災禍をくぐり抜け、今も往時のまま、店先から復興を遂げていく通りを見ている。
そんな店の中に、平子と雪乃はいる。
二人は店の看板メニューの卵のフルコースを味わいながら歓談していた。藍染としばしば通ったこの店に、今は平子と来ている、そう思うと、己の不貞に気持ちが重くなるが、藍染との仲の隠れ蓑に平子を使う、ということ以外にも、雪乃には平子をどうしても遠ざけられない理由があった。
平子は雪乃に本気で惚れているらしい。二人で飲んでいると、ルフォールにいる時に関わらず、平子は雪乃に何でも腹の内を明かした。隊務のこと、雛森を気遣っていること、子供の頃のこと、藍染に裏切られた時のこと、現世で仮面の軍勢として、苦難の生活を送っていたこと…話題は多岐にわたり、平子は饒舌に己の胸の内を雪乃に語って聞かせた。惚れている故に、何でも知っていて欲しい、という気持ちの表れでもあるのだろうし、またそれだけ平子が雪乃に気を許している証拠でもあろう。雪乃は進んで平子に酌をして、早々と平子を酔わせてしまい、平子に最後の一線を越えることを許さなかった。平子もまた本気で雪乃に惚れているため、かえって言い出しにくいのか、もう何十回と酒の席を共にしているが、意外にも二人はそんな雰囲気になったことがない。
「あ~、めっちゃようしゃべったわ。おしゃべりな男は嫌やろ、雪乃さん。ごめんな。お陰で俺の方だけすっきりしてもうて、ホンマに申し訳ない!」
平子は帰り際、いつも雪乃に手を合わせると、雪乃を一番隊隊舎まで送り届け、千鳥足で帰っていった。何も許さないのだから、食事をご馳走になるのは申し訳ない、と雪乃は思い、いつも酔って前後不覚になっている平子のジャケットやパンツのポケットに、気付かれないようにそっと自分の分の食事代の入った小さな祝儀袋を忍ばせて返し、平子を見送った。
「よくできた女(ひと)やな…。」
と、またやってしまった、という後悔の念と共に、酔いが覚めた平子は五番隊隊舎へ帰ってから祝儀袋に気付くと、小さくつぶやき、
「おおきにな。」
と祝儀袋に、雪乃に手を合わせ、
「こりゃ新婚初夜まであかんかもな…。」
と半ばあきらめたような気持ちになっていた。
ルフォールへ二人で行くのは何度目か、という程の数になってから、食後酒と共にデザートを口にしていると、突然平子が、
「なあ、雪乃さん、俺の考えが間違うてたら気ぃ悪くせんといてな。俺、もしかしたら雪乃さんが藍染と、昔ここに来たことがあるんちゃうやろか、と思うねん。」
と言い放った。
平子はデザートのスプーンに何もすくわず、そのスプーンで夜景の見える窓硝子を突っつくようにしながら、窓硝子に映る顔越しに雪乃を見た。その視線に、一瞬、鋭いものが浮かんだ。
「ここは藍染の行きつけやった、って聞いて、そいたら次は俺がこの店を守らんと、と思うとるねん。悪い噂に晒されて、店のもんは嫌な思いをしたやろ。雪乃さんも、藍染家更正監察官として、やはりこの店を守らんとあかんな、と思うとると思うんや。せやけどな、なんかそれだけなんやろか、なんか、気持ちがはっきりせえへんねん。男らしゅうないな、とわれながら思うで。」
平子はまたいつもの、腹の内を何でも、そう、己の中のもやもやしている気持ちまでも雪乃に聞いてもらう、という態度になりながら、言葉を発した。そこには先程の鋭さはなく、しかし雪乃は凍り付くような思いがした。
「この店は、亡き雀部副隊長が御目をかけておられた店でもあります。私は藍染元隊長とここに伺ったことはございませんが、雀部副隊長のご遺志は継がねばならない、と思います。」
と、われながら空々しく、控えめに雪乃は答えた。
「そっか…雀部副隊長の…。義理堅いんやな…。」
平子は苦笑して、エッグタルトに添えられた、アングレーズソースのかかった生クリームをスプーンですくうと、
「俺はな、雪乃さん、惚れた女のことは、何でも赦そう思うとる。」
そう言って、スプーンを口に入れた。
「ただそれだけやねん。」
平子は珍しく、その件については、それだけで口を閉ざした。平子は黙々とデザートを口にすると、
「美味いな。」
と誰に言うでもなく言った。
優しい男だ、と雪乃は感心する。平子が自分のことを分かっていて情をかけてくれるのを、恋人としてではなく、知己として無下に出来ないのである。自分の情け深い性情が、自分に気をかけてくれている平子をすげなく出来ない。いっそ振り切らないと罪だ、と思うのだが、自分の秘密を新たに握っているかもしれないこの可愛い男を、放すことが出来ない、と、色々な意味で思うのである。